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吉田保 その5

―吉田保 その5―


私は賢者ナガミーチ殿は、ベルセック侯爵家でそうとう苦労しているのではと思う。

なぜなら私が今体験しているような不条理を、ナガミーチ殿も日常的に体験しているだろうことが、簡単に想像できたからだ。


先ほどナガミーチ殿が王城に向けて出発したのだが、すぐにデルリカと大海姫が会議を始めた。

何故か私もそこに参加させられている。


「では、ナガミーチへの復讐方法を考える会議を始めますわ。とくにタモツは意地が悪いので、良い意地悪をドンドン発言してくださいませね。」


デルリカがメイドに持ってこさせた大量の菓子をモグモグ食べる。

大海姫も気楽にお菓子の山に手を伸ばした。


「ナガミーチ君の弱点とか無いの?デルリカちゃんはずっと一緒にいるから弱みくらい握っていると思ったけど。」


するとデルリカは目をつぶり、辛そうに拳を握った。

「弱点や弱みは沢山ありますわ。でもその殆どがワタクシにも被害が及ぶものばかりでして・・・。」

「たとえば?」


「大天使様を召喚して大海姫様を連れていたくせに、クズ松尾を止めてくださいませんでしたとか。」

「グハッ!やめてデルリカちゃん。ほんとゴメン。謝るからその過去に触れないで。」


「つまり、そういう感じのものばかりですの。」

「そうか、確かにヤバイね。」


すると大海姫は私を指差す。

「おい、おっさん。お前は意地が悪いんだから何かアイディアだしなよ。」


ひどい扱いだ。

だがナガミーチ殿が居ない状況でヘタに逆らったら殺されかねない。

素直に何か考えよう。

「人の弱みは『金』『過去の悪事』『女』で捜すと、何か見つかるものだ。そのあたりで何かないのか?。」


デルリカは頬に手を当ててしばらく考える。

「そういえば、ナガミーチはサトミーの写真を集めていましたわね。あの写真の事をマリーは知っているのでしょうか?」


すると大海姫も何か思い出した顔をする。

「確かにマリユカ様も『ナガミーチはサトミーの事が好きすぎでしょ。記録映像を複写して大事に持っているのですよー』って言っていたよ。」


私は軽い気持ちで言ってしまった。

「じゃあそれを探しだして、目の前で焼いてしまうのはどうだ?」


「「それだ!」」


ふたり同時に立ち上がる。

そして、凄い速度で窓から飛び去ってしまった。

マッハくらいありそうな速度だ。

化け物だな、あの女達は。


これ・・・私が指示したことになるのだろうか?

いや、それは考えまい。



やっと2人が居なくなってくれたので、私は政務に集中できそうだ。

メイドに馬車を出してもらい役場に向う。


そこでは、忙しそうにみな動き回っていた。

そのなかで一番ノロイ男を捜すと、すぐに代官のドルマンは見つかる。

老人だが、現場の真ん中で指示を出す姿に、今更ながら感心した。

こんな事すら今まで気づいていなかったことが恥ずかしい。


「ドルマン、調子はどうだ。」

「これはこれは公爵様。ご指示の通り戸籍を整理する準備を進めております。」

「うむ、戸籍は税の要、しっかり頼むぞ。それよりリンクはどうした?」

「・・・リンクはクビにされたではないですか。」


そうだった。


「それに関してはあの後反省をした。呼び戻してもらえないか?」

ドルマンは驚いた顔をした。

「それはまた・・・宜しいのですか?」


「ああ、ナガミーチ殿と出合って、己の未熟を思い知って自分を省みたのだ。たしかにあの時の私は噛み付かれても当然の男だった。」

「それはようございました。リンクはなかなか優秀な男です。実はそっと外回りの仕事頼んでおりましたが呼び戻させていただきましょう。」

「手間をかけたな。」


私はユックリと、日本の与党の政治家が何をしていたかを思い出していた。

きっとそこに答えがあるはずだ。

今なら素直に認められる。連中の方が私よりも優秀だったのだ。

ならばせめて真似をしよう。


リンクを呼び戻す指示を出したドルマンが私の横に戻ってきたので、尋ねてみる。

「土木工事は、現在の作業と平行して行えそうか?」

「議会の建設がありますので、難しいかと。」


考える。

「議会の建物はあとでも良いだろう。議会が発足してもしばらくは私の公爵邸を使えばよい。それよりも、中央へ繋がる道を整備したい。まずは近接する他貴族領と繋ぐ大きな道を作りたい。できるだけ、我が領の中央で交差するように伸ばしたいのだが・・・。」


