佐山里美 その2
―佐山里美 その2―
次の日、天涯付きのベッドで目を覚ます。
キングサイズくらいのベッドで寝心地最高です!
もう少し寝ていたいけど、メイドさんが起しにきてしまった。
「お嬢様、そろそろ目を覚まして欲しいわけよ。朝ごはんあるし、身支度もあるっしょ。」
私は飛び起きた。
聞こえた言葉が、明らかにメイド風じゃないから。
普通のメイドなら『お嬢様、朝で御座います。』とか言うものではないの?
見ると、脱色した髪を無造作にアップにまとめた、少し色の黒い少女だった。
ギャル系だ。
「お、良いじゃん良いじゃん。もしかして朝強い系?マジ助かるわー。」
このメイドさん、なんか凄い馴染みやすいけど、違和感も凄い。
私は混乱しつつも、このギャル系メイドさんに手伝われるまま身支度を開始。
言葉遣いや見た目は違和感がハンパなかったけど、手際の良さや働きぶりは見事だった。
素早く私を裸にひん剥き、部屋から続く浴室で湯浴みをさせる。
洗車マシーンのような勢いで私を一瞬で洗うと、あっという間に濡れた体を拭いてしまった。
部屋に戻されると、ボサボサの髪をぱっぱと梳かしてくれて、なおかつ恐ろしいほど素早く縦ロールにしてくれた。
湯浴みからでてきてから、髪が縦ロールになるまで、5分程度だろうか。
美容室だって1時間以上かかりそうなのにすごい。
さらにメイクを3分程度で素早く完了。
流れるように、部屋から続いている衣裳部屋から服を見繕ってくると、私がアワアワしている隙に着せられてしまったよ。
多分すべて完了するまで、起されてから15分程度だと思う。
人は見かけによらないとはこの事だね。
素早いけど、けっして痛かったり不快だったりは無い。
ギャルメイド、恐るべし。
そしてギャルメイドに連れられて食卓に着くと、マシリト公爵とアーリンさんが何か真剣に話し合っている。
「おはようございます。」
声をかけると二人とも微笑んでくれた。
「おはようサトミー、良く眠れたかね?」
「はい、あんなに寝心地が良いベッドは初めてです。」
すると今度はアーリンさんが口を開いた。
「それはなによりです。そうそう、アナタに着けたメイドのスマ子はどうでしたか? スマ子は礼儀はアレですが、メイド大好きな大魔道士ナガミーチの推薦状を持っているほどのメイドです。優秀だと思いますが、気に入らなければ変えますよ。」
「いえ、凄く優秀で私にはもったいないです。話し方も私の住んでいた世界の言葉に近くて親しみがもてますので。」
「そうですか、それなら良かったです。さあこちらにきて座ってください。」
私が席に座ろうとすると、スマ子とよばれたギャルメイドが完璧なアシストで椅子を押し込んでくれる。
少しするとセイン君も来たので朝ごはんが運ばれてきた。
朝から凄い量だ。
しかも豪華。
もちろん美味しい!
