佐山里美 その9
―佐山里美 その9―
友情か・・・
天狼が出たとき、デルリカさんの追っかけは、一瞬で逃げていなくなったのに、私の取り巻きさんたちは頑張ってくれた。
私も、みんなのために頑張りたいな。
このハイキングは、ボッチだった私には夢のような時間だったかも。
家に着いて馬車を降りると、馬車の後ろを走ってついてきた巨大狼が私に頭をすり寄せてきた。
デカイけど可愛い奴。
よっしゃ、よっしゃ、よっしゃ。
モフモフしちゃうぞ。
耳の裏もガシガシ掻いちゃう。
そして私は真顔になる。
お屋敷の玄関を前に、途方にくれてしまった。
この子の事、どう説明しよう。
お父様とお母様は、この狼を見たら驚くだろうな・・・。
「セイン君、先にお父様とお母様にこの子の事を伝えてきてくれる?いきなり見せたらびっくりしちゃうだろうから。」
コクリと頷くと、小走りで玄関に入って行ってくれた。
数分後、お母様がちょこりと可愛く玄関から顔を出す。
ついでお父様もピョコっと顔を出した。
ほんとこの2人は公爵夫妻とは思えない愛嬌があるんだよね。
あの後、この狼にナガミーチさんが魔法の首輪を付けてくれたので、私は首輪を掴んでいる。
その私に、恐る恐る2人は近づいてきた。
「サ、サトミーよ、この大きさでは天狼であろう。天かける狼であるゆえ御せれば公爵家として良い宣伝にはなるのであるが、、、、ワシらが近づいても大丈夫であろうか?」
そう言われるとわからないかも。
マリーちゃんの話だと、天狼は言葉を理解するらしいから、説得してみようかな。
「ねえ、この2人は私のお父様とお母様なの。私の家族のリーダーなんだよ。だからお父様とお母様のいう事も大人しく聞いてね。」
ワウ
返事が来た。
OKって意味だよね。
「大丈夫みたいですよ。触ってみます?」
お父様とお母様はビクビクしながら狼に触る。
でも狼は大人しく触られていた。
よし大丈夫そう。
じゃあお屋敷に入れてもいいかな。
そうおもって呼ぼうと思ったら、名前がないことに気づいた。
「そうだ、あなたにも名前をつけないとね。天狼だから・・・フェンリルとかどう?」
ウォゥゥゥゥ
気に入ってくれたみたい。
「じゃあフェンリル、お屋敷に入れる?入れなかったら外に小屋を作ってあげるけど。」
そういったらお父様がぎょっとしていた。
あれ、お屋敷に入れるのはダメだったのかな・・・。
「お父様、フェンリルをお屋敷に入れるのはダメですか?フェンリルを抱いて、いっしょに寝たかったんだけどな・・・・。」
ショボン
がっかりした私に、お父様は引き攣りながらも微笑んでくれた。
「サトミーの我がままなら聞いてやりたいが、どう見てもフェンリルでは屋敷に入れないであろう。せめて普通の犬くらいの大きさであればな。」
するとフェンリルがまた吼える
ワフゥゥゥゥ
吼えると同時に、シュルシュルと体が小さくなった。
あっというまに、高さ1.5メートルほどになる。
それでも大きいが、お屋敷に入れない大きさではない。
それをみてお父様は観念したようだった。
「わかった、フェンリルをお屋敷の中にいれても良いぞ。良い護衛にもなるゆえな。」
「ありがとう御座います、お父様!」
思わず抱きついてしまった。
嬉しそうに「かまわん、かまわん」というお父様がちょっと可愛かった。
ハゲで小太りの中年でも、可愛いとか思えるんだと初めて知ったかも。
その日はスマ子がフェンリルを綺麗に洗って乾かしてくれたので、モコモコを抱きながら眠れた。
これは良いペットを手に入れたぞ。
襲ってきたヒットンとダイホーさん、ありがとう。
そしてその日は眠りについた。
次の日
学園が休みで、お父様の政務の無い日だったので休日恒例の、家族で魔族討伐に出発した。
今回はフェンリルも参加。
そこでフェンリルの強さが凄い事にびっくりしてしまうのでした。
大きな体に戻ったフェンリルは、とにかく一撃で魔物を狩りまくる。
魔物が飛んで逃げても、フェンリルは私を背に乗せて、宙を駆けてあっけなく魔物をしとめる。
凄い収穫だった。
夕方まで狩をしただけで、あっという間にレベルが上がってみんな大喜び。
それに魔物討伐でフェンリルも随分家族と打ち解けたみたい。
