藤木哲也 その4
登場人物
勇者たち:モブです。
―藤木哲也 その4―
戦いが終わった後、ひょっこりナガミーチさんが来たので思わず駆け寄ったっす。
「ナガミーチさん!うちのダンジョンが怖すぎるっす。デルリカさんが怖いっす!」
すると笑い飛ばされてしまった。
「あはは、デルリカさんは頭がおかしいですからね。ビビったでしょ。魔王より魔王らしいですからね、あの人。」
でもその瞬間、心臓が止まりそうになった。
ナガミーチさんの後ろに、血に染まったピエロの仮面をかぶったデルリカさんが立っていたから。
「ナガミーチさん、後ろ後ろ!」
それなのに、ナガミーチさんは言葉をつづける。
「デルリカさんはただ頭がおかしいだけじゃなくて、依存症気味のヤンデレだし、我侭だし、しばらく家に帰らないだけで泣き叫ぶし、口ばっかりだから僕がいないと何もできないし、食いしん坊の大食いだし、短気だし、油断するとタダの殺戮者になるし。あれで究極淑女とか呼ばれてるんですよ。笑っちゃいますよね。」
ナガミーチさん危ない。
後ろのデルリカさんが斧を振り上げ始めた。
気づいて!背後の邪悪な暗黒魔王に気づいて!
もうヤバイ。
そう思ったとき、ナガミーチさんは力を抜いて微笑む。
「それでも妹のように可愛いんですから不思議なものですよね。ちなみに僕以外がデルリカさんのことをバカにしたら殴り倒しますから、マネしてバカにしちゃだめですよ。」
ナガミーチさんの後ろのデルリカさんは一旦ピタリと止まる。
落ち着いた所作で斧とピエロの仮面を外すと空間収納にしまった。
そして、なんか獰猛な微笑みをして後ろからチョークスリーパーかける。
「お兄ちゃん、またワタクシの悪口を言いましたわね。ワタクシにだけ優しくないのですから許しませんわ。」
絞められると、ナガミーチさんは三度ほどタップをして、すぐにダランとなってしまった。
すごい、的確に絞め落とした。
ナガミーチさんが落ちるまで5秒くらいだったぞ。
格闘技をしているからわかるっす。この人、地味に技術も高い。
落ちたナガミーチさんを抱きしめるようにして床に寝かすと、その上に座ってしまった。
うわあ、自分も座られたいっす。
ナガミーチさんは「ぷしゅー、うわわわ」とか言って意識が戻りかけている。
その姿をニコニコしながら見下ろすデルリカさん。
なんだろう、すごく憧れるっす。
絞め落とされたり、座られたりするのも羨ましいっすが、いまはそこではなく。
この二人は、全力でぶつかっている。
そういう関係が羨ましいと思ったっす。
意識を取り戻したナガミーチさんが、自分のお腹の上に座るデルリカさんを見上げる。
「僕は、何していましたっけ?」
落ちた直後は少し記憶の混乱があるものっす。
それをニコニコ見下ろすデルリカさん。
「お兄ちゃんがワタクシのことが大好きすぎて困るっていう話をしていましたわ。」
「困るなら、愛情減らしますね。」
すると急に目つきがキツくなったデルリカさんがナガミーチさんの踵をわきに抱えるようにして固める。
「お兄ちゃん、デルリカは寂しすぎるとアンクルねじ切っちゃうにゃん。」
ナガミーチさんはここで本気で慌てた表情をした。
「いだあああああ!ヤバイって、まじアンクルはヤバイって。まじでダメだって。膝がねじ切れる!
