表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/144

佐山里美 その1

―佐山里美 その1―


私は寝ていたのかな?

ボーっとした頭で目を開くと、そこは大きな部屋だった。

どこココ?


周りは沢山のローブを着た人たちが居て、私は15メートルくらいの魔方陣の中央にペタリと座っている。

ちょっと何が起きたかわからない。

自分に何が起きたか思い出してみた。

そうだ、マリユカ様に下界に送ってもらったんだ。

だとすると、この沢山のローブの人たちに囲まれた状況は何なんだろう?


ローブの人たちの一番前には胸の大きな女性と、小太りで頭の真ん中のあたりがハゲあがったオジさんが居て私を見ている。

あの女性はたしか大天使の大豊姫様。羽根がないけど間違いない。

長く緩やかなブラウンの髪に、『爆』と表現したくなる大きな胸。

間違いない。とくにあの胸は間違いない。大豊姫様だ。


人間として地上に来てくれるって言っていたもんね。

地上に来てすぐに知っている人に会えるってうれしいな。

すると、小太りハゲオジサンが嬉しそうに、ローブを着た大豊姫様に話しかける。



「おおダイホーよ、成功したのか。異世界の特殊能力者を呼べたのだな。」

するとダイホーと呼ばれた大豊姫様が、ふんわりと微笑む。


「なんとか成功したようです。あとは彼女に敵意を向けられないように慎重に交渉しましょう。デルリカ様のような美女が迎えるならともかく、胡散臭いおっさんのマシリト公爵様が女性に話しかけては拒絶されかねません。ここは私にお任せください。」

「ダイホーよ、お前ちょっと公爵に対してそれはないんじゃないのか?」


「ではマシリト公爵様ご自身で交渉されますか?異世界人には爵位も権力も意味はありません。ご自身の悪役顔で年頃のお嬢さんを説得できる自信があるのでしたらどうぞ。」

「ぐぐぐ、ワシできるぞ。みておれ毒舌魔道師め。」


ひきつった顔で小太りハゲオヤジのマシリト公爵が近づいてくる。

う、

思わずズリっと後ずさりしてしまった。

それをみてマシリト公爵はぴたりと動きを止める。

「あ、ワシ怖くないぞ。話をしようではないか小娘よ。ワシはマシリト公爵である。小娘も名を名乗るがよい。」


すごく困った顔で話しかける様子は、日本の実の父親を思い出す。

中学になったころから、いつも私に困ったような顔で話しかけていたな。

アイドルになることしか考えていなかった私にとって、父はダサさの象徴だった。

だから嫌だったし、面倒だったので無視していた。

だんだん父はリビングで座るときも私から離れて座るようになったっけ。

確かに私は父を嫌がる態度をいつも取っていた。

母も妹も父をゾンザイに扱っていた。

そのこと、今は後悔しているけど。


まさか、去年・・・・自殺するなんて思わなかったから・・・。

会社が傾いたから自殺したらしいけど、家で私達がもっと仲良くしていれば耐えることも出来たんじゃないのだろうか?

私達のために働いてくれていたのに、冷たくされて辛かったろうな。


このマシリト公爵を見ていたら、そんな父を思いだしちゃった。

せめて名前くらいは答えてあげよう。

「私は佐山里美といいます。さっきマリユカ様からはサトミーと名乗るように言われました。」


すると部屋に居た全ての人が動揺しているのが分かった。

なに?言葉が通じたのがそんなに驚く事なの?


マシリト公爵も驚きで膝を突く。

腰が抜けたという感じだ。

「サトミーよ。オヌシが出会ったマリユカ様とはどのようなお姿であったか?」


気になるのそこ?

まあ良いけど。

「えっと美人でしたよ。美人なのに可愛いというか。素敵なプロポーションをしていて白いゆったりした服をきていて、凄く無邪気って言うか無垢な感じの女性でした。」

マシリト公爵は目が飛び出そうな感じでコッチを見てる。


うわ、キモイ。

だが膝立ちでズリっと一歩コッチに近づく。

「それだけか?ほかに特徴はなかったか?」

「うーん、あと私の世界では絶対に見ないよな髪の色をしていました。水色の綺麗な長い髪の毛で、素敵だったな。」


そこでその場に居たダイホーさん以外の全員が地にひれ伏した。

うわああ、何?何が起きたの??


