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佐山里美 その12

―佐山里美 その12―


国で一番大きな施設であるコロッセオでのライブ当日。

私達『アイドル・イブ』は緊張した雰囲気の中、待合室で待機中。


ここは国の式典を行うことはあっても、決闘以外の娯楽のために使われることは無かった。

いうなれば国技館みたいなもの。

そこを借りられるほど『アイドル・イブ』は国中から、絶大な支持を得ているのだ。


その待合室のドアを開けてスパルさんが入って来た。

強気な彼には珍しく、顔面蒼白な状態で。

「コロッセオの様子を見たけどよ、超満員だったぞ。あれは1万人以上いるぞ。」


その彼の発言にビレーヌさんが、声を裏返して怒った。

「やめてください!これ以上わたくし達を緊張させるようなことを言わないでください!」

「わ、悪かった。」


私も緊張で手が震える。

どうしよう、逃げたい。

絶対ステージ上でヘマしそうだよ。

控え室の中なのに、もう歌詞が頭から飛んでるし。

ここまで聞こえる観衆のざわめきから考えて、確かに一万人以上いるのだろう。

日本では、後楽園ホールを超満員にしたいとか夢見てたけど、こんなに怖いって知っていたら、そんな馬鹿な夢を見なかったね。


キーボードのジリアン君を見ると、震えながら頭を抱えていた。

「どうしよう、指が固まって鍵盤を弾けない・・・・どうしよう・・・。」


確かに楽器担当は、指が動かないんじゃ致命的だ。

みんな追い詰められている。


すると、いきなりスマ子がビシっと立ち上がった。

「うわ、驚くじゃない。スマ子、どうしたの?」


よく見ると、スマ子の胸元が微妙に振動している。

すぐにスマ子の胸元に魔方陣が展開されて、そこから声が聞こえた。

『あの、サトミー様への連絡はこちらでよろしいのでしょうか?。デルリカお姉様から、サトミー様がかなり緊張されているようなので、私の経験を話して欲しいと頼まれたのですが。』


一瞬何が起きているのか分からなかった。

でも閃くモノもあった。

スマ子はスマホの人工精霊だから、電話機能があっても不思議じゃないか。


じゃあこの着信相手は誰だろう?

デルリカさんをお姉様と呼んだ。

もしかして・・・・

「はい、サトミーです。もしかしてヤスコー様ですか?」

『あ、すいません。名乗り忘れていましたね。ヤスコーです。』


その言葉に、他のメンバーの顔が明らかに明るくなる。

アイドル界でもライブ前の緊張時に、売れている先輩が楽屋に来てくれると嬉しいっていうけど、こういう心境なんだろうな。


「ヤスコー様!わざわざ連絡を下さり恐縮です。」

思わず直立敬礼してしまった。

みなも、後ろでビシっと直立している。

『あはは、私なんかの話で役に立つのであれば良いのですが。そちらも適当な感じでお話してください。』


この緊張した場所で、こういう柔らかい話し方をされると凄くありがたい。

「ですが、うちのメンバーはみんなヤスコー様のファンですので、ライブ前の緊張とは違う意味で緊張してしまいます。」

『あは、それは申し訳ないです。では緊張しないように幻滅したくなるようなお話でもしましょうか。』


そういって、日本でオリンピック選考試合に出たときに、逃げ出そうと考えたり、あきらめたりしたお話をしてくれた。

でもそこで勝った事でイロイロ見えてきたという事。

人に注目されても気にしないのは無理だから、むしろ注目と親しく付き合うように心がけていること。

失敗しても、それを『おいしい』と思えるよにすることなど、人から注目を集める先輩として話をしてくれた。


メンバーの皆も、あこがれのヤスコーさんと話せて、青かった顔に赤みが戻って来ている。

『長く話してしまいましたが、そちらのお時間は大丈夫ですか?』

「そうですね、そろそろ準備しないといけないかもです。」

『最後に・・・この後、何があっても決してあきらめないでください。実は私は、異世界を移動した事によりサトミー様の輝かしい未来を見ています。ですから何があっても決して諦めないで頑張ってくださいね。』

「はい!ありがとうございます!」


そして通信が切れた。

最後のヤスコーさんの言葉、なんか意味深な気がする。怖いな・・・。

メンバーを見ると、妙に興奮状態になっている。

ヤスコーさんとの会話のお陰で、緊張はとけたみたいで良かった。


その軽い興奮状態のままステージに向う。


ステージ上ではすでに、MCのナガミーチPが観客にライブ鑑賞時の注意事項を説明していた。

てか、あの人は緊張しないのだろうか?

