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Fehlen world ‐欠ける世界‐  作者: 長野晃輝
第一章 シンジツ
13/22

ⅩⅢ change my…

 アリスは首を傾げた。

「どうして、その沢田とかいう人が改変者だとわかるんですか?」

 ……それ以前に君がどうして僕のことを知っていたのかが気になる。まあ言わないけど。

「その人、彼女がいるらしいんだけど、その彼女さんは病気だったんだ。でも改変の後はそうじゃなかったみたいだ。

 森川さんがそんな改変をするとも思えないし、多分、沢田さんがもう一人の改変者だと思う」

 沢田さん。あなたは、改変してまで彼女を救いたかったんですか?

 でも、沢田さんは自分の恋人を助けたかっただけだろう。それは悪いことなんだろうか?

 今になって改変が正しいかそうでないのか分からなくなった。

 人が世界を変えたいと思うことはそんなにいけない事なのか。

 圧倒的な理不尽に抗おうとした結果が負素ではないのか。

 そんな考えが、僕の中でぐるぐると渦巻いていた。

「……」

「何を考えているんですか?」

 僕の顔を覗き込んでエイナさんは言う。

「え、え~と、たいしたことじゃないよ。ただ」

 僕は一瞬言うべきかどうか悩んでから、

「改変で現実を変えることはそんなに悪いことなのかな」

「……」「……」「……」

 エルさんも含めた三人は黙り込む。

「僕は、人を消したり、悲しませたりする改変はダメだと思うよ。でも、一人の女の子を救うために現実を変えることは悪いことなのかな?」

 空気が重くなり、記録者(リギスター)調律者(チューナー)である二人の少女は黙り込んでしまった。

 そんな中沈黙を破ったのはおっさんの声だった。

「……兄ちゃん。俺は悪いことだと思うぞ」

 僕は黙ってエイナさんを見つめる。ほんの数瞬だけの視線の交錯。しかし、彼女はすぐに目を逸らしてしまった。

「現実を受け止められずに、人間にできない過去を変えることで現実から逃げるっていうんだ。ゲームで言ったらチートだ。まあ、人生ってのは不公平かつ理不尽なものだろうが、受け止めなきゃならねえ」

 おっさんの声で言われると説得力があるような気がする。実際人生経験は豊富そうだ。

「例えばその娘さんと同じ病を抱える人が百人いたとする。でも改変で救えたのは一人だけだろう。他の人は不公平だと感じるだろう?他の人はその方法を選べないんだから」

 何となく気持ちは分かる。

 人は等しく平等であるといわれるけど、社会に出れば格差もあるし、不平等なんてない方がおかしい。当たり前のことだけど、だからこそ腹立たしい。

「それにな、そんな裏ワザをノンリスクで使えると思うのか?」

「改変に何かリスクがあるの!?」

「おお。どうした急に焦って」

 焦っているのか僕は、と意識して深呼吸する。

「ごめんなさい。もし森川さんに何か悪い影響が出たらどうしようって思いまして」

「……お前さん、ホントお人好しだね。自分のことを改変したやつの心配なんてよくできるな」

 呆れたようなエルさん。そういわれても、あの娘は僕を消したりしたわけじゃないんだからそんなに根に持つことでもないと思う。

「まあ、いい。それで、改変の影響だが、改変者自身には何の影響もない。正しくはあるんだが、そんな顕著なもんじゃねーんだ。それに、あの嬢ちゃんはもう記録固定(メモライズ)してる。影響はほぼないと言っていい」

「そうなんですか……」

 少しホッとする。僕は自分で思ってたよりも彼女のことを心配していたらしい。

「「……」」

 なんか二つの目線が串刺しにしてくるのですが、そのくせに顔見たら逸らしてきます。どうしたらいいでしょうか、と。誰か答えてくれます?

 まあ、無視。うん、無視。絶対無視。

「お前さんにとってはいいんだろうが、世界全体としてはよろしくねーんだ。

 俺様たちがどうして世界を記録しているかは知らないな?」

 さて、なんか六話ぐらいでいろいろ難しい話をされた気がするが(タイムトラベルパラドクスとか)、そんな話だったけな?

