少年と青年
あるところに、少年がいた。
彼は、6歳。
来年、小学生になる。
ピカピカの一年生だ。
本当に、ピカピカかどうかは知らないけれど。
そんなピカピカになる予定の少年に注目する両親はいない。
実際には居るが、彼の心の中には存在して居ない。
彼には、弟が居る。
…出来た…と言うべきだろうか。
生後6ヶ月の男の子だ。
彼は、毎日のように忙しく、泣き喚き、両親の注目を浴びていく。
まぁ、主に母親だが。
そんな少年は、ある日、家を飛び出した。
なぜ、飛び出したのかは分からない。
まぁ、所謂、家出という奴だろう。
彼は、家から少し離れた公園に住もうと決心した。
これは、一大決心だ。
そんな時、少年の前に、青年が現れた。
生きているのか、死んでいるのか…そこに存在しているのか、はたまた幻か。
そんな、青年だった。
青年は少年に尋ねた。
「どうしたの。」
少年は思った。
…不審者だ。
よく、そんな言葉を知っているものだ。
おそらく、その言葉の意味するところは、あやふやだろう。
しかし、少年の心は限界だった。
話さずにはいられなかった。
離さずにはいられなかった。
繋ぎ止めておきたい気もしたが、一度、離してみたかった。
「お父さんとお母さんが弟ばかり可愛がるの。もう僕は、居らないみたい。」
青年は、困惑した表情を浮かべた。
表面上だけに。
青年は彼に言った。
「きっとお父さんとお母さんは、君が生まれた時も、同じように、大事に、大切に、可愛がってくれたはずだよ。なら、今度は、君がお返しする番だ。お父さんやお母さんのお手伝いになる事、君に出来る事を、君なりに精一杯、一生懸命やってみたらどうだい?」
青年は続けて言った。
「もしそれでも、君のお父さんとお母さんが君を愛してくれなかったら…僕が君を愛するよ。と言っても、君のお父さんやお母さんの代わりになれる訳じゃないけどね。君が寂しかったり、誰かと遊びたかったりする時は、僕の所に来てごらん。僕は何時でも、この公園に居るから。」
…何時でも…?
少年は、不思議に思ったが、彼の言葉に、どこか安心し、家へ帰る気になった。
その後、少年は、その公園に助けを求めに来る事は無かった。
お父さんとお母さんのお手伝いで忙しかったから。
むろん、家族みんなで遊びに来る事はあったが。
フィクションです。