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『春色とジャスミン』

作者: 福井 達郎
掲載日:2026/07/09

『春色とジャスミン』

『春色とジャスミン』


「もつ、見て! 白スミレ!」


 小鈴の声に振り返ると、彼女はしゃがみ込んで小さな白い花を指差していた。


 2015年4月2日。


 待ちに待った春の陽気の中、私――ブンタンと、相棒のもつ、そして小鈴ちゃんの3人は、押し花の材料

 を探してきらきら光る野原を歩いていた。


「本当だ、可愛い! あっちにはオオイヌノフグリもたくさん咲いてるよ」


 もつがカゴを手に、嬉しそうに駆け寄る。私たちは宝探しをする子供のように、夢中で春を摘み取ってい

 った。


 ほんのりピンク色のさくら、鮮やかな青のオオイヌノフグリ、そして可憐な白スミレ。


 カゴの中があっという間に、色とりどりの春で満たされていく。


「ふう、ちょっと歩き回って疲れちゃったね」


「じゃあ、お茶にしよう!」


 風が少し冷たくなってきたので、私たちは近くのカフェに滑り込んだ。


 注文したのは、湯気とともに華やかな香りが広がるジャスミン茶。


 温かいカップを両手で包み込み、一口すする。


「はぁー……生き返る」


「今日の押し花、どんな配置にしようか?」


「さくらの花びらを散らして、下にオオイヌノフグリを並べるのはどう?」


 お茶を飲みながら、おしゃべりは止まらない。


 小鈴ちゃんが楽しそうに笑うたび、ジャスミンの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。


「あ、気づけばもうお昼じゃん。お腹空かない?」


 もつが自分のお腹をさすりながら言った。


 確かに、たくさん歩いたからお腹はペコペコだ。


「お昼、何にする?」


「がっつり食べられて、でもほっとする味が良いな」


「それなら、あそこしかないでしょ!」


 満場一致で向かったのは、大戸屋。引き戸を開けると、出汁のいい香りが私たちを迎えてくれた。


 賑やかな店内の席につき、それぞれお気に入りの定食を注文する。


「お待たせしましたー」


 運ばれてきた湯気立つおかずを前に、私たちは一斉に手を合わせた。


「「「いただきまーす!」」」


 サクサクの唐揚げに、出汁の染みたお惣菜、ふっくら炊き上がったご飯。


「美味しいね」


「やっぱり落ち着くね」


 と言い合いながら、箸を動かすテンポがどんどん上がっていく。


 おしゃべりして、笑って、お腹いっぱい食べて。


 特別な記念日じゃないけれど、大好きな人たちと過ごす、これ以上ない最高の一日。


 カゴの中の春の草花を見つめながら、私は早くも次の押し花作りの計画を楽しみに思うのだった。

気楽に読んで。

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