ヤバイ、凄く美味しい。
思わずバクバク食べたい衝動に駆られたけど、マシリト家のみなさんの優雅な食事風景に我に帰り、私もオホホって感じに食べる。
すごいセレブリティ。
食事が終わってお茶が運ばれてきた。
コレコレ、ここの紅茶は美味しいのですよ。また飲めて嬉しい。
優雅にスマ子ちゃんがお茶を入れてくれる。
「お嬢様、今日のお茶はウチが選んだから。香りが良いっしょ。朝はこういうクッキリした香りが最高だと思うわけよ。」
この子、脱色髪の毛と黒い肌も慣れれば気にならないし、口を開かなければ所作も素晴らしい。
口さえ開かなければレベル高いのに。残念メイドだ。
そう思いながら匂いを吸い込む。
確かに頭がクリアーになりそうな良い香り。
口に含むと、お砂糖が入っていないのにほんのり甘く、少し渋みもある。
でも甘さと渋みが香りの中に上手く溶け込んでいて、とても美味しい。
「あ、美味しい。」
その言葉に、スマ子はニッカリと笑った。
まあ、私にはスマ子くらい礼儀がなっていない子なほうが楽でいいかも。
そこでマシリト公爵は真面目な顔になる。
「ところでサトミーよ、実は我が子となってもらい、やってもらいたい事があるのじゃ。」
ですよねー。そのために呼ばれたんですものね。
「はい、出来る事でしたらなんでも。」
「そうか、それを聞いて安心したぞ。サトミーには王立の魔法学校に行って貰い、セインと共に実力を上げて欲しい。異世界人はマリユカ様のご加護があり、特殊な能力があるという。その特殊な能力を磨いて、世にマシリト公爵家ありと示して欲しいのじゃ。セインには魔道研究院の院長を目指してもらう。2人で力を合わせて頑張って欲しい。」
聞くんじゃなかった。
むりむり。アイドルに挫折した普通の女子高校生にそれは無理。
断ろうとしたら、後ろで控えていたスマ子が口を出してきた。
「お嬢様、ナガミーチパパの話だと、加護がある人間は目をつぶって自分の右手を見るとステータスが見えるらしいよ。お嬢様も右手にステータスが見えたらマジうけるっしょ。確認してして。」
断ろうと思ったけど、マシリト公爵がすごい真剣にコッチを見ているからしょうがなく目をつぶって
右手を見てみた。
すると見えた。驚くことに見えた。
レベル0
ジョブ・悪役令嬢
スキル:<微笑み><歌ってみた><縦ロール>
呪文:<なんか心地良い><なんかイラっとする><なんか忠誠したい>
武技:<言葉のとげ><扇子幻惑>
「あ、ステータスがある。」
その言葉に、マシリト家の皆さんが『ガタッ』ってなった。
漫才並みに、息ぴったりの『ガタッ』だったよ。
そこで私は、私のステータスを読んで教えてあげた。
みんな意味が分からないという顔をした。
そうでしょうとも、私も意味がわからないもの。
するとスマ子がまた教えてくれる。
「ナガミーチパパに聞いたんだけど、目をつぶって左手見るとヘルプがあるんだって。ヘルプはスマホ操作みたいに使うとか聞いてマジかって思ったよ。」
すぐに左手のヘルプをみる。
スマホ操作の要領で、目的のヘルプを読んだ。
スキル<微笑み>:相手の心を溶かすような微笑が出来る。
スキル<歌ってみた>:なんとなく勘で目的の歌が歌える。歌唱力は3倍になる。
スキル:<縦ロール>:髪の毛を自在に縦ロールにしたり、縦ロール解除が出来る。
うーん、あんまり役に立たなそうなスキルばっかり。
呪文はどうだろう。
呪文<なんか心地よい>:狙った相手を心地よい気持ちにさせる。無詠唱で発動可能。
呪文<なんかイラっとする>:狙った相手を好きな対象に向けてイラっとさせられる。無詠唱可能。
呪文<なんか忠誠したい>:忠実な騎士のように振舞う自分に酔わせる事ができる。無詠唱可能。
呪文も微妙。役に立つのかな?
最後に武技か。
武技<言葉のとげ>:悪口を相手の心に突き刺すことが出来るメンタル攻撃。
武技<扇子幻惑>:扇子で避けたり、攻撃する武術。
使いどころが分からない。
ここまで説明したらスマ子がさらに驚くことを言った。
「あ、そうそう。そういえばマリユカ様から直に祝福を受けた人と同じパーティーになると、10人までは祝福の恩恵を受ける可能性が微レアあるらしいよ。ベルセック家はそれで急激に鬼レベルアップしたとか。レベルアップするとスキルや呪文が増えたり、能力も上がるらしいよ。」
スマ子、物知りだな。
すると居てもたってもいられなくなったマシリト公爵が立ちあがる。
「サトミー、ワシらと共に今すぐ郊外の森に来てくれ。みなの事はワシが守る。セインもアーリンも来てくれ。今は藁にもすがりたい。」
その言葉に私以外の全員が頷く。
日本人としては、こういうときは逆らえない。
しょうがなく、郊外に行く馬車に一緒に乗った。
メンバーは、私とマシリト公爵、アーリンさん、セイン君。それとスマ子の5人。
レベルアップは魔物退治が定番なのは分かるけど、もっと違うレベルアップ方法はないのかな。
不安でブツブツ言っていたら、2時間ほどで森に着いた。
さてココからどうしよう。
逃げるかどうか悩んでいたら、早速ゾンビ犬っぽい魔物が出てきた。
う、怖い。
でも禿た小太りのマシリト公爵が走り出て、一撃でその魔物を倒す。
ビシュ!
