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大田康子 その4

―大田康子 その4―


わたしは11歳になった。

身長は180cm。

前世の身長と同じになった。


もう、いろいろ諦めた。

諦めた上で、デルリカお姉様や、ナガミーチ(長道)さんにアドバイスを受けつつ私は女磨きをしているわけだ。


デルリカお姉様は貴族としての所作を教えてくれる。

ナガミーチさんは細かく私の可愛さを引き出す具体的ナアドバイスをくれていた。

例えば「そこはマリユカ様のように軽く肩をすくめて微笑む」「もっとマリユカ様のように楽しさを表現して。」「照れないでマリユカ様のように両手を使って素直に・・・」等々。


その甲斐あってか、大人のご婦人の皆様からは「まるで大きな犬のように可愛らしい」「所作が優雅で素晴らしいですわ」と良い評価を受け始めた。

人は、顔の不細工さだけで絶望する必要は無いと最近感じている。


最初は些細な自信だった。

デルリカお姉様が「可愛い」と言ってくれることだけで嬉しくて、少しずつ可愛くあることに抵抗がなくなってきた。


今では愛嬌のある熊をイメージして、自分を磨いている。

自分が不細工と言う後ろ向きな気持ちは、私の中から消えていた。

そう思えるきっかけを作ってくれたデルリカお姉様には感謝しかない。


そういえば、ダイエーン(大天使様・大炎姫)様の教えも凄くためになっている。

ダイエーン様の教えてくれる基礎教養と武芸の訓練は、私を明るくしてくれた。

教養はご婦人達と話すことを楽しくしてくれたし、武芸の訓練は貴族のおじ様達との共通の話題を提供してくれている。


最近では信じられない事に、「うちの長男と婚約を・・・」という話がきているらしいから驚いた。

理由は、貧弱な長男を支えるために、強靭な妻がきてくれれば家にとって安心という理由らしい。

そんなモテ方もあったのか。

それを見越して美人ではない私が男性に必要とされる作戦として武芸を厳しく鍛えてくれたのですね。

さすがです大天使様。


そんな私の最近の楽しみは、デルリカお姉様とお茶会に参加することだ。

容姿にコンプレックスが強かった頃には信じられないことだけど、今は一番の楽しみ。


最初、デルリカお姉様に誘われた時は腰が引けた。

だってこのゴリラのような体にドレスとか無理だし。

そのことで悩んでいたら、ナガミーチさんが『いっそ男装でいいんじゃないですか?きっとカッコよくなると思いますよ』というアドバイスをくれたので、それに従い男性の服を着てみた。


それが当たった。

お姉様をエスコートするようにお茶会に顔を出すようになったら、貴族の淑女達の人気者になり、今にいたる。


可愛い花のような貴族のお嬢様に囲まれて過ごす時間は楽しい。

今日もお姉様をエスコートするようにお茶会に向っている。


馬車で揺られながらニコニコしていると、今日はお姉様は私に申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。

「ヤスコー、ナガミーチから聞いてワタクシの為に男装してくれているのでしょ。ヤスコーには助けてもらってばかりで申し訳ないですわ。」

「え?私がお姉様を助ける?私はお姉様からイロイロもらうばかりで、助けて差し上げられたことなん無いと思いますが?確かにナガミーチさんにアドバスを受けて男装をしていますが・・・、これってもしかして、何か意味があるんですか?」


すると少し驚いた顔をしたデルリカお姉様は、また優しく微笑んだ。

「そうですか、あなたはまだ知らなかったのですね。そうですか。」

「あの・・・。」


少し考えたお姉様は真面目な顔で私に向き直る。

「そろそろヤスコーにも話さないといけないかもしれませんね。嫌な話でワタクシを軽蔑するかもしれない内容ですが聞いてくれますか?」

「私がお姉様を軽蔑なんてするなんてありえません。たとえお姉様が大悪党だったとしても私はお姉様の味方です。」


私のその言葉を聞いてお姉様は辛そうに話してくれた。


「ワタクシは13歳の時、本気で恋をしました。

野党に襲われたワタクシとお母様を見知らぬ異世界人が助けてくれたのです。

その愛しいお方の名は松尾様。」


ん?松尾って、デブで『拙者にハーレムを』とか叫んでいた男だよな。

一瞬、奴の顔がよぎる。

私がやつの事を思い出していると、お姉様は夢見る乙女のような顔で話を続けた。


「松尾様は、刃物で襲い掛かられても弓で狙われても、全て弾き返し、悪漢どもを一撃で殴り倒す強さをお持ちでした。しかも笑顔が素敵で、ワタクシ達の心を鷲づかみにするような優しさを持つお方だったのです。そう、きっと勇者の資質を持ったお方だったに違いありません。」


いや、勇者は無いでしょ。

あの拙者デブは勇者と言うより、手足があるスライムって感じだし。ポヨンポヨンしてたし。


「一目ぼれしてしまったワタクシは、はしたない事ですが・・・その、すぐに松尾様に全てをささげたのです。」


え?

13歳のお姉様の全てを奉げた?

スライム男に?


・・・・・・松尾!!!!!

あの野郎、見つけたら殺してやる!


