吉田保 その2
―吉田保 その2―
3日も公爵領の現状把握に費やした。
しかもそれだけやって分かった事は、現状把握するだけの材料が無いという事だった。
急いで、公爵領の役人どもに資料の作成を命じた。
1週間で作れなかったらクビにしてやる。
それを命じて、王城に向う。
今日は王城へ呼び出されたのだ。
まあ、公爵と言う地位は日本で言えば、各政党の党首くらいの立場だと思う。
王くらいで無いと頭を下げる気も起きないな。
城についてから1時間ほど待たされてから謁見の間に呼ばれた。
呼びつけたなら、スグにでも謁見して欲しいものだ。
未開の地は、すべてが手際が悪くて困るな。
王の前に出ると、私は日本式に頭を下げた。
本当は膝を突いて頭を垂れないといけないらしいが、それはあまりに前時代過ぎる。
場がざわついたが、未開の地の礼儀に合わせなくても良いだろう。
なにせここでは、私は日本と言う近代国家から来た現代人だ。
「陛下、日本式の礼で失礼いたします。」
そういうと、王も渋い顔をしたが頷いた。
「タモツよ、ビグニー公爵領の建て直しは順調であるか?」
「いえ、あのようなずさんな管理では、現状把握もままなりません。まずは現状把握する資料つくりで終わっております。」
王は軽くうなずく。
「そうであるか。異世界からきた勇者タケシーのアドバイスを受けたベルセック侯爵領は驚くほど領の運営が活発化し、サトミーなる異世界の少女を養女にしたマシリト公爵家は一年で公爵家のトップに躍り出た。そなたにも、2人の異世界人同様の活躍を期待しておるぞ。」
「承知いたしました。」
「うむ。ではさがって良い」
は?もうさがらせるのか?
「陛下、お話はそれだけでしょうか?」
「うむそれだけじゃ。」
「たったそれだけの為に呼付けられたのですか?書簡で済む内容ではないですか。」
「そうであるが、お主にワシと話をする機会を与えようと思ってな。それだけじゃ。この後すぐに大事な謁見がある。用があればまた後日にせよ。」
そういえばデルリカという女の職務怠慢を思い出したので、ついでなので言いつけておくか。
「ですが一つだけお聞きください。デルリカという女は私に公爵領と接する領地の話だけをして帰っていってしまったのです。ビグニー公爵領の現状や執政のとりかたを説明しないで帰るとは、職務怠慢ではないでしょうか。」
すると王は不思議そうな顔をした。
「はて、なぜデルリカがビグニー公爵領の現状や執政の方法を説明する必要があるのだ?
他の貴族の領地について詳細など知っているわけが無くて当然じゃ。
しかもデルリカはただの令嬢じゃぞ。執政の常識なぞ知るわけが無かろう。
デルリカは、大天使魔術を使うために呼び出したナガミーチに付き添って来たに過ぎぬ。
それなのに、そなたを心配して、わざわざそなたの屋敷で一晩様子を見てくれたのだぞ。
感謝こそすれ、文句を言うのは筋違いであろう。」
「ですが執事長が、あの女が教えると思っていたと言っておりましたが。」
「それは執事長がおかしかろう。自領のことであれば、代官か執事長に聞くべきである。デルリカは親切をしたのに文句を言われては可哀想であるな。」
あの執事長め、ふざけたことを言いおって。
王の前で恥をかいたではないか。
腹がたったので、そのまま振り返り帰ろうとした。
すると王の横に居た、鋭い目をした男が怒鳴る。
「ビグニー公爵!きちんと退室の挨拶をせぬか。異世界人であろうと、その程度の常識はあるであろう!」
未開の国の権力主義者め。
みればまだ若いではないか。
若い奴に上から目線で文句を言われるのは腹が立つ。
そう思ったとき、勢いよく謁見の間の扉が開いた。
「ジジイ、いつまで待たせるのですかー。約束していた、海の向こうの国のお菓子をくださーいな。今日くれるって約束でしたよねー。」
黒髪の幼い少女が入って来た。
すると王は嬉しそうに玉座から立って少女に駆け寄る。
「おおマリーよ、待たせてすまなかったのう。もう用は終わったぞ。さあ玉座に用意してあるゆえこちらに参れ。」
ちょっとまて、重要な謁見と言うのはこの子供のことか?