「確か、不安定な世界を記録して固定することが目的だったと記憶しているけど」

 まあ、その後僕は根暗モードに入ったので、流してしまったけど。

「……エイナ」

 びくっと跳ねて椅子を揺らした彼女。……まあ、今のタイミングで話しかけるのは意外だけど。と僕は密かに彼女に同情する。

「いい加減兄ちゃんの目ぇ見て話せ。お前の事やろ。お前が話すのが義務ちゃうんか?」

「……はい」

 シュンと親に怒られたように肩を落とし、少し涙目のまま彼女はエルのその言葉に頷いていた。

 ところで関西弁って怖いね。僕までびくびくしてたよ。

エイナさんはこっちに向き直ったけど、時々おどおどして目を逸らしていた。

「直樹さん。私たち記録者が改変を修正するのには理由があります」

 それはそんなに改まって言わなければならない事なのだろか。僕は少し疑問に思う。

「改変は世界の記憶を捻じ曲げるものです。それをするだけで世界の記憶はより不安定になります。そして許容量を超えたら私たちにも、どうなるかわかりません」

 ふうん。と僕は頷く。

 どうなるかわからないと言われてもピンとこないというのが本音だ。

 それでも、一つだけわかることがある。

「確かに世界を自分の思い通りに変化させるものがそんな簡単にできるはずもないね」

「……」

 それっきり彼女は黙ってしまった。まだ何か言いたそうにちらちらと僕を見ているので、これで終わりではないんだろうけど。

「エイナ」

 さっきよりも少しだけ優しげな声をエルさんは掛ける。

「……」

「言えないなら、ワタシが言いますよ?」

 アリスはいつの間にか表情を消した顔でエイナさんを見つめていた。

「……」

 呆れたように一つ息を吐き彼女は僕の方に体ごと向ける。

 僕も彼女と顔を突き合わせた。

「……緋島さん。ワタシはあなたのことをエルから知らされてここに来ました。さっきの負素の浄化はついでにやったことなのです」

「僕のことを?」

 そういえばミルネさんも僕のことをエイナさんから聞いたって言ってたし、僕はそんなに珍しいのかな?

「はい。あなたが改変を認知できると聞いたので、大急ぎで来ました」

「改変に気付けるのってそんなに特別なことなのかな?」

 僕は正直いろんなことを受け入れるのに時間が掛かったので、あんまり人がどうとか考えたことがない。多分普通の人はこんな力は持ってないんだろうとは思っていたけど。

「特別ですよ。飛び級の特別です。スーパーのタイムサービスなんかめじゃないです」

 ……うん。それは、なんていうか、そうだろうね。もし、タイムサービスとほとんど変わらなかったら、ありがたみというか、僕今まで何に悩んでたんだろうって落ち込むよ。

「改変に気付くなんて蒼天の霹靂ですよ。寝耳に水ですよ」

 なんかその二つをならべるのはよくないと思う。というか若干意味が違うと思う。細かいけど。

「そこでワタシはあなたに接触したの」

「てことは、あの時君が泣いていたのは僕を引き寄せるための演技!?」

 通りであの後の彼女の対応が冷静過ぎると思ったんだよ。

 彼女は不敵に笑い、

「いいえ、あれは本気で迷って自己嫌悪で泣いてました」

 本気だったんだ……。今さっきの僕の感心を返してほしい。

 彼女は照れたように頬を染め、少し舌を出した。

 可愛いしぐさで誤魔化そうとする気満々だと思ったけど、そこを突くと蛇が出てきそうなので放置しておく。

「それで、アリスは僕に会ってどうするつもりだったの?」

 アリスはまた真剣な表情に戻り、

「正直に言いますと、ワタシはあなたを調べるつもりでした。そうすることで世界に影響を与えずに改変ができるかもしれにゃいのです」

今噛んだよね?結構重要なセリフなのに噛んだよね?まあ、最後まで言い切ったから良しとしておこう。

はにかむようにうつむきながら顔を真っ赤にするアリスは置いといて、僕は向かいのエイナさんとエルに向き直った。

「私たちには改変を感知することはできません。私たちは記録固定をすることによって初めて改変の影響を外れるのです。つまり、私たちが記録固定していない人や物に改変が起こった時、私たちはそれに気づくことはできないんですよ」

彼女にとって気まずいことはもう言われたのか、エイナさんはいつも通りの冷静な口調で説明する。

少し気になったけど、それは今関係無いかと割り切って、

「それは分かったよ。でも僕が気づけるからって言って、世界に影響を与えないように改変することができるの?というかそもそも、記録者たちも改変をすることができたの?」

「お前さんに言ってなかったか?

