大田康子 その9
ー大田康子 その9ー
そのあと朝食が運ばれてきたが、しばらくお父様は白目で放心していた。
魂の抜けたお父様を放って置いて、私達はナガミーチさんの研究室前に行く。
義母様とジャーニーさんはゴーレムで遊ぶため。
私達は、午前中の授業のためだ。
デルリカお姉様は、今年で25歳だがダイエーン先生やナガミーチさんの博識な授業に興味を持ち一緒に授業を受けている。
勉強が好きみたい。向学心が有って感心しています。
そういえば他の年頃の貴族のお嬢様は、家で何しているんだろう?
ピッツ王子の夜会に行ったら、年頃のお嬢さんたちに聞いて見たいな。
私達が研究室に入って事務室のテーブルの席に着くと、ナガミーチ(長道)さんがマリー(マリユカ様)ちゃんを連れて外に出てきた。
そしてマリーちゃんを義母様に預けてまた研究室に戻ってくる。
先日聞いたのだが、そもそもこの対戦型ゴーレムを作った理由は、義母様やマリーちゃんに仕事の邪魔をされないために、遊び道具を用意したということらしい。
王立魔道研究所以上のゴーレムを『仕事の邪魔をされないために』なんて理由で作るとか、長道さんはすごいな。
なんでも次の日本人の願いが「勇者になる」らしく、そのために日本人でも使える魔術の開発や、経験値で能力が確実に上がるレベルアップのシステムを開発しているらしい。
聞けば聞くほど長道さんは天才的だな。
長道さんは11年魔道を研究しているのだけど、その程度では魔道の世界ではひよっこ・・・のはずだけど、実力は国一番かもしれない。
なんせ、長道さんは今新しい魔道のシステムを開発してるんだから。
普通の魔道研究者がする研究は今ある魔道の術式を研究するだけだと考えると、ナガミーチさんがどれだけぶっ飛んだ事をしているか分かるだろう。
まあ、そんな訳で今から行われる魔道の授業は、この国一番の贅沢な魔道授業なのだ。
「おや、今日はカイルさんも一緒ですか?では復習がてら初歩の初歩からやりましょうか。」
そう言って、ナガミーチさんはカイルの手をとり説明を始めた。
「魔力とは何ぞやというと、それは純粋なエネルギーです。魔術とはなんぞやと言いますと、大きく分けて二種類あります。魔力を使って現象を引き起こす事。もしくは理を書き換える事。たったそれだけですが、ここを難しく考えると、三日でできることも何十年も研究しないといけなくなります。だから最初に知ってください、魔力はどこにでもあり、魔術は魔力を使うだけで行えます。簡単な事なんです。」
この言葉に、カイルは希望で目を輝かせる。
みんな魔術は難しいとか、魔術の勉強は嫌いとかいうらしい。
それはタブン先生が悪いからだ。
偉そうに難しいことを言うのが魔道だと思っている人が多いとミラーズ第一王子が言っていた。
だから、王子がナガミーチさんの魔道薀蓄を聞いて感心した後、本気で王宮に勧誘していたのには苦笑いが出た。
つまり、それくらい長道さんの魔道理論は画期的で効果的で面白いのだろう。
だいたい魔道を『簡単な事だ』なんていうのは、魔道界広しといえども、ナガミーチさんくらいだ。
「じゃあ魔力を流すから感じてみて。魔道で一番難しいのは魔力を感じることなんです。でも先輩魔道師が無理やり手伝えばこの関門も簡単に突破できるんですよ。さ、力を抜いて。」
そういうとナガミーチさんはカイルの手に手をかざす。
すぐにカイルは興奮した。
「あ、暖かいです。あ、腕の中に入って来た。うわあ凄い。」
ナガミーチさんは説明をしながらカイルの全身に手をかざして魔力を流す。
これ、私やデルリカお姉様も最初に受けたモノだ。
あの時はただ興奮したけど、今こうやって見ると面白い。