ふざけるなよ。
しかしこの子供、王に対してジジイといっていたな。もしかすると他国のVIPとかなのだろうか。
すると慌てたようすで入り口から、あのナガミーチが入って来た。
「だめでしょマリーちゃん、まだ他の人が謁見しているんだから・・・、あ・・・。」
わたしと目が合った。
「おい、お前は石田長道だろ。どういうつもりだ!」
ナガミーチはスーと左に視線をそらした。
「なんか異世界からきた人たちは、よく僕を長道と呼ぶんですけど、僕はナガミーチといいます。そんなに似てるんですかね・・・。」
「は?似てるも何も本人だろうが。一週間前に一緒に日本から来た石田長道だろ。」
すると、目つきの悪いハルベリー宰相という男が、勢いよく近づいてきて私の肩を掴んできた。
「陛下の御前であるぞ!無礼も大概にせぬか!それにナガミーチ殿にも無礼が過ぎるぞ。ナガミーチ殿は10年以上まえから王家が魔道研究院の院長にスカウトしている大魔道師にしてこの国で有数の賢者殿だ。一週間前に異世界から来た人間ではない!」
そう言われて、もういちどマジマジ見る。
いや、そっくりだ。
するとナガミーチが私とハルベリー宰相の間に入って来た。
「まあまあハルベリー公爵様、ここは異世界人との常識の違いという事で我慢してください。びっくりするほど常識が違うことは、僕も勇者タケシーさんと一緒に旅をして良く知ってます。ここは一つ穏便に。」
すると「ナガミーチ殿に免じて一度は許そう。」といってさがっていった。
溜息を一つつき、ナガミーチは私を見た。
「そういえば、異世界にはパラレルワールドという考え方があるとか。もしかするとタモツさんの世界の長道さんという人は、パラレルワールドの僕かもしれないですね。」
そういわれると、妙に納得が行った。
別の世界には別の自分が居ても不思議ではないか。
「・・・10年以上前からこの国にいるなら長道ではないな。たしかに人違いだったようだ。」
私はそのまま出口に向かった。
うしろでハルベリーが「ナガミーチ殿に無礼をした事を謝りもしないのか、野蛮人め」と言っているのが聞こえたが、無視して帰路に着いた。
屋敷に馬車で帰りつくなり執事長のセバサを探した。
「セバサ!どこだ!」
するとノロノロと執事長のセバサが現れる。
「旦那様、お帰りなさいませ。わたくしをお呼びでしょうか?」
私は詰め寄った。
「最初の日に、デルリカが私にイロイロ教えるはずだといって騙したな!お前のせいで王の前で恥をかいてしまったではないか?」
すると涼しい顔でセバスが反論してくる。
「それは失礼いたしました。
ですが『そう思った』と申し上げただけで、それがデルリカ様の手落ちだと申し上げたつもりはございませんが?
それに執政の事を確認したければ代官に尋ねるのは常識でございますので、そこまで申し上げませんでした。
旦那様の常識を信じてしまいまして、大変申し訳御座いませんでした。」
「貴様、馬鹿にするきか!」
セバスは軽く眉を動かすと、表情を変えずに一礼してきた。
「御用がそれだけで御座いましたら、わたくしは仕事に戻らせていただきます。」
そういって、さっさとどこかに行ってしまった。
いまいましい!
さっさと次の人材を見つけてクビにしてやる。
お読みくださりありがとうごじあます。
ナガミーチ「あの、謁見を中断させてしまって申し訳有りません」
王「何をいうか。マリーの謁見よりも重要な用なぞないわい。ほらマリー、菓子を食べさせてやろう。」
マリー「(ビシっと手を払う!)私に食べさせるのはナガミーチの仕事なんです。そのお菓子をナガミーチに渡してくださいな。」
ナガミーチ「えっと、、、イロイロすいません」
王「よい・・・。いつかわしの手から食べるようになるまで根競べじゃ。」
ハルベリー宰相「(陛下はずっと姫を欲しがっていたが、その反動だろうか・・・・)」




