佐山里美 その7
―佐山里美 その7―
入学してから半年が過ぎた。
あれから、表向きはデルリカさんと衝突を繰り返しつつ裏では仲良くやってます。
意外だったのはデルリカさんがノリノリで、結構アイディアを出してくれるんだよね。
なんでノリノリなのか不思議だったけど、ある日ナガミーチさんがボソリと教えてくれた。
『ほら、あの人って特別でしょ。だから意外に友達が居ないんですよ。言い寄る貴族を全部追い払うと、ボッチになってることが多かったし。だから友達が出来て楽しいんじゃないかな。』
それを聞いて、すっごく納得がいったかも。
確かにトップアイドルもみんな愛想笑いを振りまくけど、どこか寂しそうだった。
人に囲まれているのにボッチ。
それが、対等な者のいない孤高な人の宿命なのかもしれない。
だから私は思いっきり悪役令嬢としてヒロインにぶつかれた。
そういう対等な存在こそが、デルリカさんが求めていた存在なんだと分かったから。
だからこのハイキングでもガッツリ戦おうと思う。
そう、今日は学園イベントで草原にハイキングに来ている。
街から出発して、8kmほど先にある遺跡に徒歩で行く。まあ遠足ですね。
そして私は今、沢山の人に囲まれながら歩いている。
この半年で取り巻きを沢山作ったから。
フィレース公爵家令嬢のサビアンさん
クリオス公爵令嬢のビレーヌさん
ハルベリー公爵子息のジリアン君
サファイア候爵子息スパルさん
あとは伯爵家以下の取り巻きは無数。
いまや学園1の派閥のリーダーです。
そんな取り巻きをゾロゾロ引き連れて歩いていると、少し前にデルリカさんを見つけた。
デルリカさんの周りは、目がハート型になった貴族子息達が群がっているからすぐにわかるんだよね。
その様子を見てサビアンさんが苦々しい表情になる。
「サトミー様、あのメス犬はどうして発情馬鹿貴族たちを引き連れないと歩けないのでしょうか。見るに耐えませんわ。」
いやアレはデルリカさんが悪いんじゃなくて、発情馬鹿貴族が悪いような・・・
でも、サビアンさんは怖いから、適当に意見をあわせておこうかな。
「そうですわね。あれでは邪魔でしょうがありませんわ。わたくしがご注意申し上げてきますわ。」
すると、私が進むよりも早くサビアンさんとビレーヌさんが歩く速度を速めて、団子状態で歩くデルリカさんのそばまで行く。
あうあう、私が文句言うっていったのに・・・
そんな私の気持ちを無視するようにサビアンさんとビレーヌさんが叫ぶ。
「ちょっとそこの皆様、道のまんなかで邪魔でしてよ。サトミー様の迷惑にならないようにデルリカ様もお気をつけて頂かないと困りますわ。」
「そうそう、サトミー様が進むのにお邪魔なさらないでくださいますか。デルリカ様は嫌がらせのおつもりですの?」
2人はそう文句を言うと、さっと私に道を空けた。
うわ、デルリカさんの取り巻きが一斉に私を見た。
「おほほほ、デルリカ様、ごきげんよう。相変わらずお馬鹿様方に囲まれていて同情いたしますわ。それとも女王蜂気分をお楽しみでしたかしら?もうしそうでしたら、公衆の迷惑にならないところでお楽しみあそばせ。」
ミラーズ王子が凄い睨んできた。
っていうか、生徒ではないミラーズ王子がなんでここに居るんだろう。
顔は素敵なのに、頭は残念なのかな?
ミラーズ王子はツカツカと私の前に来ると、手を振り上げた。
バンッ
いきなり私は頬をたたかれた。
そして私はキリモミしながら横に5メートルほど吹っ飛んだ。
え?何この威力。
痛い!っていうか驚いた。部外者の癖に普通ぶつ?
っていうか、この威力は何だ!殺す気か!
