大田康子 その3
―大田康子 その3―
私、6歳になる。
驚くことに、すでにデルリカお姉様より大きくなった。
現在身長160cm。
もう一度言います。私は6歳。
胸囲は95cm。
でも脂肪はない。オッパイというより大胸筋。
肩幅も凄い。
相手がフックを打ってきても肩の盛り上がった筋肉で防御できるレベルで私はゴツい。
大事なことなのでもう一度言います。
私、6歳です。
でも一番驚くのは、この私に向けて微笑むデルリカお姉様の言葉だ。
「ふふ、今日も私のヤスコーは可愛いわ。」
お姉様の美的感覚が心配になった。
「お姉様、私のようなゴリラに可愛いはないかと・・・。」
すると、お姉様はニコニコしながら背伸びをするように私の頭を撫でてくれた。
「そうやって、オドオドして困る姿とかも可愛いのですよ。」
この人には敵わない。
他の人に「可愛い」とかいわれると「無理させてスイマセン」と思うけど、デルリカお姉様が言ってくれると素直に嬉しい。
私の頭を撫でると、デルリカお姉様は夜会に向う。
「ヤスコー、お菓子をもらってきてあげますからね。」
そういって手を振って馬車に乗るデルリカお姉様は。
お姉様は、求婚者が後を立たない社交界の華だ。
美しくも可愛らしい顔立ちに、軽くウェーブのかかったブロンドは、まるで発光してるんじゃないかと思うほど光り輝いて見える。
私が男だったら、恐れ多くて近づくことすら出来ないだろう。
実際、お姉様に求婚してくるのは公爵家や王家の流れを汲む人達ばかりだ。
なのに、もう20歳になったにも関らず、お姉様は全ての求婚を断っている。
だから余計に、高貴な男達は必死に求婚を続けているようだ。
いまでは「デルリカ嬢をものにするのは王になるより難しい」とすら言われているほど。
それくらい貴族達は必死でお姉様に言い寄ってる。
デルリカお姉様を得れば、それだけ貴族世界で見栄を張れるのだろう。
・・・・ばからしい。
お姉様の美しさだけを見て、欲望と虚栄心で求婚する連中はみんなハゲればいいのに。
お姉様の優しさや愛情深さを理解してる奴らはいないだろう。
悲しい。
切ない気持ちでデルリカお姉様の馬車を見送ると、ナガミーチさんがフラフラ歩いてきた。
あ、あの様子じゃまた寝るのも忘れて研究していたな。
ナガミーチさん・・・というか長道さんは、科学的な視点からこの世界の魔術を研究し始めていて、けっこうハマっているみたいだ。
ゴーレムもその研究の一環らしい。
私が、唯一気を許している男性である。
長道さんは、マリユカ様一筋なのでデルリカお姉様に妙な欲望を持っていないし、わたしに対しても自然体でモノをいってくれる。
しかも、率直に言葉にするくせに、デリカシーのある心遣いを感じる優しい人だ。
「ナガミーチさん、また徹夜ですか?」
私みたいなゴリラ女が近寄っても嫌な顔をするどころか、むしろ友人に対する微笑を返してくれる。
この世界の女性は美しくないと辛い扱いを受けることも多く、私は露骨に嫌な顔をされることが多いけど、長道さんは全然気にしていないのがありがたい。
「ええ、ヤスコーさんに勝てる人型ロボット・・・じゃなくてゴーレムの作成が大変でね。返し技のフラグのループを研究していたら、いつの間にか武道の技に詳しくなってきちゃいましたよ。」
今、うっかりロボットっていいましたよね?
