表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルミエの港  作者: Royde
4/5

第4章:影の試練



 ルナの名が空気に溶けた瞬間、広間の光が揺れ、黒い扉が軋むような低音を響かせた。

 ソルは彼女の手を強く握り、ルミエを掲げる。淡い蒼はさらに濃くなり、扉の縁を照らし出す。


 「行こう」

ソルが言うと、ルナは頷き、二人は闇の中へ踏み入った。


 廊下は終わりがないように続き、壁や床が微かにうねる。角を曲がれば同じ場所に戻り、進むほど出口は遠のいていく。出口は、見えるのにまるで届かない。

 「……これが城の罠よ。恐れが形を与え続けて変容し、私たちを閉じ込める。」

ルナの声は落ち着いていたが、その手はわずかに震えていた。


 やがて、頭上から低い唸りが響く。振り仰ぐと、天井が波のように揺れ、そこから黒い影が滴り落ちる。

 形は定まらず、人影にも獣にも見えた。影は床を這い、二人の足元を絡め取ろうと迫る。

 ソルはルミエを掲げたが、光は影に触れると鈍く曇る。


 「恐れを見せると、光は弱まる」

ルナの声が響く。

 ソルは息を吸い、胸の奥にある像を一つひとつ手放すように目を閉じた。失敗、後悔、見失った顔……。


 「いつからだろう、誰かの手を握ることに怯えていたのは」

潜在していた想いに向き合い、深層の闇を振り払う。


 再び目を開けると、ルミエは蒼から金へと揺らぎ、影を焼くように広がった。影は叫びを上げ、霧のように消えていく。


 その瞬間、廊下が崩れ、石床の裂ける音が響いた。裂け目の向こうに、かすかな光が差し込んでいる。

 「出口だ!」

 二人は駆け出したが、足元の床が崩れ落ち、闇が口を開ける。

 ルナが一瞬足を取られ、バランスを失った。ソルは彼女の腕を掴み、強く引き寄せる。


 出口の光は近づくが、その距離は奇妙に一定のままだった。まるで歩みを計るかのように、城が空間を引き伸ばしている。

 ソルは立ち止まり、ルミエを胸元に掲げ、恐れを手放し、祈りを込めた。


 すると、光が爆ぜるように広がり、闇の裂け目を一瞬で塞ぎ、遠くの光を手元へ引き寄せた。

 眩しさに目を細める中、ルナが低く呟く。

「……あなたは、やっぱり何度もここに来ている」


 ルナは一瞬だけ微笑みを浮かべた。

それは安堵のようでもあり、遠く離れていく者が最後に見せる別れのようでもあった。


 「何を——」

問いかけるより早く、足元から突風が吹き上がり、視界が白で塗り潰された。


 気づけば、ソルは港の石畳に立っていた。胸の奥にあったはずのルミエも見当たらない。

 手の中の温もりを確かめようとしたが、そこにはもうルナの姿はなかった。


 ただ、桜色に金が混ざる光だけが心の奥底に深く残っていたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