最近はベッタリ頼ってしまっていたけど、不思議な人だ。

お兄ちゃんって呼んだら、めちゃくちゃ動揺していたのに、一万人の観客を前にしても平然としているとか変な人だな、ふふふ。


『ではお待たせいたしました。これよりアイドル・イブのコロッセオライブを開始いたします。さあ、ご一緒にカウントダウンをしてアイドル・イブを呼び出しましょう!』

『10』

『9』

『8』

『7』

『6』

『5』

『4』

『3』

『2』

『1』

『0』


ステージで爆発魔法の火花が上がると同時に私達は空間転移でステージに現れた。

ステージの後ろにある巨大なスクリーンに『アイドル・イブ』という文字が点滅して表示され。そのあとスクリーンに私達の姿が映し出される。


それと同時に衝撃魔法のような観客の声が、私達の内臓を震わせる。

すぐにドラムが音をたたき出し、観客の興奮を殺さずに一曲目の演奏に入った。


ナガミーチP、この世界に無い日本式のライブ演出を惜しげもなく投入する知識チートっぷり、感服いたします。


私は大きく動いて観客の興奮を捕まえる。

ヤスコーさんとの会話のお陰で、もう恐怖はない。

「さあ!私達の歌に魂を引っこ抜かれなさい!」


観客の大興奮の渦の中、私達は歌いだした。



ーーーーーーー


3時間のライブは、あっというまだった。

観客は立ち上がって手を振っているけど、疲れないのかな。

最後の曲を終わらせて、興奮冷めやらぬ観客に手を振ってステージを降りても、まったく観客席の喧騒は消える様子が無い。

ライブは大成功だった。


メンバーは手を取り合って喜びと興奮を分かち合っている。

さっきから私の汗を拭いたり、飲み物を用意するスマ子でさえ上機嫌だ。

こっちの世界に来たお陰で、全ての夢が叶った。

飲み物を差し出すスマ子の手を掴み、そっと頬に当ててみる。

「スマ子のおかげで、全ての夢がかなったよ。私を支えてくれて本当にありがとう。」


そう言ってからスマ子を見上げたら、グズグズに泣いていた。

「お嬢様・・・本当に良かった。ウチなんて何もしていないから。お嬢様の頑張りだから・・・。」

そういいながら鼻水までたらす。


わたしの汗を拭いたタオルだけど、まあいいか。スマ子の涙と鼻水を拭いてあげた。

それでもグシグシなくスマ子。


「ウチの夢も叶ったよ。お嬢様が夢をかなえる事が、すなわちウチの夢だから。お嬢様の幸せがウチの幸せだから・・・幸せそうなお嬢様を見れてウチも幸せ。」

「なに可愛いこといってるの。」


泣きじゃくるスマ子の頭を抱きしめた。

そんなに想ってくれていてありがとう。


しんみりしていたらナガミーチPが控え室に入ってくる。

「ではこのあと、コロッセオにある大会議室で関係者とスポンサー様との打ち上げパーティーを行います。実は王家も来ていたので打ち上げにお呼びしていますよ。あまり遅れないように来てくださいね。」


そうそう、ライブ最後のお仕事をしてこなくっちゃ。

関係者との友好もアイドルの大切なお仕事だからね。


全員素早く湯浴みをすると、パーティー用の衣装に着替えて会場に向う。

会場に入ると、普通に上級貴族のパーティー状態なのは苦笑いが出た。


ライブスタッフは普通の格好なのに、パーティーに参加している人たちは公爵家や侯爵家、さらに王家まで居る。

スタッフ関係者が貴族に無礼を働かないか心配になったけど、会場内をナガミーチPがせわしなく動いているので、その心配もないかと気を取り直した。


会場の一番奥には、当然王家が居た。

しかも・・・王陛下と王妃様だ!

