佐山里美 その6
―佐山里美 その6―
学園の帰り、噂のベルセック伯爵邸に来ました。
ただ今、魔境・ナガミーチ研究室の前です。
入り口を見たとき、正直言って足がすくんだ。
だって、なにあの格闘ゲームキャラみたいなゴーレムの大群。
さらに巨大なドラゴン型ゴーレムが門番みたいに唸ってるし。
そして、その奥にはまるで大量の死体をブルドーザーで一箇所に集めたみたいに無造作に積まれているメイドゴーレムの山。
お化け屋敷並に怖かった。
そのゴーレムの迷宮を通り抜けたところに、お茶が出来そうな場所がポツンとあった。
そこで、いまスマ子がお茶の準備をしてくれている。
するとナガミーチさんはこともなげに言った。
「僕の最新型メイドゴーレム、スマ子です。完全で瀟洒な感じでしょ。サトミーさんはいい買い物しましたよー。スマ子はホント現在の最高傑作です。完全で瀟洒なメイドですから。」
いや、完璧ではあるけど瀟洒ではないと思うよ。
馬鹿な事言っていると、本物の完全で瀟洒なメイドが怒って殴りに来ても知りませんからね。
でもナガミーチさんが作ったメイドゴーレムだからパパか。納得。
一人納得していると、目の前でデルリカさんがクスクス笑っている。
「サトミー様、そのストレートな黒髪も素敵ですわ。普段はカールが無くなるのですね。」
しまった!
異様なゴーレム空間で、うっかり弱気になっていた。
スキル<縦ロール>発動!シャキン!
「まあ、お見事ですわ。」
一瞬で縦巻きロールにしたら、妙に感心されたのは嬉しかった。
しばらく私の縦巻きロールのスキルに着いて話したあと、そろそろ本題にはいる。
「デルリカ様、じつは私は元の世界で流行っていた『悪役令嬢』というジャンルのお話が大好きでしたの。自殺をしようと思っていたところでマリユカ様に拾われて、望みを聞かれたときに『悪役令嬢』になりたいとお願いしましたら、マシリト公爵家に召喚されて今に至りますの。」
そして、有名な悪役令嬢モノの3本分ほどのあらすじを話した。
「なるほど、では悪役令嬢の常識を無視した行動も、悪役令嬢のお話の面白さの範囲ですのね。こんなときタケシー様がいらしゃれば的確な判断も出来たかもしれませんが・・・、ワタクシでは判断できませんわ。あまりお力になれなさそうで申し訳ありません。」
本当に申し訳なさそうな表情のデルリカさんに、こっちが申し訳なくなってしまう。
「いいえ、このように友好的に接していただけただけで充分助かっておりますわ。感謝もうしあげます。
それに、今はわたくしを受け入れてくださったマシリト公爵家のために働きたいと思っていますの。向こうの世界では家族を失いましたが、こちらの世界で得られたのですもの。今は家族を大事にしたいと思っております。」
そして、日が落ちるまでデルリカさんと話をして、意外な結論に達した。
つまり、このまま悪役令嬢をすることこそ、マシリト公爵家の力になるというものだった。
デルリカさんと戦うことで王家にも印象が残り、実際の公爵家の功績よりも良く見えるのではという事だった。
なるほど。
だからこれからも、人目のあるところでは争いましょうという話しになった。
なんか、デルリカさんとすっごく仲良くなって帰路につく。
馬車に揺られながら、隣で眠っているセイン君に肩を貸しつつ、外の流れる風景を眺めていたらスマ子がそっとセイン君に布を掛けた。
「セイン坊ちゃま、お疲れちゃーん。どっかのお嬢様が目の前で斬られたり、強敵であるはずのベルセック伯爵令嬢と気軽に話したりするから疲れたんだね。マジお嬢様がありえないから。」
う、嫌味言われた。
「もう怒らないでよ。反省したから。」
「ちょー反省してもらわないと困るんですけど。マジこれからはウチが鬼ストーカーになって見張るしかないっしょ。」
「勘弁してよー。私が悪かったから。」
「・・・ストーカーするんでシクヨロ。」
ジト目でみられた。引く気はないってことね。
「わかった。あきらめました。スマ子の好きにしてよ。」
すると無邪気な笑顔が返ってきた。
もう、敵わないな、ホント。
しばらくしてお屋敷に着く。
つかれたー。
そう思って玄関入ると、青い顔のお父様とお母様が待っていた。
「サトミーよ、背中の傷を見せるのじゃ。もう歩いても大丈夫であるのか?」
「サトミー、無理はしないでください。報告を聞いたときは、わたくしは寿命が縮みましたよ。」
