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藤木哲也 その14

登場人物

夜の街の女性:20代後半の女性で、男運がない。

クレープ屋のお姉さん:ポニーテールが可愛い20代前半の女性。魔王のダメっぷりが好き。

今川焼屋の娘:親から「魔王様がいなければ家族心中するところだった」と聞いて育ち、恩返ししたいと思っていた。


―藤木哲也 その14―


自分はここも占領した証として、内装と外装を一新したっす。

大神殿は元々は白を基調とした厳かな建物だったんすが、日本の高層ビルみたいにしてみたっす。

この設計はナガミーチさんがしてくれていたので、そのまま適用したっす。


これで、誰がどう見ても自分たちの大勝利っすね。


大神殿の上から、街の外に撤退する聖騎士と国軍を眺めて何とも言えない気分になる。

勝利したという喜びはない。


非戦闘員だけで守られてていた城と、教皇が自殺した大神殿を手に入れて、気分がいいわけないっす。


外を眺めていると、空を浮いていた大豊姫さんという巨乳天使がフワフワ近寄ってくる。

おっぱいで浮いているのだろうか?


「魔王さん、お疲れ様です。数日中に締めくくりの戦いが来ると思いますから気を抜てはダメですよ。」


「締めくくりの戦い?このあとに別の作戦があるんすか?」


「あれ、聞いてないんですか?魔王が城と大神殿を奪うというクッションを挟んで、真なる神聖なシンボルが大神殿を取り返すというシナリオですよ。」


むむ、そういえば前にそんなことを言っていたような気が。


「そういえば前にそんなことを言っていた気がするっす。すぐ始まるっすか?」

「わかりません。ですが念のため準備はした方が良いと思います。ナガミーチさんは嘘はあんまり言わないんですけど、言葉の裏をうまく使って不意打ちとかするところありますから油断しないでくださいね。ここを占領した後の指示は受けてますか?」


言われてみれば。

「この後の指示は何もないっす。」


すると、モデル体型の大空姫さんも来た。

豊満な大豊姫さんの横に、スレンダーな大空姫さんが並ぶと、両方の良さが上手く引き立つっす。

「フジキー氏、デルリカやナガミーチ氏はいずこに?」

「えっと、今回は参戦しないということでマリーちゃんと一緒に商店街に居ます。」


するとツインテールアイドルの大海姫さんと、豪奢な縦巻の大炎姫さんも来た。

大海姫さんは楽しそうに自分の肩をたたく。

「つまりさ、デルリカちゃんやナガミーチ君は人間側にいるんだね。魔王の間ではなくて商店街に。」

「そうっす…。」


言われて急に不安になってきた。

「言われてみると、デルリカさんの参戦を止めたナガミーチさんがいつもよりも強硬だった気がするっす。」


そして大炎姫さんが眉を下げた。

「しかも、最後の言葉は『それでは僕も退場します』でしたね。つまりここから先は、ナガミーチ殿やデルリカがいては不都合な事が起こるのではないでしょうか。それこそ私が魔王殿側では問題があったのと同じように。」


うーん。

「そういえば、前にマリア奥様が来た時にナガミーチさんが言ってたっす。宗教の復権はマリア奥様にまかせて、魔王を倒すのはカイル君じゃないといけないって。」


大天使のみなさんは明らかに同情的な目になった。

大海姫さんはポンポン自分の肩をたたく。


「そういえばさ、天界で願望を長道君に頼むときに、なんてお願いしたか覚えている?」


急にどうしたんだろう。

「えっと、たしか伝説的なカッコいいダンジョンの魔王とかやりたいって言ったす。」


「そっか。じゃあ、ゲームとかで魔王がかっこよく伝説になるためには何が必要だと思う。」


そこまで聞いて背筋が寒くなった。

「それは…、勇者と壮絶な戦いをして、伝説的な…死を迎えることっす。『第二第三の魔王は必ず現れる』とか言って。」


「だね。でもデルリカちゃんやナガミーチ君がいたら負けないよね。っていうことは、あの二人が抜けるときは…」

「魔王が敗北する時っすね。」


「ぴんぽーん。大正解。」


まいったな。

ガックリ肩を落としたら、大炎姫さんが頭を撫でてきた。

「大丈夫ですよ、ナガミーチ殿は悪いようにはしませんから。ですから今の役を余す所なく楽しむことを優先してください。」


そういわれて、気が付いた。

なるほど。

そういう事かと。


「まったく、ナガミーチ師匠は言葉が足らないっすよ。自分と同じくらいこっちも頭が良いと思わないでほしいっす。大天使さんやデルリカさんみたいな頭のいい人たち基準で話されると、半分も意味がわからないっすよ。」


