佐山里美 その3
―佐山里美 その3―
朝起きると、またスマ子の高速身支度により淑女にしてもらう。
相変わらずの早業に感心しちゃう。
気合い入った。
よし、今日からセイン君と学園生活です。
学園生活に突入するにあたり、貴族の所作とかどうしようと悩んでいたけど、レベル3になった時にスキル<貴族令嬢>を習得して、いきなり所作が完璧になった。
異世界便利すぎ。
だから、もう何の心配もなく戦えるね。
お父様とお母様は朝食の時に随分心配してくれたけど、ガンガン戦って学園内の地位も手に入れるっていったら凄く感心してくれた。
喜ばれてちょっと嬉しかったな。
まかせて。派閥とか作って目立つから。
だって私は悪役令嬢ですもの、暴れますよー。
そしてセイン君と一緒に馬車で学校に乗り込むぞ。
初日だからガツンとやらなくちゃ。
馬車の中で長道さんから貰った攻略ノートを見て復習をしてみた。
敵のことは知ってないとね。
ヒロインのページはあのブス可愛いで有名な大田康子さんにそっくり。
そのイラストで驚いたけど。
でもそのページ
「ヤスコー・ベルセック 16歳 ベルセック伯爵家次女。」
の部分は取り消し線で消されていて、いかにも後から書き足した感じに
「デルリカ・ベルセック 28歳 ベルセック伯爵家長女」
と書かれている。
使いまわし感がハンパない。
でもこれが私のライバルなわけね。
どうやら大人の事情で、ヒロインがヤスコーさんからデルリカさんに変わったみたいだけど、気にしない。
きっとこのヤスコーさんのお姉さんなのだから、外見も可哀想なんでしょう。
こういうゲームだから外見が可愛くないのに、学園の憧れに好かれたりするっていう奴でしょ。
しかも28歳?
なんか圧勝の予感ね。
私可愛いしアイドルしてたんだから、人気取りでも負けないと思う。
結構勘違いされるけど、アイドルになるまでは簡単なのよね。
地下アイドルのライブに名乗りをあげて参加して、適当にプロダクションに登録すればアイドル。
ただそこから、トップクラスのアイドルになるのは大変だけど。
いくつもオーディションを受けたり、ライブで同じ舞台に立つと分かるの。
上り詰めるアイドルは化け物だって。
テレビの向こうから『いまいち』とか『ブスレベル』とか無責任な事を言われる立場に立てるというだけで、実は凄いんだよね。
可愛いだけなら沢山居る。
そこから上り詰めるには『すっごい可愛い』はスタートラインでしかなくて、その先に飛び出せてやっと最下層。
アイドル志望程度の可愛いだけの娘達は、その最下層のアイドルの掃き溜めにすら届かない。
私も、アイドル世界で上り詰める人たちを沢山見てきた。
そういう人は、可愛い娘達にか囲まれた状態でも目をひくし、ふしぎな魅力があった。いや魔力と言っていいかもしれない。
可愛い化け物たちだった。
私は結局アイドルには挫折したけど、私は少なくても最下層までは手を届かせた。
アイドルと言う世界で足掻いた私は人気者になれるはず。
アイドル未開の地の異世界で負けるわけがない。
可哀想だけど、ヤスコーさんのお姉さんで28歳のヒロインさんは叩き落させてもらう。
あの人の良いお父様…マシリト公爵の力になりたいもの。
馬車の中で拳を握り締めてしまった。
するとセインがそっと私の拳に手を重ねてきた。
「お姉様・・・他人の僕らのために・・・ありがとうございます。」
カイン君、そんなこと気にしないでよ。
「カイン君、もう家族だよ。一緒に頑張ろうね。」
頭をガシガシ撫でると、抵抗せずに目を細めてくれた。
よし!弟と頑張るぞ。
インパクト勝負でいくぞ!
