1 新学期
桜もピークを終え、葉桜が近い頃、
桜桃高等学校は始業式の日を迎えた
「うわぁ…だりー…」
時刻は朝の7時30分、昨晩にセットしたアラームが鳴り響く。
「しょーたー、早く朝ごはん食べに来なさいよー」
「わかったわかった、すぐ行くから」
トーストと牛乳というシンプルな朝食を済ませ、身支度を整えているとインターホンが鳴った
「もう少しまってろよーすぐ行くから」
身支度を済ませ、数週間ぶりに学校指定の制服に身を包み家を出た。
「あぁもう遅いよー、おはよー」
玄関前には、翔太の幼馴染のあやかが立っていた。
「すまんすまん、はぁ学校行きたくねぇ…」
「えぇぇ、まだ始業式始まってもないんだよー、ほら後輩が出来たんだからしっかりしないと‼︎」
この元気はどこからやって来るのかと翔太はいつも思う
「お前はなんでいつもそんなテンション高いんだよ…」
「そんなことないよー、ほらほら早く行くよー」
あやかが歩く斜め後ろから翔太は着いて行った
しばらく歩いていると2人の通う桜桃高等学校が見えてきた、校門の辺りではクラス発表の紙の前に人だかりが出来ている。
「よぉーし、とつげきー」
あやかは肩にギリギリ掛からないくらいの髪を跳ねさせここぞとばかりに人だかりに飛び込んで行った。
数分後、あやかが満面の笑みで帰ってきた
「3組だったよー、私と翔太同じクラスだった‼︎」
「おぉセンキュ、さてと教室行くか」
2年生になると1年生の時とは違って昇降口から教室までかなり近くなる、1年生の教室はびっくりするほど遠いのだ。
「しっかし、かなり近くなったなぁ、去年よりは全然いいな」
「あっ!着いたよ‼︎」
2人が教室に入ると、翔太と腐れ縁とも言える一ノ瀬英治の姿があった。
「よぉ久しぶりだな、相変わらずのご一緒ですかー」
「うるせぇ、しかもおとついお前とゲーセン行ったばかりだろうが」
英治とは幼稚園からずっとおなじところに通い、かなりの確率で同じクラスになる。
「まさか、また同じクラスとはなぁ…」
「いいじゃんいいじゃん、みんないた方が楽しいよー」
あやかは相変わらずの笑顔でそう言った。
そうこうしているうちに始業式の時間になった。
「あぁやっと終わった…」
約2時間もの式が終わり翔太が校庭のベンチに腰掛けひと息ついていると、頬に冷たい感触がした。
「おつかれーいやーしっかし校長先生の話っていつも長いねー」
そこには、缶ジュースを両手に持ちその片方を俺の頬にあてるあやかの姿があった。
「つめてっ、なんだよ急に」
「ごめんね驚かせちゃったかー、コーラで良かったよね?」
「あぁ、センキュ、お疲れ」
相変わらずあやかのテンションについていけずそっけない対応になってしまう。
「さーてそろそろ教室いこうよ。新しい友達つくろー!」
そう言ったあやかは駆け足で校舎に向かって行った。
俺はそんなあやかに着いて行けなかった。
しばらくして、教室に入るとあやかの周りにはすでに人だかりが出来ていた。
あやか昔からそうだった、すぐに周りに溶け込み友達の輪を大きくしていた。
俺もそんなに友達を作るのは苦手ではないがあやかは特別友達が出来るのが早かった。
そんなあやかを俺はどこか遠い存在に思う。
「あっ翔太遅いよー。この子達隣の中学出身だってー。」
「あぁそうか。俺は新井翔太。よろしく。」
俺はそう言うと廊下側の列の一番前にある自分の席についた。
「あやか〜もしかしてカレシ〜?」
んなわけねぇだろバカと俺は心の中で言った。
「んー…多分違うよー」
あやかは悲しそうな顔をして言った。
ちゃんと否定しろよと翔太は心から思った。
てか、多分てなんだよ多分って。
「えぇ〜つまんな〜い」
それからは話題が変わったのか俺への目線は感じなくなった。
一通り自己紹介も終わり帰る時間になった。
さっさと帰ろうと支度を終え、校門を過ぎたところで声をかけられた。
「あぁやっときたー。一緒にかえろー」
あやかだった。てっきり新しくできた友達とでも帰ってると思っていただけにびっくりした。
「いいけどよ。お前いつからここいたんだ?かなり俺教室出たの遅かったぞ」
「んー、20分くらいはいたかな?」
「はぁ⁉︎早く帰れよ」
あまりにあやかのバカ具合に俺は呆れたように言った。
「そうだねー」
いつものように笑って言うあやかだったが、どこか表情にくもりがあるように見えたのは気のせいなのだろうか。
まあ、あやかのことだし大丈夫だろうと俺は思い気にしないようにした。
「んじゃ、帰るか。」
「うんうん。帰ろー」
あやかはいつも通り笑顔で元気いっぱいに言った。やはり俺が気にすることでもないようだ。
「今日ねー、たくさん友達できたよー。隣の席の子がすっごく面白いんだー」
あやかは後ろから着いてきている俺に振り向いてそういった。
「あぁそうか。そりゃ良かったな」
相変わらずのそっけない返事で返した。
しばらく、あやかが喋りかけそれに俺が少ない言葉で返していた。
すると俺は見覚えない女子生徒が近づいてきた。
多分、今日あやかが作った友達だろう。
「あーあやかじゃーん。あれー取り込み中だったかな〜」
「そっそんなこと無いよ。どうしたの急に」
「その慌て具合怪しいな〜。じゃあ末長くお幸せに〜」
「まっ待ってよー。そんなんじゃ無いってー」
あやかの声も聞かずその場を女子生徒は去って行った。
「なんでそんなオドオドしてんだよ。普通に違うって言えば良いだろ」
「うん。そうだね。」
またあやかは悲しそうな顔をして言った。
俺は自分がそんな傷つけることを言ったのか自覚がなかった。
その言葉を最後にあやかが口を開くことなく家に着いた。
俺は家に着いてから、流石にあやかの様子が気になった、なにがあったのかとても気になる。
自分が原因ではないかと思うところもあるがそれを振り払いたいが為にあやかが落ち込んでいる原因を探そうとしている、そんな自覚が無かったとは言えない。
ただ、そう思ったから行動するかと言えばしないのが俺だった。
自分でも思う、惨めで情けないと。
翌日からは、なにも変わらない生活だった、いや、表面上だけ変わっていないのだと思う。
いや、本当はもっと前から変わっていたのかもしれない。ただ、気づかなかった、気づいていないフリをしていたのかもしれない。