大田康子 その1
―大田康子 その1―
女だてらに柔道一筋で30歳になってしまっていた。
身長180cmで90kgの体重に厳つい顔つき。
モテ無くてつらかった。
現役の頃はモテなくても良かったけど、オリンピックへの挑戦も年齢的に最後のチャンスのはず。
モテないでオリンピックも逃したら、私は自分の人生の意味を見失いそうだ。
イロイロ人生的に迫り来るタイムリミットが辛くて怖くて、私は逃げた。
乙女ゲームの世界へ。
イロイロなイケメンと仲良くしながら攻略するのは本当に楽しかった。
でも、現実には戻らなくちゃいけない。
そうやって私は柔道と乙女ゲームへの現実逃避を行き来するようになった。
そしてあの日
オリンピックを目指すために、どうしても勝たなくてはいけない国際試合だった。
その第一回戦で、いきなり効果を取られてしまう。
焦ってしまったため、私は力でどうにかしようとした。
でもロシア人の80kg級は私をはるかに超えるパワーがある。
逆にしゃがみ背負いを掛けられて、私の体が宙に舞う。
負ける?
そこで、私は慌てた。
ここで負けたら、私の人生の全てが否定されてしまう。
宙を舞った一瞬、私は一生懸命、人生がリセットされることを願った。
『いやだ、神様・・・私をこの現実から逃げさせて。』
すると急に頭の中で女性の声が響いたんだ。
『おっけーね』
そして私は異世界に来た。
その後
1時間ほど順番待ちをしていたが、金髪縦ロールの大天使・大炎姫様が私を呼びに来た。
連れられて白くて広い部屋に入ると、その広い部屋の真ん中に、なにかの冗談みたいに、テーブルと座椅子が置いてあり、そこに二人座っていた。
一人は水色の髪の毛を持つ美人で、この世界の最高神・マリユカ様。
マリユカ様は、目の前に映し出されるモニターでテレビゲームをしているようだった。
アレはなつかしの・・・・マリ○カート?
マリユカ様の隣で一緒にゲームをしているのは男性。
たしか私達と一緒に日本から来て、マリユカ様の部下になることを望んだ、石田さん。
二人は白熱してゲームをしているので私に気づかないのかな?
なんか、この呑気さは私のイメージする天国そのものって感じ。
でも、二人とも私が来たことには気づいているようで、お互いをけん制する言葉を吐いていた。
「長道!太田が来ましたから終わらせるためにアナタはコントローラを離しなさい。」
「太田さんはマリユカ様に用事があるんですから、はやく行ってあげて下さいよ。マリユカ様のクッ○大王は僕が亀を投げて吹っ飛ばしておきますから。」
「黙りなさい。私のバナナの皮でも喰らえ、ル○ージ野郎!」
「うわああ、体当たりしてさらにバナナとか人の心が無いんですか!この松尾!」
「あははは、負け犬の遠吠えですね。最高神に勝とうなぞ100年早いんです。」
なんかこの二人面白いな。
私もマリユカ様の部下にしてもらえばよかった。
眺めていると隣の大炎姫様が申し訳なさそうに私の肩を叩いた。
「すまない、もうすぐ終わるから後ちょっとだけ待ってくれ。」
少ししてゲームの勝負がついたマリユカ様と石田さんがこちらに来た。
「あはっ、待たせてすいません。大田康子の願いを叶えましょう。」
マリユカ様はニパーという擬音が聞こえてきそうなくらい無邪気な笑顔でむかえてくれた。
可愛い。
私もマリユカ様の一割でいいから可愛かったらよかったのに。
このゴリラのような体と、類人猿のような顔ではマリユカ様の可愛らしさがまぶしすぎる。
私よりは小柄なマリユカ様は、大女の私と視線を合わせようとしてぴょんと飛ぶ。
可愛さに癒される。
マリユカ様に見とれていると、石田長道さんが私とマリユカ様と大炎姫さんそれぞれに、ノートを渡してきた。
「えー、ただ今お手元にありますノートが、今回の乙女ゲー世界の攻略本となります。この知識で乙女ゲー名物『攻略法チート』をしていただけます。」
その言葉に私と大炎姫様は慌ててノートを開く。
それを見て私は驚いた。
手書きなのに、まさに見事に攻略本だったのだ。
え?これ手書きですよね。
マップやキャライラストまで描いてあるんですけど。
驚いて大炎姫さんの持つノートを覗き込んだら、私と同じ内容が書いてある。
驚く私を見つめた石田長道さんは、満足げに頷いた。
「やっぱり乙女ゲーのチートといえば攻略本だと思って一生懸命作りました。攻略本を作るのに4日徹夜しましたけど、コピーはマリユカ様のお力で複製してもらったんで、意外に楽でしたが。」
ああ、三冊描いたわけじゃ無いんだね。
でもすごいな。
イラストも綺麗だし、設定の文章も完璧。
ウラ設定コラムとかもあって、本当の攻略本みたい。
感心していると、私の横にいる大炎姫様がノートを見ながら急に震えだした。
あれ、どうしたんだろう?
