第2話 共通の敵
彼女についていくと、森の奥にひっそりと佇む小屋にたどり着いた。外観は長く放置されていたようで、壁は剥がれ、屋根も傾いている。だが、ところどころに新しい木材が使われており、最近誰かが補修した跡があった。
「……この小屋は?」
「……」
問いかけても、彼女は相変わらず何も答えない。ただ無言でドアを開け、目だけで中を示した。僕は彼女の後ろについて中へ入る。
小屋の外観とは裏腹に、中は意外なほど整っていた。家具は少なく、清潔そうなベッドと小さな机と椅子だけ。だが、壁一面には本棚が並び、本がぎっしりと詰まっている。よく床が抜けないものだ。
「……その人、ここに座らせて」
彼女がベッドを指差す。僕は言われた通り、ダンをそっと座らせた。
「あなたたち、治療道具は持ってる? ……ここにはないから」
「う、うん。応急処置だけならできるよ」
「……そう」
それだけ言うと、彼女は椅子に腰掛け、本を開いた。
ダンの怪我の処置が終わる頃、彼女が本から顔を上げた。
「……その人の鎧の紋章、カドモン王国のものね。あなたたちを追っていた騎士も同じ鎧だった。どうして追われてるの?」
「それは……」
「待て」
ぼくが口を開こうとすると、ダンが遮った。
「助けてくれたことには感謝してる。だが、どこの誰かもわからねぇあんたに、全部話すほど俺たちは甘くない」
彼女は僕とダンを交互に見つめる。
「……わたしもあなたたちを信用してない。その気になれば、あなたたちを王国に差し出すことだってできるのよ」
僕はダンを見る。ダンは小さく頷いた。
「……わかった。だが俺から話す。こいつはエリオル。俺はダンだ。こいつは小さい頃からずっと牢に閉じ込められていた。王国に幽閉されてな。俺はその見張り役だった」
ダンは一度息をつき、続けた。
「そのまま幽閉されてりゃよかったんだが、こいつの処刑が決まってな……。小さい頃から見てきたからよ、どうにも不憫でな。逃がす手伝いをしたってわけだ。俺もバカなことをしたもんだ」
「……ちなみに、こいつがなんで幽閉されてたかは知らねえ。俺は下っ端だし、重要な情報は回ってこない。こいつ自身も覚えがねえらしい」
ダンはぼくをちらりと見る。
「うん。ぼくも理由は知らない。閉じ込められてた理由も、いつ出られるかもわからなかった。だから……逃げるしかなかったんだ」
僕とダンの説明は嘘ではないが、全部話したわけではない。誤魔化しきれるだろうか……。
「……あなたたちを追っていた騎士の中に、白い外套を着た者がいた。あれはマラアフ。……なぜ、教会にも追われているの?」
白い外套――それを許されるのは、この世界でもひと握りの者だけ。その姿を見れば誰もがひざまずき、敬い……そして恐れる。
“天の使い”マラアフ。
世界を統治する聖エハド教会の聖騎士団だ。
「……必死に逃げてたから、よくわからなかった。教会に追われる理由なんて、思い当たらないよ」
「俺もだ」
彼女はぼくをじっと見つめ、長く息を吐いた。
「……わかったわ。今はあなたたちを信じることにする。わたしの名はアリヤ。わたしも教会に追われてるの。理由はともかく……わたしたちには共通の敵がいるみたいね」