今私はレベル35で耐久力が高いからいいけど、常人だったら死んでるよ。
私が吹っ飛んだ先でスマ子が瞬間移動のように現れて受け止めてくれた。
ナイス、スマ子。あなたが男の子だったら惚れてたよ。
ミラーズ王子は、私を指差す。
「サトミー嬢、事あるごとにデルリカ嬢に嫌がらせを行うと聞いている。いい加減にせよ!」
私と王子の間にセイン君が割って入って来た。
「王子・・・お前は最低だ!」
ほかの取り巻きは動けない。
当然だ、あいては王族。貴族は手が出せないよね。
私はしっかり立つと、王子の前まで行く。
みな心配そうに見ている。
手が届くところまで来たら、私は拳を握った。
「王子、歯を食いしばれ!」
思いっきり王子に向って拳を振った。
みんな緊張したのがわかった。
当然ですね。王族をぶったら死刑すらありえるもの。
でも、あの攻撃は私でなかったら死んでる。
そんな攻撃を、女の子に振るう奴は許さん。
ズン!
私は拳を王子の顔に向けて振りぬく。
しかし、拳は王子の顔に届いていなかった。
私の拳は、王子の顔寸前のところで、デルリカさんの扇により止められていたのだ。
私の拳を扇で押し返すと、デルリカさんはニッコリ微笑んだ。
「サトミー様、今のはワタクシからも謝罪いたします。ですのであまり危険な事はなさらないでくださいませ。」
そう言うと、パチンと扇を閉じる。
その瞬間、デルリカさんから魔法発動の気配がし、王子の足元に急に落とし穴が現れ王子は一瞬で落ちていった。
「ちょ、デルリカじょ・・・・」
微妙な言葉を残し王子はストンと落ちて姿を消す。王子が落ちると同時に落とし穴が閉じる。
デ、デルリカさん?これって生き埋めなのでは?
ポカンとする周りを気にせず、デルリカさんはきびすを返して、何事も無かったように歩き出してしまった。
王子を地中に置き去り?
半年接してわかったけど、デルリカさんて結構キツイ性格してるんですよね。
さっきは王子に滅茶苦茶に腹が立ったけど・・・助けたほうがいいかな。
「セイン君、王子を助けられまして?」
「お姉様を・・・殴り倒した奴を助けるなんて・・・嫌・・・です。」
まあ可愛い。
ぎゅっ。
「ですが、助けてあげてくださいませ。死なれては寝覚めが悪くなりますわ。」
すっごく不満そうにセイン君は魔法で落とし穴を再度開いてくれた。
覗き込むと情けない格好の王子がいる。
一応、ゼーハー、ゼーハーと呼吸しているので生きているみたい。
よかった。デルリカさんが罪に問われては可哀想だモノね。
「王子の生存も確認しましたし、わたくしたちも先に進みましょう」
そういって私も歩き出した。
みんなも、私について王子から目をそらしながら歩き出す。
この国、次の代で滅ぶんじゃないかな。
少し心配になった。
ーーーーー
楽しく歩いて遺跡までつくと、ナガミーチさんがテクテクと近づいてきた。
「サトミーさん、聞きましたよー。怪我大丈夫ですか?」
ナガミーチさんはデルリカさん側の人間だけど、あまりに飄々としているため、私の取り巻きの人たちも、最近は素通りさせてくる。
私の取り巻きであるクリオス公爵令嬢のビレーヌさんに至っては、ナガミーチさんが来ると顔を赤くするから、もしかすると凄く人気があるかもね。デルリカさんの従者でさえなければ。
「はい、スマ子が一瞬で回復してくれましたのよ。さすがナガミーチさん仕込ですわね。」
「そうですか、スマ子が役に立ったのでしたら、僕も鼻が高いですね。」
そういうと、空間収納から大量のペットボトルを出してきた。
「お詫びってわけじゃないけど、よかったら皆さんで飲んでください。よく冷えてますから。」
この世界でペットボトルとか違和感があるな。
でも冷たい飲み物はありがたいかも。
「ありがとうございます。デルリカ様にも、あまりお気になさらないようにお伝えください。」
「そう言ってもらえると助かります。ほんと王子ってみんな馬鹿なのはしょうがないんですかね。」
そういって去っていった。
取り巻きのみんなに冷たいペットボトルを配って飲み方をおしえると、わたしは崩れた遺跡に腰かけて冷たい飲み物を飲む。
歩いた後のアイスティー、おいしいな。
当然のような顔で、フィレース公爵家令嬢のサビアンさんと、クリオス公爵令嬢のビレーヌさんが私の両隣に座る。
私達は公爵令嬢仲間なのです。
ビレーヌさんは綺麗な赤毛をポニテにしてから、楽しそうに私の顔を覗き込む。
「サトミー様、お顔はもう大丈夫ですわね。先ほどは本当に驚きましたわ。まさか王子に殴りかかるなんて。わたくし達でしたら泣き寝入りするところですもの。素晴らしいですわ。」
すると金髪のサビアンさんも頷く。
「同感です。サトミー様の前に立ち塞がられたセイン様も素敵ですが、堂々として退かないサトミー様にも憧れの気持ちを持ってしまいましたわ。」
「お2人とも、わたくしを持ち上げすぎですわ。そのくらいでお許しくださいませ。」
ただの短気をそんなに褒められると、凄く恥ずかしい。
この2人は、いつも私の行動を良い様に曲解して過大評価してくれる。
いつか本当の私の姿に気づいたら、失望されそうで怖い。
これからも頑張って、公爵令嬢の仮面を被り続けなくっちゃ。
しばらく雑談していたら、ビレーヌさんが言いにくそうにモゾモゾしだす。
おトイレかな?