しばらく、そのまま時間が過ぎる。

気まずい。


するとマシリト公爵がプルプルしながら顔を上げた。

「マリユカ様の加護があるという事か・・・。すごいぞ、これならばナガミーチに勝てるかも知れぬ。」

1人ごとをブツブツ言ったあと、また私に近づいてきた。


「どうじゃサトミーよ。ワシの隠し子のふりをして、我が子になり貴族になる気はないか?不自由はさせんし贅沢を約束する。どうじゃ公爵家の令嬢となれば我がままに生きられるぞ。日本と言う異世界よりも贅沢をさせてやる。どうじゃ?」


あ、長道さんに頼んだ公爵令嬢設定はこれなんだね。

でも、素直にイエスっていうのは怖いな。


「あの、なんで私を娘にしたいんですか?日本では親が居ないので私としては構わないのですが。本当の理由を教えてもらえないと怖いので教えてください。騙していたと気づいたらすぐに裏切るかもしれませんよ。最初にきちんと教えてくださいね。」


すると、マシリト公爵の後ろに若くてイケメンの少年が歩み寄る。

そして私を見た。

「あの、サトミーさんは何歳ですか?」


照れるように話す姿が可愛い。

「17歳です。あなたは?」

「え、はい。僕は14歳です。セイン・マシリトといいます。マシリト家の嫡男です。よろしくお願いします。」

そういうと、こちらから目をそらしてしまった。

照れているのかな?

っていうことは、私がこのマシリト公爵の娘になったら、セイン君も弟としてついてくるのか。


うん、悪くない。悪くないよ、このゲーム。

もう公爵の本音なんてどうでも良いや。

イエスと答えちゃおう。


私が返事をしようとしたら。

公爵が立ち上がり私を見る。

「では本当の事を隠さず話そう。ココではなんだ。部屋に案内するのでワシについてまいれ。」

そう言って手招きをした。


いまイエスって言おうと思ったのに、間の悪いオジサンだな。

・・・ほんと、変なところも父に似ている。


素直に立ち上がり、公爵について部屋を出た。


数分後。

私は豪華な部屋で、高級そうなソファーに座らされた。

目の前には、マシリト公爵と綺麗なご婦人。その隣にセイン君が座っている。


周りにはメイドさんが4人壁に立っている。


すぐに目の前に、おいしそうな紅茶とお菓子が出てきた。

「まずは、お茶でも飲んで落ち着くと良い。」


公爵のお言葉に甘えてカップを口に運ぶ。


ごくり

凄く美味しい!


うそ、紅茶ってこんなに美味しいモノだったの?

きっと高級品だ、流石公爵家。

すると、目の前のお菓子にも期待が持てるよ。


五枚ほどお皿に乗っているクッキー。

見た目は普通だね。


手にとって口に運んでみた。

口の前まで来ると、すごく豊かな香りがする。

うお、これマジ私の知ってるクッキーじゃない。


一口パキリと口に入れる。

口の中に小麦とバターの風味が広がり、凄く美味しい。

あ、絶対わたし今だらしない表情になってる。

でもしょうがないよね。これ美味しいんだもの。


紅茶もクッキーも大事に味わうように堪能させてもらった。

公爵は人の良さそうな笑顔で、そんな私を見ている。

「気にいってくれたかね。当家には一流の物しかないゆえ、日本と言う異世界にも負けないモノばかりだと自負しておるぞ。」


なるほど、やっぱり一流のモノだったんだ。高いモノは高い理由があるって事なのね。

納得。

クッキーと紅茶を全てお腹に詰めると、メイドさんがそっと寄ってくる。

「お嬢様、紅茶のおかわりはいかがでしょうか?。」


お嬢様来たコレ!

テンション上がるー。


そして私も、この空気に呑まれて背筋を伸ばして、アゴを引いて上品な感じに振舞ってしまった。

「では頂きましょう。」

するとメイドさんは一度微笑み、上品に紅茶を入れてくれた。


あは、なんかもうココの子になりたい。

気持ちは決まっているが、公爵が折角誠意を持って接してくれようとしているのだから、話だけは聞こうかな。


「ではマシリト公爵様、お話を聞かせていただけますか?」

すると、公爵は頷き姿勢を正した。

「うむ、じつはここに居るセインに関ることが半分、ワシの立場固めのためというのが半分じゃ。」


お、本当に話してくれる雰囲気。

公爵って言うのは貴族世界の荒波にもまれる頂点のはずなのに、こんな素直で大丈夫なんだろうか。ほんとうは贅沢させてくれれば騙されても怒らないとか言いにくい。


私が頷くと、公爵はさらに言葉を続ける。

「まずはワシの立場固めに関してじゃが、いまこの国には公爵家が5つある。数年後には第三王子ピッツ殿下が公爵位を与えられて、王族から下がられる可能性が高いのじゃが、そうなると公爵家の1つは候爵に落とされるのが慣わしなのじゃ。」


