佐山里美 その10
―佐山里美 その10―
イライザさんを学校側に突き出したあと、侯爵家以上でないと使えないサロンで私の取り巻きさんの中でも上位貴族の人たちと集合した。
サビアンさんは本当に嬉しそうに私の手を握る。
「これでマシリト公爵家は安泰ですわね。」
ビレーヌさんも手を重ねてくる。
「わたくし達は公爵家としてお友達で居られますわ。本当に嬉しいですわ。」
「ありがとうございます。わたくしもホっといたしました。」
よかった。サビアンさんとビレーヌさんと、これからも仲良く友達で居られるんだ。
嬉しいな。
なんか他家を蹴り落とすという貴族らしい方法をだったけど、貴族なんだから良いよね。
するといつも静かなハルベリー公爵子息のジリアン君が目を輝かせて、セイン君に話しかけていた。
いつも静かに本を読んでいる子なのに珍しい。
「セイン様、先ほどヤスコー様の声が聞こえましたよね。ナガミーチさんが異世界を通信する魔法を開発したと聞いてはおりましたが、勇者ヤスコー様とお話が出来るようになっていたとは驚きです。
叶うならば、私もヤスコー様とお話がしたかった。スマ子さん経由でお願いできないでしょうか?」
「ジリアン様は・・・・ヤスコー様の事が・・・好きだったのですか?」
「はい!憧れていました。ピッツ第三王子殿下がヤスコー様を狙っていたので強く出ることが出来なかったのですが、私の方が先にヤスコー様を許婚にしたいと申し出ていたのです。」
そこに天才剣士のサファイア候爵子息スパルさんも話に入ってくる。
「俺も気になっていたんだよね。あの化け物みたいに強かったサムソン第二王子がデルリカ嬢に無理やり近づいたとき、ヤスコー嬢が倒したんだってな。
剣を抜いたサムソン王子を素手の一撃で叩き潰したってんだから化け物だぜ。
しかも男前らしくて、俺の妹はお茶会でヤスコー嬢と話をしてメロメロになっていたよ。ヤスコー嬢が男性だったら結婚したいって顔をお赤らめながら言うほどな。」
するとサビアンさんが夢見るような顔で話に入ってくる。
「わたくしも何度もお茶会でご一緒いたしましたが、殿方よりも紳士で、女性的な心遣いも出来る理想的な方でした。
わたくしが転びそうになった時に、わたくしを支えてくださった事があるのですが、あの逞しい腕に抱かれた瞬間、全てをささげてもいいと思いましたわ。」
女性に逞しいという表現はどうなんだろう?
ビレーヌさんも負けじと身を乗り出してくる。
「ヤスコー様は、わたくしのお茶会に来てくださったことがあるのですよ。あの時は魔法を披露してくださったのですが、火、水、土、風、光、闇と多彩な魔法を軽々使われていて驚きましたわ。
とくにお得意という衝撃波の魔法にいたっては、詠唱も無く岩を砕く威力の魔法を一瞬で何発も打ち出していて、当家の魔道師でさえも言葉を失った程です。是非わたくしの婿として当家に来ていただきたかった。」
だから婿は無いよね。女性でしょ。
セイン君は私を見る。
「お姉様はご存じないと思いますが、ヤスコー様は衝撃波魔法の論文を三回だけ書いているのですが、これが素晴らしいのです。
本当は12章からなる論文らしいのですが、1回に1章ずつ提出されたので3章までしか提出されていません。この3章まででさえ画期的でした。
残りの9章分はベルセック家が持っているのですが、その論文の続きを欲しくてベルセック家に取り入ろうとする魔道師は多いんですよ。
実は僕も、いつか見せてもらいたいと思ってるんです。」
セイン君がペラペラ喋る姿をはじめて見た。
ちょっと上気した顔から、これはそうとう熱く語ったのだと思う。
そこでテンションが下がった感じでビレーヌさんが語りだす。
「でも、世界からはじき出されてしまったのですよね・・・。
ヤスコー様は、わが国に降りた魔王を見つけ出して戦い、魔王が3年も身動きが出来なくなるような傷を与えたのですが・・・。
魔王にトドメを刺そうとしたときに、目の前に現れたピッツ王子を庇って、世界の外に飛ばされてしまいました。
・・・ヤスコー様は歴史に名が残らない英雄なのです。」
すごい人だったんだな・・・・
そりゃ、そんな人をけなされたら、王子もデルリカさんも怒るよね。
場がしんみりした。
