佐藤毅 その6
―佐藤毅 その6―
私達は、朝一で城に向かった。
マリア奥様とデルリカさん、それにマリーちゃんとジャーニーさんは人力車に乗って移動。
一応人力車を引っ張るゴーレムは、今日の戦いで使う格闘ゲーム用のゴーレムだ。
人力車に乗っていない残りのメンバーは、走って人力車についていく。
私は運動とか得意ではなかったが、レベルが上がったお陰で苦もなく2時間走れた。
昨日のうちにレベルを上げておいて正解だったようだ。
そしてお城に着くと、城下町がざわついているのが分かる。
選抜戦は15時かららしいけど、受付まで行くと長蛇の列だった。
そこでデルリカさんが受付に、城に入れてくれるように頼みに行くと回りがザワザワさわがしくなる。
それもそうだろう。
彼らはデルリカさん目当てで選抜戦に参加するんだ。
その目的のデルリカさんが現れれば、騒ぎ出しもするというものだろう。
何人かデルリカさんに駆け寄ろうとしたが、格闘ゴーレムと大空さんに阻まれて足止めを喰らう。
「そこの剣士どけ。私はイシュタル候爵家の子息ビリルだぞ。無礼は許さぬ。」
その後ろからもゾロゾロ、貴族っぽい人が大空さんに詰め寄ってくる。
するとマリーちゃんが無邪気に叫んだ。
その声は妙にその場に良く通った。
「デルリカ、あの人たちとお話しますか?」
一瞬場が静まり返った。
「いいえ、今は陛下の下に向いますので、お話をするつもりはありませんわ。」
呆然とする貴族を鼻で笑いながら、私はデルリカさんの横につく。
すると、デルリカさんが私を見て微笑んだ。
「タケシー様も、まわりを気にせず一緒に参りましょう。」
そういって歩き出した。
凄い優越感。
私はデルリカさんの仲間。これ以上の幸運があるだろうか。
幸福をかみ締めつつデルリカさんについて行こうとした。
すると止められていた貴族がいきなりキレた。
「貴様何者だ!貴様の様な奴がデルリカ嬢の後をついてくとは失礼だぞ!」
ビリルさんだっけな。なんか言いがかりつけてきた。
ふりかえると、石を投げてきた。
あ!
思ったが石は私に飛んでこなかった。
ゴツンとナガミーチさんの後頭部にあたる。
すると、ゆっくりナガミーチさんが倒れた。
あれ?
ナガミーチさんなら防御魔法とかで避けると思ったのに・・・。
するとマリーちゃんが絶叫した。
「長道!・・・・おのれ馬鹿貴族!貴様の家を没落させてやる。今日中に地獄を見るが良い!」
マリーちゃん、慌てすぎて長道って叫んでるよ。
ナガミーチさんに駆け寄り頭を抱えてさすっている。
すぐにデルリカさんが回復魔法で治療していたから大丈夫だと思うが、ナガミーチさんは目を覚まさないようだ。
しかし、あのビリルとかいう貴族坊ちゃんは馬鹿か?
ベルセック伯爵家で、ナガミーチさんがどれほど頼りにされているか知らないのだろうか?
そんなことしたら、デルリカさんに嫌われるに決まってるのに。
すると、少し離れた場所で騒ぎが起きていた。
なんだ?
みると、金髪の美形の少年が倒れている。
少年を介抱していた、美麗の金髪青年がこちらに駆け寄ってくる。
「いま石を投げたものはどの者だ!」
その姿を見て、また場が静まり返った。
すると、起立して姿勢を正した受付の人が緊張した声で報告する。
「ミラーズ殿下!イシュタル候爵家の子息ビリル様が、そちらの男性の後頭部に石を投げつけました。石は跳ねてどこかに行ってしまいましたが、石が投げられたのはその一度だけです。」
ミラーズ殿下といわれた人は倒れたナガミーチさんを見てさらに引きつった顔をする。
「ナ、ナガミーチ!なんということだ。我が国最高の魔道師を害するとは、どこの国の手のものか! 同時に我が弟ピッツまで石で倒すとは。許せん。衛兵、下手人を捕らえよ。これは国王陛下にもご報告して、相応の処罰を与える。」
慌てて逃げようとしたビリルさんは、すぐに捕まり連れてかれてしまった。
慌てるミラーズ殿下は別の衛兵に指示を出す。
「はやくナガミーチを城医の元へ運べ。頭を打ったのだ、丁寧に運ぶのだぞ! ナガミーチを失うのは国家の損失だ。丁寧に運ぶのだ。」
騒ぎながら、私達一行は城に入っていった。
気になって振り返ると、さっき頭を打て倒れていた金髪の少年が頭をさすりながら立ち上がっている。ピッツ君だったかな。
ナガミーチさんより、向こうの少年の方がVIPっぽいのに放置でいいのか?
