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Shall I help you? ぱいせん  作者: 田村ケンタッキー
戸部茅美の執心
3/6

一時のくつろぎ

 次の日の昼休み。

 瑠美音から例の解決法の件の連絡はまだだった。もしかしたらすでに表面下で始まっているかもしれないのであまり下手なことはしないようにしていた。

 しかしトイレに行く際に偶然、戸部さんとすれ違う。さっき下手な行動はしないと決めたばっかりだが、つい反射的にいつものように挨拶をする。

「よっ、戸部さん。お昼はもう食べました?」

「ふあぁっ!」

 普段通りに話しかけたつもりだったのが、変な声を上げられて驚かれた。

「ごごごめんなさい! 約束は放課後なのに会っちゃって! ごめんなああさあああい」

 そしてまた走り去られた。よく走るなぁ、戸部さん。走るの好きなのかな。

 走る去るのはいつものことだが、去り際に気になることをつぶやいていた。約束? 何のことだろうか。もしや、やはりすでに姉は動き始めている気がした。

 確認のため、電話をかけるが留守番電話で出てくれなかった。

 まあいい、とにかくあの様子だと今日は悪戯する気配はなさそうだ。昨日の放課後に相談したばっかりなのに次の日の昼には成果が出てるとは快刀乱麻とは彼女のためにあるような言葉だな。

 

 この時の俺は呑気なものでまだ知る由もなかった。今日の放課後にあんなことが起きるとは。




 帰宅部で生徒会役員である俺は放課後を毎日生徒会室に入り浸って過ごしている。特に用事や会議はないが、生徒会長になった瑠美音の思い付きで生徒会は半ば便利屋のようになっているため、それに強引に付き合わされている。

 生徒会長の瑠美音はリーダー、副生徒会長の平沼さんは相談役、俺は雑務のような役割になっている。生徒会役員は他にもいるが部活動などで会議の日以外はまず顔を出さない。それが普通だ、常任の三人が異常と言える。

 仕事量の割合としては圧倒的に俺が多いという不平等さだった。蛍光灯の交換や備品の調達、他の委員会の手伝いとほとんど男である俺が請け負っている。このような雑務は校務員さんがやるべきだが、生憎うちはヨボヨボのおじいさん(愛称やそじぃ。実年齢不明だが明らかに八十路は過ぎてると推測されてる)が配属されているため、若い労力が必要になっている。労働の代償に、合鍵を渡され昼休みでも原則立入禁止の生徒会室に自由に立ち入りし、くつろいでもいいようになっている。

 今日は所謂アタリの日であり、相談を持ち込む生徒も瑠美音も平沼さんもいない。一人でまったりと紅茶を飲む。今日はスティックシュガーを二本入れて、甘さを堪能する。携帯ゲームで暇をつぶしたいところだが、生徒会室でやるのは気が引けた。瑠美音が生徒会長に就任する以前は厳しく、校則になくとも校風で教員の裁量で休憩中でも見つかれば卒業まで没収なんてことも日常茶飯事でそこから随分と温くなったが、やはりそれでも自制は必要だ。

 こうやって砂糖入りの紅茶を飲んでのんびりしてると、例の彼女が必ずと言っていいほどひょっこりと顔をだすものだが、今日は珍しく姿を現さない。本当に珍しい。

 冷めた紅茶を一気に飲み干した頃に遠くからドタバタと足音が近付いてくる。戸部さんかと思ったが、入ってきたのは瑠美音だった。それもすごい慌ててるような雰囲気だった。土鍋から火柱が上がっても冷静さというより楽観を忘れない彼女が駆け込んできた。一瞬で異常事態が起きたと悟った。

「ここにいたか、てる坊! 大変だ、今すぐ体育館倉庫へ向かってくれ!」

「何が起きたんだ!」

「……え、えーと……いろいろだ!」

 歯切れの悪さを違和感を感じたが、

「……そう、戸部さんだ! 戸部さんの身に何かが起きた!」

 彼女の名前が出てきて、考えることを放棄した。

 続きを聞かず、飲み終わったティーカップを片付けず、俺は生徒会室を飛び出した。


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