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藤木哲也 その9

登場人物紹介

悪炎姫:正体は大天使大炎姫。金髪の縦ロールにキツイ顔立ちなため勘違いされがちだが、穏やかで面倒見がいい母性的な天使。

フジキー:ダンジョンの魔王。思春期なので女性に過剰反応しがち。

ナガミーチ:武道は好きではないけど、マリユカとデルリカから身を守るうちに達人になった。環境が彼を育てた。

マリー:正体は最高神マリユカ。バカっぽいけど英知はすごい。英知を持っているけど使わない。密かに30歳になりました。でも見た目は幼女。


―藤木哲也 その9―


今日は玉座の間の端っこの方に、沢山の壊れた装備が運び込まれてきた。

これは探索者から没収した装備。


それにむかって、精霊たちが集まりだす。


このダンジョン用につくられた人工精霊のみなさん。

特技は「鍛冶」と「付加」、さらに「錬成」。


30人ほどの人工精霊がそれぞれ仕事をしだす。

ボロ装備はあっという間に修理されたり、作り直されたり。

しかも、素材が鉄から合金に変わったり、魔法やスキルの付加が行われてるので、価値がぐんと跳ね上がる。


これを売るか、ダンジョンにドロップアイテムとして配置する。


これがダンジョンにレアアイテムがあふれている秘密。

拾った装備を使って人工精霊が魔法でやってくれるので、魔法付加された武器や鎧が、ほぼ無料で生産される。

だから儲けはすごいし、ドロップ品もたくさん出せる。


悪くないっす。


さらにダンジョンを動かす魔力は、ダンジョン内で死んだ人からごっそりもらう。

それ以外にも、人は生きている限り微量の魔力を放出しているので、ダンジョン商店街で過ごす人たちから漏れ出す魔力を無駄なくいただく。


とくに人は酒を飲むと毛穴から魔力を吹き出すので、無理なく沢山奪い取れてお得っす。

だから、探索者のあつまる酒屋をたくさん作った。

この毛穴の秘密を知ってしまたので、自分はお酒は飲まないことにしているっす。


カジノや闘技場も大盛況。

ひとは興奮すると、勢いよく魔力を吹き出すので、これも有り難い。

カジノで興奮して吹き出される魔力も無駄なく徴収。

闘技場で戦ったり、観戦で興奮した人たちの魔力も吸収。


しかもお金も大量ゲット。


完全にダンジョンのためのビジネススタイルが確立したっす。

ナガミーチさんは天才としか良いようがない。


人を殺さなくても、100人殺したのと同じくらいの魔力が商店街から入ってくる。

10000人殺したくらいのお金が、商店街から転がり込んでくる。

笑いが止まりませんな。


そんななか、ナガミーチさんは『ダンジョンギルド』を起こして、銀行業務や荷物預かり、死んで帰ってきたときの回復保証などで儲けている。

地図の販売、クエストの発注なども行い、結構にぎわっていた。


自分的には、もっとホーンラビットの狩猟依頼が増えてほしいっす。

狩猟されてきたホーンラビットは、串焼き屋に買い取られ、美味しく食べることができるので。


そのなかで、Sランク探索者用の最高難易度クエストが『デル魔女様の素顔を写真に撮ってくる』というもの。

このクエスト、買取価格は1枚5000金貨。10枚撮影できれば50000金貨だ。


そのうち、しれっとナガミーチさんが写真を撮って売りに行きそう。


それに次ぐ難易度のクエストが、真理由華国から出された依頼『魔王討伐』。

『魔王討伐』の難易度の方が『デル魔女写真』より難易度が低いとか、納得いかないっす。

しかも成功報酬は500金貨。


デル魔女さんの写真一枚よりも、魔王の命の方が安いとか納得いかないっす!!


