石田長道 その2
最後、ちょっとエロ要素がありますが、直接描写していないのでギリギリOKですよね(汗。
―石田長道 その2―
いま、天界の最上階フロアーにいる。
最上階フロアーは面積で行くと九州くらいの広さががあるけど、最上階は全て最高神であるマリユカ様専用のフロアー。
今まではマリユカ様と、マリユカ様をお世話する四大天使だけしか居ない場所だったらしい。
しかし今は違う。
一部の敷地を日本から呼び出した人たちに解放している。
っといっても、マリユカ様の住居地区から20km以上はなれた場所に特別な空間を作られていて、そこに居てもらっているので、実質マリユカ様の生活にはまったく影響は出ていないけど。
で、日本人の居住空間をなぜ特別空間にしたか?
マリユカ様は日本から呼んだ人たちを一人ずつ地上に送ることを選んだからなんだ。
そうしないとじっくり楽しめないから。
だから呼ばれた日本人達は願いを叶えてもらうための順番待ちをしているのだが、彼らが居るエリアは時間の流れが滅茶苦茶遅くなっている。
だから彼らの感覚では次々に呼ばれて地上に送り込まれていると感じているはずだ。
だから今はじっくり一人だけ。
松尾健太さんの行動を楽しんでいた。
で、今僕はマリユカ様の自室でくつろいで目の前のスクリーンを見ている。
200畳くらいの白い部屋の中で、ぽつんとスクリーンとちゃぶ台が置かれていて、クッションの座椅子にもたれながら。
僕の隣では、楽しそうにスクリーンを見ている最高神・マリユカ様がお煎餅を食べながら微笑んでいる。
マリユカ様、本当に楽しそう。
「大海姫、さっきは驚きましたね。」
マリユカ様を挟んでさらに隣には、大天使の大海姫さんがリラックスした感じに、ちゃぶだいに頬杖しながらスクリーンを眺めていた。
「ホントですね。まさか歩くなら死ぬとか言い出すとは。あのデブ、素晴らしいコメディアンですね。」
そういいながら、やはり楽しそうにお煎餅をバリバリ食べた。
マリユカ様を挟むように、三人でスクリーンを眺めながら感想を言い合うのをマリユカ様が希望されたので、このようなリラックススタイルでいる。
日本人召喚はマリユカ様の娯楽だから、こうやって観察して楽しんでいるわけだ。
それは良いとして、あのお皿の上のお煎餅は僕も食べていいのかな・・・
図々しくしたくないのでまだ手を伸ばしていないけど、食べようかな・・・
僕は、じつはさっきからお煎餅が気になってスクリーンを見ていない。
だって、二人がバリバリお煎餅食べていたら、僕も食べたくなるのは当然でしょ。
どうしようかな・・・手を伸ばそうかな。
そんな僕は、一瞬マリユカ様と目が合った。
するとマリユカ様はお煎餅を手に取ると僕の口に押し込んできた。
「ほら長道も一緒に楽しみましょうよ。お茶もいりますよね。」
ニコニコと微笑みながら何も無い空間からお茶を出して僕に渡してくれた。
「あ、ありやとうごさいまふ・・・モグモグ。失礼、ありがとうございます。」
ありがたくお茶を貰ってお煎餅を喉に流し込んだ。
ふう、これでなんかスクリーンに集中できそう。
ちなみに、さっき松尾さんが速攻でリタイアしそうだったので、僕は大海姫さんの転送魔法で松尾さんの傍に行き、無理やりフラグに放り込んできたんだ。
これも、僕の大事な仕事です。
そう、僕の仕事はマリユカ様が楽しめるように、日本人達の願いを叶える手伝いをするディレクターです。監督です。
キャラクターが最も活き活き動くように調整しているのさ。
ゲームメイキング、燃えるね。
すると銀髪のツインテールを揺らしながら大海姫さんは僕に聞いてきた。
「ところで長道君、これってバッドエンドもあるの?」
「ああ、バッドエンドもありますよ。ですけどバッドエンドルートはハッピーエンドよりも難しいですけどね。針の穴に糸を通すように最悪な事を続けないとなかなかたどり着かない予定です。これはゲームではなくて人の人生ですから、できたらバッドエンドは避けたいですから。」
「だったらバッドエンドなんて入れなければいいのに。」
「いや・・・マリユカ様がそこだけは譲ってくれなくて、最低一つはバッドエンドが必要だって言って。」
「ああ、それは納得。マリユカ様は最高神だけあって、おもちゃになる人間に容赦ないからね・・・。」
へー・・・そうなんだ。
怖いな、それ。
僕も適当にポイ捨てされないように頑張らないと。
すると、マリユカ様はニコニコしながら大口開けて僕に向いた。
え?何?
