二話目
三月の上旬、実家から年に数回ある電話がかかって来た。携帯のディスプレイに母親では無く父親の名前が映し出されたので要件は完全に分かった。
「義弘か、できるだけ早く家にもどってきなさい。」
父はそれだけ言うとすぐに電話を切った。余計な会話をしない点が父の良いところであるが、ダンディと言われる程の低い声によって昔の父親像を完璧に想起させてしまい、俺は苦手だ。しかも命令口調。
できるだけ、という言葉も非常に厄介だと思う。今回のように俺が完全に悪いと分かっている場合、どれだけ早く実家に戻るかで誠意の多寡が推し量られてしまう。
やっていたℤ区分のゲームを止めて、最低限度の荷物だけ持ち下宿先を出た。
俺は差し出された封筒をじっと見つめて、実家のリビングにある机に座っている。反対側には両親が座っている。相変わらず父親は難しい顔を、母親は泣きそうな顔をしている。ここ数年母親はいつも俺の目の前では泣きそうだ。
父親に封筒を開けるように促されて、学校のロゴが入った白い封筒を開けた。
中から出てきたのは留年の旨が書いてある書類が二枚。
「去年のこの時期に自分で言った事をおぼえているか?」
「来年はしっかり進級するって言った。」
「そうだな、ではこれはどういうことだ?」
「どういうことって・・・、進級できなかった。」
父は俺を凝視している。威圧感が半端が無い。昔からこの威圧感を直に受けると言葉が何も出なくなる。それを父も知っている。だから父からの質問はこれだけで終わった。父はキッチンに向かいコーヒーをドリップし始めた。ドリップが終わるまでの数分間、リビングには一言も会話が生まれない。そして最後に母さんと話しなさい、といって書斎に消えていった。
母と話せと言っても、何も話すことは無い。冷静な父と対照的に母は感情的な人だ。なぜまた留年したの、学校ってそんなにつまらいの、お父さんもお兄ちゃんも単位は落としても留年なんてしなかったわよ。と鳴き声と喚き声が混じり合う。ただただ母の悲しい気持ちをぶつけられるだけだ。会話など成り立たない。
そんな時間が三十分程あり、母が落ち着いたのですぐ家を出た。
母にお金は困っていないかと聞かれ、一万円ほど貰った。
一万円なんて二日で使い切ってしまう端金。でも貰わないよりはましだ。
イライラしたから俺は家に帰る途中のファーストフード店でジャンクフードを買い込み。家に着いたらすぐにゲームを始動させた。
これが俺のクズな一日だ。
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