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大田康子 その5

ちょっと血がでます。

―大田康子 その5―


デルリカお姉様をエスコートするようにハルベリー公爵のお屋敷に入った。

お屋敷の庭園は実に素晴らしく、ベルセック伯爵邸の庭園が芝生の公園程度に思える見事さ。

さすが公爵家はちがうな。


招かれている人たちも、みな美しい人たちばかり。

貴族って、美しいのが普通のようだ。


そのなかでも一際輝くデルリカお姉様は、私を連れてハルベリー公爵夫人に挨拶をした。


「本日はお招きいただき、誠にありがとうございました。ハルベリー公爵夫人にお声をかけていただけるなど、身に余る光栄でございます。」

「ふふふ、何をご謙遜を。こちらこそ社交界の華と名高いデルリカ様に来ていただけるとお返事をいただいてから、楽しみで寝不足になってしまったくらいですのよ。さ、ヤスコー様とご一緒に、こちらのテーブルにお座りくださいな。」


ハルベリー公爵夫人は、地位を傘に着ない素敵なご夫人だ。

私にも優しくしてくれる。

感謝の意味で、せめてハルベリー公爵夫人が席に付くとき椅子を押して差し上げた。そのあともちろんデルリカお姉様にも。


それをハルベリー公爵夫人はとても喜んでくれた。

「ヤスコー様は理想的な紳士のように気遣いも細やかで、しかも優しい笑顔が素敵ですわ。いつもデルリカ様のお傍にいらっしゃる姿を見ては、失礼ながらワタクシもヤスコー様のような妹が欲しかったと思ってしまいますの。弟のような妹と言うのは女同士の付き合いも出来て、理想的だと思いませんか。」


その言葉に、ほかの貴族のご婦人達も「本当ですわ」「羨ましいです」と微笑む。

ううう、照れくさい。


照れると顔が赤くなっちゃうんで、実を縮めてうつむくと、そこでまた「まあ可愛らしい」「純粋でいらっしゃるのね」などと言われて、ホントだれか助けて。

デルリカお姉様に助けを求めるように顔を向けると、なぜか誇らしげに微笑んでいた。


お姉様・・・助けてください・・・・


「がはははは、デルリカ嬢が来ているというので余も顔を出してやったぞ。デルリカ嬢はいずこだ!」

和やかに私をホメ殺していた空気が、バカっぽい雄叫びに一蹴される。


即座にハルベリー公爵夫人が顔をしかめる。

「呼んでいませんのに、図々しい。」

その言葉にお姉様の表情が曇った。

「申し訳ありません、ワタクシのせいで。」

「いいえ、デルリカ様は悪くありませんわ。あのバカ王子が悪いのです。第一王子のミラーズ様しかお呼びしておりませんのに。」

ハルベリー公爵夫人は今雄たけびを上げた男を、はっきりバカ王子とかいってしまった。

ま、バカ王子なんだけど。

今来たのは、バカで有名な第二王子のサムソン王子だ。

筋肉しかとりえの無いバカ王子。


バカ王子はお姉様を見つけると、綺麗なお庭の植え込みを掻き分けるように近づいてくる。

やめろバカ王子!このお庭の植木に傷をつけるな!

信じられない、このお庭のすばらしさを理解しようともしない奴が王子なんて、ホント信じられない。


その光景に、怒りで私が口を開こうとしたら、第二王子を必死に止めようとする二人の美形が目に入った。

1人はデルリカお姉様と同い年の第一王子のミラーズ王子。美形だけど非力だ。

もう1人は少年で、今年12歳にになったはずの第三王子のピッツ王子だ。こちらも美形だけど、やっぱり非力。


天はさすがに優秀で美つくしい王子達に、腕力までは与えなかったか。

そのかわり、馬鹿で無神経な第二王子に全てのパワーをあたえやがった。

くそ、神は馬鹿か!もっと第一王子や第三王子にもパワーを与えてあげてよ。

そこで一瞬マリユカ様の顔が頭に浮かぶ。

あ、

ああ、

あの人が神だった。じゃあせめて美形な王子が居ただけでもラッキーと思うべきかもしれない。

そんな諦めた気持ちにさせてくれるマリユカ様は、ある意味偉大な神かもしれない。


そんな諦めの境地に達してる間にも、ミラーズ第一王子とピッツ第三王子を引きずりながら、サムソン第二王子がやってくる。


ここはやっぱり私が出ないとダメかな。

そう思っていたら、ハルベリー公爵夫人が颯爽とお姉様とサムソン王子の間に立ちはだかる。

「サムソン王子、ここは当家の敷地内です。いかに王子であってもこのような狼藉は許しません。ワタクシが招待させていただいたお客様にご不快な思いをさせる訳には参りません。早急にお引取りください。」


くはあ、ハルベリー公爵夫人、カッコいい!