怒りが吹き出しそうになったけど、一呼吸おいてお姉様に話の続きを求めてみた。

「お姉様、松尾さんはその後どうしたのですか?」


そこでお姉様の顔が暗くなってしまった。

「ワタクシは松尾様を愛しすぎてしまいました。そんな私は異世界人の方は役目を終えると元の世界に返ってしまうという話を聞いてしまい・・・・斧で襲い掛かってしまったのです。離れるのが嫌で一緒に死のうと思いまして。」

「え?。。。えええええお姉様が斧で人を襲ったのですか?嘘ですよね。」


「いいえ、本当です。それまで敵の刃物を全て弾いていた松尾様の体に、なぜかワタクシが振り降ろした斧は深く肩をえぐりました。そのせいで松尾様に逃げられてしまったのです。」


うわあ、凄い話聞いちゃった。

ちょっと引いた私に構わず、お姉様は淡々と言葉を続ける。

「ワタクシ以外の女性達もみんなで松尾様を殺そうと追い掛け回しました。そのとき松尾様はチャペルに逃げ込んだのです。その時の女達は30人は居ました。みなで松尾様を殺して自分も死のうとチャペルに襲い掛かったのです。」

「うわああ、凄い怖いです。」


「その狂気の中、どこからともなく現れて、ワタクシ達が松尾様に襲い掛かれないように、チャペルの入り口を必死に押さえて松尾様を逃がしてくださったのが・・・ナガミーチでした。」


あー、調整者の長道さん。苦労したんだ。

「ナガミーチさん、面倒見良さそうですもんね。」

「はい、そして斧や鉈で入り口を壊してチャペルに入ったら、松尾様が光の中に消えていくのが見えたのです。」


リタイアしたんだな。

私も長道さんにリタイアの方法は説明されていたからピンと来た。

しょせん松尾って事だね。


「そのあと、みんなでナガミーチを囲んで問いただしたら、逆に凄い勢いで怒られてしまいましたの。折角マリユカ様が召喚したのに、ワタクシたちが無茶しすぎたせいで元の世界に帰ってしまったって。」

「さすがのナガミーチさんでもそれは怒ったか。。。いや、刃物を持った正気を失った30人の女性にかこまれて怒るとか、ナガミーチさんて意外と豪傑ですね。」


「ふふ、そうですね。そしてみんな正気に戻りました。刃物を手にしている事に気づき、震えてしゃがみこむ者もいましたし、悲鳴を上げて泣き叫ぶ者も居ました。ナガミーチの話では、松尾様の体は愛した人からの攻撃は弾き返せないという秘密を聞き、ワタクシも半狂乱になりましたわ。」


落ち込むお姉様を見て、私はせめてお姉様の手を握った。

お姉様は私の手を握り返し、肩を落とした。

「自分勝手な話なのですが、ワタクシ、、、、今でも松尾様を想っているのですよ。勝手な女ですよね。斧を振り降ろしたくせに、愛しているなんていうのですから。」


私は泣いてしまった。

くそ松尾!私のデルリカお姉様に、なんて心の傷を残してくれたんだ!


抱きしめてお姉様を励まさなくちゃ。

「お姉様、そんなの逃げた松尾が悪いんです。お姉様は悪くない。お姉様がそんな事で苦しむなんておかしいです。」


お姉様は力なく笑う。

「ありがとうヤスコー。やっぱりヤスコーはワタクシの天使です。松尾様を失い、希望を失っいながら生きていた時にヤスコーがお屋敷に現れました。すべてに絶望していたワタクシの指を掴み、笑うヤスコーを見て乾いた心がとても温かくなるの感じたのです。ワタクシはヤスコーのお陰で、人の心を取り戻せたのですよ。あなたのお陰なのです。ワタクシが人生を取りも戻せたのは全てヤスコーのお陰なのです。」


お姉様ああああああ!

そんな過去を背負いながら私を可愛がってくれて居たんですね。

もう、私はモテなくてもいい!

一生お姉様と一緒にいる!!


私が心の中で感極まっていると、やっと話が最初に戻ってきた。

「ワタクシのそんな気持ちを知っているナガミーチは、ある日ワタクシに知恵を貸してくれたんです。

『松尾さんを忘れられずに他の男性を遠ざけたいというのなら、ヤスコーさんに男装してもらってエスコートしてもらうのはどうでしょう。そうすれば男性は近づきにくくなるし、ヤスコーさんも外に連れ出せて楽しい事があるかもしれないし。一石二鳥でしょ。ヤスコーさんには僕から話をしておきますね』って。お陰でヤスコーとお茶会にいけてワタクシも楽しみが増えました。」


長道さんの暗躍っプリ、感心しちゃうな。

私の勘だけど、今回私がベルセック伯爵家に生まれたのも、スライム松尾の悪行のフォローとしてなのではないかと思えてきた。

絶望した少女に生きる意味を与えるために、妹を与えた・・・。長道さんならやりそうだ。


そんな衝撃に事実について考察していると、馬車はお茶会に到着した。

今回のお茶会はハルベリー公爵夫人の主催。


さて、気を取り直してお姉様をしっかりエスコートしますか。

私のお姉様にバカ貴族どもを近づけないように頑張るぞ。


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