「あの、サトミー様。ルッテン侯爵家ヒットン様をご存知ですよね?」
急になんだろう?
「いいえ、存じ上げませんわ。」
するとサビアンさんとビレーヌさんが『え?』という顔をする。
すかさず後ろにスマ子が現れた。
「お嬢様マジないわー。自分の事を背中から斬りつけてきた奴を忘れるとか、ありえないっしょ。」
「ああ、あのザコ。とっくに記憶から消えておりましたわ。そのトントンさんがどうなさいましたの?」
「ヒットン様です。先日わたくしに言い寄ってきましたの。ですが侯爵家の癖に偉そうですので強い口調でお断りしましたら、それ以来しつこく付きまとわれておりまして。ご自分の容姿に自信がおありらしく、ワタクシがなびかないのが納得いかないようですの。」
「まあ、それは大変ですわね。」
「はい、それでどうも、わたくしが断ったのはサトミー様がわたくしに圧力を掛けていると思っている節がありまして。ですのでサトミー様にご迷惑をおかけしないか不安でして。」
少し考えてハッと気づいた。
「あ、もしかしてビレーヌさんはナガミーチさんが好きだから断ったとか?」
「ちょ、ちょ、な何を言い出しますの。ナガミーチ様は憎きデルリカ嬢の従者。き、嫌いではございませんが、そんな結婚とかは無理ですし・・・。」
おっと、コレは意外な。なんかニヤニヤしてしまうね。
さらに追及しようとしたら、
隣に座るサビアンさんが急にハッとした顔になってこっちを見てきた。
「あ、そういえば!昨日ヒットン様が夜会で、ミラーズ殿下と話していた姿を見てしましたわ。その時にミラーズ王子がしきりに怒ったような態度を見せておりました。今思いますと、先ほどのミラーズ王子の暴挙の原因かもしれないと思いますの。」
なにそれ。
姑息な。
でも、こういう攻撃を受けるのって本来はヒロイン側だよね。
私がヒロインにしかけるタイプの攻撃だよね。
なんで私が姑息な攻撃受けているの?
納得いかないわー。
まあいいか。
私は扇を広げて口元を隠しニヤリとする。
「一度は見逃しましたが、二度目は叩きのめさせていただきましょう。」
そのヒットンに、地獄を見せてあげましょう。
ーーーーー
一時間後。
サビアンさんのメイドさんにヒットンを呼び出してもらった。
何か偉そうに歩いてきたので、私飛び出す。
「サビアンさんだと思いました?残念、サトミーでした。」
「げ!サトミー様・・・サビアン嬢はどちらに?」
「おりません。わたくしがサビアン様に頼んで貴方を呼び出してもらいましたので。ここにはわたくしと貴方だけですわ。」
ジリっと一歩近づいてみる。
ヒットンはジリっと一歩退がる。
「貴方、ご自分の容姿を随分とご自慢されていらっしゃるようですわね。そのご自慢の容姿で話しかければ女性の心をつかめるとお考えなのが、普段の行動から透けて見えますわ。」
ヒットンは汗をたらしながら、さらに一歩さがる。
逃がさないからね。
スキル<言葉のとげ>発動。
「侯爵家の者が、公爵令嬢に偉そうに付きまとっているというのは有名になっております。爵位の差を『その程度の容姿で』覆せると思っているとは片腹痛いですわね。」
ヒットンは辛そうに胸を押さえながら顔を背ける。
「そろそろお気づきになってはいかがでしょうか?『貴方程度の薄っぺらい』殿方なぞに、想いを向ける女性は、すでにこの学園には『1人も居ない』という事に。いえ、これは今更でしたわね。よほどの『お馬鹿さん』でもないかぎりすでに気づいておりますよね。」
ヒットンは私の3コンボ攻撃で膝を突いてブルブル震えている。
さてトドメを刺そうかな。
「『みなに笑われている』ことにも気づかない『クズ』めが、と言って差し上げますわ。」
ヒットンは両手を付いて動かなくなってしまった。
