落下星
何か壁にぶつかると、後戻りする。
何回もぶつかると、諦めてしまう。
迷路のその先。わざわざここを通る必要はないと。
そのたびに一つ、何かが消える。
泡のように儚く、そしていとも易く、消える。
迷路には少年がいた。
少年は迷路の曲がり角を幾度と無く曲がった。
道を引き返すことも、しばしばだった。
「いい加減嫌になってくる、」
少年は苛立ちを顕わに、頭を掻いた。
この迷路を抜ける必要の意味が分からなくなってくる。
もちろん、目的があってこの迷路に飛び込んだ。
僕なら抜けられると信じて。
行き止まりが多くても、僕は諦めないと誓って。
それが今、少年の心から消えようとしていた。
実は、抜けることは難しくても、戻ることは簡単なのである。
迷路の壁を思いっきり蹴飛ばせば、全ての壁が壊れ、戻れるのだ。
今までの苦労は何だったのだろうと思うほどに易く、戻れはするのだ。
――振り出しは現れても、終着点は現れはしない。
ここは、そういう仕組みの迷路。
それでも、きっと次こそ大丈夫だ、と少年は角を曲がる。
――行き止まり。
ちっ、と舌打ちする。
小さく希望を持ったあとの壁ほど、人を堕落させるものはない。
少年は思う。
もっと簡単な迷路だったら、僕も抜け出せるのに。
迷路なんて通る必要のないところを行けば、こんなに不愉快じゃないのに。
こんなにきつい思いをしてまで、迷路のその先に辿り着く必要はない。
はぁ、と息が吐かれる。
少年の目は、すっかり灰色になってしまった。
「別に僕じゃなくとも、」
きっと誰かは、この迷路の先に行くだろう。
この先に行くのは自分じゃない。
天を仰げば、空は暗くなっており、星と月が少年を見ていた。
希望の星とも呼ばれなどする星が、瞬いていた。
少年は、あーあと思いながら星を見つめ、やがて視線を目前の壁に移す。
次の瞬間、
少年は壁を蹴り倒した。
脱落者の道が一本、そこに現れた。
別の迷路で、また別の少年が、同じ時、空を見ていた。
疲れてはいたが、負けん気の強そうなその目で、空を。
すると一つの星が短く尾を引いて、流れ落ち、
消えた。
今日もまた一つ、消えたなと、少年は呟いて、明日のために寝るのだった。
身近にあったものを題材に。
要は、この迷路は何を具象化したものか、ということが
分かって頂ければ幸いです。