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数分後、元気なナガミーチさんが笑ってた。
「いやあ、たいして痛くなかったんですが、あのまま倒れていたほうが馬鹿貴族たちに足止めされないでお城に入れるかと思って、演技していただけなんですよ。ご心配おかけして申し訳ありませんでした。それよりもピッツ王子はコブができたんですよね。僕の頭で弾けた石が当たって申し訳ないです。」
「ピッツの事は気にするでない。咄嗟の機転は流石の知略と褒めてやりたいところじゃが、さすがに肝が冷えたぞ。」
「申し訳ありませんでした陛下。」
そう、あの後に王陛下が城医室に飛び込んできたのだ。
どうやら、ナガミーチさんは王陛下から王立魔道研究院の院長にスカウトされているらしく、王陛下とも面識があるようだ。どんだけ凄いんですか、ナガミーチさん。
王陛下は、ひとしきり楽しそうに笑うとマリア奥様をみる。
「ベルセック伯爵夫人、今回の狼藉者はピッツにも石を当てたことになるでな。イシュタル候爵家から爵位と直轄地をとりあげ、一家全員を石切り場労働50年の刑にしておいた。これで溜飲を下げてくれ。」
「お心遣い、感謝いたします。」
陛下が次にピッツ王子の方を向く
すると王子のコブを回復魔法で治療していたデルリカさんが、急にその場で片膝をついた。
「陛下、じつは折り入ってお願いがございます。」
「どうしたデルリカ、何でも言うとよい。」
「ありがとうございます。このたびの選抜大会に関してでございます。選抜はワタクシたちのパーティーの者を1人でも倒した方にお願いしたいと思います。ですので今回の選抜大会は、選抜希望者の皆様全員と、ワタクシ達のパーティーで戦う形式に変更をお願いいたします。」
そこから30分くらい揉めたのだが。
結局陛下は折れた。
デルリカさんの意志の固い態度と、マリーちゃんの『お髭のおじちゃんお願いします』攻撃に陛下が折れたのだ。
今は陛下がマリーちゃんにお菓子をあげながら、孫でも見る目で微笑んでいる。
「おじちゃん、ありがとうございます。私もすごく強いからがんばっちゃいますよー。」
「マリーは無茶するでないぞ。それよりもナガミーチを説得してくれぬか。ナガミーチが魔道研究院にきた暁には、ピッツを婿に与えても良いぞ。」
「ピッツは情けないからいらないです。ナガミーチが一番面白くていいのです。」
「そうか、それは残念じゃのう。マリーが我が娘になったら毎日会えて、おじちゃん嬉しいんじゃがのう。」
「うーん、じゃあ遊びに来るなら良いですよ。お菓子くれるなら。」
「そうかそうか、ではマリーのために他国のお菓子も取り寄せてやろう。」
「やったー、お髭のおじちゃん最高ー。」
王陛下がマリーちゃんに骨抜きにされた。
あの無邪気な笑顔は、恐ろしい武器だな。
ニコニコしている陛下にナガミーチさんはサングラスが沢山入った箱と、耳栓が入った箱を渡した。
「陛下、観覧の際は最初の魔法が三回炸裂するまではコレをつけていてください。見ると苦しむ魔法を使いますので。」
いや、魔法じゃなくて閃光弾でしょ。
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15時、選抜会場。
選抜希望者は1200人。
私たちのパーティー対、参加者全員の戦いが始まった。
敵はみんな、大空さんとナガミーチさんを警戒している。
最初の一撃は、やはりナガミーチさんだった。
「ナガミーチ魔法、閃光弾!」
いやそれ魔法じゃないでしょ。
そう思ったが、慌てて耳と目をふさぐ。
ナガミーチさんが閃光弾を投げると同時に、敵陣から沢山の魔法障壁が現れる。
ぴーーーーーー
だが単純な閃光と大音量の攻撃に、魔法障壁は役に立たない。
閃光弾の猛威により、前衛がパタパタ倒れた。
ナガミーチさんを警戒してガン見していたからこそ、これは避けきれない。
さらに敵の集団の奥の方にもニ発投げ込む。
ぴーーーーーーー
ぴーーーーーーー
閃光がはじける。
この3発の閃光弾で前衛の戦士と、後衛の魔法組みが一気に無力化した。
さらに、ナガミーチさんは別の手榴弾を出す。
「次は、ナガミーチ魔法、マスタード噴霧弾!」
また3発ほど人ごみの中に投げ込む。
すると大量の黄色い煙が巻き上がった。
音や光が届かない後ろのほうは、辛子ガスか。えげつないな。
「よし、全員遠隔攻撃開始!」
我々は全員いっせいに攻撃魔法を撃ちはなった。
ナガミーチさんは攻撃魔法と叫びながら・・・・ショットガン撃ってる。
それ魔法じゃないですよね。
まあ、あの人には突っ込むのはよそう。
煙が晴れると、そこにはもう20人ほどしかっ立っていなかった。
立っていると言っても、呼吸が辛そうにしている。
「よーし、がんばっちゃうぞー」
マリーちゃんが相撲取り型ゴーレムを頭突きモードで飛ばす。
攻撃線上にいた2人ほどが一撃で吹き飛び気絶した。
追う様にマリア奥様とジャーニーさんのゴーレムも襲い掛かる。
この二人はスキルに<複数人形遣い>があるので、コントローラーなしでゴーレムを自在に動かし、次々に立っている挑戦者をなぎ倒した。
強すぎるでしょ、この人たち。
あと3人になったところで、デルリカさんが飛び出した。
凄いスピードで飛翔して飛びつくと、全員の顔を肘で打ち砕いて倒した。
三人の顔が砕けるまで一瞬だった。
良く見たら、最後に顔を砕かれたのは、さっきの馬鹿貴族のビリルさんじゃないか?