何となく大炎姫様を見て私は竦みあがりました。
だって、すっごい怒った顔をしていたから。
「長道殿!これはなんですか!この悪役令嬢の役のイラストが私ソックリではないですか!」
え、そうなの?
急いで攻略本のページを進めると、確かに悪役令嬢のイラストが大炎姫さんそっくり。
「気づかれたか・・・。」
長道さんはボソリといったつもりでしょうけど、私には聞こえた。
内緒でこの役をやらせるつもりだったんだ・・・。
確かに大炎姫さんは金髪縦ロールで胸をそったように立つ姿は、堂々としていてプライドが高そう。
だからハマリ役だと思う。
あの美人だけどキツイ表情から『身のほど知らずの泥棒猫め』とか言われたら、悪役令嬢のイメージ通り過ぎて、すっごい感動しそう。
でも大炎姫様は気に入らないみたいだ。
「私は辞退させていただきます。このように他人を妬み蹴落とす人物の役など、私のプライドが許しません!私でしたらヒロインを実力で負かし、正々堂々と勝利いたしますのに!」
すると長道さんはしょうがなさそうにもう一冊ノートを出す。
「じゃあしょうがないですね。悪役令嬢は適当に連れてきましょうかね。大炎姫さんはヒロインの家庭教師になってもらいます。厳しくも優しく、ヒロインが王立学校に入れるように指導してください。そこに入ってから物語は始るんです。入学できなかったらそれで終わりですから。」
あたらしく渡されたノートを見ると、内容は殆ど一緒だったが、家庭教師のイラストはすごいドS女性の姿だった。
シャープなメガネをつけた、キッツイ数学教師って感じの大炎姫さんですね。
ドMだったら四つんばいになってご褒美を欲しがりそうな、イラストに変わっていた。
でもそれで大炎姫様は納得したみたい。
キツイ女教師は良いんだ・・・基準が分からないな。
そこで、石田長道さんは私達に渡したノートよりも、はるかに分厚いノートを取り出しマリユカ様に渡した。
「大炎姫さんも納得したみたいなんで、先に進めましょうか、マリユカ様。ではこれが今回のルートとフラグの設定です。」
そのノートを受け取ると、マリユカ様は顔全体で満面の笑みを浮かべる。
「あは、これが大田康子の運命を記したノートですね。では私はこの運命を世界に設定します。大田康子よ、存分にイケメン攻略を楽しんでください。」
「は、はい!お願いします!」
返事をすると、私は気が遠くなる。
こ・・・これで・・・・
美しい・・・乙女ゲームの・・・世界に・・・・
どのくらい眠っただろうか。私は目を覚ます。
起き上がろうとしたが上手く起き上がれなかった。
頭が重い。
一瞬嫌な予感がした。
いや、これは予想しておくべきだった。
石田長道さんが言っていたあの言葉の意味をもっと深く考えるべきだった。
彼は言った
『ヒロインが王立学校に入れるように指導してください。そこに入ってから物語は始るんです。入学できなかったらそれで終わりですから。』
つまり私の人生は、高校入学前から始るんだ。
では、高校入学よりも、どのくらい前から始るのか?
それを考えて、現状を理解し私は『まじかー』と叫ぼうとしたが、口から出た言葉は私のイメージよりもはるかに騒がしかった。
「おぎゃあああああ、おぎゃあああああ。」
なんてことなんだ、赤ちゃんから始まるなんて。
読んでくださりありがとうございます。
次回:炸裂・必殺三段背負い投げ!