まあいい。記録者たちは記録固定で確定した世界の記録を書き換えることができる。世界の記録を変えるっていう点で、それは改変といえるだろ?」

 まず後者の質問にどこか意外そうな声でエルが答えた。

 それに頷いて、エイナさんは口を開く。

「私たちの改変でも世界に影響を与えることは不可避なことです。多少、負素による改変よりもましなだけです」

 それでもそれは僕の言う欠落と同じなんだ。それは許されるのかな。まあ、内容にもよると思うけど。

「私たちの改変はそれぞれ違います。記録者がする改変は、負素の改変者たちを元に戻すことです」

 厳密には記録固定だが、改変したままで固定すると本末転倒だ。だから、彼女たちは元の形に改変し直すのだ。

 僕はエイナさんに頷き、今度はアリスを見る。

「ワタシは調律者です。ワタシたちにできることは負素を解放して無害な思念に変えることです。もしかしたらこれを改変と呼ぶのかもしれないですね」

 二人の話を聞く限り、彼女たちの改変は悪いものだとは思えない。

「それで僕の存在がどうして影響のない改変に関係するの?」

「それは……」

「それはですね……」

 前者はエイナさんで後者はアリスの言葉だ。

 二人はむっとした表情で睨み合う。

 そのまま微妙な空気を醸し出しながら数分間が経過した時だった。

「お前らいい加減にしろ!!」

 エルがキレた。

 途端に子犬のように二人はびくびくしながら上目遣いで図鑑サイズの厚手本を見る。

 ……可愛いのかもしれないけど、激しくシュールだ。

「俺様が説明するからお前ら黙ってろ」

「「はい」」

 同時に頷いた。どうでもいいけど、二人が息を揃えたのを初めて見た気がする。というか僕、どうでもいいってフレーズ多用しすぎだね。

「でな、兄ちゃん。お前さんは改変前の世界の様子を正確に覚えているよな?」

 僕は思い出す。

 消えてしまった幼馴染の少女。同じく消えた両親。無くなった建物に、コンビニ店員になったアイドル。五センチ縮んだ僕の伸長。僕の高校での扱いの変化。

 自分では正確に覚えているつもりでも、それが本当に正しいものかは分からなかった。

「僕はそのつもりだけど、本当にそうなのかと言い切れる自信はないよ」

「いや、その辺は大丈夫だ。お前さんの記憶はエイナと俺様がしっかり記録したからな。それを照合して確かめたよ」

 一応現状確認の意味で言っただけだとエルは付け足した。

 しかし、そうなのか。正直なところ僕の記憶力は人並みなのだけど、改変に関しては異様によく覚えている部分はある。ただ衝撃的だったから覚えてるだけだと思ってたけど、実際のところはどうしてなんだろう。

 そんな疑問を今ぶつける訳にもいかず、エルの説明に耳を傾ける。

「そのお前さんの記憶を使えば、改変によって歪められた世界を最も正しい状態に復元できる。だから、アリスはお前さんを調べようとして接触した訳だ」

 ……。

「つまり、僕を利用するつもりだったんですよね。便利な記録装置マーダーとして」

「……」

「……」

「……」

 三人の閉口は肯定、と採っていいだろう。彼女たちはこの話題が出た時と同様に気まずそうに視線を逸らす。悪戯が見つかった子供がこんな態度を取ったと思う。

 そんなに後ろめたいことなのだろうか。というのが僕の本音だ。

 人間は誰かを利用することもある。その人の力とか、人徳とか、優しさとかを利用することは珍しくないことだと思う。僕自身にそんなところはあまりないけど、でも僕は見ていた。

 人を利用する人の姿を。だからこそ思う。

 彼女たちは綺麗過ぎる。

 新雪のようにただ白く、穢れを知らない。そんな綺麗さが彼女たちから感じられた。

(ああ、そういうことか)

