【第7話】:1年目⑤ はじめてのコンクリート打設
いよいよ今回は、建設工事の要ともいえる「コンクリート打設」の回です。
建物の基礎・構造をつくるこの作業は、多くの職人と監督の連携が問われる場面。
新人の神原匠が、緊張と興奮の中で迎えた“打設デビュー”を描きます。
「今日は打設か。緊張するな……」
朝7時、現場に到着した匠は、ヘルメットのあごひもをしっかり締め直した。
詰所のホワイトボードには、今日の作業:1階スラブ打設 40㎥ と書かれている。
スラブとは、床となるコンクリート面のこと。
打設当日は、職人の数も多く、現場にいつもと違う緊張感が漂う。
8時、ポンプ車が現場に到着。
その後ろを追うように、アジテータ車(ミキサー車)が1台目、2台目と順に入ってくる。
「ポンプ試運転、異常なし! 1台目、行ってください!」
三宅主任の号令に、コンクリート打設が始まった。
ポンプ車からホースが伸び、先端を操作するのは通称「ホースマン」。
「匠、スランプ確認したか?」
「はい、12.5でOKです!」
スランプとは、生コンのやわらかさ(流動性)を示す数値で、
現場に届いた生コンが設計通りの状態かを判断する重要な検査項目だ。
現場では、
ホースマンが生コンを流し込み、
バイブレーター係が振動を与えて締め固め、
押さえ職人がトンボで平滑に均す、
といった一連の流れが休むことなく続く。
匠は、納品書を確認しながら、数量のチェック、打設位置、バイブのかけ忘れがないか目を凝らす。
「あと1.5立米分、残り枠で調整して!」
「OK、ホース上げてー!」
現場の声が飛び交い、息を合わせるように打設が進んでいく。
昼をまたいで、午後2時半。
ようやく最後の1台が空になり、打設が完了した。
「全量打ち切り、ホース洗い入ります!」
「養生シート準備して!」
片付けに入ると同時に、養生と締めの写真撮影、周辺の清掃まで抜かりなく。
初めての打設を終えた匠は、汗まみれのヘルメットを脱ぎながら深呼吸した。
「これが……現場の要か」
■あとがき
コンクリート打設は、現場の中でも「一発勝負」の要素が強い工程です。
一度流し込んだらやり直しがきかないため、事前の段取りと現場での連携が命。
監督の役割は、職人任せにせず、工程・品質・安全・数量のすべてを“見る”こと。
次回からは2年目に入り、現場を動かす側としての一歩を踏み出していきます。
■建築コラム:コンクリート打設の基本
コンクリート打設は、以下のような手順で進みます:
生コン受入検査(スランプ・空気量・温度)
ホースマンによる打設
バイブレーターによる締固め
トンボ・木ゴテによる均し作業
養生(乾燥防止や保温)
打設写真の記録
監督のチェックポイントは:
生コンの納品書と数量確認
打設順序・区画ごとの進捗
締固め不足や打ち継ぎ部の品質
周囲への安全管理
■用語解説
スラブ:床や天井など、水平構造部のコンクリート面。
スランプ:生コンのやわらかさを示す数値(単位:cm)。高いほど流動性がある。
ホースマン:ポンプ車のホースを操る専門職。
バイブレーター:生コンを締め固める振動機器。施工の密度に直結する。
養生:コンクリートが適切に硬化するよう保護・管理する作業。