何でも言うこと聞くから助けて!あだああああ!」
ポクン
ナガミーチさんの足から変な音がした。
頭を抱えて苦しむナガミーチさん。
そのナガミーチさんを無理やり抱き起して椅子に座らせると、デルリカさんはペロっと舌を出した。
「てへ、やりすぎちゃいましたわ。お兄ちゃん、ごめんなさいにゃん。」
可愛い。34才でも、人の膝を壊した直後でも、このあざとさが許される。
それがデルリカさん。
ナガミーチさんは手を自分の足に当てる。
「精霊魔法発動、治して。」
するともう一度ポクンと音が鳴る。
それと同時にナガミーチさんがぐったりとした。
「さすが人工精霊。膝がねじ切られていても一瞬ですな。ありがとうシルディ。」
そのナガミーチさんの声に反応するように、風のような声が聞こえた。
『自業自得ね、デルリカさんを怒らせて遊ぶからよ。もう無理しちゃだめよパパ。』
「ああ、今度から軽くしか怒らせないように加減に気を付ける。」
すると沢山の女性の声が風のようにする。
『だから怒らせてはだめです。』
『そうだぜ親父、もっと優しくしろよ。』
『素直になりなさいなお父様。』
『なんで普通に可愛がれないんですかねー。』
『ヘイ、ナイスなブラザーをしちゃいなYO』
『パパ、次は治さないからね、苦しめ』
これ以外にも、本当にたくさんの声がした。
この部屋中から。
なんだこれ?
なの声だ?
キョロキョロしていると、デルリカさんが不思議そうな顔で自分を眺めていた。
「魔王様、もしや周りの声が聞こえてまして?」
「はい、女性の声が沢山。」
すると、さっきまで苦しんでいたナガミーチさんがケロッとした顔で立ち上がる。
「これは僕が開発した精霊魔法です。そうだ、僕もこの力を使ってこのダンジョンの役に立とうかな。」
いうと、ナガミーチさんの周りを半透明な小さい女性が沢山飛び回って、スーっとナガミーチさんの懐に消えていった。
すごいなあ。
なんか魔法使いっぽい。
ナガミーチさんはダンジョンの管理システム「ハーレムダンジョン」を起動して様子を見始める。
「フジキーさん、今回の戦いでかなりポイントがたまりましたし、ダンジョンの拡張をしませんか。真理由華国の中央に向けて少しづつ伸ばさないといけませんから。」
「そうですね。おすすめ拡張はありますか?」
ナガミーチさんは少し考える。
「ダンジョンを深くするよりも、第一階層を真理由華国の大神殿に向けてガンガンに広くしていきましょう。」
自分的にはOKっすが、理由も聞いておこう。
「理由を聞いてもいいっすか?」
するとデルリカさんの肩を抱く。
「どうせデルリカさんは下の階層を嫌がるでしょ。だったら第一階層を十分な広さにする方が良いと思いましたので。地下二階が実質魔王の玉座でいいと思いますよ。」
目からうろこが落ちた。
「なるほど。たしかにその通り。さすが賢者っす。」
さっそく、ダンジョンの大改造を始めた。
地下10階まであったダンジョンを一度解体し、すべて一階部分に配置しなおす。
地下二階が居住スペースと玉座の間。
そして今回貯めたポイントも使い、一直線に真理由華の大神殿に伸ばした。
そして伸びた先に受付が出現する。
ここから大神殿まで50kmはあるけど、今回は250メートルほど進めた。
まだまだ先は長いけど、少しずつ近づけばいいや。
そのあと、数日は普通にダンジョン運営ができた。
デルリカさんは『戦いたい』と言い出さずに、おとなしく玉座の間の端っこで、マリーちゃんと魔法少女モノのブルーレイを見ている。
ナガミーチさん、ファンタジーの世界に普通に日本の家電を持ち込むのはどうかと思うっす。
でも、あのデルリカさんがおとなしいのは助かるっす。
学校の先生が、子供を静かにさせるにはアニメのDVDを見せるに限るっていってたけど、あれは真理だったかもしれない。
そう思いながら「ハーレムダンジョン」の画面で、せっせと魔物や罠を生産していると、またダンジョンに4人組が入ってくる。
この「ハーレムダンジョン」が廃ゲーだと思う理由は、このリアルタイムなイベント発生だ。
この一瞬を逃さないために、ゲームに張り付かないといけない。
マウスでステータスをポップさせる。
ヒロ:西の勇者 Lv25
サム:戦士 Lv28
メリッサ:僧侶 Lv21
サリー:魔法使い Lv29
うわああ、勇者パーティーが来た!
ヤバイっす。
勇者っていうのは、あらゆる理不尽の化身っす。
魔王を倒すために、人の理の外にいる人っす。
それがもう来るとか、どういう事っすか!
