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佐藤毅 その8

―佐藤毅 その8―


子供の頃は、両親の視線から隠れるように暮らしていた。

ある程度大きくなると、こんどは自分を引き取ってくれた親戚に迷惑がかからないように、気配を殺す日々を過ごし、影がどんどん薄くなったと思う。

いつも埋没して目立たず、個人として認識されたことが少ないため、友達も出来なかった。

だからコミュ障の自覚がある。

それがコンプレックスで、さらに人との関わりが薄くなり、さらに影も薄くなる。

自分は、居ても居なくても変わらない、どうでも良い人間だと絶望しながら生きていた。


でも・・・

その影の薄さに感謝する日が来るとは思わなかった。


いま私は、ワイバーンの巣のど真ん中に居る。

ワイバーンと言うのは俗に翼竜と言われており、プテラノドンのような姿をしている。

真っ赤な体にキーキー鳴く声が恐ろしい。

大人のワイバーンは地面に立っている状態で3メートルくらいあるので、常人では倒せないだろう。

そのワイバーンが300匹近く周りで鳴いている。

馬や貴族の死体をついばんでいるが、まったく私を無視して襲ってこない。

さっき、1.5メートルくらいの子供ワイバーンにぶつかったが、まったく気にされなかった。


自分のモブっぷりに驚く。

右手を確認すると、最初<モブ>というスキルだったのに、今は進化して<ハイパーモブ>になっているので、コレのお陰かもしれない。

最初は影が薄い私への嫌がらせかと思ったスキルだが、このような状況になってみると、凄い威力のスキルな気がしてきた。


なぜ私がこんな所に1人でいるかと言うと、今を遡る事1時間前。

このワイバーンの谷の目前まで来た私たちは、どのようにこの谷を探索するか会議をしていた。

だが、デルリカさん目当てで着いてきていた大量の貴族のなかで、先に伝説の鎧を見つけてアピールしようとしている連中が居たようで、5台ほどの馬車が先行して谷に向ってしまったのだ。

私は、そのまま死なれては可哀想なので止めるために走って追いかけたのだ。

ちょうど追いついたところで、ワイバーンに馬車が見つかり、追い立てられていたら馬車は巣の真ん中に突っ込んでしっまた。

そこからは凄惨だった。

隠れていたのか、急に現れて襲い掛かってくる大量のワイバーン。

なすすべもなく食べられていく貴族一行と馬達。


あの時は私も覚悟をきめた。

この100日あまりの、デルリカさんとの楽しい思い出が頭をかすめ、思えば夢のような日々だったと回想していた。

死ぬときは、せめてデルリカさんの事を考えようと思い、一生懸命デルリカさんとの思い出でに集中していたが、いつまでも自分に死が訪れなかった。

不思議に思いつつ、恐る恐る周りを見たら・・・・

ワイバーンに無視されていた。

いや、気にも留められていないという方が正しいだろう。


そして今に至る。


さてどうしたものか。

私の勘だが、気にされていないからと言って逃げ出したらアウトな気がする。

モブというのは、周りに群集があって初めてモブなのだ。

もしも逃げるなら、道で1人になってしまいもうモブではなくなる。


だから、怖くてもこのワイバーンの巣から出られないで居るのだ。

開き直って、殺された貴族の死体に近づく。

肉は食べつくされているが、装備や金目の物が沢山転がっているので、スキルの<空間収納>にしまう。

壊れた馬車の中も調べると、結構物が残っていたのでそれも頂いた。

1つ壊れていない馬車があったので、それは丸々頂く。


よし、あとは知恵を絞ろう。

ワイバーンの巣となっているのは切立った崖に挟まれた場所で、走って逃げるには一旦坂道を駆け上がらないといけない。

普通に地面を走る生き物なら、ココに追い込まれた時点で逃げることは出来ないのだろう。

良く見ると、いろいろなものが落ちている。

大きな剣や、立派な鎧もあるが、場所によっては宝石が転がっていることもあった。


歩いて落ちている物を拾って回る。

するとそろそろ、食事が終わった大量のワイバーンがおりてきて、羽を休めだす。


彼らを避けながら巣の中を散策してると、奥まった場所にそれはあった。


不自然に輝いている物。

この、奥まった谷の中が何故明るいのかは、それが光り輝いているからだと気づいた。

近づくと、それは鎧だった。


あった! 伝説の鎧だ!

さて、これを持ち帰りたいところだがどうしよう?