大豊姫さんがフワフワ現れる。

「なんかわかりました?」

「ナガミーチさんは、面白いモノを作っているだけなんすね。コッチもそれを理解していると思ってシナリオを作っているっす。だからここは味方だった人たちが敵として来るからと言って落ち込むとこではないっす。『盛り上がってまいりました』っていう所っす。」


大天使さんたちは優しく頷いてくれた。


そうなればやることは簡単。


そく行動。

まずは商店街に行く。

「城と大神殿は落としたっす!」


すると大歓声が上がった。

てでみんなを黙るように指示を出し、静かになったところで言葉をつづけた。

「でも、おそらく勇者たちが取り返しに来るはずっす。それまで皆はここで暮らしてほしいっす。敵は数日で来ると思うっす。それまで辛抱してほしいっす。」


クレープ屋のお姉さんが心配そうな目で一歩近づいてきた。

「魔王さんは勝てるんだよね。」


無理無理。レベル800オーバーが何人もくるんだから。

でもそれはあえて言わない。


「勝っても負けても役目は終わるっす。」


また商店街がどよめいた。

八百屋のおじさんが詰め寄ってくる。

「それはどういうことだ。魔王の旦那はどうなっちまうんだ?」


自分は冷静に八百屋のおじさんをなだめた。

「実は自分は異世界人なんす。『歪んだ宗教国家を亡ぼす魔王』という役目が終われば帰るだけっす。故郷に。」


みんな複雑そうな顔をした。

しばらく考えをまとめるようにみんなが黙っていると、色っぽい夜の街の女性が前に出てくる。

たしか、一番最初にマリーちゃんに殺されようとし女性だ。


「だったら、敵が来るまでドンチャンやろうじゃないか。勝っても負けても魔王様は故郷に帰るんだろ。だったら今から送迎会だよ。」


「そうだ、宴会だ!」

「あるだけ酒出せ、騒ぐぞ。」

「魔王様にお礼しなくちゃよ」


口々にテンション高く叫び出す。

みんな、自分なんかのために…

ほろりときた。


でもお酒は断った。

いつ戦うかわからないから当然すよね。

そのかわり、食べ物はメチャクチャ食べた。


魔栗鼠や受付子も宴会に加わって商店街中で大盛り上がり。

それが三日続いた。



三日も騒ぐとかみんなタフすぎるっす。

そのあいだに3回も女性に個室に連れていかれてお礼をされたっす。

ナガミーチさんすいません、先に大人にならせていただきました。


今、自分の両側に美人が二人腕に抱き着いている。

やっとハーレムっぽいのが作れそうなのに、これで最後か。

自分は、絶対ルート選択を間違えたっすね。

右腕にいるのは、商店街発足の時に最初に出会った夜の商売のお姉さん。

左腕にいるのが、クレープ屋のお姉さん。

そんな両腕がつかえない自分に、フルーツを食べさせてくれているのが、今川焼屋の少女。


まさか本当にハーレム要素があったなんて。

ハーレムは会議室で作るんじゃない、商店街で作るんだ!って知っていればもっとハッスルしたのにな。

絶対、魔王の間で攻略するんだと思い込んでいたっす。大失敗っす。


そんなことを考えながら両腕の感触を楽しんでいたら、受付子が走ってくる。

そして目の前で転んだ。ドジっ娘すげえ。


「いたたた。そうだ魔王様大変ですよ。もう誰が見ても大変なことです。真理由華国の王が四人の勇者と聖騎士20000を連れて戻ってきました。大聖堂に突撃をかけるようです。」


不安そうにこちらを見る女の子たちから優しく離れるように立ち上がる。

「わかったす。準備するっす。」


ふりかえる。

すると三人の女の子が諦めた目で見ていた。

「お役目だろ、がんばってきな。」

「どうせなら勝って帰らないとね。」

「魔王様…戻ってきてくださいね。」


くそ、後ろ髪がひかれる。

だけど、ココはお約束をしないといけないところだ。

こんな安っぽいお約束なんてしたくないけど、これを逃したら一生チャンスがないかもしれない。

くそー、チャンスがあると我慢できないっす。


「もしも勇者たちに勝てたら、俺、プロポーズするっす。」


彼女たちが我慢できずに泣き出した。

ヤベ、調子に乗りすぎた。


だまって逃げるようにそのまま歩き出す。

すると商店街の人たちは、左右に並んで歩く自分をバシバシたたいた。

自分はお相撲さんか!


