藤木哲也 その10
魔王:フジキー18歳。長道のせいでサトミーファンになった。
ビレーヌ:紅石とよばれる魔導士。
西の勇者:ナガミーチが日本人だと気づいているが、そこに触れない。空気が読める男。
デル魔女:たこ焼き風という、丸く小麦を焼いたものが最近のお気に入り。
マリー:クレープに飽きたようで、今は今川焼がマイブーム。
―藤木哲也 その10―
なぜか玉座の間に、赤髪の美人公爵、ビレーヌ・ビグニー公爵(23歳)が腕を組んで立っていた。
「あの、今日はナガミーチさんは街に行ってるっす。一応ここは魔王の間なんで、あまり気軽に来てほしく無いんすが。」
ちなみに自分は、佐藤里美さんのライブビデオを見ながら饅頭を食べていた。
するとビレーヌさんは鼻で笑う。
「何を言っていますの魔王様。わたくしはダンジョンを踏破したのですわ。さあ最後の勝負とまいりましょう。」
一瞬、言っている意味が分からなかった。
すると、玉座の間のドアが開いて、西の勇者のパーティーも入ってくる。
「まってくださいビグニー公爵様。一人で先行しては危険です。」
西の勇者のパーティーも、饅頭を食べていた自分を囲む。
その様子を見て、自分はやっと現状を理解した。
「もしかして、魔王への挑戦者っすか?」
全員が無言でうなずく。
自分はあわてて、とりあえず佐藤里美さんのライブビデオを彼らに向けた。
「ちょっと待ってて欲しいっす。魔王に勝った景品とか確認してくるんで、それまでこれでも見ていてくださいっす。」
するとビレーヌさんの顔が紅潮する。
「まあ、異世界で活躍されるサトミーさまですのね。すごいですわ、すごいですわ!サトミー様素敵ですわ!」
なんか待ってくれる雰囲気なったみたいなんで、慌ててダンジョン商店街にいるナガミーチさんにチャットを打つ。
『大変す、魔王の間にとうとうパーティーが到着してしまったす。指示をくださいっす。ちなみに自分が負けたらどうなるんすか?』
ナガミーチさんが今川焼をマリーちゃんに食べさせながら返事をしてくれた。
『魔王さんが負けたら、勝者は三つの中から景品を選べます。レアアイテムが50個詰まった宝箱か、ダンジョンコアであるハーレムダンジョンの破壊か、ナガミーチにお願い券を三枚かです。負けた時にドロップするんで先に聞いておいてくださいね。指定がないと自動的に宝箱になりますから。』
よく見たら、ナガミーチさんの隣にはデル魔女さんがいる。
あ、そういえば悪炎姫さんと魔栗鼠には、自分がダンジョンの外にお使い頼んだんだった。
…わお、いまダンジョンに四天王が一人もいなかったんじゃないっすか。
そりゃ勇者と三大魔導士の一人が手を組めばココまで来れるっすよ。
油断した。
いそいで魔王の間に皆を召喚しようとしたけど、魔栗鼠と悪炎姫さんはダンジョンの外にいるから連絡取れず。
デル魔女さんは大好きな『たこ焼き風』を食べているので、今呼び出したら、たぶん<いや絶対>殺される。
マリーちゃんは今川焼を食べさせてもらっていて、これも呼び出したら怖い。
そうだ、受付子!
『受付子!おい受付子!こっちに来てくれ。』
しかし、目を爛々とさせながらハアハアお金を数えていて、こっちの声が届かない。
このチビメガネ!あとで眼鏡を割ってやる!