上品で優しい素敵な女性だと思っていたけど、いざというときの毅然とした態度も素敵。

ああ、私もこういう女性になりたいな、憧れちゃう。


けど、ダニ王子のサムソン王子にはこの素晴らしさは分からなかったようだ。

「なにを!公爵家の嫁の分際で無礼であろう。女風情が余に口を出すな!」

そういうなり激昂のまま、サムソン王子はハルベリー公爵夫人に手を上げた。


危ない!


他のご婦人達の悲鳴が上がる中、私は咄嗟に飛び出した。

そしてハルベリー公爵夫人を後ろから抱きしめるようにしながら、左手でサムソン王子の拳を受ける。


ズシンと言う振動が地面に伝わった。

でもハルベリー公爵夫人には届かない。

よかった。

「何者だ!余の制裁の邪魔をするな!」


ふざけるなバカ王子!

私は怒りに震えながらも、一旦バカ王子を無視してハルベリー公爵夫人をそっとお姫様抱っこをし、元々座っていた椅子ま運び座っていただく。

そして、片膝をつき騎士のように頭を下げた。

「ハルベリー公爵夫人、このたびは我ら姉妹の騒動に巻き込んでしまい、大変申し訳ありませんでした。ここから先は、少々お見苦しいところをお見せするかとは思いますが、なにとぞ私にお任せをお願いいたします。」


言葉を失った公爵夫人に背を向け、私はバカ王子に向き合う。

「私の名はヤスコー・ベルセック。ベルセック伯爵家の次女である。王子に誇りが有るのならば我が決闘の申し出を受けられよ。私を倒さぬ限りデルリカお姉様には近づけぬものと知れ!」


後ろで何故かご婦人達の悲鳴が聞こえた。

あれ、私の大声怖かったかな。

すいません、後で謝ることにしよう。


するとサムソン馬鹿王子が剣を抜いた。

「貴様、そのゴリラのような顔で女だと!ゴリラ女程度が俺に決闘とは汚らわしい。お前などと堂々の決闘などできるか。成敗してくれる。」

決闘しないのに向ってくるって意味分からん。

まあい、向ってくるなら一緒だ。


私は敵に集中して、構える。

この馬鹿王子にはムカついた。剣など抜いてやらぬ。

大天使様直伝の武芸をなめるなよ。

素手で叩きのめされる屈辱を与えてくれる。


「素手で構えるだと!なめるなゴリラ女!」

王子は剣を私の頭上に振り下ろす。


だが遅い。

その筋肉は無駄の固まりか?


右手で振り下ろされる剣の腹をたたいて軌道をそらしつつ、右ひじを顔にぶち込んでやった。

半歩だけ踏み込んでの肘打ちだが、その一撃で王子の顔は砕けた。


頭への攻撃に筋肉自慢なんて意味ないのさ、自慢の筋肉は頭蓋骨の硬さに関係ないんだからね。

頭蓋骨を砕く力があれば、殺し合いにパワーの差なんて意味ないんだ(大炎姫様談)。

王子のアゴが粉砕され、顔がリアルにくの字にまがった。

漫画と違って顔には弾力は無い。

この世界の医療では、もう一生顔は曲がったままだろう。


「ぐはあああああ」

妙な叫び声をあげて倒れそうになっている王子の襟首を掴みひきつける。

一撃では終わらせないよ。

私は得意の、背負い投げを放った。


ビターンという音と共に、地面の振動が数メートル離れたお茶会のテーブルを揺らす。

あちゃー、お茶こぼしちゃったかな。


コレだけの勢いで王子をすこし斜めに落としたので、王子の肩と膝が壊れたはずだ。

私はボロ雑巾のようになった王子をさらに腕力で引き上げるように立たせる。

王子は血だらけの顔でフガフガ泣きながらなにか言っているが、あごが壊れているので声にならない。


ざまー


そんな王子を丸太でも担ぐように片肩に担いだ。

「ミラーズ王子、ピッツ王子。サムソン王子に手を上げたのは私一人の罪。できましたらハルベリー公爵夫人や我がベルセック家にお咎めがないよう口添えをお願いいただけますと幸いです。」


そういうと私は、お屋敷の外にあるであろう馬車にむけて歩き出した。

歩き出す私にピッツ王子が慌てて駆け寄る。

「あ、どこに行かれるんですか?。」

「はい、こんな汚いサムソン王子は、美しいハルベリー公爵邸の庭園にはふさわしくありません。庭園から消えていただくために馬車までお送りいたそうと思います。」

そういって、片肩にサムソン王子を担いだまま馬車に向かい、ポイっと馬車の中に捨てた。


ここまでは良い。

さて、こんなトラブルを起したことをどうやってハルベリー公爵夫人にお詫びしようか?

