佐藤毅 その7
―佐藤毅 その7―
人力車で竜車に戻ろうと城を出ようとすると、デルリカさんが陛下に呼び止められた。
「デルリカよ、できれば頼まれて欲しいことがある」
「はい、ワタクシの魔王討伐の妨げにらなければ、なんなりと。」
「手厳しいのう。じつはピッツを同行させて欲しいのじゃ。アレは責任を感じておる。たとえ道半ばで命を落としてもかまわぬ。頼まれてはくれぬじゃろうか?」
デルリカさんは足を止めて少し考える。
そして意外な言葉を放った。
デルリカさんはナガミーチさんを見る。
「ナガミーチ、まかせます。」
「はいデルリカさん。申し訳ありませんが、この国のためを考えますと。ピッツ殿下はお断りせざる得ません。」
陛下のお言葉を無下に断たっため、数秒沈黙がおとずれた。
「どうしてもか?これでピッツが死んでも責任は問わぬ。」
陛下も引かない。
そこでナガミーチさんがニヤリとした。
お、これは暗躍顔だ。
「ピッツ殿下『は』お断りいたします、と申し訳あげました。ミラーズ殿下であれば喜んでお受けいたします。」
驚いてその場の全員がナガミーチさんに強い視線を送る。
「・・・その思惑を聞いてもよいか?」
「はい。もしもピッツ第三王子が魔王討伐に成功してしまえば、王位継承争いを生むでしょう。やはり王位継承を受けるのは英雄の方がスムーズです。そこで王位継承をかけてサムソン第二王子も魔王討伐に出発されることを強くお勧めいたします。継承についての面倒ごとが全て解決するでしょう。」
陛下の顔がヒキつる。
しかしナガミーチさんは言葉をとめない。
「ピッツ第三王子には内政と外交の英才教育こそが、この国の・・・しいてはベルセック伯爵家のためになるでしょう。いずれカイルさんが候爵位でも持つようになれば、宰相の後ろ盾は大きいですから。それでヤスコーさんへの借りはチャラにできると考えます。」
陛下はそばにあった椅子に疲れたようにドサリと腰掛けた。
「まったく、ナガミーチは恐ろしい男よ。魔道研究院長ではなく宰相としてスカウトしたくなったわい。なるほど、ナガミーチの言う通り、国の未来が一気に安定するようじゃ。ミラーズを鍛えやってくれ。」
その言葉にナガミーチさんはデルリカさんとマリア奥様を見る。
2人は黙ってナガミーチさんに頷いた。
それを確認してナガミーチさんは恭しく肩膝をつく。
「では陛下、ミラーズ殿下の安全はこのナガミーチが保障いたしましょう。他国の者ですら憧れを持って伝説のように語り継ぐ王の誕生のために。」
そしてミラーズ殿下がパーティーに加わった。
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幼いピッツが王子が一生懸命手を振っている中、私たちは出発する。
私達が見えなくなるまでピッツ王子は悔しそうに手を振っていた。
馬で人力車の横を進むミラーズ王子はピッツ王子が見えなくなると、悲しい顔でデルリカさんを見る。
「デルリカ嬢、ピッツは本当にヤスコーに憧れていたのだ。婚約相手はヤスコーと決めていたほどに。あれの無念を思うと胸が痛む。どうしても同行はできぬであろうか?」
「申し訳ございません殿下。ワタクシはナガミーチほど頭が回りませんゆえ、陛下がナガミーチの話の何に納得したのか見当もつきません。ですがナガミーチと陛下が納得したことですので、ワタクシはそれを信じたいと思います。」
「そうか・・・。そうであるな。陛下も確かに納得されていた。意味があるのであろう。無理を言ってすまなかったな。」
そのあとは、みな無言で進んだ。
夕日を眺めながらポツポツ歩く。
走ってもいいのだろうが、みな歩きたい気分のようだ。
シンミリした空気だ。
すると、後方から何台もの馬車が走ってくる。
なんだ?