まずは王族にご挨拶だが、私達アイドル・イブのメンバーは全員が公爵家・侯爵家という上級貴族なので礼儀は心配ない。


陛下を見ると、両陛下はマリーちゃんにお菓子を与えて楽しそうにしている。


傍まで行くと会話が聞こえてくる。

「マリーよ、ピッツの嫁に来ぬか?ミラーズでも良いぞ。」

「ミラーズもピッツも情けないから嫌でーす。ジジイももう諦めてくださいよー。私が欲しくばナガミーチとデルリカを倒してからですよー。」


そんなマリーちゃんを、王妃陛下が優しく撫でている。

マリーちゃん最強説を唱えたい光景だった。


さすがに周りは顔が引き攣っている。

でも傍にいる親衛隊の兵士や、宰相まで何も言わないところが驚く。


なんとなく近づきたくなかったけど、半端に近づいてしまったのでもう引き返せない。

私達は陛下の前に膝を突いて礼をした。

決まり文句の挨拶をした後、私は王妃様の隣に誘われて座る。

緊張したけど、私は公爵家令嬢なので変な状況と言うわけでもない。


「サトミーよ、降爵ギリギリのマシリト家を盛り返したその手腕、お見事です。」

「恐れ入ります。幸運が重なっての事ですので、わたくしのした事など微々たるもの。実際ナガミーチPに頼りっきりでしたし。」

「そんなことはありませんよ。アイドルという業種を創造し、見事に成功させたのはサトミーなのですから。たしかにナガミーチが暗躍していたようですが、それでもサトミー以外ではここまで流行ることは無かったとお思います。」

「お褒めに預かり光栄です。」


そんな会話をしていたら、ふらふらとナガミーチさんが手を上げて歩いてきた。

とても王家の人に近づく歩き方ではないし、まして貴族でもない。

なのに、やっぱり誰もナガミーチさんを咎める様子は無かった。

ほんと不思議な人。


「サトミーさん、どもです。調子は大丈夫ですか?」

「はい、ナガミーチPのお陰で絶好調です。」


それを見て、王妃陛下がイタズラっぽい顔になる。

「あらあら、サトミーはナガミーチに対して、随分親しげに話すのですね。もしかしてお付き合いをしているのですか?」


な、なにいってるのコノ王妃様は。

「そんな事ありませんわ。兄のように頼ってはおりましたが、そういう感情はありません。」

多分、いま慌てすぎて顔が赤くなっていると思う。


某有名なアイドル育成のゲームだと、アイドルはすぐにPに恋するみたいだけど、私はそういう感情はないから。

本当に、頼りになる兄貴としてみているだけだし。

いつか好きな男性が出来たら最初に相談したいような、そういう関係だから。


するとナガミーチさんは『わかっている』と言いたげな微笑を見せた。

「王妃陛下、そんな事をいったらサトミーさんに言い寄る男性が減ってしまってかわいそうですよ。それに僕は、このパーティーが終わったらマリーちゃんと一緒に教会に行こうと思うんです。」


「ちょ、ナガミーチP。なんでさりげなく死亡フラグを突っ込んでくるんですか!」

その私の絶叫の直後に、会場で魔力の気配がした。


親衛隊も気配に気づいたようで、一瞬で両陛下の前に立つ。

そして魔法が何発も放たれた気配と共に、悲鳴を上げて誰かが倒れた。

その悲鳴は聞き覚えのある声。

親衛隊の人の後ろから会場を見ると、倒れたのはお父様とお母様だった。

「お父様!お母様!」


私は飛び出す。

倒れたお父様とお母様に駆け寄ると、2人は胸の辺りを撃ち抜かれて血が出ているけど、息はあった。

「だれか!回復魔法を!」


すぐにスポンサーとして会場に居た、デルリカさんが駆け寄って来てくれる。

でも絶望的な表情をした。

「そんな・・・魔法が発動しない。いそいで会場の外に出しましょう。どうやらココは魔法禁止エリアにされているようです。」


会場に笑い声が響いた。

その笑い声の方向を見る。

そこには、ビグニー公爵令嬢イライザさんと、2メートルはありそうな屈強な男性が5人ほど立っていた。


イライザさんは明らかに正気を失った顔でこちらを見ている。

「おほほほほ、当家が侯爵に落とされるならば、マシリト家も道連れですわ。父と母を生贄に上級魔族を召喚いたしました。この魔法禁止エリアでは魔族の魔法以外は使えませんのよ。みんな死ねばよいのです。さあ魔族よ、やっておしまいなさい!」


魔族の戦士が剣を振り下ろしてくる。

素早くサファイア候爵子息スパルさんが間に入ってくれた。

しかし天才剣士と呼ばれたスパルさんでも、上級魔族の攻撃は防ぎきれず一撃で吹き飛ばされる。


魔族の戦士が五人とも私を見た。


およみくださりありがとうございます。


サトミー「俺の歌を聴けー」

ナガミーチ「お、パクってますねー。」

サトミー「流星でキラっていうのもやりました。」

ナガミーチ「・・・もしかして、里美さんて腐でしょ。」

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