そこで私は思わず口を挟んでしまった。

「つまり、マシリト公爵様は貴族世界のドロドロの戦いに勝てずに公爵家最弱なので、それを盛り返したいという事ですね。私はセイン君が何らかの形で名をあげられるように手伝えば宜しいのでしょうか? それが公爵家内の戦いを有利に進めるために必要なのでしょう。私がそれにどのように役にたつのかは分かりませんが、公爵様としては私の利用方法もすでに決めている・・・そういうことでしょうか?」


すると目の前の三人は目を丸くして私を見る。

そのくらい分かりますよ、伊達に悪役令嬢モノばかり50冊以上読破していないんだから。

貴族世界の事だって凄く詳しいのですから、オホホホ。


すると、公爵の隣に座っていた、落ち着いた綺麗なご婦人が私の隣に移動してきて、フワリと座る。

「わたくしは、当家の女主人アーリンです。異世界からいらしたサトミーよ。今の話でそこまで理解できるあなたこそ、当家に必要な人です。どうか当家の娘に迎えさせてください。」

そういうと、私の手を握ってくる。


ココの子になったら、この人がお母さんってこと?

日本での母親は、お酒ばっかり飲んで外に男作って、それでいて父にはいつも文句ばっかり言っていた人だった。

父が自殺して収入がなくなったら、浮気相手の男のところに逃げたけど、金がないという理由ですぐに捨てられて私達娘のところに戻ってきた。

そしたらこんどは練炭で無理心中しようとしたひどい母親だった。

そして私だけが助かった。


あの人が少しでも亭主のために、一緒に頑張ろうって考えるような人だったら、我が家はマシだったのではないだろうか?


アーリンさんか。この人は倒れそうな公爵を一緒にどうにかしようとしているんだよね。

こんな人が日本での母だったら、我が家はもう少し幸せだったのではないだろうか。

私は、不安そうにこちらを見ているアーリンさんを安心させるように微笑んでみた。


「わかりました。私はもう日本に家族が居ない身ですから、私でよければお力になります。」

するとマシリト公爵が、いぶかしむ様な表情をした。

「家族がいない?よければサトミーについても教えてはくれぬか?」


そこで私は正直に話した。

普通の家に生まれたこと。

思春期になってからは、家族に嫌な思いを沢山させたこと。

母が浮気しているのを知っていて、無視していたこと。

アイドルを目指して頑張っていたけど、自分がほかのアイドル志望の化け物達の足元にも追いつけずに挫折したこと。

父が会社を傾けて自殺したのは、私達家族が冷たかったせいではないかと思うこと。

母の無理心中に巻き込まれて、妹と母は死んだが自分だけ生き残ったこと。

人生に絶望して、学校の屋上から地面に飛び降りるのも良いかなって思っていたら、異世界に呼ばれたこと。


思ったよりも長く話した気がする。

私はずっと、目の前のティーカップを見つめながら、過去を思いだしてボソボソと話していた。

だいたい話し終わって目を上げると、マシリト公爵夫妻はボロボロ泣いていた。

うわ、ガチ泣きだ。


するとアーリンさんが私を泣きながら抱きしめた。

「サトミー、ここであなたの第二の人生を送りなさい。わたくしが今日からあなたの母です。」

マシリト公爵も泣きながら私の手を握る。

「サトミーよ、ここで好きなだけ贅沢をするがよい。ワシの事もお父と呼ぶとよいぞ。」


嘘を語ったわけじゃないけど、この人たちチョロすぎて不安になるな。

「あ、ありがとうございます。」


そこでしばらく、2人が泣き止むまで私が胸を貸したけど、なんか微妙な気持ちになった。

お読みくださりありがとうございます。


サトミー「異世界に行くと食事の知識チートで活躍する話が多いけど、この世界では関係ないですね。食べ物がおいしすぎる。」

ダイホー「はい、なんせ最高神マリユカ様は食いしん坊ですので。食だけは充実しています。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングアップのために、↓↓クリックしてくれると嬉しいです↓
小説家になろう 勝手にランキング

新作
「異世界に行きたい俺たちの戦い ~女神さまは無責任~」
もよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