すると少し考えドルマンは「少々お待ちください」と言ったあと、A4くらいの紙が5枚程度まとまった資料を持ってきた。。


「それでございましたら、戸籍の確定と同時に都市計画をした方がいいという資料をもらっております。戸籍の整理をしながら整備できるかと。」


見ると、「戸籍の整理=土地の整理」とかかれた内容に、手書きで道路計画が入っていた。

なるほど都市計画だ。


ナガミーチ殿はとんでもないな。

素早くかかれたであろう資料は、おそらく作成に20分もかかっては居まい。

だが書かれた内容は驚くべきものだった。

中央から外周に向けて太い道路が8本走り、その太い道路を繋ぐように10本の環状道路が描かれていた。

しかも領内の住宅街、商業地区、田畑や川や山と言う地形を考慮してある。

一瞬でこの都市計画を考え、さっさと書いたのが伝わってくる資料だ。


素晴らしい。

与党の事を『道路を作って税金を無駄にするな』と野次ったことがあるので道路の作業を思い出したのだが、これは基本なんだろうな。


ドルマンに資料を返す。

「縦に繋がる大通りを優先的につくり、その後に横に繋ぐ環状道路を作るのだ。議会の建物は、この大通りが完成してからだな。」


「はっ、承知いたしました。」

ドルマンは土木課に向った。


そこにリンクが現れる。

私を睨んでいるが、それは自業自得だと諦めよう。

「リンク、私に力を貸してくれ。」


その言葉にリンクは驚いた顔をした。

「目安箱に入った悪口だけの意見を抜いてくれていたのだろ。気を使わせてしまって悪かったな。」

「いえ・・・でも急にどうしてしまわれたのですか?」

「なに、本当に優秀な賢者に出会えば、己の小ささを思い知らされて謙虚にもなるさ。」

「ナガミーチ様と話をされたのですか?」

「ナガミーチ殿は何も説明しなかった。だが影から手伝ってくれたことくらいは分かる。これだけ見事な手腕を発揮されてはな。」


リンクは唇をかむ。

「よかった・・・。ナガミーチ様はそっと手伝って何も言わずに去ってしまわれたので、あのお方の事が評価されないのではと心配しておりました。」


リンクの肩に手を乗せた。

「あの人にとってココの仕事なんて片手間のチョイチョイ仕事であろうよ。だから誇らないのだ。賢者とはよく言ったものだ。そうだ、同時進行しても大丈夫そうな事が分からないのだが、領を発展させるために出来ることで何か案はないか?」


すると、すっと本を出してきた。

そこには手書きで『ベルセック家15年史。発展の秘密』と書かれていた。

裏を見ると『著:ナガミーチ』と書いてある。


思わず笑うしかなかった。

「あっはっはっは、さすがナガミーチ殿だ。まるで私が今日何を要求するか知っていたかのような周到さじゃないか。さすがは賢者だ。」


リンクは柔らかい表情になった。

「ベルセック家の人や王家の皆様は、困ったときにはナガミーチさまに丸投げされるとか。するとその場でさっさと解決することから『困った時のナガミーチ』といわれているそうです。英雄ヤスコー様を育て、勇者タケシー様を導き魔王を倒し、国民的アイドルのサトミー様を輝かせたお方です。きっと何でもお見通しなのですよ。」