「お次からは誰かに話しかける時には、周りを見てみることをお勧めいたしますわ。あざ笑う視線を向けられていることに気づくでしょうから。」
ま、無駄な自信は砕けたでしょう。
笑われているのではと不安になったら、学園にも来れなくなるかもね。
バサリと扇子を開いて、私は優雅に歩き去るのだった。
「おーほっほっほっほ。」
勝利の余韻をかみ締めつつ、楽しい気分で立ち去ると、少しはなれたところでスマ子が良い笑顔で手招きしていた。
あっお。
しまった、スマ子抜きで誰かと対峙しちゃだめって言われていたんだった。
「えっと、スマ子。大丈夫だから・・・あの・・・勝ったから大丈夫だから。ね。」
可能な限り魅力的に微笑んでみた。
大抵の人はコレでイチコロだ。
「お嬢様、ウチにはお嬢様の微笑みは効かないってーの。マジ反省してもらわないといけないっしょ。」
ですよねー。
ゴーレムであるスマ子には必殺スマイルは効かなかった。
そして速攻でスマ子は私の頭を拳でグリグリしてきた。微笑みながら。
「痛たたたたたた、ごめん、もう1人で戦わないから・・・痛たたたた。」
ひとしきりグリグリされて開放されると、痛みから私はぐったりしゃがみこんでしまったよ。
すると、周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。
私の取り巻きの皆さんだ。
みな口々に『スマ子さん、もっと怒っても宜しいのでは?』とか『サトミー様にはもっと厳しくしないとダメですよ』とか『ホント反省してくれたんですかねー。』とか言っている。
あの、あなた達は私の取り巻きですよね?
なんで、優しい言葉を掛けてくれないのよ。
私の威厳の無さを思い知るなあ。
私がスマ子に怒られるたびに、みんなこんな感じなのよね。
っていうか、なんで一介の使用人のスマ子が貴族に『さん』付けされてるの?
私よりも、取り巻きのみなさんにリスペクトされているんじゃないの?
「もう、皆さんまで一緒に責めないでくださいませ。スマ子のグリグリは殺人級ですのよ。」
するとサファイア候爵子息スパルさんが、そっと私の前で騎士の礼をする。
スパルさんは俺様系イケメンで天才剣士なのだ。
「だから何度もいってるじゃんか。そういう時はせめて俺を連れてってくれと。そうそればスマ子さんだって怒らないって。」
後ろからセイン君も怒った顔で詰め寄ってきた。
「お姉様、みなさん心配してくださっているんです。・・・・もっと自覚を持ってください・・・。僕も心配でしょうがありません。」
言われて取巻きの皆さんを見ると、みんな優しい顔で私を見ていた。
いつの間にこんなに仲間が出来ていたんだろう。
ちょっと私の事が気安い扱いな気もするけど、それも含めて良い仲間ができていたみたい。
「そうですわね、みなさんにご心配をおかけしてしまったようで申し訳ありませんでした。気をつけますわ。」
すると取り巻きの皆さんが微笑み返してくれる。
今は、前の学校生活の孤独さとは程遠いってことに気づいた。
大事にしなくちゃ。
ふと遠くから、嬉しそうにこちらを見ているデルリカさんと目が合う。
帰ったら、きょうの嬉しさをお話しなくちゃと思った。
お読みくださり、ありがとうございます。
フィレース公爵家令嬢のサビアン
「サトミー様はお仲間をとても大事にされる、器の大きな方ですわ。」
クリオス公爵令嬢のビレーヌ
「サトミー様は、お優しいのに悪ぶるところが可愛らしいのですよね。」
ハルベリー公爵子息のジリアン
「サトミー様はヤスコー様に詳しいから好きだな。」
サファイア候爵子息スパル
「あの人、ほんと無茶するから心配でしょうがないよ。心配で目が離せないぜ。」




