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Fehlen world ‐欠ける世界‐  作者: 長野晃輝
第一章 シンジツ
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Ⅲ 青い光

 僕は沢田先輩を見送ってからもまだ教室にいた。

 ……。僕が沢田先輩に初めて会ったのは彼が生徒会副会長になった日のはずだ。

 それは確か今年の春だ。僕はその時こういう人が人の上に立つのはなかなかないことだと思ったはずだ。

 しかし、記録上僕はその時にこの学校にはいなかったことになっている。生徒の名簿、クラス写真、その他すべての資料から僕の名前が消えている。

 加えて、消えていたのは文章だけではなかった。

 クラスメイトの記憶からも僕の存在が抜けていたのだ。

 それが欠落だ。


 昔から僕の周辺では欠落が多く起こった。

 はじめて僕がはじめてその体験をしたのは五歳の時だった。

 そのころ僕には小さいころから仲の良かった女の子の友達がいた。いわゆる幼馴染ってやつだ。

 ある夏の日、彼女は消えた。僕の周囲から。人の記憶から。溶けた氷のように。

 それが始まりだ。

 それ以降僕の周りは劇的に変化を繰り返した。

 人だけではなく有名だった建物が消えたりもした。昨日までテレビで活躍していた俳優が近所のコンビニの店員になっていたこともあった。

 僕の世界は絶対ではなかった。

 容易に揺らぎ、変化する。

 その変化にはいくつかの法則があった。

 一つ目は人の記憶や、写真、日記などの文章など全ての記録までもが変化してしまうこと。例えると過去が丸ごと変わってしまったようなのだ。今僕の親は12年前に交通事故で亡くなったことになっている。

 二つ目に1週間以上その変化した状態が続けば、もう元に戻ることはない。逆に言うと一週間以内に元に戻る可能性もあるということだ。なぜ元に戻るのかはわからない。そもそもこの変化自体が何なのか分かってない以上、それを考える意味がないと思う。

「なんて、こんなことを今確認しても意味がないのに……」

 僕はため息を吐いて教室を出た。

 沢田先輩の彼女は間違いなく欠落に巻き込まれたのだろう。

 彼女が患っている病がなくなった。それが今回の欠落。必然的に沢田先輩が僕に愚痴をこぼす理由がなくなり、僕と彼のつながりが消失したということだ。

 彼からすれば僕と出会ったのは今日が初めてということになる。

 僕の記憶だけ残して世界は変わるのだ。


 夕暮れを背景にする校舎を後にして、僕は外に出た。

 しばらく校門から続く桜並木を歩いていると、

「すみません。お時間よろしいですか?」

 女の子に声をかけられた。

 僕の前に堂々と立ったそのは未完成の絵のような魅力を持った少女だった。

 幼げな顔つきは可愛い。だが、成長期に入った体は大人っぽく、長い黒髪は綺麗だ。

 大人の女性としては完成していないが、女の子の域は越えた今だけの魅力を僕は感じた。(なんかロリコンを肯定している気もする。うん、気のせいだ)

「はい?なんです」

 一見しただけでは彼女の年齢を正確には割り出せないので、一応敬語を使うことにする。

「あなたは世界を変えたいと思ったことはありますか?」

 普段の僕なら相手にしないような質問だったかもしれない。

 でも、僕は久々に得た友人のことで悩んでいた。だから答えた。

「はい。ありますよ」

 静かに淡々と、僕は口を動かす。

「誰もが考えたことだと思いますよ。理不尽なことに泣いた人間であるのなら」

「そうですか」

 少女は自分の左目に手を当てながら、右目で僕を見る。

「では、あなたの負素アンチマターを見させていただきます」

 左手を離した時、一瞬青空のような光を見た気がして、

 僕の意識は途切れた。

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