犬の首が飛んだ。
うわあ、意外に強い。
ぴろりろりーん
『サトミーのレベルが上がった。レベルが1になった。武技<扇子幻惑>が<扇子乱舞>に進化した』
なに今の音と声?
みると、みんな聞こえたみたいで困惑している。
そして思い出したように、目をつぶり自分の右手を見て興奮しだす。
最初に叫んだのはアーリンさんだった。
「まあなんという事でしょう。わたくしが『聖淑女』だなんて。わたくしも魔法が使えるのですね。素晴らしいですわ。」
ついでマシリト公爵も喜びの声を上げる。
「なんと、ワシは『良公爵』というジョブ名になったぞ。スキルや呪文も増えよった。これは素晴らしい。」
ずっと黙っているセイン君に話しかけてみた。
「セイン君はどんなジョブになったのですか?」
「え、あ、あ、えっと。『地獄大魔道』だそうです。」
「凄いジョブ名じゃないですか。これって期待できるよ!」
なんかテンション上がった。
そのまま勢いがついて、夕方までに15匹ほど魔物を倒して帰路につく。
全員、レベル3になった。
お屋敷に着くと、もう夕飯の良い匂いがしている。
今日は疲れたので食事をしてすぐに寝たいな。
そう思いながら、食卓に向うとそこには大天使・大豊姫様であるダイホーさんが待っていた。
「公爵様、魔物討伐に向ったそうですが、何故私に声を掛けてくださらなかったのでしょうか?ボケてお抱え魔道師の存在を忘れてしまいましたか?」
すこしムクれている。
公爵様、目が泳いでいるよ。
「いや、急に思いついたのでな。次回は頼むぞ。」
「私はいつでもココを出て行ってもいいのですからね。それをお忘れなく。」
そういって、部屋を出て行ってしまった。
なんか、テンション下がって食卓の空気が重くなったよ。
すると、その空気を壊すようにスマ子が私の肩をダンダン叩く。
「そういえばお嬢様、もうお父様とかお母様って呼びなれたの?練習して呼びなれた方が良いっしょ?」
すると、急にアーリンさんが微笑む。
「そうでした。わたくしもサトミーを娘のように扱いますので、サトミーもわたくしを母と思って接してくださいね。さあ、お母様と呼んでください。」
言われると少し照れるなあ。
でも断る雰囲気ではないし、、、、頑張るか。
「はいお母様、宜しくおねがいいたします。」
マシリト公爵も身を乗り出す。
「ワシは?ワシは?実は娘とか欲しかったのじゃ。お父様と呼んでみておくれ。」
「はい、お父様。よろしくお願いいたします。」
公爵が『くー、コレコレ』と感激してくれた。
喜んでいただけて何よりです。
横を見るとセイン君がコッチを見ていた。
「セイン君、この流れで私をお姉様と呼んでみようか。さあ、がんばれ。」
するとセイン君は顔を赤くして小さい声を搾り出す。
「お姉様・・・。」
くーコレコレ。美少年弟万歳!
思わず頭を撫でてあげた。
すると、ちょっとハニかんで可愛い。
なんとなく、ココの家族とは上手くやっていける気がした。
お読みくださり、ありがとうございます。
サトミー「さあ、お姉様ともう一回いってみて。」
セイン「お姉さま。」
サトミー「ふぅ(魂が抜けた)」
スマ子「そこまで喜ぶとかヒクわー。」