 僕は一人納得する。

 彼女たちはこういう人との付き合いに慣れていないんだ。

 記録者として、日々負素を封じるエイナさん。

 調律者として、負素を無害化するアリス。

 こんな二人では人と触れ合うことはそうなかったのかもしれない。だからこそ、人との関わりに綺麗過ぎる理想を彼女たちは持っているんだ。

 元々はただ負素を記録するために近づいたエイナさんが、たまたま僕の改変を受け付けない体質を見つけた。それをアリスに伝え、世界の為と言い訳し、僕を利用する。

 もしかしたら、二人はそんな風に僕との関係を誤解(・・)しているんじゃないだろうか。

 僕は少し苦笑気味に笑う。

「でもね。僕はそれでいいんじゃないかと思うんだ」

 二人ははっとしたように僕を見る。

「利用するつもりでもさ。そこから始まったつながりが、心地よく感じられているならそれでいいんだよ。僕はエイナさんのも、アリスのも、ミルネさんのも、エルのも、全部のつながりが心地いんだ。二人はどうかな?」

 エイナさんは明後日の方向を見ながら静かに頷いて、アリスは迷ったように首を傾げた。

「それにね。僕としても利用されるのは吝かではないんだ。僕も改変に関わる人間だし、望むところだよ」

 どんっと胸を叩いた。

 二人は少しだけ朗らかに笑った。もしその笑みが、僕の言葉を聞いて浮かべたものなら、それはこの上なく嬉しいことだ。

 気づけば僕も、笑っていた。



「それで協力ってどうしたらいいの?」

 肝心なところだと思うけど、二人は同時に首を傾げた。

 知らないらしい。この娘たちは僕に何をさせるつもりだったのだろう。そして僕はどうなるのだろう。正直、不安だ。

「しゃーねーから俺様が説明してやる」

 威張った子供のようなおっさんの声。あなた、もう説明係という認識でいいですよね。

「お前さんの記憶を用いて改変するわけだから、お前さんが改変するのがベストなんだよ。という訳で、お前さんの情報を改変して、お前さんに記録者とか調律者の能力を与える」

 つまり僕は今回の森川さんがしたように改変されるのか。まあ、悪いようにされるわけじゃないからいいけど。

 そう僕は一人納得した時だった。

 バンッッッ!と木材同士がぶつかったような音が響き、一斉に僕らはその音源を探して書架の入り口を見た。

 そこにはもう一人の記録者こと、ミルネさんが肩で息をしながら真っ直ぐにこっちを見ていた。

「どうし……」

「直樹君!!あなたの力を借りたいの!一緒に来て!!」

 彼女は僕の元へ駆け寄り、腕をつかんで強引に立たせた。

「え、ちょっと……」

 僕は呆然として彼女を見つめる。

 そのまま、ミルネさんの青い瞳が輝きだして、

 右脇腹に強烈な痛みを感じた直後、僕の左側頭部が床に激突していた。

「……ッツ!……ぅ!!」

 声も出さずに悶絶する僕の上で、ミルネさんと僕を横倒しにしたアリスが睨み合っていた。

「何で唐突に現れた上に、緋島さんに何をするつもりだったんですか!?」

「何って、直樹君を私の使い魔にする魔法」

「ファンタジーっぽいですね!!違うでしょう!!ワタシたちが今までビクビクしながら協力を求めてたのに、貴女は何の承諾もなくそういうことを……」

 アリスが何やら文句を並べている途中で、ミルネさんはニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。そして、自前のプロポーションを見せつけるように体のラインを両手でなぞり、

「私なら事後承諾でもいいのよ。二人・・と違ってね」

 そして、アリスとエイナさんを順に見ていった。

「破廉恥です」

 エイナさんは一言だけ返してそっぽを向き、アリスは自分の体を守るように腕を抱いていた。

 ちなみに僕には何の話か分からない。事後承諾でどうして体つきを僕にアピールするのだろうか。

「という訳で、私を手伝ってもらうために君の情報を改変するよ」

 え!?今何を申されましたのでしょうか?(多分、過剰敬語)

 せっかくみんなが今回じっくりと話し合って決めたことを、この人強引に決めちゃいましたよ。

 転がったまま左側頭部と右脇腹を抑えていた僕を、彼女は見下ろす。

 また彼女の目が青く輝いた所で、ゴンっという擬音のような音が聞こえ、彼女の体が後ろに倒れた。それに入れ替わりアリスの顔が僕の真上ににゅっと現れた。

「緋島さんはワタシの使い魔になってくれますよね」

 ゾッとするような綺麗な笑顔で彼女は言ってのけた。

 というか使い魔って何?僕、一体どんな改変を施されるの?