学校に着いたら、いきなり光り輝く公爵嬢を演じ、邪魔な奴らはみんな口撃で倒してやる。
すると馬車は学校に着き、御者が馬車の扉を開けてくれた。
私は颯爽と馬車からおり、回りの学生をさっと確認する。
うん、ザコばかりね。
黒い鳥の羽で出来た扇子を優雅に手に持って歩き出した。
よし、このまま爵位の高そうな家の令嬢をガンガン攻略して、一大勢力を作ってやる。
そして、有無を言わさず王子の心でもゲットしてやろうかしら。
バサリと扇子を開き、口元を隠して思わずニヤけを隠した。
このゲームはイージーモードかもしれない。
颯爽と歩いて教室に行こうと思ったら、少しはなれたところで他の学生達がソワソワしている。
あら、私を見てソワソワかな?
すると男子学生の会話が聞こえてきた。
『おい、いまベルセック家の馬車が到着したらしいぞ、見に行こうぜ。』
『それは本当かい?あのベルセック伯爵家の馬車か?ならば一度は見ておかないとな。伝説のデルリカ嬢を一目見れるとはなんという幸せだろうか。なんでも魔王を斧で倒したらしいじゃないか。一目みたいよな。』
ベルセック伯爵令嬢は、斧で魔王を倒すの?
凄い豪傑なんだなあ。あのヤスコーの姿イラストから推理すれば、その姉だからアレ以上の豪傑なんだって事は想像できるね。
しかも伝説って呼ばれてるって、どんだけ恐ろしい姿の女戦士なんだろうか。
しかも28歳のおばさんでしょ。
負ける気がしないよ。
これはいきなり格の違いを見せ付けて、今後の学校生活を有利にしようかな。
私は、みなが目をキラキラさせながら進むほうに行ってみた。
なんでみんなキラキラした目でベルセック伯爵令嬢を見に行くんだろう。
魔王を倒した勇者だからかな。
そんな事を思いながら進むと、明らかに団子のような人ごみが目の前にあった。
密集しているというよりは、人ごみがまるで海を割るように道を作るような感じだ。
どうやらベルセック伯爵令嬢を見るために集まった連中は、ベルセック伯爵令嬢が来ると道を空けてるようだ。
ま、そんな豪傑女がズンズン来たら、ビビッて道空けるよね。
さて、でも私はあえて道を塞いじゃいますか。
だってヒロインとはぶつかって置かないとね。
ベルセック伯爵令嬢が進む先に私は陣取った。
縦ロールをたなびかせ、扇子を広げて待ち構える。
人の群れがどんどん割れて行き私に近づいてくる。
さあ、勝負よ!
不敵な笑顔で待ち構える私の前までベルセック伯爵令嬢がきて、やっと人ごみで見えなかったベルセック伯爵令嬢の姿が見えた。
その瞬間、心臓が止まるかと思った。
女神だった。
うそ、なんであのヤスコーの姉がこんなに美しいの?
28歳でババア?いやいや、あの美しさの前では年齢なんて意味ないよ。
ゆれる緩やかなウェーブのかかったブロンド。
慈愛のこもった微笑み。
歩くだけで、まるで芸術品のような所作。
目が潰れそうなオーラを振りまきベルセック伯爵令嬢は歩いてきた。
私は思わず横に一歩ずれて道を譲ってしまった。
わたしの横を通り過ぎるとき、私は緊張してた。
その後姿を見つめずにはいられなかった。
日本のトップアイドルたちも化け物だと思ったけど、あの人はその化け物がゴミにみえるレベルの女神だ。
貴族の伝統に揉まれて産まれるカリスマ淑女を甘く見てたわ。
うん、これ無理ゲー。
悪役令嬢の私が、ヒロインに駆逐される以外の未来が見えない。
人ゴミがデルリカ・ベルセック伯爵令嬢を追っていなくなった道端で、私はガックリ膝をついてしまった。
私程度が、勝負しようなんて考えてスイマセンでした。
お読みくださり、ありがとうございます。
サトミー「あ、サインもらえるかな。」
ナガミーチ「いや、あなたがそれで良いならいいけど・・・。」