お夕飯の後に、お父様とお母様が楽しそうにフェンリルにブラッシングをしているのが微笑ましかった。
もうすっかり馴染んでいる。
それから3ヶ月は普通な日常が続いた。
あれから毎日、縮小サイズのフェンリルを連れて登校している。
サビアンさんとビレーヌさんは、フェンリルに自分達の方が先輩だと一生懸命説明していて微笑ましかった。
時々フェンリルの背にセイン君を乗せてみているけど、フェンリルは縮小サイズとはいえ軽がる人が乗る。
そんな魔獣を連れているのだから、学園内ではさらに私の事を畏怖する生徒が増えた。
全てが順風満帆に思える学園生活。
でも私達はともかく、デルリカさんには嵐が起きそうだった。
王族の婚約を狙うビグニー公爵令嬢イライザさんが、デルリカさんに何かと絡んでくるのだ。
イライザさんは最近、侯爵家や伯爵家の子息令嬢を派閥に取り込んで、徐々に力を蓄えているというから感心してしまう。
そしてビグニー公爵家は、我がマシリト公爵家とどちらが降爵するか微妙なラインな立場の家なのだ。
だからイライザさんは、ベルセック侯爵家が恐ろしいのだと思う。
万が一、ピッツ第三王子がデルリカさんと結婚してベルセック侯爵家に下れば、ビグニー公爵家と交代でベルセック家が公爵家になる可能性が高い。
だから、出来るだけデルリカさんの醜聞を広めたいと思っているようだ。
ただ、イライザさんが究極淑女のデルリカさんに喧嘩を売るのは、自爆行為をしているとしかおもえない。
魔王を倒し、究極淑女と呼ばれ、もっとも王族に愛される女性に喧嘩を売っても勝ち目がある訳がないから。
貴族の世界は、子息令嬢の汚点も、家の足を引っ張る要素になるから学園での醜聞は禁物。
さらに、いずれ学園を巣立って社交界に出たときの人脈として、とても大きな影響もでる。
だから、学園生活といえどものし上がって、他の子息令嬢よりも優位に立つことは、家のために大事なのだ。
だから、イライザさんも学園内でのし上がるために、デルリカさんという頂点と戦うことを選んだのだろう。
ただ、彼女はわかっていない。
デルリカさんと戦っているときに、私もイライザさんに敵対する可能性があるという事に。
公爵家はみな、心のなかで降爵を恐れている。
だから、私の派閥の公爵家子息令嬢は、もっとも降爵しそうなビグニー公爵家を『確実に』追い落として安心したい。そのために手を組んだと言っても良い。
だから当然、イライザさんが少しでも劣勢になった時に、私達は追い討ちをかける。
そんな切羽詰った状況だと気づかないのだから、次期ビグニー公爵家は貴族としてのセンスが絶望的だと思う。
学園を退学に追い込まれたら、社交界での活躍は絶望的だ。
子息令嬢が社交界デビューが絶望的ならば、その家は一段低く評価される。
私達の派閥は、それを虎視眈々と狙っているのだ。
イライザさんには恨みはないけど、それが私のマシリト家への恩返しでもあるから譲れない。
本来なら、マシリト公爵家はビグニー公爵家よりも降爵の可能性は高かった。
でも、セイン君が魔法の天才として名が売れた。
私が有力貴族の子息令嬢と太いパイプを持った。
さらに天狼という珍しい魔獣を手に入れたのも運が良い。
お父様の政治的な戦いが期待できない以上、私とセイン君が家の家格を上げないといけないんだもの。頑張らないと。
これでかなり、我がマシリト家は有利になっていると思う。
だからこそ、余計にイライザさんは焦っていたのだろうな。
今日もイライザさんはデルリカさんにイチャモンをつけていた。
「いつも貴族子息をはべらして、さぞ気持ちが宜しいのでしょうね。それでさらに殿下たちにまで色目を使っているというのはいただけませんわ。女王様気取りか、王族との婚姻かハッキリなさってはいかがでしょうか?。」
でも、そんなイライザさんを無視してデルリカさんは、右手に展開させた魔方陣をまるで携帯電話のように使って誰かと話している。
「さすがはヤスコーです。皇族としての義務を果たしているのですね。・・・・」
「ちょっと、わたくしが話しかけているのですから、こちらを向いてはいかがですの!」
バシッ
イライザさんはデルリカさんの右手に浮いている魔方陣を叩いて消滅させた。