「なるほど、そうかもしれんな。」


『ベルセック家15年史。発展の秘密』を見て、次の方針が決まった。

「領に外貨を呼び込むため、大通りに接した地区に商売の税金がかからない楽市を作りたい。場所の制定と警備隊の編成を誰かに頼みたい。だれに任せればいいと思う?」

「私めが!」


リンクの目が活き活きとしていた。


「頼む。私はこの本で勉強しておるので、用があるときは遠慮なく声を掛けてくれ。」

「はい!」


この清々しい気持ちはなんだろうか。

私はこういう世直しをしたかったのだ。

この領を豊かにしたい。

これが政治なんだな。


そのあとも、一日現場を把握するために各責任者に話を聞き、現実的な計画を立てるように努力した。

役人は誰も遊んでは居なかった。

仕事が遅かったのは、無理をさせてたからだったようだ。



一日働き家に着くと、デルリカと大海姫が青くなって隅っこに座っている。

「お2人ともどうされたのだ?」


デルリカはキョロキョロしながら私を見た。

「タモツ。いやタモツ卿。もしもナガミーチが来てもワタクシ達は居ないといってくださいませ。」

大海姫も困った顔で頭を抱えている。

「失敗した。まさかあんなに怒るなんて。あとはマリユカ様のご加護にすがるしかないよ。」


なんとなく想像がついた。

「本当に目の前で燃やしたのだな。」


デルリカは引き攣った笑いで私を指差す。

「ワタクシたちがナガミーチに捕まったら、アイディアはタモツが出したとバラしますわ。一緒にナガミーチの『マリユカダイナミックの刑』を掛けられたくなかったら、ワタクシ達はいないと言うのですよ。」


「ちょ、私を巻き込むな。ところでその『マリユカダイナミックの刑』とはなんだ。」


「大福を食べさせられる刑ですわ。大福を食べるとマリユカさまのお怒りに触れて不幸が襲ってきます。ナガミーチの卓越した『食べさせテクニック』の前では必ずや大福を口に突っ込まれてしまうでしょう。そうなってしまったら・・・。」


「なったら?」


「最悪、砕け散ります。」


「おい、それは危険過ぎるじゃないか!」

「ですから隠れているのです。大天使様でさえ滅ぼせるマリユカ様のお怒りを受けるのですよ。恐ろしすぎますわ。ナガミーチの究極魔法の一つです。」


大福を食べさせるのが究極魔法?しょぼいだろ。


すると私の後ろから、長い黒髪の女の子がヒョコリと現れた。

うわ、びっくりした。


「お嬢ちゃん、どこの子だ?ここは遊び場所じゃないから帰りなさい。」


しかし少女は私を無視して無表情で大海姫に歩いていく。

「大海姫、ナガミーチが泣きながら部屋に閉じこもっちゃいました。すごくつまんないなー。」

明らかに大海姫は怯えてずりっとさがる。


「急いで元気づけてくるから。だから怒らないで。」


女の子は無表情でさらに一歩進む。

「ナガミーチが大福を食べてるんだけど、あれって自暴自棄な行動だと思うんですよねー。何したのですか?」


大海姫は半泣きだった。

「す、すいませーん。芥子漬けを口に押し込まれた復讐として、ナガミーチ君が大切にしていたサトミーの写真と動画を燃やしましたー。お許しください。」


すると女の子は無邪気に笑顔でにぱーと笑った。

「そうでしたかー。大海姫、それはぐっじょぶですー。」

そういいながら大海姫の頭を撫でだす。


デルリカもその様子に立ち上がった。

「マリー、ナガミーチが遊んでくれなくて寂しいのでしょう。申し訳ありませんでしたわ。」


「いいのいいの。デルリカもぐっじょぶですよぉ。実はナガミーチがサトミーを崇拝アイドルしだしていたので不快だったのですよー。動画という名の偶像が消えて安心しました。ナガミーチとサトミーが仲良くなるのは良いですが、崇拝は許しませんよ、ぷんぷん。でも可哀想だから写真は復活させて上げようかな。そして私に感謝すると良いのです。」


そういいながら、マリーと呼ばれた少女は再度にぱーと微笑み、ステップしながら消えていった。

なんだったんだ・・・・。


振り返ると大海姫とデルリカは元気になっていた。

「デルリカちゃん、これで安心だね。」

「ええ大海姫様。マリーが動けばナガミーチは折れます。これで安心ですわね。」


私は急展開についていけなかった。

「さっきの少女は?」


すると二人はニヤリとして、声を揃えて教えてくれた。

「「ナガミーチ最大の弱点。」」


なるほど、賢者の弱点は女性か。

それならそれで、賢者といえども親しみやすい。

良いと思った。



およみくだだり、ありがとうございます。


マリー「ナガミーチ、サトミーの写真を復活させてあげましょうか?」

ナガミーチ「え?マジで。うそ・・・本当に・・・・。」

マリー「お風呂シーンの写真もつけてあげますね。」

ナガミーチ「あ、ありがとうござします・・・。まるで女神だ!」

マリー「女神ですよー。あれ、もしかして忘れてました?忘れてないですよね。ねえ。」

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