でも自分をたたく人たちが、半泣きだからただ黙ってその儀式を受けた。

みなさんありがとう。

これで最後のような気がするけど、感謝しているっす。


ながい列を抜けてダンジョンに入り玉座の間に入る。

そこでは大天使さんたちがすでに席についていた。


「お待たせしたっす。」


ニヤニヤした大豊姫さんが自分をつつく。

「昨晩はお楽しみでしたね。」


「すいません、大人になりました。」


席に着くと、目の間に設置されたハーレムダンジョンのモニターに敵が映った。

大炎姫さんは申し訳なさそうな顔をする。


「私たちは手伝えません。ご武運を。」

「わかってるっす。つぎの支配者を祝福しないといけないっすからね。あとは自分なりに頑張るっす。」


すると四人の大天使は頭を下げて、スーと転送魔法で消えた。

この場に残ったのは、魔栗鼠と受付子と自分だけ。


なんか寂しいっす。

いつもワイワイやっていたから。


でも。それでも。少なくても二人ここに居る。

そのことに感謝したい。

「二人とも、今までありがとうっす。後すこし力を貸してほしいっす。」


魔栗鼠は首を横にふるう。

「いいえ、こちらこそ感謝しています。魔王様と過ごした2年間は本当に楽しかったです。いつかまた再会できることを祈っています。」


受付子はがつがつ食事をしていて、こっちの話を聞いていない。

まあ、こいつらしいか。


よし、やるか。

立ち上がり、指示を出す。


「地獄天使軍は雑魚を蹴散らしてほしいっす。魔栗鼠と自分は勇者を撃つっす。受付子は上手く魔物を配置して王を倒すっす。良いすか、魔物で王を倒すっす。」


「「はい(もぐもぐ)」」


受付子、食べ物を飲み込んでから返事しろっす。

ほんと締まらないヤツっす。


敵はすでに大聖堂の敷地に入ってきているのがみえる。

すぐに地獄天使が飛び出した。


魔物も全力配置。

城も大神殿も魔物であふれかえった。


次に自分は城に転移する。

王と東西南北の勇者が城に向かうのが見えたので。


転移で玉座の間に入って待った。

城の玉座の間は何か落ち着かない。


1時間ほど待っていたら、やっと勇者たちが来る。

どれだけ魔物に苦戦してるんだ。


すでに満身創痍にみえた。

っていうか、勇者パーティー四つと、王のパーティーで城に入ったよね?


なんでここにたどり着いたのが、西の勇者のパーティーだけなんだ?

まさか魔物程度にやられた?