そう思いながら、玉座の間の端っこで行われている、職人精霊たちによる武器作成の作業をボーっと見ていた。


『よし、修理完成。つぎは魔法を付加するぞ。これは稲妻剣にする。気合入れろよ!』

『おおお!』


親方っぽい精霊が指示を出すと、まわりの精霊もテンション高く作業を始める。

体育会系のノリに心が落ち着く。


すると後ろから悪炎姫さんが現れた。

「フジキー殿、お勉強の時間です。用意をしてください。」


実は、一日4時間は勉強をさせられている。

しかし、我が人生でこれほど勉強の時間を楽しみにしていたことがあっただろうか。

自分の横に悪炎姫さんが座り、教科書を開く。


「では今日は、化学の授業をします。」

「はい、先生!」


悪炎姫さんはこうやって、毎日4時間は横に座って勉強を教えてくれるっす。

しっかり覚えると、キツイ目を緩ませて、やさしく「よくできましたね」と言ってくれる。

勉強最高!


しかも時々、豪奢な巻き髪がふぁさりと肩に当たったりして、それがすごく良いんす。

もう、一生悪炎姫さんに勉強を習いたいっす。


今日は二時間ほど勉強をすると、パタリと教科書を閉じる。

おや?


悪炎姫さんは優しく微笑んだ。

「今日の勉強はここまでです。このあとは武道の稽古をしましょう。」


そういうと、豪華な部屋の真ん中に歩いて行って手招きをしてくる。

武道の練習か…

おっぱいに当たっても許されるっすよね。

うひひひ。


自分は手招きされるまま部屋の中央に行く。

悪炎姫さんはスっとかまえた。

「心の声がダダ漏れですよ。私の胸をねらうのも自由です。好きに攻撃してきてください。」

「良いんすか!頑張ります!」


なんか公認おっぱいだ。

うおおおおお、やるしかない!


自分も構えて踏み込んで打つ。

でも軽くあしらわれて転ばされた。


「いで!」

「もっと相手に合わせて、生まれてくる隙を狙ってください。」


急いで立ち上がる。

すぐに打ち込む。

でもまた転ばされた。

「いで!」

「どんどん行きますよ、まずは無駄をなくすために休まず動いてもらいます。1000回は転ばされると思ってください。」


そしてこれ、


本当に1000回転がるまで続いた。

よくそんなに体力が続いたと思うけど、どうやらこまめに回復魔法をかけられていたらしい。

疲れない特訓とか、すごすぎる。


それでも気持ちがつかれてぐったりしてしまった。

たしかに転ばされたとき、地面から見上げる悪炎姫さんの体は最高でした。

でも気持ちは疲れた。


気持ちがつかれた理由の一つに、天狗になっていたというのもある。

最近はレベルがあがって無敵だったけど、それはパワーやスピードが上がったというだけ。

技術はまだまだだ。


なんかガッカリ…


いかん。落ち込む暇があったら努力っす。

久しぶりに日本拳法の突きの練習をしてみる。

一歩出て突く。一歩出て突く。


パンチの速度はあるけど冴えがない。

ブレが多いのかな。


するとナガミーチさんがマリーちゃんを背負って玉座の間に来た。

手には商店街で買ったアイスが握られている。


「あ、フジキーさんも一つどうですか?このミルクの味がたまに食べたくなるんですよね。」

バーがついたミルク味のアイス。


たしかに懐かしい。

折角なんで一つもらった。


するとナガミーチさんは、ポーンと大きく後ろに下がる。

そしてポーンと大きく踏み込んで自分の前に来た。



アイスを食べながらナガミーチさんはニコニコする。

「打撃系の多くの人が、近くから速い攻撃をします。蹴りの得意な人は中くらいの間を作りたがります。」


「急にどうしたんすか?」


「武道の話ですよ。近くて速い攻撃や、中くらいの間からの速い攻撃はよく見ます。でも近くて遅い攻撃と、遠くから速い攻撃をする人は意外なほど少ないです。だからこそそれを手に入れれば、実力差をひっくり返す可能性があります。」


