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佐藤毅 その9

―佐藤毅 その9―


私達は3年ほど旅を続けている。

この3年でイロイロあったが、一番大きな事件は、私のモブスキルが最上級の<エアモブ>になったことだろう。

つまりそうの程度しか特筆することがない旅だった。

いや、強すぎるからしょうがないのだ。


ナガミーチさんが竜車の上に戦車砲を着けたり、

マリア奥様が、スキル<人形爆弾>を習得して、ミサイルみたいに飛ばして敵を殲滅したり、

ジャーニーさんはスキル<人形軍>を習得して蛇拳使いの人形100体で戦えたり、

カイル君が、高等魔術の光魔法と空間魔法をカンストさせたりして。


デルリカさんにいたっては、ジョブ名が「聖狂戦士」から「究極聖狂」にクラスアップしていた。

大空さん曰く、人間のジョブ称号で「究極」「最強」「完璧」「絶対」という単語がつくのは、常に一人以下しかいない、最上級の称号らしい。


デルリカさんは人類で4本の指に入る、上位の存在になったってことか。


ミラーズ王子も、この旅で破格の強さにはなったのだが、このメンバーの中では、私の次に影が薄い。

そんな化け物集団が通れば、敵陣には雑草1本残らない。


魔族と思われる敵も何度か現れた。

その時は大抵、私達と別口で勇者を名乗っていた人たちや、腕利きを雇った貴族達が手もなく全滅させられたりしている。

その後に私が行って1人で殲滅させるというのが通常のパターンだ。

何故私一人で行くか?

