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龍崎蕾は窓辺にいる〜愛知県警特殊怪異捜査室〜  作者: 月草(梅雨之草)


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2024年4月 『入れない部屋』4


 報告内容はこうである。


 被害者はここに住む60代女性。早朝のパートをしており、そこの店長が時間になっても出勤してこない被害者を不審に思い家に電話し、出ないことから警察に連絡し事件の発覚に繫がった。


 死因は窒息死。首に幅のある紐状のもので絞めた跡があるため、絞殺と推定。抵抗されないように馬乗りになったのか、腕にうっ血痕があった。

 死後硬直の進行具合からして、犯行時刻はおよそ8時間前。深夜0時から2時と思われる。


 現場を荒らされた様子はないが、仏間にあった金庫は中身が空になっていたことから金銭目的の犯行と推定。

 また、被害者のスマートフォンも見つかっていないため、犯人が持ち去ったものと思われる。


 夫は数年前に他界、長女である姉と弟である息子が一人ずついる。

 娘とは4年前から同居しているが、娘は今現在不在。連絡は娘と息子どちらともとれていない。



「さて、以上を踏まえて浅井さんはどこが気になりますか?」

「……そうですね、未だに子供と連絡が取れていないのと、子供の金銭回りが気になります」

「そこが気になっている、ということは外部犯ではないと思ったのですね?」

「はい。外部から押し入ったならば部屋が散らかると思うので」


 刑事課に異動となってから初仕事の身ではあるが、外から押し入られたというには、この家はあまりにもそのまま過ぎるように見えた。

 リビングも仏間も日常と地続きの、まったく荒らされていない被害者の生活の場そのままの状態だ。


「いい着眼点です。浅井巡査部長。では、どちらがだと思いますか?」

「……可能性は、両者にあります。首を絞めるのに紐を使った理由が、握力に自身がなかったからなら娘が、手の大きさを隠すためならば息子に犯行に及んだのではないでしょうか?」

「いいですね。では、どちらかが犯人であるという推定をもとに捜査を続けましょう」


 龍崎はにこりと笑い、迷いない足取りでキッチンの方へと向かう。


 キッチンもまた清潔で几帳面な生活の様子が窺えた。シンクの中はきれいに片付けられ、洗い終わった食器が布巾の上に並べられている。もう片方は使う人を失って久しいであろう夫婦茶碗と夫婦箸が並んでいる様は、なんとも言い難い哀愁を感じさせた。


 ふと、ざらりと目の細かい紙やすりに触れたような違和感がわく。ここに並んで乾かされている食器は、一人分だ。だが、この家は今娘と被害者の二人暮らしだったはずだ。だとしたら、


「娘さんは少なくとも夕食前からいなかった……?」

「はい、その通りです」


 口からこぼれた言葉を、すかさず龍崎が拾い上げる。

 その目はこちらには向いておらず、勝手口を、否、そのそばに張られた小さめのカレンダーを見つめていた。


「これを見てください。こちらにあるカレンダーには四月分が残っています。昨日、娘さんは留守のようですよ」


 仏間とは違い、比較的低い位置に張られていたカレンダーは普段使いのものらしく様々なことが書き込まれていた。

 パートのシフトの時間、ゴミ出しの日、近所のスーパーの福引き券の期限。そして、娘の食事の不要日。ちょうど昨日の場所には『三食いらない!』と大きめの字で書かれていた。


「もしや、娘があらかじめ不在であることを知られたくなかったから、犯人は仏間のカレンダーを破った?」

「可能性は高いと思っていますよ。娘さんが在宅なのを前提に犯行に及んだのだと、私は考えています」

「何故、そんなリスクを冒すまねを選んだのでしょうか?同居人が起きてきたら騒ぎに……いや、騒ぎにならない確証があった?娘の方が容疑者としての優先度が高くなるようにしたかった?」

「今確認してもらっていますが、娘さんの部屋は防音がしっかりしているんじゃないかなと私は思いますよ。在宅のお仕事だったら聞かれたくないこともあるでしょう」

「あるいは、引きこもりだと犯人は思っていた?」

「娘さんと同居しているという事実をどのように受け止めるかによりますが、悪意的に捉えていたらそう考える人もいるでしょうね」


 天秤が、徐々に偏っていく。もとより二択であったが、この数分間で金回りなど調べるまでもなく犯人像がはっきりしていく。


 これは、息子の方でほぼ確定だろう。しかも、時間稼ぎかもしれないが実の姉に犯行をなすりつけようともしていた。


「けど、何故娘さん電話に出ないのでしょうか? 今日の予定からして、もう帰宅していてもおかしくないのでは?」

「出ないのではなく、出られないのかもしれません。例えば夜行バスの車内にいるとか」


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