「え、ナガミーチさんは武道の心得もあるんすか?」


「研究しただけです。長年カイル君やデルリカさん達のために研究しましたので理屈は詳しくなりました。例えばデルリカさんは遠くから速い攻撃をするタイプです。相手が安全な距離だと油断しているところに飛び込むので、不意打ちに近い攻撃が決まります。」


「たしかに。デルリカさんの飛び込みは『見える不意打ち』ですね。」


「そう、そして僕がデルリカさんと戦うときは、近距離で遅い攻撃で戦います。遅ければ将棋のように先を読む力がある方が勝てますから。」


「サブミッションっすね!」


「はい。でもじつは打撃も近距離で遅い種類を使います。これに巻き込めればデルリカさんにも勝ちやすくなるんですよ。あの人は短気なんで近くて遅い攻撃は苦手なんです。」


イメージができなかった。だからこそすごく興味がわいた。

遠くから速いはイメージできる。

でも近距離で遅い攻撃なんて使えるとは思えない。

それでもナガミーチさんはデルリカさん相手に近くて遅い攻撃で戦えるらしい。


「それ、教えてくれほしいっす。」


するとナガミーチさんは立ち上がる。

「いいですよ、では打ち込んできてください。」


自信があるってことっすね。

魔法が得意で、モテモテで、それで格闘技も強いとか許したくない。

でも、この人ならあり得る気がする。


見てみたかった。

そんな完全人間を。


脇を占めて内またになって構える。

ナガミーチさんの身長は170センチくらい。

自分は182センチ。圧倒的有利っす。


すばやく二歩踏み込み打ち込んだ。


するとナガミーチさんは不思議な動きをする。

両手で、突きを受けたのだが、そのまま手首をくるんと回す。

すると、信じられないことに自分が前のめりに転びそうになったことに気づいた。


急いで体制を立て直そうとする。

しかしナガミーチさんに手首をつかまれ、そのまま腕を押さえつけられた。

もう片方の手で反撃をする。

それもさらりと受けられて、腕を十字のように重ねられて抑え込まれてしまった。


動けない。


さがって逃げようとした。

でも足を引っかけられて固定されてしまってさがれない。

そこで体が一瞬止まる。


止まってしまったところを、ゼロ距離から勢いよく突き飛ばされた。

「ぐはっ」


ゼロ距離のはずなのに殴られたように痛い。

しかも体が軋む。

なんだこの打撃は。


吹っ飛んで転んでしまった。

そこにナガミーチさんは馬乗りにのってくる。

抵抗しようとして押し返そうとしたら、その腕の力を利用されて、腕十字を決められてしまった。


「ギ、ギブっす!」


ナガミーチさんはニコニコと手を放してくれる。

でも今のは何だったんだろう。


「なんすか今の?まるで遊ばれるようにやられてしまったす。」

手をひっぱって起こしてくれた。


「これが技です。世界にはたくさん早く動く技があります。でも今のは速さを奪う技ですね。速さを奪えれば速さに頼った人を倒すのは簡単です。」


自分は初めて尊敬という気持ちを持った。

なんだこのお人は。

なんなんだ。


このダンジョンで一番の化け物は、じつはナガミーチさんだと気づいた。


人間がここまで高みに登れるものなのか。

「もう一本お願いします。」


もう一度構えた。


マリーちゃんが楽しそうに飛び上がり叫ぶ。

「はじめー!」


その声と同時にナガミーチさんが飛びこんできた。

速い!


飛びこんでくるといってもジャンプではない。

低空をすべるようにつっこんできたのだ。


この人の攻撃は「遅い」と思いこんでいて油断した。


ナガミーチさんのチョップを腕で受ける。

そこから、攻防のテンポが急に遅くなる。


受けたはずの腕が、カクンとどかされて抑えられた。

うそ、力を入れて受けたのになんで?