化け物集団のウチのパーティーが近づくと、知能の高い魔族は逃げてしまうので、影が薄い私が行って倒すのだ。

なんか部下に自慢話とかしているところを切り殺すのとか心が痛んだけど、まあしょうがない。

魔族が斬られた後、私を見て『いつのまにそこに!』と驚く姿は、何度見ても申し訳なく思う。

影が薄くてスイマセン。


そうこうしながら旅は続く。

今日は町についたので、レストランを見つけて入った。

あまり立派ではないけど、小奇麗なつくりのお店だ。

旅では、街々でおいしそうな食事を見つけるのも楽しみの一つで、時々ハズレのところに入るのも楽しかったりする。


みなで席に着こうとすると、いつものように、デルリカさんが私を手招きして私を隣に呼ぶ。

この3年、いつも手招きしてくれるけど、いまだに申し訳ない気持ちで隣に座る。


そこで、ジャーニーさんが不服そうにマリア奥様と話し始めた。

「奥様、もうあの情報屋はクビにしましょうよ。全然伝説の剣が見つからないじゃないですか。」

「まあ、そうおっしゃらずに。しょうがありませんよ。伝説の剣は見つけ難いから伝説なのですから。」

「そうだけどさー。それより伝説の剣って本当に必要なんですか?このメンバーなら伝説の剣がなくても魔王に勝てる気がするんですがね。」

「ふふふ、確かに、いまの力でしたら勝てそうですわね。」



そのあたりで食事が運ばれてきたので、会話は一旦途切れた。

あいかわらず、私の前には食事が置かれない。

手馴れた感じで、デルリカさんが私の目に食事を置いてくれる。

「タケシー様、さあ頂きましょう。」


微笑むデルリカさんをみると、私の前に給仕されないことも、これも役得と悪くはない。

ちなみにウチのメンバーは全員<スキル耐性><スキル無効>などを持っているので、私を識別できるようになってきている。


それでも、私に話しかけられると驚くことがあるので、私の影の薄さはスキルというより天性のものなのだろう。

ここの街は魚料理が美味しいという話だったので、白身魚のムニエル風の料理を頼んでみた。

一口食べてみる。

バターの風味が口の中に香りよく広がり、とても美味しい。

うん、あたりだな。


夢中になってモグモグ食べていると、ジャーニーさんが『情報屋』と呼んでいた、背の低いおじさんが、さっとミラーズ王子に近寄り、見耳打ちした。

こういう時は、なにか新しい情報があったときだ。

情報屋の言葉を聞いて、王子は驚きフォークを落とす。


「ばかな!では急がなければ!」

慌てだすミラーズ王子にデルリカさんが真面目な顔で問いかける。

「緊急事態ですか?。」

「ああ、サムソンの奴が伝説の剣を手に入れ、魔王の城に向っているらしい。」

「ま、!それではこちらも急いで追いましょう。ナガミーチ、出発しましょう。」


でもナガミーチさんは、口をあけて待っているマリーちゃんに魚のフライを落ち着いて食べさせている。

「気にしないで大丈夫ですよ。今は食事をユックリとりましょう。」


マリア奥様はナガミーチさんを睨む。

「ナガミーチ、サムソン第二王子殿下に先を越されるわけには参りません。どうにかしてください。」

「またー。奥様は無茶振りをー。まあサムソン第二王子は魔王には届きませんから大丈夫だと思いますよ。むしろ急ぐと巻き込まれますから、サムソン第二王子が敗走してきたところを待ち構えて伝説の剣を奪ってしまう方がいいと思います。ですから急ぐ必要はないのですよ。」

「なぜサムソン王子殿下が魔王に届かないと分かるのですか?」


ナガミーチさんは、マリーちゃんがイヤイヤしているのに、無理やりブロッコリーを口に押しこんで、吐き出せないようにあごを押さえてから、マリア奥様を見た。

「魔王城に入れないからです。魔王城の入り口は完全な迎撃体勢があるそうじゃないですか。人間同士の戦いでさえ城攻めは三倍の戦力を使って何ヶ月も戦うものです。まして人数的に少ないサムソン王子パーティーは不利です。ですがサムソン第二王子は馬鹿ですから突撃などするでしょう。ジリジリ仲間を減らして、戦力不足になるのは目に見えています。3~4人程度に減れば、人員補給のために一旦退却するはずです。そこで伝説の剣を奪えば宜しいでしょう。」


「なるほど。わかりました、ナガミーチの策を信じましょう。今は食事を楽しみましょう。」

するとみな、リラックスした雰囲気で食事を再開する。


ナガミーチさんの信頼の高さを感じる光景だ。

かくいう私も慌ててない。

なにせ、私に関する運命はナガミーチさんが決めているんだから、ナガミーチさんの意見は間違いないのだ。


ーーーーーーーーー

あれから4日後。


竜車の上から、お茶を飲みながら監視を行っていた大空さんが叫ぶ。

「前方からこちらに向ってくるボロボロの馬車を発見。王家の紋章あり!」


みなが、一斉に外に飛び出す準備を始める。

こんなところで王家の紋章がついている馬車など、サムソン王子の馬車以外にはない。


私も屋根に上って馬車を見た。

すると、向こうもこちらが見えたのか、向きを変えてこちらから離れるような動きを見せた。

逃がさん。

私は、レベル120の時に覚えた「地面斬り」を馬車の進行方向に向けて放つ。


衝撃音と共に、地面に亀裂が走った。

それに驚き、馬車は急停車する。

逃げるからいけないのだ。


その後はこちらの竜車が近づくまで止まっていた。

そばまで竜車が着くと、みなが降りてくる前に、私が近づき馬車の中を覗き込む。

影が薄いので、最初に近づくのは私が適任だ。


馬車の中を見て言葉を失った。

乗っていたのは1人。

全身血だらけで、肌も真っ黒だった。


呪いか?毒か?病か?


