第4話 秘密を分け合う夜
霧の中を、僕らはただひたすら走り続けた。足がもげそうになったころ、ちょうど隠れるのに良さそうな洞穴を見つけた。
洞穴に入った瞬間、三人ともその場に座り込んだ。息が荒くて、しばらく誰も言葉を発せなかった。
「……どうやら、逃げ切れたみたいね」
アリヤが小さく息を吐く。しばらくして、ダンが口を開いた。
「……お前さん、何者なんだ?」
その視線の先にはアリヤがいる。けれどアリヤはダンではなく、まっすぐ僕を見ていた。
「……あなたこそ何者なの? あなたは、やつらが来る前に“気づいて”いたみたいだったけど?」
「……僕は――」
「おい、エリオル」
ダンがすぐに遮った。
「いいんだ、ダン」
僕は首を振った。
「アリヤは二度も僕たちを助けてくれた。それに、二週間だけだけど一緒に過ごしてみてわかったんだ。アリヤは優しい人だ。僕は、アリヤを信用したい」
アリヤと目が合う。アリヤは一瞬だけ驚いたように目を開いたが、すぐにそらした。
「……単純ね」
「そうかもね」
僕が笑うと、アリヤはため息をついた。
「……まあいいわ。どうせ見られちゃったし。……わたしは“魔女”よ」
「魔女……だって!?」
ダンが目を丸くした。
「……正確には、そう呼ばれてるだけだけど」
「ダン、マジョって何?」
「あ、ああ……魔女ってのは、聖エハド教会の聖典『エハド記』に出てくる……その……」
「……“悪者”でしょ?」
しどろもどろのダンの言葉に、アリヤが静かに重ねた。
「アリヤが……悪者? どういうこと、ダン?」
僕が尋ねると、ダンは気まずそうに視線をそらした。
「聖典に出てくる魔女は、不思議な力で民衆を惑わせ、神に反逆する者として記されている。……だが、あくまで神話の話で、本当にいるわけじゃないと思ってたんだが……」
「……つまり、アリヤはさっきみたいに霧を出したりできるから、魔女って呼ばれてるってこと?」
僕はアリヤに向き直って尋ねた。
「そういうこと。……別に、私は世界を破滅させようなんて思ってないけどね」
「……アリヤはどうしてそんな力が使えるの?」
「……さあ。気づいた時には使えてたから、わからない。……さ、私は話したわよ。次はあなたの番」
アリヤは話を切り上げるように言った。
「……僕は……声が聞こえるんだ」
「声?」
「うん。僕にしか聞こえない声。人の声の時もあれば、誰かわからない時もある。自分じゃコントロールできなくて、いつも突然聞こえてくる。周りの人は、それを“呪い”だと言った。……だから、閉じ込められてたんだと思う」
ダンが静かに言った。
「前に、お前さんが追われてる理由を聞いた時、“わからない”と言ったな。でも、あれは嘘じゃねえ。俺たちも本当のところは知らない。ただ……それが原因なんじゃないかと推測してるだけだ」
アリヤは首を振った。
「別に、もうそれはいいの。……そっか」
ほんの一瞬、彼女のまつげが震えた。
「あなたも、わたしと同じなのね」
その瞬間、僕は息をのんだ。アリヤが初めて、僕らの前で笑ったのだ。けれどその目は、泣き出しそうなくらい悲しかった。
「……ここもいずれ見つかるかもしれない。夜が明けたら移動しましょう」
「……一緒に来てくれるの?」
「しかたないでしょ。わたしの秘密を知られたんだから。あなたたちに教会に密告でもされたら困るし……そうならないように、側で見張るのよ」
「それでも、一緒に来てくれてうれしいよ」
僕がそう言うと、アリヤはふいっとそっぽを向いた。でも、彼女の耳がほんのり赤くなっているように見えた。