 そのことを聞く前に彼女の翡翠のような碧色の瞳が輝き始めた。

 ……まあいつかは輝くと思ってたよ。

 そんな感想はともかく、彼女の瞳に吸い寄せられるように見つめ続け、

 ぎゅむ。

 そんな擬音が聞こえた気がした。

 柔らかい餅のようにアリスの両頬が伸ばされ、その引っ張る相手をアリスは睨む。おかげで彼女の瞳から解放された。

ひはひ(いたい)ひはひはほ(いたいよ)ー!」

 相手は何故か額が円状に赤くなっていた彼女は笑みとも怒りとも分別つかない表情でアリスを睨んでいた。

「アリス!あんたの石頭を頭突きをしないでよ!」

 どうでもいいけどやっぱりこの二人も面識があったらしい。

 取り敢えず巻き込まれた嫌なので、そろりそろりと這って二人から離れた。

 そのまま入口から脱出してみようと顔を上げた時、

 僕の目の前にしゃがみ込んだエイナさんと目が合った。

「……」

 無言のまま僕を見下ろすエイナさん。

「あははは……」

 乾いた笑みを浮かべ様子を窺ってみるが、彼女は何にも反応しない。

 ふと手を左目に当てた。

「「って!?待って!!」」

 後ろの方で二人の声が響く中、

 青いエイナさんの瞳の輝きに、僕は溺れていた。



 気が付くと床と口づけをしていた。

「……」

 むくっと起き上り座り込んで顔や腕に着いた埃を払う。

 その前にはエイナさんを挟むように右にミルネさん、左にアリスと三人そろって体育座りで僕をじっと見ていた。まるで科学の実験を見る子供のように、輝いた瞳がそこにはあった。

「どう、ですか?」

 アリスの瞳はその中でもひときわ輝きを放ち、本当に手に汗握り締めている。

「どう、とは?」

 逆に僕は聞き返す。すると少し興が冷めたようにアリスは顔を顰めた。

「ですから、変化ですよ変化。体に力が溢れるようだとか、そんなことです」

 僕は自分の体をぺたぺたと触る。別にどうということはない。細くも太くもない、平均的な肉の付き方をした僕の体だ。

「別に何もないが……」

 あからさまに落胆したような左右の二人。しかし、僕を改変した本人は冷静に、

「気分はどうですか?」

「いや、悪くも無いし、良くもない。常の通りだ」

 エイナさんは腑に落ちないと言った風に眉を寄せ、

「記憶は大丈夫ですか?」

 記憶?まあ、改変は人の記憶というか、世界にの記憶を改竄するようなものだから、確かに影響が出ていてもおかしくはないのかもしれない。だけど、にはそんな変化は全くなかった。

「別に何にもない。は何にも忘れていないぞ」

 すると、三人がキョトンと目を丸くして僕を見つめる。

「どうしたんだよ。三人とも。俺の顔になんかついてるか?」

 顔をぺたぺたと触る。まさか、埃がついてたのかな。

「あの、気付かないんですか?」

 アリスがゆっくりと僕に悟らせるように語りかけたが、何のことだかさっぱりだった。

「だから何?はっきり言ってくれよ」

 いつもそうでもないはずなのに、何だか無性に遠回りな態度が癪に障った。

「話し方、変じゃない?」

 ミルネさんは気の毒なものを見るように慈しみを含んだ眼差しを向けてくる。

「話し方?何言ってんだよミルネ・・・俺は別に、………………?」

 何か変だ。僕はいつも通りに話しているつもりなのに、なんか聞こえる音が違う。

エイナ・・・。君は俺にどんな改変を……」

 そこで気づいた。

 ……嘘でしょう。僕はその時そう思った。

 一人称と喋り方が変ってる。

 それが最初に気付いた変化だった。

 ……しょーもない変化だったけどね。



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