私は、中の状態を確認した、手でみなが近づいてくるのを制した。

「中の人の様子がおかしい。呪いか病かもしれません。耐性のない人は近づくと危険です。」

そこでマリア奥様が1人で馬車の入り口を開けて中に入った。


数分後、


呪いの解除を行ったことで、生き残っていた人はまともな状態になり、外に連れ出される。

馬車から出てきてもらって治療をしていると、デルリカさんが近づいていき不思議そうに問いかけた。

「あの、サムソン第二王子殿下はどちらに?あと、伝説の剣はどうされたのでしょうか?」

だが黙って答えない。

答えないのが答えなのだろう。


ミラーズ王子は生き残った者に近づき、そっと肩に手を置こう。

「よく生き残った。大変であったな。落ち着いたら敵について教えてくれ。」

そのことばで、生き残った人は泣き出してしまった。

だが、それを後ろで見ていたカイル君がナガミーチさんに駆け寄り急に責めだす。


「ナガミーチさん、もしも僕達が急いでいけば、この人達は助かったんじゃないんですか?しかも伝説の剣も敵に取られたみたいです!これではこちらが不利ですよ!」

「カイルさん、どのみちサムソン王子に追いつけるかどうかは微妙でした。追いつけたとしても殺し合いしかなかったのです。少なくても向こうはこちらを殺して鎧とデルリカさんを奪う気でしたから。」


生き残った人が「そのとおりです」と小声で返す。


するとマリア奥様が、そっとカイル君をナガミーチさんから離れさせる。


「カイル、あなたはナガミーチの案に乗ったのですよ。ですのに後からナガミーチを責めるなどしてはいけません。ナガミーチは、わたくし達の使用人でしかありません。その言葉を採用するかどうかは、わたくし達が決めたことです。それに最初にナガミーチは言っていました『サムソン第二王子殿下が突撃して人数を減らして退却してくるはず』と。この状況はその言葉通りです。落ち着きなさい。」


「う、も、申し訳ありません。」

カイル君は正義感が強いから、目の前の惨状に憤ったのだろう。

馬鹿な貴族が多い中、人として正しく育っているカイル君に安心した。

かってに弟みたいな気持ちで見ているのかもしれない。


慈しみの目でカイル君を眺めていると、マリア奥様はすっとナガミーチさんを見る。

「ではあらためて、ナガミーチ。予定と違い伝説の件は魔王城にあるようです。伝説の剣の事をお願いします。」

「ですよねー。まあそこは最初から予定の範囲内ですからご安心ください。」

「もう算段があると?なるほど、全て織り込み済みでしたか。ではその案を聞かせてください。」


するとナガミーチさんはニヤリと笑う。

私はあれを『暗躍スマイル』と名づけている。


「伝説の剣を手に入れるにあたり、一番大変なのは見つけることでした。現に2年半も探し回りましたから。ですので魔王城にあるというこの状況は最大の問題点をクリアーしている状況です。あとは手にいれればいい。」

「なるほど。ですが手に入れるのが難しいと思いますが?」

「実は簡単なんですよ。スキル<エアモブ>をもつ勇者が、テクテク歩いていって、伝説の剣を手にすればいいだけですから。そのまま伝説の剣の力で城門を内から壊してくれれば、一石二鳥です。」


そこでデルリカさんは、とてもスッキリした顔で納得した感じで私を見た。

「それで全てが納得行きましたわ。この状況を予見したマリユカ様が勇者としてタケシー様をお呼びしてくれたのではないでしょうか。ユニークスキル<モブ>の意味がやっと分かりましたわ。」


流石ナガミーチさん、こういうシナリオだったのですな。

最初に、嫌がらせかと思っていたスキルが、じつはラストで唯一の切り札になるという。

素晴らしい。

特に、デルリカさんが目をキラキラさせて喜んでくれているのが素晴らしい。

私は気合が入った。

「かならず伝説の剣を手に入れ、城門を壊します。お任せください。」


私は今、モブとして最高の輝きを放っていると思う。


お読みくださりありがとうございます。


タケシー「そっと入って、ささっと盗ってきます」

マリー「ジョブは勇者じゃなくて、盗賊にすればよかったですねー。」


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