馬車の数は50台はあるだろうか。すごい砂埃が舞っている。
馬車たちが追いつくと、私達を囲むように止まった。
それぞれの馬車から、身分が高そうな人たちが降りてくる。
タブン全員貴族だろう。
その中の1人が人力車にすがり付いてきた。
「ああ麗しのデルリカ嬢よ。このようなみすぼらしい乗り物など使わず、我輩の馬車で討伐におもむきませぬか?。ここまでの見事な馬車はそうはありませぬぞ。」
ピクリとデルリカさんの眉が動く。今の無礼な物言いに怒ったようだ。
貴族の男は、そんなデルリカさんの変化などお構いなしに自分の馬車を語りだした。
みるとその男の馬車は、たしかになかなか豪華な装飾がほどこされている。
ほかの馬車からおりてきた連中も、ワラワラ人力車の周りで「我が馬車へ」と声をかけてくる。
邪魔臭い。
イラっとした顔をしたデルリカさんが斧に手を伸ばした。
だがデルリカさんの隣に座っていたジャーニーさんが必死にそれを制している。
ヤバイな。これは早めに解決しないと血の雨が降る。
すると、もう一台の人力車にマリーちゃんと一緒に乗っていたマリア奥様がこちらの方を向いてニッコリ微笑んだ。
「ナガミーチ、どうにかしてください。穏便にお願いします。」
「えええ、また僕ですか?奥様は僕を何だと思っているんですか?まったく、いっつも無茶振りなんですから。」
なんとなく、いつも一言不満を漏らすナガミーチさんの気持ちがわかってきた。
私がココに来てまだ三日ほどだが、もう何度もナガミーチさんに丸投げされているのを見ている。
しかし信頼とも見えて羨ましい。
私もデルリカさんに、こういう無茶振りをされるようになりたいものだ。
ナガミーチさんは貴族達に向けて前に出る。
心なしか貴族たちが一歩引いた。
朝の受付の出来事を見ているか、選抜大会に参加でもしていたら、そりゃビビるだろうな。
王族の後ろ盾を持ち、戦えば1200人を壊滅させる指揮をするのだ。
しかも、いつみても穏やかな顔をしているのだから、余計怖い。
そのナガミーチさんが、おもむろに一台の馬車に乗り込んだ。
「さあ、ほかのみんなも適当な馬車に乗せてもらってください。これで僕達の車に送ってもらいましょう。」
不思議そうな顔でカイル君はナガミーチさんに歩み寄った。
「ナガミーチさん、それで解決なんですか?」
「ええ、僕らの車よりもご自分の馬車が立派だと思う方がいらっしゃれば、是非デルリカさんの移動を手伝ってもらいましょう。あの車を見てまだそんな事が言えるならね。」
カイル君は子供っぽく笑う。
「なるほど、それは面白いですね。では僕もどこかの馬車にお世話になりましょう。」
そして人力車を先頭に竜車に向う。
ちなみに私は誰も馬車に乗せてくれなかったので、ジャーニーさんが馬車に乗り、私はデルリカさんの人力車にのせてもらった。
おおお、貴族のみんなありがとう!
デルリカさんは終始クスクス笑っていた。
「それほど可笑しいですか?」
「ええ、うちのナガミーチが用意した竜車を越える車など、王家とて持っておりませんからね。皆様がどんな顔で引き下がるかと思うと楽しみですの。」
「ふふ、意地が悪ですね。」
「そういうタケシー様こそ面白がっているお顔ですわ。」
微笑みあった。
幸せだ。
ありがとう、異世界。
2時間ほど幸せなおしゃべりをして過ごしていたら、体感ではあっという間に竜車に着く。
すると、いち早く飛び出したマリーちゃんがドラゴンゴーレムをキャンピングカーにセットしてやってきた。
キャンピングカーと言っているが、まるで電車並みにデカイし戦車並みに頑丈そうだ。
それを象よりも大きいドラゴンがひいてくるのだ。
貴族たちは変な声を出して見上げていた。
さらに男性用車両の中を公開する。
前半分はナガミーチさんの工房。その後ろに荷物が入っており、一番後ろに居住空間がある。ベッドが5個入っており、トイレとシャワーと台所もある。それでなお5~6人が車座に座る程度のスペースがあるのだ。
それを見せてから、ナガミーチさんはいつもの軽い口調を飛ばす。
「これが僕らの竜車です。これよりも良い物があれば是非デルリカさんに提供をお願いいたします。」
意地悪な言い方だ。
だが、デルリカさんはツボに入ったらしく、さっきから扇で口元を隠しながらクスクス笑いっぱなしだ。
貴族っぽくて美しい笑い方だ。
さすがに貴族達はすごすごと自分の馬車に帰っていった。
ついでなので、王子の馬は諦めて帰るという貴族に預けた。
これで我々も出発だ。
すると、王子が一枚の地図をだしてきた。
「折角だ、先に伝説の鎧を手に入れぬか。ここから馬車で100日ほどの場所に『ワイバーンの谷』というものがある。そこに輝く鎧があるという噂だ。行ってみぬか?」
デルリカさんは私を見ていた。
最初はなんで私を見ているのか分からなかったが、ハタと気づく。
これは私の意見を待っているのか?