無駄に痛い想いをするために出て来るとか、馬鹿だな。
さらにこの後、石切り場送りなんだろ。同情してしまう。
・・・・あ、他人の同情している場合ではなかった。
私はまたあんまり活躍できなかった。
これじゃ勇者と言うよりモブだな。
ぴろりろりーん
最後のビリルがドサリと倒れたとき、全員のレベルが上がった。
私とジャーニーさんはレベル55
他の皆さんはレベル54になった。
凄いレベルアップしたな。
すると得意顔でナガミーチさんが私の肩を叩いた。
「思ったとおり。これだけの研鑽を積んだ相手を倒せば当然レベルも沢山上がる。ふっふっふ。計画通りです。」
暗躍のナガミーチ。
一番怖いな。
全員が動かないの確認したら、陛下が闘技場まで降りてきた。
「見事であった。ここまでとは、さすがヤスコーを生み出したベルセック伯爵家よ。とくにデルリカの最後のヤスコー砕きは鮮烈であった。文句なくそなたらが勝利したことを認めよう。」
「は、ありがとうございます」
全員が膝を突いたので、あわてて私も膝をつく。
「ところでヤスコー砕きってなんですか?」
するとデルリカさんがニコやかに私に肘を突き出してきた。
「こうやって相手の顔を肘で砕く技の事ですよ。ヤスコーがワタクシを守ってサムソン第二王子を倒した技ですので、そう呼ばれていますの。」
「な、なるほど。」
さらにデルリカさんが私の襟を掴み背負い投げのポーズをとる。
うわ、デルリカさんと密着!
「ちなみに、こうやって相手を投げるのはヤスコー投げというのです。ヤスコーがサムソン第二王子をこれで倒してからこの国に流行りましたの。鎧を着た戦士を無力化できるので、軍隊でも正式にとりいれられたのですよ。」
「な、なるほど。素晴らしい技ですね。」
「はい、ヤスコーの技はみな素晴らしいです。」
良い笑顔だ。
ヤスコーさんの事が大好きだったんだな。
私から離れたデルリカさんとマリア奥様が範囲回復呪文をかけて倒れている参加者を癒す。
すると倒れた人たちの傷がみるみる消える。ビリル以外。
その様子を眺めていたら、陛下が私をみていた。
「おぬし、今デルリカと親しく話しておったが、いつからそこにおる?」
「えっと・・・・ナガミーチさんが石にあたってバタリと倒れた時からずっと一緒にいました。」
「なんと、余の目を欺くほど気配を消すとは、相当な使い手であるな。」
いや、ただのモブです。
するとカイル君が誇らしげに陛下の前に立った。
「こちらのタケシー様は、ナガミーチさんが魔王を倒すために異世界より召喚した勇者様です。我らの秘密兵器です。」
するとデルリカさんも駆け寄ってきた。
「陛下、勇者タケシー様がいらっしゃるので何も心配はございません。」
やめてください、恥ずかしい。
陛下はうなずき納得したようだった。
「では勇者タケシー、我が国の究極淑女と呼ばれしデルリカの事、しかと頼んだぞ!」
本能的に肩膝をついた。学習したのだ。
「はっ、この命に代えても。」
そして私たちは、魔王討伐に向かった。
私たちの戦いはこれからだ。
お読みくださり、ありがとうございます。
マリー「おじちゃん、お菓子くださいな。」
陛下「おお、マリーよ。沢山用意してあるぞ。沢山お食べ。」
マリー「やったー。おひげのおじちゃん、いい人ですね。」
ぴろりろりーん
王陛下はスキル<マリユカの贔屓>を得た。




