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月夜譚 【No.301~】

川の住人 【月夜譚No.379】

作者: 夏月七葉

 幼い頃に住んでいた家の近くに川があった。それほど綺麗な水質ではなかったが、子どもが遊びに入っても問題はないくらい穏やかな川だった。その為、暑い時期は賑やかな場所であったが、同時に一つの噂話があった。

 その川には河童が棲んでいて、悪いことをすると川底から河童に足を掴まれて引き摺り込まれる、というものである。

 今になって思えば、いくら穏やかな川とはいえ気をつけろ、という注意喚起だったのだろう。本気で信じる子どもも少なく、皆普通に遊びにいっていた。

 斯くいう私もその一人で、夏休みには毎日のように友人と川に通った。

 雲一つない青空から太陽が地上を照りつけていた、あの日。私はいつものように川へ行き、そして川の中ほどで足を攣った。一緒に来ていた友人は遊びに夢中でこちらには気づかず、私はそのまま倒れ込んでしまった。

 川自体は、それほど深くはない。しかし、私は足を攣ったことでパニックに陥り、起き上がることができずに水中でもがくことしかできなかった。

 呼吸が苦しくて、やがて意識が遠退き始め、このままここで死ぬのかと怖くなった。

 そう思った次の瞬間、柔らかくて滑りけのある何かに腕を引かれる感覚がした気がした。そこで意識が途切れ、次に気がついた時には、私は岸の上で仰向けに寝ていた。

 友人も知らない内に岸に横たわっていたそうで、何がどうなったのか真相は判らない。

 しかし、その時から数年たった今でも、私は信じている。あの川には、心優しい〝何か〟が棲んでいるのだと――。

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