大田康子 その12 エピローグ
―大田康子 その12 エピローグ―
それは一瞬の出来事だった。
私は浮遊感に慌てながら、勢いを殺さず一回転して床に立つ。
すると周りで凄い歓声が起きた。
何が起きた?
ここはどこだ?
私を掴んでいる女性の手を振り払い距離をとる。
そして11年前の事を思い出した。
そうだ、私は大会の一回戦で投げられる途中で異世界に行ったんだ。
「せや!」
相手の女性は掛け声で気合を入れて、また私に掴みかかってきた。
異世界に行くまでは、怖いと思っていたはずの相手選手の名前も今は思い出せない。
だが、私は軽く背負い投げた。
驚くほど簡単に投げられた。
「1本!」
主審の声で会場中から歓声が上がる。
そうか、私は帰ってきたんだと実感した。
その後の試合は話にならなかった。
相手が弱すぎる。
遅い、不正確、予測が甘い、反応が悪い、そもそも基本がなっていない。
私が襟を掴んだだけで重心を崩し、手首を返すだけでコロコロ倒れた。
おいおい、私に技を使わせてくれよ。練習にもならないぞ。
残りの試合は全て、5秒以内に1本を取って勝った。
なぜみんな弱いの?
そこで気づいた。ちがう、私が劇的に強くなったんだ。
11年も大天使様直々に鍛えられたんだ。
しかも体を鍛えたというよりは職人技を求められていた。
だから、コッチの体でも強いのか。
今回の優勝でオリンピック出場の可能性が残った。
そしておもった。もしかして・・・・
レスリングの試合に出た。あっけなく優勝。
フェンシングの大会に出た。ガンガン優勝できた。
ボクシングの大会に出た。ヘビー級女子が少ないこともあったけど、全ての敵を秒殺した。
アーチェリーの大会に出た。その辺で適当に買った弓だったけど、圧倒的な命中率で優勝できた。
剣道の大会に出た。相手を連続でKOして優勝したら、大会への出禁をくらった。
フルコン空手の大会に出た。やっぱり全部秒殺。このあたりで秒殺職人というあだ名がネットで流れ出す。
陸上の大会にも出た。長距離も短距離も肉体強化の魔法のお陰で圧倒的な力を発揮できた。
むしろ非常識にならないように力をセーブすることに苦労したくらい。
そう、コッチの世界でも魔法が使えたのだ。
魔法は知識と感覚だ。だから肉体が変わってもつ使えるようだ。
そして、いろいろな大会で優勝するたびにテレビのコメントを求められて答えていたら、ネットで「ブス可愛い」「剛面淑女」「魔性のゴリラ」「やべ、可愛く見えてきた」「オッパイのあるイケメン」とか呼ばれた。
タブンホメ言葉なんだろう。
貴族として散々身につけた所作が案外役立っているようだ。
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カイル、お姉ちゃんが言った『学んだことは誰も奪えない財産』って言葉を忘れちゃダメだぞ。
いまお姉ちゃん自身が、それを実践しているから。
今は33才だけどまだまだ元気だ。
思い出すと日本に帰ってきて、アっという間の3年だった。
まず、日本に帰ってきたあとの私の快進撃は社会現象を生んだ。
そして私は日本人で初めて、一つのオリンピックで4種目9金メダルを取るという快挙を実現してしまいウレシハズカシです。
そのお陰でCM契約だけで年間1億以上の収入も入って来ている。
あと、テレビ番組でマツオデラックスと共演したとき、あの松尾だと気づき、投げ飛ばしてやった。
さらに様々な事が起きて、今年天皇家の三男様のお嫁さんになった。
第三王子との結婚か・・・。いや偶然だよね。
世界中で「ロイヤルファミリー最強の淑女」と呼ばれて親しんでもらっている。
貴族界で生きた私は、皇族の生活も苦にならなかったし、各国のVIPとも友好的に付き合えた。
あと、テロに巻き込まれた時に、傍にいた旦那様と友好国の王と王妃を担いだまま、三階から飛び降りて爆発からギリギリ逃げたりしたのだが、それに関して今映画が作られていて恥ずかしい。
私の役が有名アイドルグループの人気アイドル佐山里美さんだと聞いてさらに死にそうになる。
しかも佐山さんは『私なんかが偉大なヤスコー様の役をやらせていただけるなんて夢のようです。』といって謙遜してくれていたので、余計辛い。
そんな私の息抜きは旦那様との山登りだ。
旦那様は皇族だが、けっこう気さくに山登りとかいく。
そのとき、一般の追っかけの人と共に上ることが多い。
普通の人は知らないかもしれないが、皇族には趣味のスポーツで会う一般人友達は多いのだ。
今日も追っかけの人たちと共に山道をあるきながら、広い空を眺めて、あの日空から降ってきたデルリカお姉様を思い出した。
お姉様、元気にしていらっしゃるだろうか?
日本に帰ってきてから、一日だってお姉様を思い出さなかった日は無い。
毎日お姉様の笑顔を思い浮かべる。
この景色も、お姉様と一緒に見たかったな。
大田康子編、ここに完結!
次回のヤスコー先生の活躍にご期待ください。