女性が奥歯まで見えるほど大口開けて男性に向うのはどうなんだろうと思う。
そして僕は、今どうするのが正解なんだ?
え・・・僕はどうしたら良いの?
こんな事で『いらない』されたら怖いなあ。
どうしよう、何が正解なんだろう。
目を泳がせていると、大海姫さんがお煎餅とマリユカ様を交互に指差している。
何か僕に伝えてくれている・・・。
そうか!
僕は迷わずお煎餅を手に取ると、鯉のように大口開けたマリユカ様の口に入れた。
バリバリ
そのまま嬉しそうにお煎餅を食べるマリユカ様。
ふう、どうやら正解だったようだ。
お礼の意味で、小さく大海姫さんに首だけでお辞儀をする。
向こうも、『まあ気にするな』といわんばかりの笑顔を返してくれた。
緊張したなー。
無駄に緊張した。
マリユカ様は大天使さん達が何も言わなくても意を汲んでくれるので、僕にも同じような事を要求してくる。
そのせいでこの数日、緊張の連続だ。
寝るとき以外はずっと一緒に居るので、このところずっとこの調子で疲労してる。
まあ良いけど。
なんとなく僕はこの女神様が大好きになってる。
だから、ブラック企業の社畜精神で、ドMと思われるほど尽くそうと思っていのは秘密だ。
頑張らないと。
はやく大天使さんたちと同じくらい、マリユカ様のお役に立つぞ!
そんな決意を新たにしていると、マリユカ様越しに大海姫さんが僕を指差す。
「ところでさ、長道君。バッドエンドってどんな条件で発動するの?先に教えてよ。」
「ああ、良いですよ。条件は・・・・」
そこでペチリとマリユカ様の柔らかい手が僕の口を押さえる。
「言っちゃダメ!楽しみにしているんですからネタバレ禁止です!」
ええええええ
「ちょっと待ってください。僕が用意した分岐ルートとフラグ設定をしてくたれのはマリユカ様ですよね。もう内容は知っているんじゃないんですか?」
すると可愛い口を尖らせて、ちゃぶ台の端においてある僕の「設定ノート」を指差した。
「見てないですもん。長道が用意してくれた設定を見ないようにノートを開かないで世界に運命を設定しましたから、私も結末は知らないんです。ですからネタバレ禁止です!」
さすが最高神。
そんな適当な事で世界に運命を設定できるんだ。
このごろ、我侭なお嬢様程度の気持ちで接していたけど、ヤッパ最高神なんだな。
すると大海姫さんは僕の設定ノートを手に取り、マリユカ様に内容が見えないように読み出した。
「へえ、分岐ルートってこうやって設定するんだ、面白いじゃない。これは長道君に今度の世界大戦とかでも活躍してもらわないといけないねえ。」
おいおい、物騒ですよ大海姫さん。
楽しそうに僕の設定ノートを見ながら、だんだん乾いた笑いを始める。
「あははは、これは確かにバッドエンドは針の穴に糸を通すような離れ業ね。バッドエンド見たかったけど、これはちょっと無理かな。」
そう言いながらスクリーンに目を向ける。
僕も、無邪気に大口を開けるマリユカ様に次々に煎餅を放り込みながらスクリーンを再び見てみた。
その瞬間、流石に僕も目を疑う。
大海姫さんも光を失った目でスクリーンを見ている。
松尾健太さん、侮れない人だ。
きっとエロゲーなら、いきなり鬼畜ルートに進む人なんじゃないだろうか。
驚くべきことに、いきなりバッドエンドのフラグを立てていた。
そんな事が起きているなどと知らないマリユカ様は楽しそうだった。
「長道、みてみて。松尾がいきなり母娘両方に<魅了>つかって馬車の中でキスはじめましたよ。きゃー、母娘を同時に揉み始めましたよ。ちょっとそれはどうなんですか?・・・キャー、すごいよ長道。うわ、あの娘、目がメロメロですよ。キャー、すごいですよ。みてみて、松尾は面白いですね。」
手で顔を押さえながらマリユカ様が無邪気な歓喜をあげる中、僕と大海姫さんは、乾いた笑いを出すしか出来なかった。
人として、それはないでしょ松尾さん・・・。