そう思っていたら、ブルブル、ブルブルとオデコが震えだす。

目をつぶると、オデコの前のほうに<思念通信:着信・デルリカ>とでた。

うわ、デルリカさんから電話来た。

私は慌てて意識を集中する。

『もしもしタケシーです。』

『タケシー様、ワタクシはデルリカです。いまどちらにいらっしゃるのですか?馬鹿な貴族がワイバーンの谷に入ってしまったので、急遽予定を早めて突撃しようかと思いますので、こちらに戻ってきていただけますか。』


すこし途方にくれてから返事を返した。


『すいません、実はその馬鹿な貴族を止めようと後を追ったら、ワイバーンの巣に入ってしまいまして、いま伝説の鎧の前です。どうやって帰ろうか途方にくれていました。』

『まあ!さすが勇者様ですわ。なんと素晴らしいお働きでしょう。ではワタクシたちもタケシー様を目指して急いでそちらに向いますのでお待ちください。近くに着きましたら、再度連絡いたしますね。』


ブチ


あ、

通信が切れた。こちらの状況も伝えたかったのだけれど。

でも、コミュ障の私から女性に<思念通信>(電話)するのは腰が引けて追加の説明もできない。

まいったな。


だが、あの滅茶苦茶メンバーが助けに来てくれるなら、待っていれば大丈夫か。

・・・いや、絶対最初に閃光弾を投げ込まれる。アレは喰らいたくない。

隠れるところだけは確保しておこう。

私はワイバーンを避けながら巣の中で、身を隠せそうな場所を探して回る。


だが隠れられそうなところはない。

諦めて耳を押さえてうずくまるか。


そのあたりで、デルリカさんから<思念通信>がきた。

オデコがブルブル、ブルブルってするのは、なんかマナーモードをイメージする。

これ絶対ナガミーチさんが作った魔法だな。イメージが日本的過ぎる。


『もしもし、タケシーです。』

『タケシー様、今つきましたわ。いつも通り閃光弾を投げ込みます。ですがナガミーチの話では、タケシー様は<状態異常抵抗>を持っているので、たぶん大丈夫だから一回喰らってみてほしいと言うことです。どういたしましょうか?』

『あの人は相変わらず怖いことを軽くいいますね。ですが我侭はいえません。わかりました。でも倒れた私に攻撃をしないでくださいね。』

『はい、すぐに肉弾戦で飛び込みますのでご安心くださいませ。ワタクシの斧でタケシー様のもとまですぐに向かいますわ。では御武運を。』


ブチ


通信が切れた。

一日に二回も電話がかかって来るなんて、日本でもそうそうなかった。

しかも美女からとか、やっぱりコッチに来てよかった。

しかも今のは、脳内変換すればデートの待ち合わせで『遅れてごめーん、今駅についたの、走っていくから待っててね』みたいな内容だよな。

すごいぞ私。いやもしかするとデルリカさんの思念通信を受けた初めての男じゃないか?