デルリカさんは、一瞬呆けたような表情になったあと、とても人様に見せられないような怒りの表情になる。
ヤバイよ。
あれ、マジでキレてる表情ですよ。
ハイキングの時にナガミーチさんに見せた表情よりもさらにヤバイ。
思わず私は、デルリカさんとイライザさんの間に割って入ってしまった。
「イライザ様、今のは流石に見過ごせませんわ。通話をしていたデルリカ様に言いがかりをつけたのはイライザ様でしてよ。デルリカ様がお話を終わらせるまで待つのが筋ではなくて?」
「サトミー様!あなた何故邪魔をされるのかしら?あなたはデルリカ様と仲が悪いではないんですか。ここはわたくしに味方するべきではなくて?」
私は本気で溜息をついた。
この令嬢は、話が通じない類の馬鹿かもしれない。
「道理の話に仲が言いも悪いもございません。イライザ様の行動が貴族として目に余ると申しあげているのです。ここは謝罪なさってください。わたくしもお手伝いいたしますので。」
しかし、イライザさんはさらにヒートアップしてしまった。
「成り上がり侯爵家風情が、公爵家のわたくしの話を無視するなど無礼極まりないではありませんか。わたくしが謝罪する理由などありませんわ。そんな事も分からないなんて、サトミー様には失望いたしました。」
私は背中にとんでもない殺気を感じている。
私程度でも、背後の殺気がわかるとかヤバイ状態でしょ。
気づいてイライザさん!魔王殺しの令嬢がガチキレしているんだってば。
私の足がガタガタ震える。
教室内の人たちも、鈍い人以外は身を硬くして息を殺している。
それなのに、イライザさんはデルリカさんの隣に居たピッツ第三王子に訴えかける。
「デルリカ様の妹君なんかに婚約を考えていらしたとお聞きしましたが、あのゴリラみたいな女性に比べれば、わたくしの方が100倍マシですわ。殿下、よろしければわたくしと・・・。」
パチン
「いい加減になさいませ。自分を売り込むために、他の方が愛する人を貶すなど、何を考えているのですか!。」
私は思わずイライザさんの頬を叩いた。
だっていま、一瞬でデルリカさんの邪気が100倍くらいに膨れ上がったんですもの。
だから黙って欲しくて、焦りすぎて手が出てしまった。
ドラゴ○ボールじゃないけど、デルリカさんの気が背後で魔王のように強大で凶悪になったのが分かったんですけど!
絶対私の後ろで、デルリカさんはヒロインがしちゃいけない表情をしていると思う。
もう、背中は冷や汗でグチョグチョなんですけど。
そんな恐怖で、おもわずイライザさんをぶってしまうのは仕方がないと思うのです。
だって、これ以上喋らせたら後ろのデルリカさんが、デビル○ンみたいな姿で暴れだしそうだから。
ぶたれて、ワナワナと私を睨むイライザさん。
私の背後で轟々と邪気を放つデルリカさん。
うう、2人の間に入らずにイライザさんを見殺しにすればよかった・・・。
怖いよ・・・後ろが。
その時デルリカさんの右手の魔方陣から声がした。
『お姉様、お話は聞こえましたよ。ですがその程度の事で怒ってはいけませんからね。きっとお姉様の事ですから激怒なさっているでしょうけど、怒る意味なんてありませんよ。だって私も自分の姿はゴリラみたいだと思いますから。ですがそれでも私はお姉様の誇れる妹であろうと努力しております。それで良いではないですか。』
まるで聖女のような声だった。
その声と同時に、背後の魔王デルリカの気が消えた。
「ヤスコー、ですが貴方の事を侮辱するものは誰であろうと皆殺しにするべきなのです。」
おーい、デルリカさん。無茶苦茶ですよ。
そんな怒るデルリカさんを諭すように右手の声は続く。
『ヤスコーは、お優しいお姉様が好きです。あまり魔王のような事は考えないでくださいね。それと、お姉様のために間に入ってくださったサトミー様にも感謝を申し上げます。』
いきなり自分の名前が出たので思わず振り返った。
そこではデルリカさんが、右手の魔方陣を愛おしそうに撫でる姿があった。
「ヤスコー様、お気になさらないでくださいませ。貴族として当然の事をしたまでです。」
なんか、うまく治まったかな。
ヤスコーさんの聖母のような言葉に感謝ですね。
で、再度イライザさんに向き直る。
するとその手に刃物が握られていた。
え?またこのパターン?
