石田長道 その6
では幕間話です。
―石田長道 その6―
今回の僕の仕事はやや満足がいった。
11年引っ張ったが、ラストでは大どんでん返しの連続で息もつかせぬ展開だったと自負している。
できたら乙女ゲーに突入させてあげたかったけど・・・
そう、今回もマリユカ様から厳命されていました。
バッドエンドを用意しろと。
しかも今回はバッドエンド確率を高めにしろとのご指示もあり、前回よりもバッドエンドの可能性は多めになっていた。
最高神が不幸を望むとか、人間は救われないなあ。
そうは言っても精々一割程度の可能性だったんだけど。
しかし康子さんも見事にバッドエンドルート進んだな。
みんな、すごいバッドエンド率でビビルす。
今回は最後に攻略ノートを他人に見せるかどうかが、バッドエンドの最後の分岐ルートだっただけど。
康子さん、見事にやってしまいました。
ま、たしかにデルリカさんの事が攻略本に書かれていないという罠はあったのだけれど。
なまじ頭が良かったからこそ、迷宮に落ちることもあるということだろうか。
そして今、僕とマリユカ様は天界の自室に来ている。
隣でマリユカ様は今回の顛末のビデオから、お気に入りのシーンをピックアップして見ている最中です。
自分もその場に居た場面なのに、ビデオ見ながら喜だり泣いたりしていた。
特に、最後のヤスコーこと大田康子さんの決断のところに来ると、グスグス泣きながら『いい娘だったねー』と喜ぶ。
あなた、あの場では無情に『デルリカには消えてもらいましょうか』とか言ってたくせに、ビデオで見返すと泣くんですね・・・。
ヤスコーさんが最後に綺麗な心のまま『クリームシチュー食べたかったな』と思うところが特にお気に入りらしく、そこの場面になるとテーブルをガンガン叩きながら感動している。
もう20回も繰り返し見ているのに、やっぱりまた感動でテーブルをガンガンするのかー。
まあ、マリユカ様が喜んでくれたなら良かったけど。
その今回のビデオを大天使の大空姫さんも隣で一緒に見ている。
大空姫さんは黒髪ポニーテールで、ガラスのような羽が綺麗な大天使だ。
世界で一番速く飛べるらしい。
確かに空気抵抗が低そうな胸をしているな。いつみても見事なキャラデザインだと感心する。
大空姫さんはハンカチで目を覆いながら、20回目の同じ台詞を口にした。
「ヤスコー氏、なんと見事な自己犠牲の精神であろうか。某が担当したかった見事な女性だ。大炎姫が羨ましいでござる。」
サムライか!
と、僕も20回目の心の突っ込みをいれて、そろそろマリユカ様をビデオから引き剥がした。
「気に入っていただいて嬉しいですが、そろそろ次の準備にはいりましょう。」
するとマリユカ様は鼻水出しながら僕の頭をガシガシ撫でる。
「長道ー、いいシナリオでしたよ。もう最高。ヤスコー、あなたも最高でしたよー。楽しかったー。」
「それは何よりです。まずはお鼻をかみましょうね。」
ティッシュを鼻に当ててあげて、鼻の穴を片方ずつチーンさせる。
なんかお母さんになった気分。
「そういえば、康子さんのその後はどうなっているんでしょうか?」
そこでマリユカ様から聞いた話は圧巻だった。
まさか日本に帰ってからチート活躍するとか、逆輸入か!
まあ、それも真面目に訓練を続けた康子さんの成果だ。
日本で成功してくれて本当に良かった。
そこで、おもむろにマリユカさんがテレビのチャンネルを変える。
すると、気がふれたようなデルリカ嬢が映し出された。
あう、胸が痛む・・・・。
「これは僕も反省しています。またデルリカさんに悪い事をしてしまったです。」
「長道、ヒドイですよねー。デルリカに恨みでもあるんですか? ドS?」
「えー、マリユカ様がそれ言いますか?バッドエンドを用意させたのはマリユカ様ですよ。デルリカさんに不幸を与えないで欲しいですよ。」
「用意したのは長道です。あーデルリカ可哀想。」
「設定したのはマリユカ様でしょ、デルリカさん可哀想ですよ。」
「いや長道がひどいです。」
「いいえ、マリユカ様がひどいです。」
そして2人でしばらくにらみ合って、結局僕が折れた。
「ではデルリカさんにはフォローしますので、マリユカ様も力を貸してください。」
そこでマリユカ様はニパーと輝くように笑う。
「なにか考えがあるのですね!なにをするんですか?」
「あの神通信とかいう異世界間の通信システムを使いたいので協力してください。せめて会話ぐらいさせてあげたいですから。」
するとすぐに一冊の本を出してくれた。
ぱらぱらと読んだけど、あんまり難しくないな。
研究すれば新しい術は出来そう。
「1~2年でどうにかしてみましょう。マリユカ様もこの通信魔法を使うに当たり、康子さんに術式を渡せるように、向こうのアマテラス様に話を通しておいてくださいね。」
「わかりました。きっとアマテラスさんの事ですから、すぐに『おっけーね』って引き受けてくれますよ。」
なんか聞けば聞くほどアマテラス様って軽いんだよな。
一応僕が信仰していた神様だから、この軽さはショックなんだけど。
でも考えようによれば、すぐに願い事を聞いてくれるフットワークの軽い神様なのかもしれないと思えなくもない。うんそうに違いない、そう思っておこう。
現実逃避するように新しい通信魔法の本を見ていると、次の犠牲し・・・希望者の佐藤毅さんが来た。
「あの、勇者希望の佐藤です。よろしくお願いします。」
なんというか、あんまり特徴の無い人だった。
薄い。印象と言うか気配が薄い。はっきりいってモブキャラだ。
しかも見事なモブキャラ。たぶん漫画とかで何度出しても気づかれないレベルのモブ度だ。
まさにモブofモブ。
だが、だからこそ僕の腕の見せ所だな。
まずは今回の設定の説明をした。
「佐藤さん宜しくお願いします。今回は国の中のどこかにある、伝説の鎧と剣を手に入れて、魔王を倒してもらいます。レベルを上げると技や魔法を覚えられますから頑張ってくださいね。何か質問はありますか?。」
すると不安そうに佐藤さんは質問してきた。
「あの、勇者として動くに当たり、私が次にしないといけないこととかは簡単に分かりますか。」
「はい、佐藤さんには仲間が数人つきますので、何となく方向性が話し合いで決まるようになっています。安心して下さい。最悪、佐藤さんが何も考えていなくても仲間が勝手に方向性を決めてくれますので大丈夫です。」
さらに佐藤さんは不安そうに質問を重ねる。
「あと、自分は武道とか魔法とかは素人なのですが大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。僕のほうで開発したゴーレム用コンボ技発動システムで格闘技ゲーム感覚で戦えます。魔法もコマンドで出せるように開発してますので安心してください。」
そこで少し安心したようなので、僕は今回の設定ノートを出した。
今回は準備の時間も多かったので、設定もばっちり。
マリユカ様にノートを渡す。
「マリユカ様、次は王道で爽やかになるように努力しました。バッドエンドの確率は一割くらいです。」
マリユカ様はノートを受け取ると、またノートの中身を見ないで運命の設定をした。
「わかりました、では佐藤毅。いや、勇者タケシーよ、世界の危機を救ってきてください。」
ガンバ、勇者タケシー。
王様「勇者タケシー、死んでしまうとは何事か!」
返事が無い、ただの屍のようだ。
死んだら生き返らないので気をつけましょう。