まあ聞かなかった事にしますけど。
ナガミーチさんは、のん気な表情のまま小脇に抱えたマネキンのようなロボット・・・じゃなくてゴーレムを私に見せてくれた。
「でも今度のは凄いですよ。」
「へえ、今度のはどんな改良をしたんですか?」
すると、起動させて動かしてくれた。
「武道の技は囲碁や将棋と同じで、実は定石のようなパターンが重要なんです。ですから、沢山経験を積ませて人工知能内にパターンを蓄積する機能をつけたんです。蓄積された経験を後から最適化することで、少しずつ強くなるんですよ。」
うん、言ってる意味がよく分からない。
まあ長道さんのいう事は、いつも難しくて半分以上分からないからいつも通りとも言える。
その長道さんの後ろから、可愛い女の子がヒョコリと顔を出す。
年は私と同じ6歳と言う設定だが、こちらは普通の6歳よりも少し小柄にみえた。
「ヤスコーに勝てるゴーレムが作れたら、私もそのゴーレムを使って遊ぶ予定なんですよ。」
可愛い少女はそう言うとニパーと笑いかけてくれた。
髪の毛は黒色パッツンに変えているが、この少女はマリユカ様。
本当に可愛らしい。
女神様は、見た目の年齢も自由自在なようで羨ましい限りだ。
いちおうナガミーチさんの姪という設定でお屋敷に一緒に住んでいる。
3年前に私が「容姿の事でマリユカ様に文句があります!」と長道さんに詰め寄ったら「ちょっと待ってて」といって気軽に連れて来てくれたのだ。
まあ、文句を言っても「大丈夫、長道のシナリオを信じて!大丈夫だから!」と言って取り合ってくれなかったけど。
一応、高校で乙女ゲーに突入するのは間違いないようなので、そこは安心した。
ちなみに、つれてこられたマリユカ様は、私の質問に答えた後も帰らずに、それ以来ココで住んでいる。
そういえば長道さんは面白い人だ。
私は長道さんと6年の付き合いになるけど、この人は全くブレない人だといつも思う。
行動指針はマリユカ様第一主義。
そして作るゴーレムは必ずメイド姿。
男型のゴーレムとか注文されても即効断り、「メイド以外のゴーレムなぞゴミでしかない」と豪語していた。
なのに、マリユカ様が「ゴスロリのゴーレムも見たいです」といったら「メイドとゴスロリ以外のゴーレムなぞ認めない」と一瞬で主張を変えた。
まあだからこそ、私も気が許せるんだけど。
この人の前では、マリユカ様以外は大天使様だろうと、デルリカお姉様だろうと、ゴリラみたいな私だろうと、みな「マリユカ様以外の女性」でしかないから。
私は、ついでなので長道さんに私の容姿について質問してみた。
「あの、デルリカお姉様は私を可愛いというのですが、私はゴリラみたいなのでちょっと辛いといいますか・・・。そのあたりをナガミーチさんはどう思いますか?」
すると、『何言ってるんだか』って感じの微笑を見せた。
「仕草や思考パターン、言葉遣いや普段の行動で人の印象は大きく変わります。顔が可愛くないキャラに感情移入させるような事はテクニックとしては簡単なんですよ。そうですねー、たとえばヤスコーさんは甘える熊は可愛いと思いますか?」
「ええ、可愛いと思います。」
「でしょ、熊の巨体が愛嬌良く人に甘えていたって可愛いんです。ヤスコーさんは熊よりも女性らしい顔をしているんですから、ちょっとしたことで可愛く見えるようにするのは簡単です。きっとデルリカさんも、ヤスコーさんの人柄がにじみ出るちょっとした仕草が可愛いんじゃないですかね。」
!!
なんと!!
即答だと!
しかも私を納得させる答え!
長道!天才か!
目から鱗が落ちた。
そっか、確かに動物園で飼育員さんに甘える熊やゴリラは可愛い。
ならば私にも可能性が有るという事か!
そこにダイエーンさんがやってきた。
「ヤスコーお嬢様。所作訓練のお時間です。デルリカお嬢様から『よりいっそう可愛く見えるように努力して』と頼まれておりますので、サボろうなどとは思わないでくださいませね。」
「はい!よろしくお願いします!」
ダイエーンさんは私の勢いの良い返事にビクっと驚いた後、あわててメガネをスイっと直して平静を装おうとしている。
その仕草、キツイい顔立ちとのギャップで可愛い。
ああ、こういう事か・・・。
見た目だけじゃないって、たしかにそうかも。
私は、所作のお稽古に俄然ヤル気がでた。
すると、ダイエーンさんは私に2メートルはありそうな大剣を渡す。
「ではこれで姿勢を作ります。安定した足腰と柔らかい上半身の操作。けれども頭は動かない訓練です。頭の上のハンカチを乗せますので、これが落ちないように素振りしてください。そうですねー、1000回ほどやってみてください。」
よっしゃ、わかりました先生!
可愛くなるために頑張るぞ!
嬉々として大剣を振る私であった。
ふふふ、きっと剣を振れば振るほど可愛くなるんでしょ。
だって大天使様の訓練なんだから、きっと間違ってるはずがないもの。
読んでいただきありがとうございます。
次回:魔性のヤスコー