だめだ、一人で戦う未来しか見えない。
うん、諦めよう。
きっとこの人たちはダンジョンコアは壊さないよ。
『ナガミーチさんが悲しみますよ』『デルリカさんが悲しみますよ』っていえばダンジョン崩壊とかは大丈夫だろう。
よし諦めて負けよう。
そう決めたらすっきりしてきた。
ちょうどライブビデオも終わったようで、ビレーヌさんがこっちを見ている。
悟りの境地でまた玉座に戻る。
「確認してきたっす。魔王に勝ったら景品は三択っす。まずはどれを選ぶか決めてくれたら、自分が負けると同時にドロップするっす。」
筋肉戦士が身を乗り出す。
「レアアイテムか?」
「それもあります。レアアイテム50個が入った宝箱か、ダンジョンコアの破壊か、ナガミーチにお願い券三枚だそうです。」
するとビレーヌさんが顔を紅潮させて勇者に詰め寄る。
「当然ナガミーチ様にお願い券ですわ。ワタクシが2枚で西の勇者様が1枚で。」
戦士が声を荒げる。
「レアアイテム50個だろ。」
ビレーヌさんが戦士をにらみ返す。
「ワタクシの提案に乗れば、全員に金貨10000枚与えます。」
女魔法使いのサリーが食って掛かる。
「金貨10000枚程度じゃ割が合わないですね。ナガミーチにお願い券をください。私も人工精霊かインテリジェンス・アーツ・ゴーレムが欲しいですよ。」
勇者パーティとビレーヌさんが向き合う。
ビレーヌさんがフルートを振り上げた。
「そうですか、ではココでパーティは解消ですわね。ナガミーチ様券はわたくしが3枚いただきますわ。」
勇者は慌てて割って入った。
「宝の奪い合いは魔王を倒した後にしましょう。俺は券1枚と金貨10000枚で構わないと思っていますので。」
しばらくにらみ合う両者。
そこでビレーヌさんがフルートを下した。
「そうですわね。まずは魔王様を倒しましょう。それに人工精霊でしたらわたくしも作れますし、インテリジェンス・アーツ・ゴーレムの秘法もナガミーチ様から伝授していただいております。ですので全員に一体ずつゴーレム与えることも可能ですわ。それでよろしいですわね。」
あきらかに西の勇者のメンバーの顔が変わった。
なんか、ビレーヌさんが破格の条件を出したんだと思うけど、あとで聞いてみよ。
さて、やるだけやりますか。
この一年で魔法も使えるよになったので、多少は頑張れるはず。
「ゆくぞ、勇者達よ。皆殺しっす。」
ハーレムダンジョンの画面で、自分を僧侶の後ろに転送した。
瞬間的に移動したことで、西の勇者たちは慌てる。
「短距離転移だと!」
背の低い少女僧侶に暴力をふるうのは心が痛むけど、これもダンジョンの掟。
「フン!」
僧侶の背中に全力の掌底を打ち込んだ。
僧侶をかばうように立っていた戦士に、すごい勢いで激突し、光となって消えた。
ちょど体勢を崩しているので、こっちに背を向けている戦士にも肘打ちの追撃を入れる。
「破!」
「ぐああああ!」
戦士もその一撃で光になった。
背骨の急所に全力で打ち込んでやったのだ、戦士自慢の筋肉は意味がない。
三方から魔法が放たれた。
ナガミーチさん直伝で、デルリカさんも使うという、ボディーソニックという技でディフェンス。
これは全身から衝撃波を放つ魔法武道だ。
「ハ!」
魔法は撃ち返した。
ビレーヌさんが詠唱を始める。
あの人はヤバイから速めに潰さないと。
踏み込んで打ちこむ。
するとっフルートがメイド姿になって、自分の一撃を止めた。
「おっと、詠唱が終わるまで待っててね。」
いうなり、フルートメイドは横に飛びのく。
同時にビレーヌさんから光の玉が打ち出された。
避けようと身をよじったが、光の玉はしっかり軌道をまげて自分にぶつかってくる。
「ホーミングか!」
光の玉は、自分にぶつかると同時に大爆発をした。
「ハッ!」
ボディーソニックで抵抗だ。
だが吹き飛ばされた。
鎧も吹き飛んでしまった。
ボディーソニックで相殺して、なおこの威力っすか。
ビレーヌさん、ただのストーカーかと思ってたっすが、ハンパないぞ。
これはまずいな。
割れた鎧をへし折り、魔法使いサリーに投げつける。
サリーは魔法障壁を出したが、鎧の破片は障壁を素通りしてサリーの胸に刺さった。
そしてサリーも光になった。
この鎧は魔法抵抗が高い。
だから鎧の破片は魔法障壁を素通りだ。
その鎧をここまで壊したのだ、さっきの爆裂魔法の威力は恐ろしいものっす。
西の勇者が斬りかかってくる。
とっさに防御部分を確認。自分の腕のガントレットは壊れていないな、よし。
ならば。
優しく勇者の剣をガントレットで受け止め、鋭く下方に誘導する。
勇者は剣を勢いよく床にたたきつけられ、体勢が崩れる。
「なに?」
ナガミーチ武道は、こういう小技がキレッキレなんすよ。
体勢が崩れた勇者に30度の角度から踏み込みパンチを打ち出す。
「ぐはああ」
西の勇者は剣を手放して吹き飛んだ。
だが光にならないという事はまだ生きている。
背後からビレーヌさんの叫びが聞こえた。
「紅石の名において命じる、ホーミングアロー5000発!」
耳を疑いたくなる詠唱だった。
5000発?