それよりも、カッとなってやってしまったけど、お姉様やお義母様にご迷惑をおかけしてしまうだろうか?


ヤバ、冷静になってきたら泣きたくなってきた。


私は打ち首になりそうだったら、マリユカ様にリタイアをお願いすればいいけど、ベルセック家の人たちは逃げられない。

うっぐぐ・・・・

あとで長道さんに相談しよう。

あの人なら、きっとどうにかしてくれるはず。そう信じよう。


わたしはトボトボお茶会の席に戻った。


すると、意外な事態になっていた。

ご婦人がたが、凄い勢いで出迎えてくれたのだ。

もう、氷川き○しになった気分といえば分かるだろうか。

すっごい黄色い悲鳴とともに迎えられた瞬間、怖がられて叫ばれたのかと思った。

でも、皆様は顔を高潮させて凄い興奮している。


そのみなさんに押し出されるようにデルリカお姉様が私に近づいきた。

泣いていた。

あ、私やっちゃった。

ぐうううう、お姉様を泣かせてしまうとか、切腹しかないか、私!


混乱する私に、泣きながらデルリカお姉様は抱きついてきた。

「ヤスコー!ワタクシのために危険な事はしないでください。ヤスコーはワタクシの全てなのですよ。ヤスコーが怪我でもしたらワタクシ悲しみで死んでしまいます。」


くは!お姉様は私を心配して泣いてくれていたのか!

「お姉様!ご心配をおかけして本当に申し訳ありません。」

私もお姉様を抱きしめた。


その姿を見て、ご婦人達もハンカチで目を押さえ始める。

貴族の女性は、すぐ泣くんだよね。


しばらくお姉様と抱き合っていると、後ろから素敵な男性の声がした。

「デルリカさん、ヤスコーさん。本日は我が弟が不始末を起し、大変申し訳ないことをした。謝罪させて欲しい。」

振り返ると、第一王子のミラーズ王子だった。


私は恐縮してしまったけど、お姉様は王子の声などガン無視で、まだ私に抱きついてる。

うん、私が返事するしかないな。

「このたびは、第二王子に手を上げてしまい、誠に申し開きもございません。出来ましたら私一人の罪として・・・・。」

「まて!それ以上言うな。このたびは尋常な決闘であった。私と弟の決闘であったのだよ。私は代理人を指名し、弟は自ら戦った。ゆえにヤスコー殿は武勇を誇るが良い。いずれ追って仔細を伝えよう。」

そういと、ミラーズ第一王子はハルベリー公爵夫人に優雅にお詫びをつげて去って言った。

え?それって私は無罪ってこと?うーん、ちょっと分からない。


すると今度はピッツ第三王子が私に駆け寄ってくるなり、天使のような笑顔で微笑み、

「ヤスコーさん、招待状を出しますから私の主催する夜会には必ず足を運んで欲しい。ヤスコーさんと語り合う日を楽しみにしています。」

と、つげて去っていった。


夜会に誘われた・・・

でもわたしは11歳だから夜会はでられないんだよね。

淑女の夜会参加は13才になってから。これ常識。

ま、180cmの女が11歳とは思わないか。デカ女ですいません。


王子達が去った後。

そのあとは、凄い勢いで楽しそうなご婦人方にもみくちゃにされた。

第二王子の剣なんて、このご婦人方のパワーに比べたら虫が止まっているようなもんだった。


後日、本当に王陛下とミラーズ第一王子の連名で、決闘の勝利を納めた感状が届けられたので、無罪放免ということで良いのだろうかと数日悩んだ。


読んでいただき、ありがとうございました。

ヤスコー、マジ無双。

ヤスコー、マジ貴族社会でハーレム状態。

ヤスコー、マジで妹大好きな美人姉のいる生活。

ヤスコー、マジ勝ち組だ。

しかし忘れてはいけない。彼女は乙女ゲー希望だったという事を。


それとご指摘があったので補足。

感状というのは、武勇を認められた時に偉い人から出る証明書です。

感謝状ではありません。

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