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佐藤毅 その1

―佐藤毅 その1―


私は目立たないという自覚はある。


思えば、子供の頃から私は要らない人間だった。

両親は家で近所の人を集めて騒ぐのが好きだったが、そこに子供の私が顔を出すのをひどく嫌った。

だから私はいつも気配を消して静かに過ごすのが日常だった。


私が9歳の時。

両親が離婚するが、その時の父と母の私を押し付けあう口論をよく覚えている。

その結果、ある朝目を覚ますと2人ともいなかった。

私は捨てられたのだ。


親戚の家をタライ回しにされた。

その結果、一つ確信した。私は不要な人間だと。

それ以来、私は全てがどうでもよくなった。

心の虚しさを埋められず、世界の全てがどうでもいい。


それなのに、大人に言われることは素直にしたがった。

中身がないから言われるままに勉強しただけだが。

だから成績はよかった。

でも友達はできない。

誰も私と言う存在を認識していない気がする。


国立の大学を今年卒業する予定だが、虚しくて就職するのが面倒くさい。

このまま飢えて死んじゃおうか。


その日は、本当に虚しくなり心の底からつぶやいた。

「何でもいいから、私を見てくれる人が居る世界で生きたい。神様・・・。」

すると唐突に頭の中で女性の声が響く。

『おっけーね』


そして次の瞬間、マリユカ宇宙の天界に居た。

そこで私は希望を聞かれたが、実は希望は無かった。

だから適当に勇者になりたいと答えたのだ。。


でも少しだけ期待もしている。

勇者なら人から注目されたり、必要とされるかもしれない。

一度でいいから誰かに名を呼ばれながら駆け寄って欲しかった。


そんな期待も少しだけ持っていたのは否定しない。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


気がつくと、私は見知らぬ部屋に居た。

足元には光り輝く大きな魔方陣が見える。

そうか、私は異世界に来れたんだ。


よく見ると、この場にはいかにも魔道師っぽい格好をした男性と、ブロンドの女性が居た。


美しい・・・・

ブロンド女性をみてそれ以外の感想がもてない程に美しかった。


中世のお嬢さまが着ていそうなドレスをまとい、まるで聖母のような微笑をこちらに向けている。

すこしウェーブの掛かった長いブロンドは光り輝くようだ。

その女性は私を目指して歩いてくると、嬉しそうに私の手を取る。


「異世界よりワタクシの召喚に応じてくださりありがとうございます。あなたをお待ちしておりましたのよ。」


召還された直後に美女が駆け寄って来るとか、テンプレだな。

安っぽい漫画とかにありそうな、安っぽい王道の始まり方だと思った。


だが、それだけで心が躍った。

これほど美しい女性が登場するなら、むしろ王道の方が感動すらある。

この美女が私を必要として呼んでくれたのか。


この女神のように美しい人が・・・・


王道のオープニングだけど、異世界に勇者としてきたという実感を与えてくれた。

私を必要として待っていたのが美女というのが心憎い演出である。


これだけで、もう私の夢は叶ったようなものだ。


すると美女の後ろから魔道師風の男性が顔を出した。

「あ・・・」


その人は長道さんだった。

私がなにか言おうとしたら、指を口に当てて「しー」と言う。

なんか、もうしばらく黙っていたほうが良さそうだ。


長道さんは美女の肩に手を乗せた。

「デルリカさん、まだ彼も現状が把握できていませんから、まずは落ち着きましょう。」

「あらワタクシったら、少し慌てすぎましたわね。お恥ずかしい。」


そこで、まるで説明するかのように長道さんが話し出す。

「そう、彼は異世界からこのナガミーチが呼び出した『勇者の卵』です。彼には勇者の力が眠っていますが、まだ覚醒していません。ですからこれから旅をしつつ、勇者の力を高めなくてはいけないのです。彼は『勇者の卵』ですから常人よりも速い速度で成長します。彼をレベルアップさせつつ、この国のどこかにある伝説の刀と鎧を手に入れれば、きっと魔王も倒せるでしょう。」


これ、タブン私に説明してくれているんだよな。

美女に話しかける風を装っているけど、演説しながらチラチラ私を見ているもの。


すると美女・・・デルリカさんが私の手を握ってくれた。

「では勇者様、まずは現状をご説明いたしますから、お屋敷のサロンへいらしてくださいませ。さあお立ちになって。」


「は、はい!」

私の第一声は、緊張して情けない声を出してしまった。

こんな美人に話しかけられるなんて日本でも経験ないから、どう接していいか分からない。

とりあえず立ち上がり、デルリカさんに案内されるまま別の部屋に向った。


歩きながらお互いの自己紹介も済ませる。

名前を聞かれたので、最後にマリユカ様が言っていたタケシーを名乗った。


サロンにつくとお茶を出され、ソファーに腰掛ける。


そこで説明を受けた。

隣の国に魔王が現れてしまい、隣国では魔王討伐が行われていると言う事。

だが、隣の国の軍隊が魔王軍に壊滅させられてしまい大変らしい。


魔王はまだ国境を越えて来ていないが、この国もいつ魔王が向ってくるかわからない状況だという。

なので先手を打って討伐したいが、隣の国の国境を越えないといけないため軍は送れない。

そこで国王は10人以下のパーティーで魔王討伐に向う勇者を求めているという話だった。


「それで私が召喚されたわけですか。」

私の言葉にデルリカさんは頷く。


「はい、ワタクシ達はどうしても魔王を倒さないといけない事情がありますの。ですがワタクシ達が魔王を倒すには、いささか戦力が足りないと考えました。ですから、このナガミーチに頼んで勇者を召喚してもらおうと考えたのです。」


