はじまり②
昨日の日記にも書いたが今日からが私の冒険が本当に始まる日。
昨日までは初めて通る道でこそあれ、見慣れた物しか生え茂ない森に、似たような物が点在する古びた遺跡しかなかった歩み。
ピクニックの延長としか、私は感じる事ができなかった。
ちなみに昨日は結局すぐ寝る事ができた。
初日が初日。いきなり睡眠不足から始まる冒険じゃなくて良かった良かった。
「それじゃ、手続は終わり。気を付けて旅するんだよ」
「はい、ありがとうございます!」
40代くらいの男性兵士に出国の許可印がついた紙を渡される。
笑顔で。だけど心から心配するように優しく「気を付けて」と言ってくれた。
ちなみに他所の国の人達には信用が全くできないといった感じで怖い目つきで睨んでた。
他の兵士も同様で、昨日も感じたが流石は閉鎖的で身内に優しい魔法の国の兵士さん達だ。
ちなみに魔法の国出身者らしい出来事はまだ起こり…。
「そうだ、私の使い古しの短剣を持っていかないかね?年期はあるがちゃんと整備してあるから切れ味は良いはずだ」
「あ、だったらオレも予備の魔法石はいらないか?大した力はないけど雨の中でも火元を作るくらいはできるよ」
「お昼ご飯にと思ってサンドイッチを作ってきたよ。ピクルスは大丈夫かな?苦手なら抜いてある物を持ってくるけど」
「い、いえ。みなさんお構いなく」
親戚のおじちゃん、おばちゃんが荷物を持たせたがるように、どんどん私に物を持たせようと声をかけてくる。
みんな兵士で男性ばかりだが、女性に優しくといった感じにではなく…あくまで親戚みたいに。
嬉しいけど…国境でも故郷の村を出る時とほとんど変わらないのがなんとも複雑。
自分で言うのもなんだが魔法の国の住人はみんなこんな感じなのだろうか…。
食べ物や道具はしっかり準備してあるからと断ったり、思い出のありそうな剣を貰うワケにはと1時間くらいしてなんとか善意を断り、してようやく旅立てそうだった。
「他所の連中には騙されるなよー!」
「いつでも戻ってきていいからなー!」
「何か困った事があったら遠慮するなよー!」
あくまで他所の国の人達には警戒するような事を言いながら私を見送ってくれる兵士の人達。
この光景も村で見たのと同じで笑顔がほころんだ。
…正直、私は自分の生まれた国である魔法の国が嫌いだった。
閉鎖的で、他の国との交流も全然なくて新鮮な物がほとんどない。
とにかく私はつまらなかった。
日常が退屈で、倦怠感が凄く、生きているだけで苦痛を感じてしまうほどに。
けれど身内の…同じ国の国民というだけでここまで親しく優しくしてくれる人々に心が凄く暖かくなった。
おそらく、本人達にとって当たり前の事で私も別の人が同じ状況だったら祝福して応援するだろう。
これはきっと…旅に出ようとしなかったら気が付くことができなかった事だ。
私は今日、この魔法の国ルナティシアに生まれ育ってきて事を初めて誇りに思い、故郷が好きになった。
大げさかもしれない。
けれど私はこの暖かい気持ちを忘れる事なく、旅を続けられるだろう。
そしてきっとこの気持ちは冒険を続けるにあたって大切な物になるのだと直感で感じていた。