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Shall I help you? ぱいせん  作者: 田村ケンタッキー
戸部茅美の執心
1/6

こいに落とす

「Shall I help you? ぱいせん」

 戸部茅美さんが俺を見下げながらそう尋ねてきた。ぱいせんとは俺のことだ。先輩を砕いた言い方をしているんだ、それ以外に何がある。

 後輩である彼女が俺を見下げているのは彼女の身長が別段高いわけじゃない。むしろ平均より低いほうだった。

 先輩である俺が彼女に落とし穴ではめられたからだ。

 ほんの数分前、生徒会室にやってきた彼女。その時は小柄なのに大人びたというか艷やかというか何というかこの後の展開を期待させるかのように「先輩……大事なお話があるんです」と言われたので校舎裏について来たらドボーン。挙句の果てに助けましょうかと世迷い言。

 最近姿を現さないと思ったら、虎視眈々と罠を貼っていたのか。

 穴は深く、年齢なりの身長の俺の首の下ぐらいが地面に隠れる。離れて見れば生首が地面から生えているように見える。心臓が弱い女子生徒が通りかからないことを祈る。

「人を落とし穴をはめておいてよく言うよ」

「あれ、もしかして、ぱいせんは別の穴にはめかったですか?いやらしいなー」

「違うから! そんなの全く期待してないから!」

「そうですか? 顔真っ赤ですよ?」

「これは地熱だ! 落とし穴の中がサウナみたいにあったかいんだよ!」

「いやさすがにその誤魔化し方はないでしょう……とにかく、ドッキリに成功したので助けますね」

 そう言って彼女は短いスカート丈をひらめかせ側に寄るが、俺はそれを止めた。

「待って、戸部さん。ストップ」

「? なんでですか?」

「それ以上……近づかれると……パンツ見える」

 そう指摘すると彼女の顔はみるみるうちに赤く染まる。下ネタでからかうし、遊んでそうな格好をするが、純情にも恥ずがしがっている。できるなら笑い飛ばして欲しかった、指摘するほうも恥ずかしい。

「……へ、へえ! だから何だって言うんですか! それで私が泣いて逃げ帰るとでも!」

 彼女はまた一歩を踏み出る。

「お、おい! ほんとに見えるからストップ! 別にお前の手なんていらないから!」

 ジャンプして落とし穴から這い出る。服が多少土で汚れるが、上は制服の上にジャージを着ているようにしているのであまり気にならない。

「怪我はないですか?」

「確信犯がよくまあ抜け抜けとそんなこと言えるな」

「ぱいせんこそ、抜け出せたのにどうしてすぐに出ようとしなかったんですか? あ、もしかして?」

 彼女はスカートの裾を押さえ、悪戯っぽく微笑む。

 その仕草に震度1未満程度に心が揺れるが、

「べ、別に! チビのパンツなんて興味なんてないんだからな!」

 古典的なツンデレ発言してしまった。我ながらキモい。キモすぎて、穴があったら入りたい。

「チビじゃないです! これでも高校に入ってから大きくなってますから!」

「全然わからんわ!」

「身長だけじゃないです! 胸だって順調に成長って何言わせてるんですか!」

「自分から言ったんだろ!? しかも若干ラップ調だったぞ!」

 目尻に涙を溜める。羞恥に限界が来たようだった。

「ぱいせんのバカー! これで勝ったと思うなよー!」

 泣きながら逃走。止める間もなく、彼女はさらに小さくなり、ついに見えなくなってしまった。

 残された俺。

「やれやれ……」

 足元にある大きな穴。これを埋めなくちゃいけない。このまま放置していたら危ないからな。

 彼女が掘るのに使っていたと思われるスコップが校舎の壁に立てかけられてあった。それを手に取り、せっせと穴を埋めてると彼女が泣きながら戻ってきた。手伝いに来たのか、と思ったが違った。

「ぱいせんは泣きながら走り去る女の子より穴を優先するんですか!? 恋愛漫画ならすぐに追いかけるところなのにいいいいい! だから童貞なんですよおおおお!」

 俺たち別に恋人同士じゃないとか童貞言うなとか反論する間もなく、、マッハで走り去ってしまった。

「何なんだ、戸部さんは……」

 彼女の謎の行動の理由突き止めたいがやはり、今は穴を埋めるのが先決だ。

 ちなみに俺がこうも冷静でいられるのは今回のようなことが初めてではないからだ。彼女が高校に進級してから一ヶ月。こうやって彼女の悪戯の被害者になるのはかれこれ七度目だった。

 最初は古典的な引き戸に黒板消しを挟む悪戯から次第にエスカレートし、今では落とし穴とまで上り詰めた。このまま行くと校舎全体にブービートラップを張られ、ベトナム戦争を再現することになるかもしれない。

「……そろそろ、姉さんに相談するとしよう」

 そう俺は固く決心した。

 しかし、それは明日だ。

 なぜなら、

「……戸部さん、深く掘りすぎでしょう」

 あの細腕で男一人埋まる穴を掘ってしまったのだ。もしかしたら一週間以上かけたのかもしれない。

 彼女がここまで悪戯に執心するのか、本当にわからなかった。

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