自分は慌ててナガミーチさんを探す。
さっき来ていたはずだけど。
って、「ハーレムダンジョン」をつかえば、すぐ見つかるんだった。
検索!
すると、ナガミーチさんは居た。
勇者と世間話していた。
『俺は西の勇者、ヒロといいます。もしや大魔導士のナガミーチ様では?究極淑女のデルリカ嬢とご結婚されたとか。』
『あれ僕を知ってるんですか?いやはや、こんなんじゃ浮気もできないですね。夜の街で性獣になりたいんですけど。えへ。』
『ご冗談を。国一番の美姫を手にしてそれは贅沢すぎますよ。それよりも、もしよければパーティーに加わってくれませんか?』
『いいですよ。実はそろそろ挑戦したいと思っていたんです。』
『本当ですか!ありがとうございます!賢者で大魔導士のナガミーチ様が仲間でしたら怖いものなんてありませんね。よろしくお願いします。』
ナガミーチ!
あんたどっちの味方っすか!!
デルリカさんに言いつけてやるっす。
「デルリカさん大変っすよ。ナガミーチさんが勇者と手を組んで攻めてくるっすよ。」
すると、邪魔そうな顔をされてしまった。
「今はどうでもいいですわ。あと4話で最終回ですので邪魔しないでくださいませ。」
そういうと、マリーちゃんを膝の上にのせたまま、またテレビ画面に集中し始める。
おのれ。
きっとナガミーチさんはこれも計算していたんすね。
恐ろしいっ人っす。
だが、それならコッチも最大戦力だ。
勇者パーティーは、最初のゾーンの敵なんて雑魚でしかないといわんばかりに余裕で進んでくる。
こういうやつは、小さいのがたくさん来る方がダメージがでかいはずっす。
ドラッグ&ドロップで吸血蝙蝠の群れを、勇者がいる部屋に送り込んだ。
『うわあ、これは危険だ。一旦退がろう』
勇者め慌ててやがる。
ははは、くるしめイケメン。
そのときナガミーチさんが冷静につぶやく。
『精霊魔法発動。凍らせビームをハリネズミのように撃て!』
すると大量のビームが空中に打ち出され、一撃で吸血蝙蝠の群れは凍って地面に落ちて砕けた。
おのれナガミーチ!!!
勇者が嬉しそうに倒したモンスターの魔石を拾い出した。
『さすがナガミーチ様、けた違いですね。』
『いやいや、僕は魔法に命令するだけですから。大したことはしてないんですよ。』
『『『『おおー』』』』
なんかみんな感心しているし。
魔法使いのエロっぽい女性はいきなり今の言葉をメモしてるし。
ナガミーチさん、ちやほやされたいだけじゃないのですか?
さらに進んでくる。
くそ、こんどは岩ゴーレムだ。
勇者の前にユニットを配置した。
全長8メートルの岩ゴーレムが現れて勇者たちが混乱する。
今度こそ撃退っす。
勇者パーティーが攻撃しているけど、そんな程度じゃ効かないっす。
するとナガミーチさんが懐から笛を出した。
『みなさんさがってください。岩ゴーレムなんて時代遅れだって所を見せてあげますよ。』
笛を投げる。
するとその笛が、長い黒髪のメイドになった。
『篠、ナガミーチ製ゴーレムの力を見せてやれ。』
『かしこまりました、お父様。』
そしてパンチ一発で岩ゴーレムを粉々にした。
え?瞬殺?
黒髪のゴーレムは仕事が終わると、優雅に一礼してヒューっとナガミーチさんの懐に消えた。
うぐぐ、さすがデルリカさんと互角のサブミッション戦を繰り広げる男。
まだまだ力を隠しているっすね。
また勇者たちはナガミーチさんを大絶賛。
おのれー。
自分も絶賛してほしいのに!魔王だから誰も絶賛してくれないのに。ナガミーチさんだけズルイ!
そのあとも次々にナガミーチさんの攻撃で魔物が撃退されてしまう。
なんすか、そのショットガンとかズルイっすよ。
なんすか、聖なるパイナップルって。それって手りゅう弾っすよね。
なんすか、同時に50発も飛び出すメイドロケットパンチって。ゴーレム強すぎっすよ。
なんすか、即死魔法って。部屋中の魔物が一瞬で死ぬとかズルイっすよ。
なんすか、精霊魔法『適当によろしく』って。命令になってないじゃないっすか。それで全滅とか魔物が可哀想っす。
くそおお、ツッコミだけでボロボロに疲れるっす。
ゼエゼエ言っていると、いきなり背中を誰かが叩いた。
だ、だれっすか?