光の矢が、壁のように襲い掛かってきた。
見渡す限り魔法の矢だった。
なにこれ?
避けようがないんですけど。
なにこの非常識な魔法使い。
くそ、頑張ってボディーソニックで耐えてみる。
だが圧倒的な物量に耐え切れなかった。
「ぐああああああ!」
全然だめだった。
自分は光になるのを感じた。
カプセルの中で目が覚めた。
目が覚めると同時にプシューとカプセルが開く。
そうだ、自分は死んだんだ。
復活してみると、鎧も完全復活していた。
そのままカプセルを出て魔王の玉座に向かう。
扉を開ける。
すると。
魔王の間は宴会場だったす。
ビレーヌさんと西の勇者パーティ。
さらにダンジョン四天王にナガミーチさん。
みんな料理を囲んで楽しそうっす。
受付子も楽しそうに謎の踊りを踊ってた。
呆然としていたら、気が付いたナガミーチさんが走り寄ってくる。
「気が付きましたか?いまダンジョン踏破の打ち上げをやってるんです。さあ魔王さんもこっちにきて。」
座らされると、たくさん置いてある料理から魔栗鼠が食事を取り分けてくれた。
なにこの呑気さ?
デルリカさんも仮面をつけないで、楽しそうにビレーヌさんと話をしている。
ビレーヌさんの手には、ナガミーチにお願い券が3枚握られていた。
あー、西の勇者パーティ、結局三枚とも渡したんだ。
魔栗鼠が隣に来た。
「すごかったんですよ。ビグニー公爵は西の勇者に土下座して、その券を売ってくださいって。さすがに公爵様を下座させ続けるわけにはいかないで、西の勇者が折れたんです。でも人工精霊12体で売ったから、そんなに悪くないと思います。」
凄いことが起きていたんすね。
すると真っ赤な顔のビレーヌさんが、さっそく一枚ナガミーチさんに差し出す。
「ナガミーチ様、わたくしがストーカーをこじらせても、お嫌いにならないでくださいませ。」
あきらかに困惑したナガミーチさんが無理やり微笑む。
「もちろんですよ。ビレーヌさんは大事な7番弟子ですから。」
すると、チケットはシュウと燃えてなくなる。
すぐに顔を真っ赤にしながらもう一枚差し出した。
「ナガミーチ様、ナガミーチ様の研究室に自由に出入りしてもよろしいでしょうか。お布団とかも使ってよろしいでしょうか。」
それは二つの願いになるのでは?
でも気にしていないのかナガミーチさんは頷く。
「別にいいですよ。」
チケットはまたシュウと燃えて消える。
ビレーヌさんは迷わず3枚目も差し出す。
一気に使うんすか!
このひと、結構おもいッきりが良いっすね。惚れそうっす。
「ナガミーチ様、わたくしが疲れたら…その、疲労回復のマッサージをしてくだいませ。回数制限なしでお願いいたします。」
もうビレーヌさんの顔は真っ赤を超えて紫に突入しそうだ。
「いいですよ。ついでに覚えてみます?魔法研究の過程で僕が開発したマッサージ」
「はい、お願いいたします!。」
三枚目のチケットもシュウと燃えた。
前人未到の魔王討伐のドロップアイテムが、こんな使われ方でいいのだろうか?
さすがに、西の勇者達も微妙な表情になっている。
まあ平和的な使われ方なら、文句言う必要はないっすね。
お読みくださりありがとうございます。
魔王:ビレーヌさん、チケットのあの使い方はもったいなかったのでは?
ビレーヌ:わたくしはお金も地位もありますし、魔道でなんでもできますの。アレ意外に使い道はありませんわ。
魔王:あのチケット、一番無駄なところに行ったんすね。社会の不公平を見た思いっす。




