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大田康子 その8

―大田康子 その8―


今日も朝から、ジャーニーさんはナガミーチ(長道)さんの研究所の前でゴーレム遊びをしていた。

ジャーニーさんは、手に鉤爪をつけたハンサムなゴーレムがお気に入りらしい。

ジャーニーさんの対戦相手はお父様。

お父様はレオタードを来た女性型ゴーレムを使う。


父と愛人が遊ぶ姿に、もう何も違和感を感じなくなった自分に驚きだ。


本当は、かなりギスギスした家になるはずだったのに、ナガミーチさんとマリーちゃん(マリユカ様)のお陰で、家庭の問題は一掃されたと言えるんじゃないだろうか?


そんな2人が見える位置で、私はダイエーン(大炎姫)先生から武芸の朝稽古を受けていた。

ダイエーン先生のやり方は、とても丁寧に反復練習する事に重点が置かれている。

勢いや気合の戦いよりも、職人になることを要求される。そんな武芸稽古だ。


「ヤスコー、踏み込みに正確さが足りないな。毎回5~6mmくらいのブレがある。もっと正確な角度で踏み込みなさい。意識して正確に練習するのが大事だ。間合いは5cmズレたら技の威力は80%以上落ちると思いなさい。」

「はい、先生!」


オリンピック選手候補時代にこの先生に出会いたかったな。

力をつけるというよりも、確実にレベルそのものを変化させるような練習方法は、ただガムシャラに練習するのよりも確実に実力が上がる。

体育会系の中で必死に生きた私だから分かる。ダイエーン先生は最短距離で達人を作る方法を知っていて、無駄なく私の技を進化させているのだ。


1時間半ほど練習して朝練習は終了。

短い時間だが、体も頭も全神経もパンパンに疲れる。

まるで、ダイエーン先生の技に誘導されるように練習しているけど、いつまでたっても奥深さを理解できる気がしない。

この世界で私はまだ11歳とはいえ、前世では30才まで柔道一筋に生きてきた。

その私が、いまだにダイエーン先生の技の天井が見えない。


この充実感は素晴らしい。


くたくたな私の背を叩き「良くなってきたよ」というダイエーン先生は、私と一緒に動いていたはずなのに汗をかくどころか、見事な縦ロールすら全く乱れていない。

無駄なく動いていた証拠だろう。尊敬してしまう。


汗だくの私にデルリカお姉様がタオルを持ってやってくる。

「お疲れ様ヤスコー、着替えたら朝食ですよ。」

お姉様は私の顔の汗を拭いてくれた。

照れるけど、この時間は好きだからあえて大人しく拭いてもらうことにしている。

実質40歳を超えているのに甘えすぎな気はするけど、甘えが許されると甘えてしまうね。だって嬉しいし。


軽く湯浴みをしてからお姉様と朝食の席に行くと、マリア義母様が弟のカイルにテーブルマナーを教えていた。


朝の挨拶をして席につくとカイルはウンザリ疲れた顔で私を見る。

「デルリカお姉様、ヤスコー姉様、おはようございます。はー・・・・。」

思わず苦笑いが出てしまった。

「ため息なんかしてどうしたカイル、マナーの勉強は辛いか?」

「はい、僕には無理ですよ。産まれたときからマナーを身に着けているお2人には僕の苦痛は分からないでしょうけど。」

そういうと下を向いてしまった。


するとデルリカお姉様が思い出すような表情をする。

「そういえば、ヤスコーがマナーのレッスンを嫌がったことは無いですわね。ワタクシなんて小さい頃はマナーの練習が嫌でよく逃げましたのに。」


それを聞いてカイルが驚いた。

「え!究極淑女のデルリカお姉様がマナーのレッスンから逃げたんですか?信じられない。」

「そうですよ、ワタクシだけでなく子供はみんなマナーのレッスンが嫌いなものす。でもヤスコーはいつも楽しそうにやっていましたわね。」


そこでデルリカお姉様とカイルが、お茶を口に運んでいた私を見た。

「え?私はデルリカお姉様が見本を見せてくださったので、その真似をするのが楽しかった記憶しかないですよ。遊びに近かったから嫌でなかったのかもしれませんね。」


そこでマリア義母様がクスリと笑った。

「ふふ、そういえばそうでしたわ。デルリカったらヤスコーに教えるためにマナーのレッスンを真面目に受けましたから。教えてもらった事をそのままヤスコーに教えに行くものですから、復習もできて身についたのかもしれませんね。」

