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「現場監督入門」  作者: 建築太郎
8/10

【第8話】:2年目① 後輩指導と新人教育の基本


2年目になると、現場監督にも「教える立場」が回ってきます。

第8話では、新人の神原匠が“後輩を育てる”という新たな責任と向き合う姿を描きながら、

現場での新人教育における基本的な考え方と行動を紹介します。

「今日から1年目の子が1人つくから、よろしくな」


朝礼後、三宅主任から突然言われた。


「えっ、自分が教えるんですか?」


「もう2年目だろ。現場のこと、一通りは分かってきただろ? それを“言葉”にして伝えるんだ」


正直、自信なんてなかった。

自分だってまだ周囲に助けてもらいながらやっているのに──。


やってきたのは、建築学科出身の新人・大山。

スーツ姿で緊張気味に立っていたが、あいさつの声はしっかりしていた。


「おはようございます! 本日から配属されました、大山です!」


その日の午前中は、詰所の案内から始まり、現場の安全ルール、作業区画の説明など、

自分が1年前にやってもらったことをなぞるように説明した。


けれど、話していて気づく。


「これって、言われてみないと分からないもんなんだな……」


ヘルメットのあご紐の調整、KYシートの書き方、立ち位置、写真の撮り方──

1年かけて“体で覚えたこと”を、言語化して説明する難しさ。


そして、自分が1年前に何も分からなかったことを、ようやく実感した気がした。


午後には一緒に現場巡回。


「配筋の重ねって、どこ見れば分かるんですか?」

「うん、鉄筋の径がD13だったら、20cm以上重ねてるか確認して……」


いつの間にか、自分の口から“教える言葉”が出ていた。


「ダメだったらどうするんですか?」

「その場で職人さんに相談して、図面確認して、必要なら是正だな」


1年前の自分が、いまの自分に教えてもらったら──少しは安心できるかもしれない。


「どうだった? 指導初日」


帰り際、三宅主任が声をかけてきた。


「思ったより、難しかったです。でも……自分のほうが勉強になってるかもしれません」


主任は笑ってうなずいた。


「教えるって、そういうもんだ。言葉にすると、自分の理解も深まるんだよ」


■あとがき


新人を指導することは、単なる“教える作業”ではなく、

自分自身の理解度や成長を試される機会でもあります。


現場監督の仕事は、個人技ではなく“チームワーク”。

後輩との信頼関係を築くことが、結果的に現場全体の雰囲気や安全にもつながっていきます。


■建築コラム:新人教育の基本姿勢


現場での新人指導において、意識すべき基本姿勢は以下の通りです:


最初は「安全」と「基本動作」だけに絞って教える


曖昧な指示は避け、言葉で明確に伝える


叱るよりも、正しい手本を見せる


「なぜそうするか」をセットで伝える


質問しやすい雰囲気をつくる


新人は、すぐには覚えられません。

焦らず、繰り返し、そして信頼して任せる。

それが、現場を支える人材を育てる最初の一歩です。


■用語解説


KYシート:危険予知活動用の記録用紙。作業前に「どんな危険があるか」「どう防ぐか」を共有する。


配筋の重ね:鉄筋と鉄筋を重ね合わせる部分の長さ。設計基準に基づいて必要な長さが定められている。


是正:図面や基準と異なる施工があった場合に、修正・補修すること。



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