もう一発チョップが飛んでくる。

もうのけ反ってしまって足が動かない。

あわてて、もう片方の腕で受ける。

するとこの手もカクンとどかされた。


だからなんで?


両手が広がって体ががら空きになっってしまった。そこに0距離から両手掌で打ち込まれた。


ボフン!


肺まで届く威力に呼吸が止まった。

そこから顎を打ち上げられる。


カクン


一発で意識を刈り取られてしまい、自分はKOさせられてしまった。



気が付くと、ナガミーチさんがウチワで扇いでくれていた。

「あ、気が付きましたか?すいません、うっかり気合が入ってしました。」

「いえ、すごく勉強になったす。遠くから素早く。近づいて遅く。脳が追い付かなかったっす。これは恐ろしい攻撃っすね。」


「そうですか。多少でも役に立ったならよかったです。」


相手の動きを止める技。

そんな技があるなんて初めて知った。


立ち上がり、真似をしようとしたら、ナガミーチさんが腕を突き出してくれた。

そして説明まで。


「一見、両手で相手の片手を受けるのは不利に思えます。ですが普通の攻撃は左右の拳を交互に出すので、問題ないんです。素人目には両手で防御してるように見えるでしょうが違います。片手で防御をしつつ、もう片手で相手の重心に攻撃をしているんです。だから相手のパンチを利用してバランスを崩すことができるんですよ。ま、慣れれば片手で同じことができますが、最初は基本通りに両手でやってください。」


そうやって、その日はパンチを受けると同時に相手を崩す練習をした。


体勢が崩れればスピードは出ない。

そこからは詰将棋なのだ。

その理屈に目から鱗が落ちた。


自分は、ナガミーチさんの武道にのめりこんだ。


ナガミーチさんの教えはどれも素晴らしく、部活ではだれも教えてくれないような高度なものばかり。


「敵に触れたらその触感を頼って。目よりも確実にわかるので。」

「間合いとは距離と角度とタイミングです。同じ距離でも5度ズレれば20cm稼げる。タイミングをずらせば1メートル稼げる。うまく使うんですよ。」

「技は陣取りなんですよ。ベストな距離とベストな角度で掛けるほど威力が増す。10cmズレたら技なんてオモチャでしかないですね。」

「相手と呼吸を半拍ずらせれば有利です。そうすれば相手は攻防の中で呼吸が浅くなり、逃げることしか考えられなくなります。」

「目の動きや踏み込みで読まれることを恐れなくていいですよ。読まれても倒せる技を持てばいいだけです。」

「重心を奪い、重心を狙い打て、重心をぶつける。普通の相手にはそれだけで勝てます。」

「力を出したかったら力を抜くのです。筋肉は縮むことしかできないですから。相手に触れる瞬間まで伸ばしておいて、触れた瞬間勢いよく筋肉を縮めれば強い威力が出ます。筋肉を伸ばして待機させるには力を抜くしかないんですよ。」


魔王として修業の日々をおくるのは楽しかった。

なんかカンフーモノの、師匠と弟子の関係みたいに濃い練習をしたっす。


そして死んでもOKで、疲れても回復魔法があるダンジョンではすごいスピードで成長できた。


ダンジョン運営をしながら、

悪炎姫さんの授業と、

ナガミーチさんの修業。


そんな充実した日々を過ごしていたら、さらに一年はあっという間に過ぎた。

デルリカさんは36歳になったが、やっぱり息が止まるほど美人っす。

お読みくださりありがとうございます。


マリー「次回は魔王フジキーが死にまーす。」

フジキー「ちょ、怖いこと言わないで欲しいっす。」

マリー「次回のタイトルは『さよならフジキー。童貞のまま散る。』でーす。楽しみですねー。」

フジキー「(ゴロゴロ転がりながら)嫌だー。童貞のまま死にたくないっす!だれか、お助けをー」

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