なるほど。

魔王討伐は勇者と相場が決まっているからな。


デルリカさんは話を続ける。

「ですがナガミーチが大天使様と交信して聞いてみたところ、勇者はどこの世界の神様も手放さないので召喚できないと言われてしまいました。ですが勇者の可能性を持つ一般人である『勇者の卵』なら可能性があると言われ、藁にもすがる想いで召喚いたしましたの。そして現れたのがタケシー様と言うわけなのです。」


そこでナガミーチ(長道)さんが補足してくれた。

「だから、タケシーさんが今は一般人の力しかないのは重々承知しています。でもできたら、僕らと一緒に勇者を目指して戦って欲しい。このベルセック家は伯爵位なのでお金はありますから、初期装備もこっちで揃えます。魔王に勝利したあかつきには、王家から出る褒美は全てタケシーさんにお渡しします。どうでしょう、一緒に戦ってもらえないでしょうか?」

「え?褒美を全部私にくれるのですか?」


するとデルリカさんがナガミーチさんの代わりに答えた。

「はい、ワタクシ達は王家からのご褒美などいらないのです。欲しいのは魔王を倒したという功績だけ。いかがでしょう、タケシー様は一生遊んで暮らせる財産が手に入りますので、損なお話ではないと思いますが。」


答えは決まっているけど、一応悩むフリをしてみた。

すぐに答えたら、それはそれで嘘っぽい気がしたから。

悩む私をデルリカさんは不安そうに見つめている。


あ、目が合っちゃった。

美人だ。そして私を真っ直ぐ見てくれている。

手伝いたい。そして仲良くなりたい。


あ、でも旅に出たらデルリカさんとはお別れなんだろうな。

だったら数日ここでグダグダしてから出発でも良いのだろうか。

「わかりました。ですが少し心の整理が出来るまでコチラにお世話になっても良いでしょうか?」


デルリカさんが笑顔になった。

「もちろんですわ。ちょうど新しい剣士の先生を雇ったので、何日か剣を習ってから出発されるのがよろしいかと思います。」


よし!

これでしばらくデルリカさんと一緒にいられる!


私はナガミーチさんを見る。

「ちなみに、パーティーのメンバーはもう決まっているんですか?」


するとナガミーチさんは頷き微笑む。

「ええ、魔道師として僕が行きます。あと剣士の先生の大空さん。それにココに居るデルリカさんと、デルリカさんの弟のカイル坊ちゃん。あとはマリア奥様です。タケシーさんもいれると計6人のパーティーですね。」


思わずデルリカさんを凝視してしまった。

「え、デルリカさんもですか?なんで?」


するとデルリカさんは悲しい表情になる。

「はい、ワタクシが自ら行かないと意味が無いのです。じつはワタクシはマリユカ様にお願いしたい事がございまして、そのためにはご褒美を貰うに値することをしないといけないと考えましたの。ですのでお邪魔をしないようにしますのでご一緒させてくださいませ。」


「あの、どんなお願いをしたいのか聞いてもいいですか?」

するとデルリカさんは遠い目をした。


「ええもちろんですわ。ワタクシは妹のヤスコーと、もう一度お話がしたいのです。ワタクシの軽はずみな行動のせいで、ヤスコーはこの世界から弾き出されてしまい、消えてしまいました。せめて生きているのかどうかだけでも知りたい。ですので、そのことに関してお願いするために、魔王を倒してマリユカ様にワタクシのお願いを届けたいのです。」


「そうなのですか・・・わかりました。私に出来ることでしたら可能な限りお手伝いします。」

「本当ですか!タケシー様、ありがとうございます!」


お礼を言いながら、デルリカさんは私に対して祈ってきた。

そこまで喜ばれると、むしろ恐縮してしまう。まだ一般人の力しかないので。


そこに少年が入って来た。

小学生くらいの少年だが、日本では見れないくらいの美少年だ。

「はじめまして。僕はデルリカお姉様の弟でカイルといいます。勇者の卵様、ヤスコーお姉様がどうなったか知るためにも、僕達と一緒に魔王城を目指してください。」


それは私にとって衝撃だった。

「カイル君!まだ子供じゃないか!なんで君も討伐の旅に参加するんですか?子供には無理ですよ、死ぬかもしれないんですよ。」


しかし決意の堅い目でカイル君は私を見た。

「いいえ、たとえ死んでもヤスコーお姉様のために何かしたいんです。もしも僕が死んだらそれでも構わない。殉職者を出したならマリユカ様に願いが届きやすくなるかもしれませんから!」


少年が、死を覚悟しているのか。

この勇者一行は、私がイメージしてたのよりも、ずいぶん悲壮感が漂っているな。


理由はまだ把握しきれていないが、心臓が高鳴った。

日本で虚しく生きてた私の胸が、いま熱くなるのを感じる。


デルリカさんにカイル君か。

こんな強い意思で生きる人に出会えて、こっちの世界にきてよかった。

私を真っ直ぐ見つめている。

私を必要としている。


だったら私は勇者になってみたいと思った。

そう、私は勇者になりに来たんだ。

この人たちの勇者になりたい。

不思議な事に、そう心から思った。


虚しかった私に、生きる意味が唐突に現れた。

お読みくださりありがとうございます。

タケシー「オラ、ワクワクしてきたっぞ。」

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