東南北の勇者、弱すぎるっす。


西の勇者のパーティは肩で息をしながら近づいてくる。

「魔王、あんたとは別の形で会いたかったぜ。」


自分は立ち上がることもせずに西の勇者を見る。

「そうえば、西の勇者というのはどういう称号なんすか?西出身?」


急に間の抜けた質問に、一瞬困った顔をする勇者。

しかしフっとわらってこっちを見た。

「西だけ勇者がいなかったんで適当にあてられたんだ。」


「結構いい加減なんすね。」

「だな。称号をくれる神様は適当なんだろ。」


自分は立ち上がりグローブをはめる。

自分の武器は格闘っす。

武器とか難しいんで使わないっす。


構えて静かに問うた。

「最後の質問っす。王やほかの勇者はどうしたんすか?」

「死んだよ。魔物にやられてな。」

「救済印をつけておけばいいのに。」


勇者たちが全員固まった。

「え?ここダンジョンなのか?」

「そうっすよ。飲み込んだっす。ダンジョンの魔王はダンジョンから出ないっす。」


勇者たちは腕を突き出してこっちにみせてきた。

そこには救済印が使われている。

「もしかして、ここで死んでも俺たちは大丈夫?」

「あ、ちゃんとつけてきたっすね。これなら安心っす。遠慮なく殺せるっす。」


いうなり僧侶の小柄な少女にかけより、アッパーで天井まで吹き飛ばす。

「また私から・・・」

言い終わる前に、僧侶は光になって消えた。


魔法使いが魔法を打ってきたけど、素早くかがんでかわし、後ろ回し蹴り。

魔法使いも吹っ飛んで光になる。



「どりゃああ」

戦士が重そうな大剣を振ってきたが、すっと避けて頭蓋骨に拳槌を打ち込んで一撃で倒した。


前はビレーヌさんがいたから負けたけど、今回は楽勝っす。

勇者に顔を向ける。


西の勇者は微笑んでいた。

「じつは俺の本名は西村っていうんだ。だから西の勇者もあながち間違いではないんだ。西村弘之。それが俺の本名だ。」


自分は何か理解した。

この男とは何か通じると思って居たっすが、そういう事っすか。

「自分は藤木哲也っす。いざ尋常に勝負っす。」


前蹴りをだす。

すぐに西の勇者はさがり、自分の喉めがけて剣を突き出した。

それを手のひらではたき落として、勇者の首にチョップを打ち込む。


勢い良すぎて首が半分ちぎれた。


そして勇者も光になって消えた。

ほんと、もっと別の出会い方をしたかったっす。


自分はベランダから大神殿を見る。

かなり乱戦になっているようだ。


地獄天使たちが頑張っているけど、ちょっと敵の数が多いな。

その戦いを大天使たちも空から見下ろして居る。


ここは魔王の出番かな。

「受付子、王は死んだ。よくやったっす。自分を大神殿前に転移っす。」

『了解でーす。いまやりますよ、はいいまやりました。』


混戦の中に転移した。

すぐに自分は戦いだす。


目の前の聖騎士の攻撃を避けて攻撃。

次の騎士の攻撃も柔らかく避けて反撃。


次々の敵を打ち倒す。

殴り飛ばしても、敵が光にならないのがつらいけど、今はそれはどうでも良い。

これが戦場の感覚なんだろう。

人を殺すことに何も感じなくなる。


そっか、だから戦争は怖いのか…


次々に聖騎士を倒していると、まったく向かってこない一団がいる事に気づいた。

ここで殺されると地獄に落ちる、という大天使の言葉におびえているのだろう。


どっちみち死んだら終わりっす。

戦わないのは正解っす。


そらから、大海姫さんが声を発する。

「真理由華の王は死んだよ。東西南北の勇者も全滅した。まだ頑張るのかい?」


だが、聖騎士の後ろのいる馬に乗った枢機卿っぽい服の人が叫んだ。

「地獄行きなどあるわけがない。われらに大天使様が敵対するはずもない。あれは偽の大天使だ。恐れず進め!」


その根拠はどこから来るっすか。

あれに命令される人たちが可哀想すぎるっす。


すると枢機卿の後ろから、紫のドレスを着た美人さんが斧を持って歩いてくる。

自分は本能的に金玉が縮み上がったっす。

デルリカさんだ!


すばやく防衛の命令を出す。

「小悪魔隊は全員一旦退くっす。体勢を立て直すっす。魔物を前に出せ。小悪魔軍団は後方で隊列編成!」


ヤバイっすよ。

裏魔王が敵として現れたっす。


受付子は素早く魔物を前方に配置してくれたので、小悪魔軍団は後方に集まることができた。

魔栗鼠もこっちに駆け寄ってきた。

「どうしましょう?」


冷汗が流れるが、ここは決めるところっす。

「全員、死ぬ直前に言うカッコいいセリフを考えるっす。たぶんもうすぐ使うことになるっす。」


枢機卿は後ろから近付いてきたデルリカさんに気づき怒鳴る。

「女子供がここに近寄るな!邪魔である!」


彼が叫ぶと同時にデルリカさんはニヤりとして、斧を振り下ろした。


ぐしゃあああ


枢機卿は馬ごと真っ二つにされて、地面にまき散らされる。

デルリカさん?

そっち側で現れたんじゃないんですか?

なんで枢機卿を殺すの?

「ふふふ、大天使様に見捨てられた真理由華のおバカ様に断罪を…ですわ。」


すると、5メートルくらいのメイドロボットの肩に立つマリア奥様が現れる。


「みなさまお聞きください。大天使様方は『真理由華国のマリユカ教』をお嫌いだとおっしゃられました。ですのでみな様は動かないでくださいませ。

ですがわたくしは、自身の信じるマリユカ教のために魔王様と戦います。わたくしの信じる教義は真理由華国の教義とは異なりますので、ワタクシの軍であれば地獄には落ちないでしょう。」


そういって手を上げると、150名ほどの聖騎士が周りを押しのけ前に出てくる。

その鎧にはベルセック家の紋章が入っている。

ベルセック聖騎士団ということっすね。


そのうしろから、さらにジャーニーさんと絶対勇者のカイル君もあらわれる。


空気が読める日本人としては、向こうをフォローするところっすよね。理解してるっす。

「なるほど、真理由華の聖騎士でなければ地獄行きではないっすね。でもそれは自分たちに勝てればの話っす。たった150の聖騎士と、四人のベルセックパーティーで自分たちを倒せるっすかね?」


悪役っぽく笑ってみた。


でもデルリカさんと目があったら、向こうの方がよっぽど悪役っぽい病んだ顔をしていたので、小便を漏らしそうになったっす。

どうにか耐えたのは、ダンジョンでの付き合いが長いおかげっす。

継続は力だと思い知ったっす。


お読みくださりありがとうございます。

次回、魔王のフルチンが魔栗鼠を襲う。

   魔王、暁に死す。


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