心配してもらっちゃった。
「すいませんお父様、お母様。スマ子にも凄く怒られました。とても反省しております。」
「うむ、反省するのだぞ。すでにスマ子に叱られたのであれば、これ以上ワシらがいう事もあるまい。食事をしようではないか。」
二人は私の背中をさするように食卓に進む。
なんかあったかい。
出合ってたった数日の家族なのに、なんでこんなに暖かいのだろう。
ポロポロ涙が出てきた。
「ありがとうございます・・・・お父様、お母様・・・・。」
2人は私が泣き止むまで、そっと肩を抱いてくれた。
私の過去を知っているから、私の涙の意味を理解してくれたのだろう。
ただ優しく、泣き止むまで黙って抱いてくれた。
今度こそ私はこの家族を守らなくちゃ。
食卓に着くと、すでにスープは冷めていた。
私が泣き止むのをを待っていたせいかな。
でも、冷めたスープがむしろ温かく感じた。
あの日、私は孤独で死にたいと思っていた。
学校の屋上でスマートフォンを見つめながら死ぬことしか考えてなかった。
でも、あの時死ななくて本当によかった。
今度こそ間違わない。
この家族を大事にするために。
その夜、私は夢を見た。
今日は何度も日本の学校の上で死にたいと思ったことを思い出したせいか、その時の事を夢で見てしまった。
夕方の学校の屋上で私は、気力ない自分を感じている。
今なら、すっと飛び降りることに何の抵抗も感じなさそうだった。
虚しい。ためしに飛び降りてみようかなって思う。
でも、死ぬなら誰かに知らせてからの方がいいかと思い、スマートフォンを取り出した。
最近は私にとってスマートフォンは、悪役令嬢の小説を読むためだけの道具だったけど、久しぶりに電話として使おうとしたのだ。
だが、それはさらに私を虚しくさせた。
連絡しようとして気づいた、連絡する相手が誰も居ない事を。
虚しかった。
スマートフォンを強く握り締める。
もういいや、飛び降りよう。
屋上の策をまたいで飛び降りようとした。
その時、女性の声がした。
『誰か里美ちゃんを助けてよ!』
そこで目が覚めた。
部屋は真っ暗でまだ夜中のようだ。
ふう、あの時の私はギリギリだった。
「あのとき、死ななくて良かった。助かってよかった。」
思わずつぶやく。
すると、暗闇から声がした。
「ほんとマジ反省してくれたようでよかった。あんなことが何度もあったらウチも生きた心地がしないっちゅうの。」
びく!
驚いて声も出なかった。
目を見開いて声の方向を見ると、スマ子がベットの脇に椅子を置いて座っていた。
なんだスマ子か。
スマ子だと分かってちょっと落ち着いた。
「ス、スマ子?驚いたじゃない。なにやってるの?」
「え、ウチはお嬢様を見ていただけですけど何か?もうゴーレムだってバレたし、寝たふりしなくても良いっしょ。ゴーレムは寝ないでいいから夜中も寝ないでお嬢様を監視っす。鬼ストーカーするって言ったっしょ。」
「お、おう。」
ゴーレムすごいな。
そうそう、そういえばスマ子は私の呟きを勘違いしたみたいね。
向こうの世界で自殺しなくて良かったって意味でつぶやいたんだけど、スマ子は昨日の斬られ事件を反省したと思ったんでしょう。
いい感じに勘違いしてくれたお陰で、反省した雰囲気が出てよかったかも。
スマ子は立ち上がると、水差しからコップに水を入れて渡してくれた。
水を飲んで、思ったよりも喉が渇いていたことに気づく。
夢で緊張するとか、なんか恥ずかしい。
そして、スマ子は私を寝かすとそっと毛布をかけて、ベッドに腰を下ろす。
「寝付くまでウチがココにいるから、安心して寝て欲しいわけ。」
そう言いながら私の腕をポンポン優しくたたいてくれた。
「もう。子供じゃないんだけどな。」
そう言ってみたが、スマ子の手の暖かさが安心できる。
スマ子がいると安心する。なんでだろう。
まるでスマ子の事を昔から知っているような錯覚にさえ落ちそうだ。
そしてその後、また夢の中に落ちるまで数分とかからなかった。
お読みくださりありがとうございます。
スマ子「眠~れ~良~い~子~よ~。」
サトミー「ちょっとスマ子、子守唄とかいらないよ。かえって眠れないよ。」
スマ子「ねーんねーん、ころーりーよ、おこーろーりーよー。」
サトミー「ホント子供じゃ・・ないんだから・・・子守唄とか・・・・スヤァ。」