経絡に沿って手を動かして魔力を通しているんだと分かった。
そして次の言葉も私の時と一緒だった。
「じゃあ僕の魔力が全身に残っているうちに感覚を覚えよう。この紙を魔力で動かしてみてください。」
そういって、風車を出す。
カイルは言われるままに手から魔力を出そうとする。
「カイルさん、手に力をこめるんじゃない、魔力を出すんですよ。呼吸するのに力を入れないのと同じように魔力の出し入れも力は使わない。むしろ力を抜いて駄々漏れにしてみてください。」
すると風車が回りだした。
カイルはさらに興奮した。
「やった、回りましたよナガミーチさん!お姉様たち見てますか、今魔力で回せました!」
私もデルリカお姉様も手をたたいて褒めてあげた。
カイルはやっぱり才能あるな。
私なんて、初めて風車をまわすまで30分くらいかかったのに数秒だったな。
天才誕生の予感。
ナガミーチさんはそんなカイルの頭を撫でて微笑む。
「ほら簡単でしょ、これも簡単な魔法ですよ。初めて魔法を使えた気持ちはどうですか?」
「すごいです!嬉しいです!今日から僕も魔道師なんですね。すごい、すごい!」
ちなみに、ナガミーチさん以外の魔道の先生にならうと、ここまでできる人は100人に1人と言われているし、その1%の人も風車をまわせるまで数年掛かるらしい。
その話をするとナガミーチさん曰く
『ありえないでしょ、100人に1人くらいは一週間以内にできない人も居るかもしれないなら分かるけど。』
だそうだ。マリユカ様のバックアップがあるとはいえ、凄いのだ。
マリア義母様がナガミーチさんに絶対的な信頼を置いているのも当然で、義母様は30歳を過ぎてからナガミーチさんに魔法発動まで導いてもらっているそうだ。
そもそも、ふつうは一桁年齢から始めないと、魔法の発動はありえないと言われている。
だから幼いカイルが魔法を使えるようになったのは、むしろ当然なんだと思う。
この日はさらに魔力を聴く訓練や、他人と魔力をやりとりする訓練を分かりやすい説明をうけながら進めた。
ちなみに私は肉体強化の魔法や衝撃波の魔法とかが得意だ。
難しいのは苦手で、気合でどうにかなる魔法ばかりなんだよね。
午後はダイエーン先生による座学と武芸の時間。
最初、カイルは座学に難色をしめしていたが、私やデルリカお姉様が雑談でもするかのように、イロイロ質問をする姿を見て、徐々に興味を示してくれた。
そして武芸の稽古の時間。
今までは私1人が受けていたが、今日からはカイルも参加する。
今日は槍の訓練だ。
2人で槍の型を習っていると、ミラーズ第一王子とピッツ第三王子が遊びに来た。
ほんとこの2人は、三日とあけずにやってくる。
「デルリカ嬢、ヤスコー。今日もせいが出るな。」
ミラーズ第一王子がやってくると、カイルは身構える。
まだ王子様には馴れないようだ
そんなカイルにも平等に微笑む美麗の王子。
私にはピッツ第三王子が駆けよってくる。
天使王子マジ可愛い。
思わず目じりが下がる。
するとダイエーンさんが咳払いをひとつすると、胸を張るように王子達に向く。
「コホン、ミラーズ殿下、ピッツ殿下。ただいま当家の学習時間にございますれば、授業が終わるまでしばしどこかでお待ちいただけますでしょうか。」
いうと、キっとした釣り目で王子達を睨みつつ、メガネの位置ををスイっと直した。
カッコイイ。
ああ、この人に悪役令嬢として登場して欲しかったな。
きっと今の視線でシビレただろうに、もったいない。
でも、ピッツ第三王子にはこの睨みは効かなかった。
さすが、目つきの鋭い騎士達に囲まれた生活をしているだけある。
