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ルミエの港  作者: Royde
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第2章:城への誘い



港場を歩く人々は、どこか仮面をかぶったように笑っていた。

声は明るいのに、目の奥はまるで別の場所を見ている。


 海辺に立つホテル群は色鮮やかな看板と灯りで飾られているが、その光は港の穏やかな灯とは違い、どこか硬質で平板だった。

 港の方からは波とカモメの声が寄せてくるが、この通りではその音が遠く霞んで聞こえる。


 ソルは胸元のルミエを取り出した。

 その光は、港の柔らかな桜色を残しつつ、銀色へ、そしてほんのりと蒼へと変化していく。

港の音が遠のくほど、光の色は冷たさを帯びていった。


 ふと、視界の先に海上の暗い城がくっきりと浮かび上がった。

 昼間の霞の中ではぼんやりしていた輪郭が、今は不気味なほど鮮明だった。

城の上空を雲が流れ、そこだけ陽の光を拒むように影を落としている。

その影の中では、港のざわめきも波音も、まるで別の世界の出来事のように遠ざかっていた。


 「城には囚われた人がいる」

背後から静かな声がした。


 振り返ると、群衆の中に一人の少女が立っていた。

 年の頃は十四、五。銀色の髪を海風になびかせ、手には白い貝殻のペンダントを握っている。

その瞳は港場の誰よりも生き生きとしていて、ソルを真っすぐに射抜いた。


 「ついてきて」

 少女はそう言い、迷いなく人混みの間を進み出す。

 ルミエの光は彼女の背を追うように脈動し、ソルの手の中で熱を帯びていった。


 少女は振り返ることなく、港場の奥へと進んでいく。

 彼女の足取りは迷いがなく、それでいて音も気配もほとんど残さなかった。

まるで、ソルだけに見えている幻のようだ。


 やがて、ホテルの裏手にある細い通路へ入る。

 そこは石畳が途切れ、古びた板と錆びた鉄柵が入り混じる、港の人間さえ滅多に足を踏み入れない場所だった。

 潮の匂いが濃くなり、足元には波が打ち寄せる音が響く。


 「この先は、港ではない」

少女の声は、背中越しなのに、耳元で囁かれたように近く感じられた。


 ソルはルミエを強く握った。

 その光は蒼から深い紫へと変わり、まるで海の底から何かが呼んでいるかのように脈打っている。


 柵の向こうには、細く切り立った桟橋が伸びていた。

 その先に、小さな舟が一艘、静かに揺れている。

 少女は振り向き、微かに口元だけで笑った。


 少女は舟へ足をかける前、胸元の貝殻のペンダントにそっと指先を触れた。

その仕草は、遠い約束を思い出す合図のようだった。

 ソルの胸に、不意に熱い波が押し寄せる。

 気がつけば、彼の足は少女の後を追い、舟の板を踏みしめていた。


 舟が岸を離れると、霧が海面を這い、意志を持つように静かに近づいてきた。

港場の喧騒は霧に飲まれるように遠ざかり、次第に暗い城の輪郭が明瞭になってくる。


 少女は何も言わず、ただ霧の奥を見つめていた。


 不意に、舟の周囲の水面が静まり返る。

 次の瞬間、海の下から巨大な影が浮かび上がってきた。

形は曖昧で、人影にも獣にも見える。

 その影は、ソルの胸の奥に潜んでいた“ある記憶”を抉るように揺らがし、ルミエの光を急速に褪せさせていった。


 少女が振り返り、静かに言う。

「進むなら、恐れを越えなければいけない」


 ソルは拳を握りしめ、一歩踏み出す。

 影は低く唸り、次の瞬間、霧のように掻き消えた。

 気づけば、そこは再び明るさを取り戻していた。


 少女の姿も潮風に溶けるように消えていった。

 まだ会ったことのないはずの誰か。

 それなのに、胸の奥が痛むほど懐かしい。


 ルミエの中で、桜色に微かな金が混ざる。

その光は、港の奥ではなく、海の向こうの暗い城を指していた。

 ソルは一歩を踏み出す。

 理由は分からない、けれど、あの人を見つけなければならないと、確信するのだった。




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