どうやら、ここに居る人たちにもヤスコーさんは愛されていたようだ。
あのデルリカさんが溺愛するほどなんだから、そりゃすごいに決まっているか。
「ふっふっふ、ヤスコーの事なら私に聞けですよー。」
急に後ろから可愛らしい声が聞こえた。
振り返ったらマリーちゃんだった。
その横には、マリーちゃんにお菓子を食べさせているナガミーチさんも居る。
ここ、侯爵家以上でないと入れないはずなんだけど・・・・
ま、ナガミーチさんに理屈は通じないから良いか。
私は、唖然とする皆を無視して口を開く。
「何か知っているのですか、マリーちゃん。」
ナガミーチさんの手から焼き菓子を食べさせてもらって、紅茶を飲ませてもらってからマリーちゃんは微笑んだ。
「もちろんです。たとえば、勇者がレベルアップするとスキルや魔法や武技がもらえますよねー。それは誰が作ったと思いますかー?当然誰かの技能のコピーなんですよ。勇者システムで手に入るスキルや呪文や武技の30%はヤスコーのモノのコピーです。ヤスコーのコピーの技能はレベル100でヤスコー並みです。それ以外の技能は大天使のものですねー。」
「「「「「なんだってー」」」」」
思わず身を乗り出してしまった。
「じゃあ、私の技能はどれがヤスコー様のコピーですか?」
ナガミーチさんにチョコを口に放り込まれて、モグモグしてからマリーちゃんは答えてくれた。
「縦ロール以外全部です。」
「え、嘘・・・嘘ですよね。」
「本当ですよーぷんぷん。
たとえば<微笑み>はヤスコーの微笑を切り取ったスキルです。ヤスコーにしてみれば<微笑み>は自然に出す普通の仕草ですけどね。
<貴族令嬢>のスキルも同じですねー。ヤスコーが息をするようにしてた仕草を切り出しただけ。
<なんか心地良い>も、ヤスコーの人柄からにじみ出る暖かさを切り出しただけです。
<なんか忠誠したい>も、ヤスコーに心酔する人たちの気持ちを切り出しただけ。
<言葉のとげ>も、ヤスコーが真っ直ぐな気持ちで叫ぶと心に響くところを切り出したものです。
<扇乱舞>は、ヤスコーが姉のデルリカや母のマリアのために考えた技です。
<歌ってみた><踊ってみた><心に届け>も、このあと身につけると思いますけど、それらもみんなヤスコーから切り出してコピーしたものなんですよー。
<縦ロール>だけはあなたのユニークスキルです。
<超縦ロール>に進化させると、髪の毛の長さも自由自在になりますよー。」
そこまで喋ると、マリーちゃんはナガミーチさんに口を尖らせて突き出す。
ナガミーチさんは慣れた手つきでマリーちゃんに紅茶を飲ませた。
そしてナガミーチさんは微笑んだ。
「たしかに勇者タケシーさんが魔王討伐をしましたが、スキルや呪文を大量に提供したのがヤスコーさんなので、魔王討伐の10人目のメンバーといえなくも無いですね。」
しばらくシーンとしたあと、ビレーヌさんが鼻血でも出しそうなほど興奮しながら立ち上がる。
「素晴らしい!やっぱりヤスコー様は素晴らしいお方だったのですね。わたくしの愛しの王子様!ナガミーチ様も一緒に戦われたのですから、同じくらいステキですわ!」
すぐにサビアンさんがキッツイ目で立ち上がってビレーヌさんを睨む。
「ヤスコー様はわたくしの王子様ですわ!ヤスコー様はわたくしの理想ですもの!」
ふたりは、お互いの髪の毛を掴んで暴れだした。
「あ、2人ともお友達でしょ・・・・あ、髪を引っ張り合ってはダメ・・・。あの・・・。」
おろおろする私。
すがるような目でナガミーチさんを見た。
「ナガミーチさん、あの、どうにかしてもらえませんか?」
「もう、なんでも僕に丸投げすれば良いってもんじゃないですよ・・・。」
そう言いながら、ナガミーチさんは左腕の魔方陣から大量の紙の束を出した。
それは100枚以上ありそうな写真だった。
それをもってナガミーチさんは喧嘩する二人に近づく。
「お2人とも、その辺で終わりにしませんか。」
「「あ゛ぁっ」」
いまのお2人の表情は見なかったことにしよう・・・
あのスパルさんでさえ、気まずそうに目をそらしている。
そんな怖い表情のお二人に、ナガミーチさんはそっと写真を見せた。