「もう、やめてくださいよ、お母様ったら。」

ちょっと恥ずかしそうなお姉様かわいい。


そこで私はカイルに視線を戻す。

「カイル、沢山学ぶのは面倒かもしれないが、学ぶという事は実は一番贅沢なことなんだ。学んだことや身につけたモノは泥棒も盗んでいけないし、火事で財産がなくなっても焼けてなくなったりしない。学んだり身につけたことは、いくら多くても邪魔にはならず、むしろ窮地では一番助けてくれるモノだ。貴族になったのだから学ぶと言う贅沢を逃してはいけないよ。」


その言葉に隣のデルリカお姉様は凄く感心してくれた。

「流石ヤスコーですね。今の言葉はワタクシの胸にも響きました。ヤスコーはワタクシなぞより、よほど大人ですわね。」


いや、そんな綺麗な瞳で見つめないでください・・・。

40歳を過ぎると勉強のありがたみが分かるだけですから、その綺麗な瞳はやめて!恥ずかしいです。

それに、この世界に転生したからこそ余計実感がある。

私がこの世界に持ってこれたものは30歳までに学んだことだけ。

だから分かる。

学ぶという事の贅沢さが。


恥ずかしいので私は急いで話題を変える。

「カイル、なれない勉強と言う意味では魔法はどうだい?」

すると、カイルはさっきよりもさらに苦い顔をした。

「魔法ですか?あれは無理ですよ。マナーと違って見当もつきません。」


実は私もデルリカお姉様も魔法が使える。

ダイエーン先生やナガミーチさんの英才教育の賜物である。

あの2人に習うなら、魔法が使えないというほうが難しいだろう。


あれ?カイルは誰から魔法を習っているんだろう。


「カイル、誰から魔法を習っているんだ?」

「はい、お父様です。」


するとデルリカお姉様は私と一瞬目を合わせると不思議そうな顔をした。

デルリカお姉様も私と同じ疑問を持ったらしい。


デルリカお姉様は、申し訳なさそうにマリア義母様を見た。

「お母様、魔法を習うならダイエーン先生かナガミーチの方が良いのではないでしょうか?ワタクシは学園で学んだときよりも、ダイエーン先生やナガミーチの使う魔法を習ってからのほうが、よほど魔法の腕が上がったくらいですのに。」


マリア義母さまが口を開こうとしたところで、ちょうどお父様とジャーニーさんが食卓に現れた。

「デルリカ、それは私から説明しよう。カイルは大事な伯爵家の嫡子だからな。私自身で教え導こうと考えたのだ。」


えー、へっぽこお父様がー。

長道さんがくれた攻略本ではカイルは、武芸・学問・魔術において天才的な完璧超人のシスコンだったのに、お父様のせいで未来が変わってしまう。

私は少し考えて、あえて家長に意見をすることにした。

ただ、ストレートに言っても聞いてもらえないだろうから、適当に屁理屈を混ぜて。


娘が家長たる父に意見するなぞ許されない世界だけど、カイルのためにはしょうがない。


「お父様、娘の身で出すぎたことと分かっていますが言わせていただきます。カイルはお父様が手をかけないほうが良いと思います。貴族の嫡子が馬鹿貴族になる場合、大抵が家長が手を掛けすぎて権力を得て勘違いしてしまう。もしくは、父親に甘やかされすぎてモノの道理が分からなくなるからではと愚考します。カイルを立派にするためには、お父様以外の優秀な人に任せるのがいいと思います。」


私がそう言うと、マリア義母様が大きく頷いた。

「旦那様、わたくしが説明出来ずにモヤモヤしていた事をヤスコーが言葉にしてくれましたわ。わたくしも全く同じ意見です。カイルは優秀な教師に任せて、旦那様は貴族の務めにご専念いただきたいと思います。」


デルリカお姉様も援護射撃をする。

「そうですわお父様。お父様はワタクシの目から見ても嫡子であるカイルに甘いと思いますの。せめて一人前になるまではお父様以外の教師に任せるのが宜しいかと思います。」


後ろに控える執事のハックも私達の意見に頷いている。

ジャーニーさんは、なんか気配を消して存在感を消した。

これは「ご貴族様の問題は私抜きでお願い」という意味だろう。


つまりこの食卓にお父様の味方はいない。

お父様フルボッコ。

よくみるとお父様は味方を探してキョロキョロしている。

諦めろ伯爵、キミは四面楚歌だ。

すがるようにカイルを見る。

「そうだ、カイルはどう思うかね?」


しかしこれがトドメになった。

「あの・・・、お姉様たちと一緒に勉強したいです。」



お読みくださりありがとうございます。

いけ、究極淑女デルリカ!次からはお前のターンだ。

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