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Fehlen world ‐欠ける世界‐  作者: 長野晃輝
第二章 ニチジョウ
19/22

アリスⅠ でーと?

アリスのターン(`・ω・´)

 沢田さんの改変の事件が解決した後、僕はエイナさん宅へ毎日の様に訪れていた。理由は何故かと言われたらちょっと困る。ただ楽しいのだ。

 エイナさんやアリスとの他愛のない話をすることは本当に楽しい。

 ちょうど例の事件から二週間後、梅雨が訪れた。

「直樹さんは一体何をしているんですか」

「ほんと、すみません」

 僕は土下座していた。

 それもう本気の土下座である。ああそうなんだよ。額を地に擦り付けるぐらいには本気なんだ。……ちなみに僕らはエイナさん宅の玄関口にいて、扉を境目にするように僕が外側に土下座、アリスが家側に仁王立ちの状態である。

 アリスは意外にお洒落な服装をしていて、ちょっと上着には小悪魔的な感じのする黒皮のジャケット(?)みたいなものを着ていて、その下には薄いピンクのシャツを着ていた。意外に足は長いらしく(一般的な身長と比較すると哀しいことになるので、控えておく)、ちょっとタイトなデニムが良く似合っていた。

 ただ背中には遠足にでも出かけるようなリュックを背負っていて、それがピンクの可愛い感じのもので、すごく子供っぽい。悪いとは一概に言えないけどね。僕も悪いとは思わないけどね。

「だから緋島サンはわかってないんですよ。女心というか乙女心というかそんな感じのものを!! ……ひははひはしはしたかみました!!」

 相変わらず舌を噛んで涙目になってるアリス。

 思わずクスリと笑ったら、物凄い表情で睨んできた。

「そ、そんなおこらないでよー」

 僕だって不本意だったのだ。

へほへほへほでもでもでも……うーうーうー」

 痛そうに舌を出して手で扇いでいるアリスは微笑ましい。何だろう。妹ができたらこんな気分になるのかな?

 どうしてこうなったかというと、単純に僕が遅刻しただけだ。

「ホントごめん。まさかバスに老友会の人が団体で乗って来るとは思わなかったんだよ」

 ターミナル駅の近くに新しくできた健康ランドへ行くためにバスに乗ってきたらしい。

 おかげでバスは老友会の乗車してきたバス停と、駅で大幅に時間を取ることになったのだ。

 バスはこういうことが起こるから早めに乗ったのに、この結果だ。これは僕にはどうしようもないことだ。

「でも、おくりぇたことは事実です」

 まあ、遅れたよ。うん。あと君は今噛んだね?

「だから、それは謝ってるよ。ホント、ごめん」

 さっきから僕ずっと土下座してるからね? もしかして土下座って日本固有文化? グローバルじゃ通じないの?

