第5話 黒鉄の門
朝日が昇ると、僕らはすぐに出発した。
「ひとまず、潜伏できそうなところを探さねえとな」
「……もう少し行くと、シェレト王国の国境よ」
「シェレト王国か……物騒な国だが、潜伏するにはいい隠れ蓑になるかもな」
「シェレト王国ってどんな国なの?」
ダンは歩きながら、低い声で答えた。
「あそこの王様は暴君と言われていてな。気に入らねえやつは誰であろうと消しちまうことで有名さ。……たとえ、聖エハド教会の司祭でもな」
「そんな危ない国に行って大丈夫なの!?」
「だからこそよ。シェレトの王様は他国の干渉を嫌ってる。だから、俺らの国もそう簡単には手が出せねえ。そこに、教会の影響力も他の国より少ないとくれば、今の俺たちの状況にぴったりだと思わねえか?」
アリヤが小さく息を吐いた。
「……その前に、どうやって中に入るか考えないとだけどね」
木々の間から見えてきた国境の門は、僕らの国のものよりもずっと高く、黒い鉄で覆われていた。門の前には騎士がずらりと並び、通行人を一人ずつ無表情に検問している。
中には、いきなり騎士たちに腕を掴まれ、どこかへ連れて行かれる者もいる。理由を問う声は誰からも上がらない。誰もが、見て見ぬふりをしていた。
「はあ……思ったとおりやっかいそうだな。変装した程度では誤魔化せなさそうだ」
「……なにか手はないかな?」
僕らは茂みに身を潜め、門の様子を観察した。騎士たちの動きは規則正しく、隙がない。
そのとき――またあのノイズが頭の中に響き渡った。
「……っ」
「大丈夫か!またあの声か!」
声がだんだん近づいてくる。
「……憎い!……憎い!!」
「ふぉふぉ。君たち、こんなところで何をしとるのかね?」
いきなり背後から声が聞こえた。振り返ると、荷馬車を引いた小柄なお爺さんがニコニコしながら立っていた。
「うわあーー!!」
ぼくはびっくりして、思わず声をあげてしまった。
「おい、じじい! びっくりさせんじゃねーよ」
「ふぉふぉ。それはすまぬことをしたな」
「はあ……俺たちになんか用かよ」
「お前さんたち、中に入りたいのかい?」
「……だったら何だ」
「わしが協力してやろう」
「え!協力してくれるんですか?!」
思わぬ提案に、ぼくは目を輝かせた。これで中に入れる――そう思った瞬間。
アリヤがぼくの前に腕を伸ばし、制した。
「……なぜわたしたちに協力するの? 見返りはなに?」
ぼくはハッとした。確かに、見ず知らずの人が簡単に協力してくれるなんて、何か裏があるのかもしれない。優しそうな外見に騙されるところだった。
老人は肩をすくめた。
「ふぉふぉ。仮になにか企んでたとして、こんな老ぼれ一人ではお前さんらをどうにかできん。まあ、見返りが欲しいというのは本当だがね。中に入ったら、ちょっと手伝ってほしいことがあるんじゃ」
「……手伝いってなに?」
「わしは一人暮らしでな。この歳では一人だとできぬことも多い。だが、周りのやつらは手伝ってくれんでな。わし一人ではできんことをお前さんらに手伝ってもらいたいのじゃ」
ダンはしばらく老人を見つめ、それからうなずいた。
「……わかった。中に入ったらあんたを手伝ってやる。だから今は、俺たちに手を貸せ」
「ダン」
アリヤが不安そうにダンを見る。その目は「信用できない」と訴えていた。
「……たしかに、このじいさんの腹の中は読めねえ。でも、俺たちも中に入る方法がねえ。だったら賭けるしかねえだろ。……安心しろ。何かあったらこのじいさんぶった斬ってでもお前らのことは俺が護るさ」
そう言ってダンは、僕とアリヤの頭にぽんと手を置いた。
「……子ども扱いしないで」
アリヤはダンの手を払って立ち上がった。
「ふぉふぉ。仲が良いのは結構なことじゃ」
「……仲良くなんかない」
アリヤはそっぽを向きながら、小さな声でそう言った。