デルリカさんだった。
「魔王様、お兄ちゃんはいまどこですの?お夕飯が食べたいのですが。それに次のシリーズも見たいですし。」
少し呆然としてから、自分は天使を見た気分になったす。
「デルリカさん、聞いてくださいよ。ナガミーチさんたら酷いんすよ。勇者とパーティーを組んでこっちに攻めてきているんす。」
するとデルリカさんが「ハーレムダンジョン」の画面をのぞき込んでくる。
顔が近い。花の匂いがするっす。
デルリカさんは腕を組ん仁王立ちをした。
「ではワタクシをそこに送り込みなさい。お兄ちゃんにお仕置きをしてきますわ。」
「マリーもいきまーす。」
ふっふっふ、思い知るがいいナガミーチ卿。
これで卿も最後だ。
「イエス、ユア、ハイネス」
マウスでデルリカさんとマリーちゃんをユニットと配置でナガミーチさんの目の前に送り込む。
目の前から二人が消えて、ナガミーチさんの前に転送された。
これで、、、、終わりだ!
『お兄ちゃん、いつまで遊んでるいますの?夕飯には帰ってくるという約束でしたわね。遅くなった罰として寝技120分の刑ですわ。』
すると戦士のサムがゴクリと唾をのむ。
『本物のデルリカ嬢!美しすぎる!しかもナガミーチ様はこのあとデルリカ嬢と120分もお楽しみですか!う、う、う、羨ましい!!!。』
あ、この戦士は寝技という言葉を勘違いしてる。
やらしい意味ではなく、本当の意味で寝技なのに。
急にソワソワしだす勇者パーティー。
勇者のヒロが顔を赤くして目を泳がす。
う、勇者たちも勘違いしてるすね。でも、気持ちはわかるす。
『みんな、今日はここまでにしよう。ここにマーキング魔法をかけて撤退だ。ナガミーチ様のお楽しを邪魔しては悪いからな。』
『『『おお』』』
全員で受付けまで飛んで帰ってきた。
するとナガミーチさんが勇者の肩をたたく。
『これで全員レベル40越えですね。次は僕は居ないと思いますので慎重に進んでくださいね。』
自分のステータスを確認して勇者が嬉しそうにナガミーチさんを見た。
『おおおお!レベリングのためについてきてくれたんですね。なんとお礼を言っていいか』
『お礼はいりませんよ。その力は弱い人達を助けるために使うのでしょ。ならばそれでお礼としてください。』
『『『『ありがとうございます』』』』
勇者たちがお礼を言うと、デルリカさんとマリーちゃんに腕を掴まれて、ナガミーチさんは玉座の間に転移してきた。
デルリカさんはプリプリ怒りながらナガミーチさんの腕をっ振り回す。
「さあ、はやく夕食を作ってくださいませ。そのあとはすぐに、この魔法少女シリーズの次のやつを借りてきてください。」
こまった顔のナガミーチさんはデルリカさんとマリーちゃんの頭を撫でた。
「しょうがないですね。こっちは今後の布石のために働いているのに、デルリカさんやマリーちゃんの我侭で、ほんと休む暇もないですよ」
言葉では文句を言ってるけど、顔はニコニコしていた。
その三人のやりとりを見ていて、急に気づいたっす。
このダンジョンを管理するシステムは「ハーレムダンジョン」て名前だから、てっきり自分がハーレムの主だと思ってたす。
でも、このダンジョンはもしかして、ナガミーチさんのハーレムなのでは?
やばい、、急に自分が孤独なことに気づいてしまった。
こんど厳重に抗議しないといけないと思ったす。
お読みくださりありがとうございます。
魔栗鼠「次回は私も頑張ります。殺しまくります。」
受付子「私もすっごく頑張ります。」
デルリカ「ワタクシももっと頑張ろうと思いますの」
フジキー「デルリカさんは頑張らない方向でお願いするっす。」