 結局僕が解放されたのはそれから十分経った頃だった。


 事の始まりは、昨日だ。

 いつものようにエイナさんの家へ来て、リビングでくつろいでいた際に、アリスが突然僕に向かってこう言った。

「直樹さん。明日、ワタシの仕事に付き合って貰えませんか?」

 緊張していたのか、いつの三割増しの早口だったが、まあ聞き取れたので気にしない。

 アリスは何故か体をピンと伸ばした直立姿勢で、微妙に僕と目を合わせようとしていなかった。

「仕事?」

「ハイ。ワタシ本来の仕事です」

 僕は少し考え込んだ。

 明日は日曜日。しかも僕には特に用事もない。

 本来なら二つ返事でOKするところなのだけど、なんだか嗜虐心が僕の心を揺さぶった。

 どうもアリスは思わずいじめたくなるような少女なのだ。

 よくこけるし、噛むし、その後顔を真っ赤にして必死で誤魔化すし。ちょっと驚いただけでオーバーなほどに声を上げるし。

 とまあ、反応がいいほどいじめたくなるわけで……。

「どーしよっかな~」

 なんて、ちょっとイジワルして焦らしてみたり。

「お、お願いします!」

 ぴったり九〇度になるまで頭を下げるアリス。

「うーん。ちなみにどうして僕に頼むの? エイナさんでもいいと思うのだけど?」

「いや、それはその! あの! ですね!」

 ごめん。……すっごく面白いです。

 笑いそうになるのを我慢しながら僕は無理やり渋るような表情を作る。

「やぶさかではないんだけど、理由位は訊きたいんだよね」

「う~。直樹さん、イジワルです」

 涙目になってアリスはいじける。

「ごめんごめん。アリス、面白いから」

「もう……。それで、大丈夫ですか?」

「うん。僕も予定はないし、お付き合いするよ」

 緊張が切れたためか、アリスは胸に手を当て、息を一つ吐いた。それと共にようやく直立姿勢を解く。

 そして、心底嬉しそうに破顔した。

「そ、それで、何処に行くつもりなの?」

 ちょっと直視していられなかったので、僕は静かに目を逸らしながら、彼女に問いかけた。

「え~っと。実はそれは決まってないんです。地域ごとに最適の場所があるので、それを探すことから始めないといけないんです」

 ちょっとシュンとした様子で肩を落とすアリス。それは見ててすごく嗜虐心がくすぐられるのだけど、ここは我慢。

「まあ町案内みたいな感じでいいかもしれないね。アリス、そんなに外出してないんでしょ?」

「は、はい」

 アリスは少し方向音痴らしく、この屋敷でも時たま迷うらしい。これはエイナさんの証言だ。

「それじゃ、待ち合わせはこの家の前にしておこうか?」

「は、はい。お願いします」

「後は……。そうだね。仕事って、どれぐらいの時間が掛かるものなのかな?」

「そうですね……、場所さえ見つかればすぐにできることなんですが」

「じゃあ最長で丸一日として考えておいた方がいいね」

「……そうですね」

 今、ちょっとだけニヤって笑ったけど、何か思いついたのかな? まあ悪いことじゃないといいけど。

「オッケー。じゃ、何時から始めようか?」

「できる限り早い方がいいですね。……七時ぐらいにこっちに来られますか?」

「七時ね。りょーかい」

 この時の僕はまさかそんな時間から健康ランドがやっているとは思いもよらなかった。っていうかこんなに早くから営業してる健康ランドって他にないんじゃないのかな。それとも、あの老友会は食事でもしてから向かうのだろうか?

 とまあこのような打ち合わせをしたのにもかかわらず僕が遅れたからアリスはすごく怒ってたのだ。

 ちなみに、何故かこの日エイナさんが不機嫌で、ろくに口も聞いてくれなかった。


 そして、約束が今日。生憎の空模様だけど、雨が降っていないだけマシだと思おう。

 機嫌を直したのか、さっきとは打って変わって機嫌良さそうにアリスはぶんぶん両手を振って突き進む。

 エイナさん宅がある山から少し降りただけでバス停が見えてきた。今日はこれに乗って移動するつもりだ。

「なんか楽しそうだね?」

「そ、そんにゃことありましぇん!」

 あたふたと両手を振りながらアリスはそう言った。

 どうでもいいかもしれないけど、昨日から滑舌の方で、盛大に噛んでるのはなんでだろう? まあ深くは訊かないでおくけど。

「それで、どうする? 一応君の仕事につかえそうな場所は調べてるけど」

 正直、それは観光マップみたいなものを頼りに考え出している。彼女の仕事が何なのか詳しく聞いていないため、そんなぐらいしか行くべき場所も思い当らなかった。

 ホッとしたように肩を上下させたアリスは振り返って、どうしてかすごく不機嫌そうな表情を僕に向けた。

「どうしましょう?」

「僕に聞かれても……」

 アリスが最終的な決定権を持ってるわけですし。

「え、……ええ。そうなんですけど」

「取りあえず観光マップ持ってきてるから、それを見て決める?」

「は、はい。そうします」

 肩に下げていた鞄から地図を取り出して渡す。

 アリスはちらちらと僕の方を見ながら、地図を見始めた。

 ってか僕何かしたのかな?

 ちょっと考えながら、歩き続けていると、先を進むアリスの身体が何かを堪えるように震えた。

「(……もうちょっと何かしらのアクションを! 例えばちょっとおススメの場所を言うとか!!)」

「どうかした?」

 まさか風邪じゃないかと心配して僕は声を掛けた。

「何でもありません!」

「そう? でもこれから気候が変わるから気を付けた方がいいよ」

「……」

 無反応。でも、明らかに怒った様子でアリスはずんずん進んでいった。

「ちょっと待ってよ~」

 う~ん。女の子は難しいのかな?



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