ズシャっと私の顔に切りつけられた。
アウチッ
なんで馬鹿はすぐに斬り付けてくるの!
血が吹き出す顔を抑えて私は倒れそうになる。
美人が自慢の私の顔を斬らないでよ。
でも踏みとどまっった。
ぶ、無様な姿は晒せない。
弱い悪役令嬢なんて、意味が無いんだから!
血が吹き出す顔を隠しもせず、私は姿勢を正した。
ダラダラと服も血だらけになるけど気にしない。
私を斬りつけたイライザさんをおもいきり蔑んだ目でキっと睨む。
「さてお聞きしましょう。イライザ様はわたくしを切りつけて、どのような利益があるのでしょうか?わたくしの考えを述べさせていただきますと、利益は何もありません。それどころか不利益しかありませんわね。この後は公爵家同志の賠償問題に、貴女の社交界追放、さらに学園の退学もありえますわ。」
青い顔になったイライザさんはさらに刃物を私に向けた。
「貴女のせいですわ!」
振りかぶられた刃物は、今度はピッツ第三王子の剣が止める。
すぐに、私の取り巻きさんたちがイライザさんを押さえつけた。
私は血だらけの顔で彼女を堂々と見下ろす。
すると私を守ったピッツ第三王子が、取り押さえられているイライザさんに剣を突きつけた。
「ふざけないで頂きたい。僕はヤスコーさんよりも素敵な女性を見たことが無い。すくなくても貴女なんて虫けらにしか見えないほどヤスコーさんは素晴らしい女性だった。二度と侮辱するな!」
王子様のような素敵なお顔(っていうか王子様か)を真っ赤に染めて、ピッツ第三王子は怒っていた。
そして剣を納めると私を見た。
「あなたは意地悪な人だと思っていましたが、今日の事で少し見直しました。・・・そうですね、意地悪なだけの人に、あれほどの人たちがついてくるわけないですものね。」
そういいながらニッコリ微笑んでくれた。
う、可愛いカッコイイ!
この王子の心を掴んで離さないヤスコーさん、ほんと尊敬しちゃう。
その私の顔に、そっとデルリカさんの弟のカイル君が手を当ててくる。
この子もカッコイイ美少年。
デルリカさんの周りは美形男子天国でいいな。
私の周りは、サビアンさんやビレーヌさんみたいな美少女天国で・・・・まあ、それも悪くないけど、デルリカさんが羨ましくなった。
そんな事を考えていたら、カイル君が魔法で濡らしたタオルで私の顔をゴシゴシ拭いてくれている。
「回復魔法でお顔の傷は治しました。あなたが斬られるのを後ろから見るのは、これで二度目です。ほんとうに無茶をしますね。」
苦笑いされた。
でも美少年に囲まれたから、今回の怪我はラッキーだったかも。
「ありがとう。何度もごめんね。」
すると、少し照れた感じでカイル君が目をそらした。
「サトミーさん・・・ご自慢の縦まきロールがストレートになってますよ。」
なに!
しまった、美少年を鑑賞しすぎて気が抜けた。
スキル<縦ロール>発動!
一瞬でシャキンと縦ロールになる。
取り巻きさんたちからは「おー」という謎の感嘆の声が上がったが気にしない。
デルリカさんも小声で「ご心配をおかけしましたね。ありがとうございます。」と耳元で囁いてくれた。
うわ、そういうのダメですよ、顔が赤くなっちゃう。
お読みくださりありがとうございます。
サトミー「なんで女性は顔を斬りつけてくるんでしょうかね。」
ピッツ「顔のことしか考えてないバカが多いのいでしょう。だから憎い顔を斬るのではと思います。」
サトミー「それ、女性の前では絶対に言わないほうが良いですよ。」
ピッツ「顔ではないと言いたいのです。女性に大事なのは中身です。そうたとえばヤスコーさんを例に話しますと・・・」
5時間後
ピッツ「・・・しかもヤスコーさんは料理も上手で・・・」
サトミー「(助けてヤスコーさん)」