「よいではないですか、ヤスコーも稽古は終わりにしてお話でもしましょう。」
そういいながら私の手を引こうとする。
尊い。
美少年王子、尊すぎる。
でも私はやんわり断ることにした。
カイルに今朝『学と言う贅沢を逃してはいけないよ』などと言って、お姉様にまで感心されたばかりだから、ちょっと気まずいから。
「申し訳ありませんピッツ殿下。稽古は私にとっては食事と同じくらい大事な事ですので、もうしばらくお待ちいただけますか?」
だけどピッツ王子は聞かなかった。
「少しくらい良いではないですか。それよりもお茶にでもしましょう。」
するとミラーズ第一王子までピッツ王子に味方した。
「今日休んだからと言ってたいした問題も有るまい。さあ弟もこういっているのだ、もう終わりにしたまえ。」
そういって2人で私の腕を引く。
美青年と美少年の『こっちへおいでよ』攻撃とか、なにこのエロゲー。
いや乙女ゲーだった。
くふふ、カイルごめんね、お姉ちゃんは煩悩に負けました。
私が王子の誘いに乗ろうとした瞬間、思いもよらぬ事件が起きた。
いきなり私の目の前から王子が消えたのだ。
え?何が起きた?
すぐに足元から悲鳴が聞こえた。
慌てて下を見ると、そこには大きな穴が開いていて王子達は穴に落ちていたのだ。
誰かに助けを求めようと横を見たら、デルリカお姉様が居た。
顔に影が出来た怖い表情をして・・・。
「王子様方!人の努力の邪魔をして恥ずかしくないのですか!ヤスコーがこの年で学問、武芸、魔道に関して大人以上の力を持っているのは、日々自ら高みを目指して努力を重ねているからです。それを権力を持つお方が我がままで中断させようとするなど、ワタクシは軽蔑いたします! ミラーズ殿下からは婚約のお申し出を受けておりましたが、完全にお断りさせていたただきます。ワタクシのヤスコーにチョロチョロ近づかないで!」
ちょ、お姉様!
怒りすぎです、落ち着いて。
王子に土魔法発動して穴に落とすとかダメでしょう!
私がオロオロしている間に、お姉様はお屋敷に向って走っていってしまった。
えええ、まってお姉様。
私、ここに残されても困る。
まずは2人の王子を穴から引っ張り出した。
王子様が軽!
ひょいっと持ち上げられた。
穴から救出したら、ミラーズ王子はお礼をいうなりデルリカお姉様を追って走り出す。
ピッツ王子は「すいませんでした」と小声で言うと、やっぱりどっかに走っていってしまう。
なんでみんな走るの。
私も走っちゃうぞ。
でもダイエーン先生は嬉しそうに私の肩を叩く。
「この状況に混乱しているのでしょ。後を追いたいのでしょ。こういう不安定な精神で戦う訓練には良い状況だ。さあ、動揺しつつも訓練だ!」
う、それどころでは・・・・・
そう思いながらも、言われるままに訓練を再開した。
かわいそうにカイルも動揺してるようで、さっきから動きを間違えてる。
でも少し動いたら練習に集中できてきている自分に驚いた。
メンタル訓練はオリンピック選手候補になってからは、かなり講習を受けた。
役に立つもんだな。
集中してる私を見て、ダイエーンさんも満足げだ。
たぶんかなり訓練を続けたとおもう。
そこでダイエーンさんが今日の訓練の終わりを告げると、浮き足立っていたカイルはお屋敷に向って走り出した。
それをみて「このビッグウェーブ、乗るしかない」とかいってダイエーンさんも、どっかに走り去る。
あの人、真面目な顔で意外にギャグ飛ばしてくるんだよな。
やべ、ほんと私だけ走り損ねた。
お読みくださりありがとうございます。
次回から一気に進みます。
おほほ、ヤスコー、追いかけていらっしゃい。