「喧嘩をやめてくれたら、好きなの一枚差し上げますよ。これは、ヤスコーさんが初めて衝撃波魔法を成功させたときの一枚。こっちはヤスコーさんがお稽古が辛いと泣いたときに、デルリカさんが抱きしめてなだめている時の写真。こっちはなんとサムソン第二王子を一撃でしとめた時の写真です。他にも沢山ありますよ。見ます?」
「まあヤスコー様のお写真!是非お見せしてくださいませ。」
「貴重なヤスコー様の魔法写真!本当に一枚宜しいのですか!」
ふたりは喧嘩をぱっとやめて、ナガミーチさんの出した写真に食いついた。
しかしドラえもんみたいに、都合のいいもん出す人だな。
「ナガミーチ様、いつもヤスコー様のお写真を持ち歩いていらっしゃるんですか?」
「ええ、デルリカさんが怒ってヤバイ時に、これを投げて気をそらすんです。」
デルリカさん・・・・ちょっと見かたが変わりそう。
私も写真を見てみた。
やっぱり『剛面淑女』だの『ブス可愛い』といわれる大田康子さんだ。
そういえば、日本でも熱狂的な女性ファンが沢山居たもんなー。
ヘタに街中で悪口言うと、今のサビアンさんやビレーヌさんみたいにキレた女性に襲い掛かられるくらいの人気だったっけ。
アイドル以上の国民的アイドルは、ここでもアイドルなんだ。
すると、ナガミーチさんは私を見て微笑んだ。
「ヤスコーさんは努力をしていない日なんてありませんでした。僕はヤスコーさんが赤ん坊の頃から見ているんで我が子のような気持ちで見ていたんですよ。だから誰かを羨ましがる暇があれば努力をするヤスコーさんは、僕にとっても誇りです。」
「ナガミーチさん、急になんですか?」
「ヤスコーさんは、外見のコンプレックスも努力と人柄で乗り越えました。それに比べたら可愛いサトミーさんは遥かに恵まれています。公爵家への義理を果たしたのだから、次は自分の夢を追ってみてはいかがですか?
僕はサトミーさんほどアイドルっぽい女性を見た事がありません。だから頑張ってみませんか?
僕も応援しますよ。ヤスコーさんが国民的アイドルになれるなら、サトミーさんにも絶対出来る。
ヤスコーさんをずっと見ていた僕が言うんだから絶対です。」
「ちょっとナガミーチさん・・・不意打ちはずるいですよ。」
私は、急な展開に涙が出てきた。
なんで涙が出てきたんだろう?
それを考えたらすぐにわかった。
ナガミーチさんの表情は、本当に私がアイドルになれるって思っている表情だった。
本当に『私ならできる』って言ってもらったのは初めてだったかもしれない。
泣いた私の頭を撫でる。
「面白い人生を歩みましょう。折角やり直せたんだから、今度は上手くやれますよ。」
また涙が出てきてしまった。
「もう、今までそんな事を言う素振りも見せてなかったのに、急に・・・・何なんですか?」
「トップアイドルになるための条件を満たしたように見えたので、もったいないと思ったんですよ。いままでの公爵令嬢としての経験があれば、サトミーさんはトップアイドルになれます。」
「今までの経験が?」
「そうです。少しずつの勝利を重ねて派閥を手に入れて公爵家への義理を果たした経験で、サトミーさんは変わりました。いまならなれますよ、トップアイドルに。」
私とナガミーチさんの会話に、取り巻きの皆さんは「?」な顔をしている。
そこでマリーちゃんがピョコリとナガミーチの前に出る。
「つまりー、つまらない学園生活をひっくり返すような、面白い事をしましょうという事です。人々が熱狂する人気の歌姫にサトミーがなることでー。」
そこでみんなが「面白そうだ」とか「サトミー様を盛り上げればよいのですね」とか騒ぎ出す。
どうやら、取り巻きさんたちは肯定的なようだ。
少し考えて私はナガミーチさんに頭を下げた。
「ナガミーチP、私をトップアイドルにしてください!」
悪役令嬢を放り出すけど、トップアイドルになれるなら、我が人生に一片の悔い無し。
お読みくださりありがとうございます。
長道「JKに、Pと呼ばれてしまった。なんか照れますね。」
マリユカ「アイドル育成も楽しそうですね。」
長道「あ、だったらマリユカPをやっちゃいます?。」
マリユカ「わーい楽しそう。じゃあ芸名は『大福殺し』でどうでしょうー。」
長道「・・・やっぱり僕がやりますね。」