く、死んでもいい。


すると数個の空き缶くらいの物体が飛んできた。


ぴーーーーー

凄まじい轟音と共に閃光が走る。


その瞬間、一瞬で目の前にボリューム調性みたいなマークが見えて即ボリュームが下がる。

さらに輝度調整みたいなマークもでて周りが暗くなった。

すごい、これが<状態異常抵抗>か。


音と光が消えると、音量調整と輝度調整のボリューム表示が一瞬で通常に戻り、普通に見えて聞こえる状態になった。


シュールだ。ゴロゴロ転げ転げまわって苦しむワイバーン達のなか、1人たたずんで周りを見渡す私。

すぐに、崖の上から誰かが飛び降りてきた。

輝くブロンドとドレスをたなびかせ、滅茶苦茶に病んだ笑顔で斧を持つ美女。

地面にズーンと着地すると同時に斧を振り回して、ワイバーンを次々にしとめていく。

見ほれてしまった。

殺戮の女神だ。


デルリカさんは私を見つけると、いつもの微笑で駆け寄ってきてくれた。

「お待たせいたしました。流石タケシー様です、閃光弾は大丈夫でいらしたようですね。さあ、ワイバーンを倒してしまいましょう。」

「は、はい。」


私は、さっき拾った大剣を<空間収納>から引っ張り出すと、その剣を軽々振ってワイバーンたちを切り裂いた。

レベルが上がっているので、こんな重そうな剣も軽々使える。

勇者って凄いな。


格闘用ゴーレムもおりてきて、次々にワイバーンは息絶える。

少し離れたところには、矢や魔法が降り注いでいる。

時々狙撃っぽい感じでワイバーンが吹っ飛ぶが、まあそれは気にしたら負けだろう。


そしてモノの数分で300匹近いワイバーンが全滅した。

やっぱりこのパーティーは強すぎる。


ぴろりろりーん


そして大量レベルアップ祭りが始まった。


ーーーーーーーーーーーー


パーティーが全員巣に降りてくる。

ミラーズ王子は初めてのレベルアップに興奮気味だ。


私がレベル73

王子がレベル51

残りの人たちは全員レベル72になった。


ワイバーンて強かったんだな。

こんなにレベルが上がるなんて。


そして今後の食料用にワイバーンの死体は<空間収納>に保存された。

向こう数年、毎日鶏肉のグリルが楽しめそうだ。


生きるモノが死に絶え、がらんとしたワイバーンの巣の中で、伝説の鎧は光り輝いてる。

みなでそれを囲んでみた。

最初にミラーズ殿下が触ろうとしたが、謎の魔法障壁で跳ね飛ばされてしまう。


するとデルリカさんはニコやかに私の手をとる。

あんな斧を振り回すとは思えないほどデルリカさんの手は柔らかい。

「さあタケシー様、鎧を着用なさってくださいませ。きっと鎧が主を選ぶのだと思いますわ。勇者であるタケシー様でしたら受け入れてもらえるはず。さあ。」


ニコニコ私に鎧に近づけと促すデルリカさん。

どうしよう。

これで私が鎧に拒絶されたら、デルリカさんの私に対する評価は下がるだろうか?

でも嫌ですとは言えない空気だ。

まあ何かあってもナガミーチさんが誤魔化してくれるだろう。

私は諦めて鎧に近づいた。


するとすんなり鎧に触ることができ、それと同時に鎧が消える。

いや私が鎧に触れた右手に吸い込まれたという方が正しいかもしれない。

それをみたデルリカさんが大興奮になる。

「まあ、伝説の鎧がタケシー様を選ばれましたわ。さすがタケシー様です。」

キャッキャと私の手をとって喜びだした。


照れる。

そしてデルリカさん、可愛すぎる。

やはり私が勇者でいいようだ。嬉しかった。

存在意義、それがこんなに嬉しいとは思わなかった。


そういえば気になったので、レベルアップによる<モブ>スキルの進化を確認してみる。

<ハイパーモブ>は今回のレベルアップで<石ころモブ>になっていた。


左手のヘルプを読む。

<石ころモブ>:生物以外の存在にも溶け込める。ゴミや草や石ころと並んでもモブ。


すごい!これは凄いぞ!

今回でモブスキルの凄さは実感したけど、もう群集すらいらないらしい。

石ころでもあればモブになれるなんて凄まじいぞ。


そう思ったとき、ふとデルリカさんを見て不思議に思った。

そういえばさっき、ワイバーンの大群の中から私をすぐに見つけて駆け寄ってくれた。

いや、今だけではない。


会議中に私が居なくなったことに気づいてくれたのもデルリカさんだ。

今までもずっと、他人が私をスルーする中、デルリカさんだけは私に声を掛けてくれている。


「そいえばデルリカさんには私の<モブ>スキルが通用していないようですね。いつも簡単に見つかってしまってる気がします。」


するととてもいい笑顔が帰ってきた。

「当然です。タケシー様はヤスコーとワタクシをつなぐ希望の勇者様ですもの。逃がしませんよ。」


逃げません!いや逃げられません。

あなたの笑顔から逃げるなんて、死んでもお断りです。


このデルリカさんの勇者として異世界に送ってくれたマリユカ様に深く感謝する。

すると、なぜかマリーちゃんが私にサムズアップして無邪気な笑顔を送ってくれた。


お読みくださりありがとうございます。

マリー「タケシー、私にお菓子をお供えしてください。」

タケシー「それはかまいませんが・・・・。今は飴しか持っていませんがそれでいいですか?」

マリー「はい、飴でいいです。これからも私にはお菓子を貢いで感謝してくださいね。」

タケシー「・・・はい。(意味が分からずナガミーチを見る)」

ナガミーチ「(小声で)将を射んと欲すればまず馬を射よ。デルリカさんを欲すれば、まずマリーちゃんを懐柔せよです。お菓子あげればデルリカさんに『あの人はいい人です』ってアピールしてくれますよ。」

タケシー「な!ちょっとお菓子買ってきます。」

数分後

タケシー「お店の人に気づいてもらえなくてお菓子が買えませんでした。」

ナガミーチ「・・・ドンマイ(泣)」

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