おおお、早くもナガミーチポジションか?
「デルリカさん、私たちはまだまだレベルアップも必要です。ちょうど良いと思います。伝説の鎧を手に入れに行きませんか?」
「そうですね、タケシー様がそうおっしゃるのでしたら、ワタクシは異存はありません。ナガミーチ、かまいませんね。」
すると、マリーちゃんによじ登られて遊ばれているナガミーチさんが、そのままマリーちゃんを肩車して立ち上がる。
「ええ、それが良いと思います。」
あっけなく次の方向が決まった。
私たちは竜車に乗り込み、『ワイバーンの谷』へ向う。
私たちの明日はどっちだ。
そして意気揚々と出発した・・・が。
竜車に揺られて夜の光景を窓から眺めていると、なんか不思議な気分だ。
男性用車両は、夜特有のシンミリとした空気になっていた。
すると女性車両からマリーちゃんの無邪気な声が響く。
「ナガミーチ、デルリカ達が演奏を楽しみたいそうです。車の上に上って月夜の演奏をしましょう。」
「はーい、じゃあ屋根の甲板に先に上がっててください。楽器を用意できたら僕も上がりますから。」
するとこれから何が起こるか理解しているのだろう、カイル君が夕食用の食事セットと茶と酒を出してくる。
ナガミーチさんは、いくつか楽器を出して、階段を上がって屋根に上がった。
私もカイル君の荷物を手伝って上がると、屋根はまるで船の甲板のようになっていた。
そして、カイル君が食事用意をしてくれていると、ナガミーチさんは私にギターを渡す。
え?
「あの、私は楽器が使えないのですが?」
するとニヤリとされた。
「今日のレベルアップで<バンド演奏>と<同調>のスキルが増えてますから大丈夫です。こちらの演奏に<同調>してください。それで演奏できます」
スキルを確認すると確かにある。
私の困惑を無視してナガミーチさんはドラムをセッティング中。
見ると30cm程度しか隙間がない状態で並走している隣の車両の上ではマリーちゃんがベースを構えている。
そしてなんと、デルリカさんはキーボードを用意していた。
は!デルリカさんとバンド演奏だと。
急にヤル気が沸いてきた。
セッティングを完了したナガミーチさんが叫ぶ。
「楽曲はマリーちゃんに同調。歌はデルリカさんでいいですね。」
いうなり、ヒッコリーをカンカンカンと叩いて演奏を始めてしまった。
慌てたが手が勝手に動く。
私は、自分でも驚くほどギターを演奏できている。
曲は意外にも日本で聞きなれたロック調の曲だった。
前奏が終わると、キーボードを引きながらデルリカさんが歌いだす。
『君~へと続~く~この旅~で~、この想~い、力に~変えて~』
日本で見た、どんなアーティストの歌よりも心を奪われた。
後ろで王子がくつろいだカッコウで、月光のなか歌うデルリカさんを眺めながら酒盃を傾ける。
「ピッツよ、悪いが余はもう交代してやる気持ちが消えてしまったよ。この素晴らしい夜と美しき歌姫に乾杯。」
そのあと眠くなるまで20曲ほど演奏したが、私にとっても素晴らしい夜だった。
お読みいただき、ありがとうござます。
ジャーニー「あたしもデルリカお嬢様の後ろで踊っていたのに、だれも見てくれないなんて悲しいねえ。」
タケシー「ジャーニーさんも身につけましたか?スキル<モブ>を。」
ジャーニー「縁起でもない。」
タケシー「ひどい・・・。」




