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冒険者学園で出会った僕らの迷宮冒険譚  作者: ま行


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アウトロー

 ロール適正試験期間が終わった。A組の面々は無事に全員合格、晴れて各ロールを正式に名乗ることが許可された。


「ようテメエら、ひとまずお疲れさん。試験を一発で抜けたのはリベルとアリアだけだったな、運も向いてたんだろうがそいつも実力の内だ。よくやったと褒めてやるよ」


 レオノラ先生に続くように、クラスメイトたちから拍手をもらって、俺は皆にぺこぺこと頭を下げた。アリアは「当然でしょ」と冷めたように呟いたが、ニヤケ面が隠しきれていなかった。


「他の奴らも合格おめでとう。どいつもこいつも危なげなく合格してくれて助かったよ、この段階で躓かれたらアタシの評価にも影響出るからな、いやー教育者も楽じゃないぜ」


 ならばもう少しの間だけ教師らしくいられなかったのかと、全員の心が一つになった。しかし先生はそんな俺たちの考えなどお構いなしに話を進める。


「これで残すは、冒険者適正試験だけとなった。こいつに合格すりゃ、テメエらも晴れて冒険者の仲間入りになる、正式にダンジョンでの活動を認められるってことだ。こっから先、テメエらの主な活動場所はダンジョンってことになる。そこで今日の授業は、気持ちのいい話じゃねえが、教えておかねえといけねえことを教えてやる」


 そう話す先生の表情は確かに浮かないものだった。その雰囲気に釣られ、皆も自然と押し黙って授業が始まった。




「以前話した通り、アレギアはダンジョン活用のために人材をかき集めた。その結果、確かに治安の悪化が引き起ったが、何も力が有り余っているからと言って犯罪を犯す奴ばかりじゃないし、こいつらが命がけでダンジョンを探索してくれたおかげでアレギアは発展を遂げた。いわばダンジョン経済の立役者でもある」


 謎の怪物、モンスターはびこるダンジョンを命がけで進み、望みの物を手に入れて持ち帰る作業は、様々な技術が発達した今と比べて、その危険性は計り知れないものがある。


 倒したモンスターを素材に変える魔法のマテリアライズも、ダンジョンから脱出する魔法のリターンも、その当時はなかった。素材はその場でモンスターを解体して剥ぎ取り、鉱物など重い荷物を背負って自力で地上に戻るほかない。


「だがな、死ぬ思い、いや、実際とんでもねえ数の冒険者が死んでいく一方で、そいつらの成果を金に換えてる連中は、ダンジョンに潜りもしねえで注文ばかりつけた。その恩恵にあずかるアレギア国民だって、他所者のおかげで暮らしが豊かになってるっつーのに、文句の声ばかりでけえ。国が荒れんのは必然だったんだよ、言っちまうとな」


 エレアがそこでスッと手を上げた。レオノラ先生は面倒臭そうに「何だ?」と聞いた。


「その鎮静化を図るためにグレゴリを設立し、冒険者の管理を行ったのでしょう?優秀で教養のある冒険者の育成と輩出、当時我がステルン家も尽力したと聞いておりますわ」

「そうだな、そしてそれはある程度上手くいった」

「ある程度?完璧ではなかったと?」

「ないね、まったく。この措置はあくまでも国内の安定化を図るもので、冒険者に寄り添ったものではなかった。教育も訓練も、身につけさせるためにゃ金がかかる。しかも元々素養がねえ奴に一から叩き込むとなったらなおさらな」


 他国から多くの人を受け入れたということは、数多くの文化、言語、習慣、風習が一気に一所に集まったということだ。普通はぶつかり合うだろう。


 しかしアレギアにはダンジョンという金の生る木があった。命は安いがリターンは大きい、稼いでさえいれば抑えていられた勢力があったことは、想像に難くない。


 そんな命が安く、危険で、とにかく戦うことを求められる人たちを集めた時、教養があった人がどれだけいたのかと考えると、そう多くはないだろうと分かる。死んでも問題のない奴を優先してダンジョンに投入された。


「グレゴリは、教育を施して冒険者の模範となれるような、見込みのある奴を選んで管理下に置くことにした。ここで言う見込みのある奴ってのがどんな奴かは分かるか?誰でもいい、答えられるなら」


 この問いかけに、好んで答えを出せる奴はそういない、だから俺があえて手を上げて答える。


「自国民、基礎教養のある人、地位がそこそこ高い人、つまり教育を施すのに値すると国が判断した人です」

「…まあそうだな、要するに全員じゃねえってことだ。そりゃそうだよな、アレギアが取った手法は人海戦術だ、その時冒険者やってた全員をまとめて面倒みることなんざ、到底出来やしねえのさ」


 正確な人数の把握などできなかっただろうが、とても全員を収容して教育まで施せるだけの施設を建設できたとは思えない、あぶれる人が出てくるのは当たり前だ。


「アレギアはグレゴリで育成した奴だけを冒険者だと認める仕組みを作った。それが丸く収める方法だからな。だが当然、他のあぶれた冒険者たちは反発する、当たり前だ、こいつらだって経済の下支えをした立役者だ、それが突然の線引きだぞ?そりゃ反発する」

「あ、あの、せ、先生」

「おうどした?エドガー」

「た、例え線引きしたとはいえ、そ、そう簡単にその人たちを、わ、分けられるものではないと思うんですが…」


 エドガーの指摘は的を射ている、そしてこれが恐らくそれが本題だ。


「その通り、簡単には分けられねえ。ならどうする?」

「ど、どうするって…」

「元々あった問題を引っ張り出したのさ、当時の冒険者たちが抱えていた問題はなんだった?」

「は、犯罪者増加による、ち、治安の悪化で…」


 そこまで言ってからエドガーは気が付いたようだった。まさかという表情で俯き言葉を失わせている、心優しいエドガーのことだから、それがいかに非道なことかと考えているのだろう。


「そういうことだ。グレゴリに登録されていない冒険者は犯罪者、そうじゃない奴らが正式な冒険者、どっちもやってることに変わりはないのに、肩書だけで猛烈な差が付いた。大手を振って冒険者として活動していく権利を奪ったんだ、実に手っ取り早いだろ?」


 誰も同意はできなかった。先生もそれを求めてはいない、これはただの宛てのない皮肉だ。


「ここからの話が、テメエらにとって一番重要なものになる、よく聞け。いいか?ダンジョン内で他の冒険者パーティーに遭遇しても、決して油断をするな、武器に手をかけ、グレゴリ所属の冒険者と分かるまでは、いつでも殺せるように心構えをしろ。アウトローは、人間ではなくモンスターの扱いとなっている、殺して罪に問われることはない」




 アウトローという謎の言葉が出て教室がざわつく、それといつでも殺せるようにという発言、動揺は一気に広まった。


「冒険者扱いされなくなった奴らは犯罪者のレッテルを貼られ、まともな活動をすることはできなくなった。だが、はいそうですかと国に帰ることはできねえ、すでにアレギアに生活基盤を作っちまったんだからな。そこで結成されたのがアウトロー、犯罪者のレッテルを貼られた元冒険者たちが、独自の互助組織を設立し活動を助け合ってる。自らアウトローを名乗るのは、国への当てつけのようなもんだろうな」

「先生、モンスター扱いをされているということは、アウトローはもしかして今も活動をしているんですか?」


 ルシアスの質問にレオノラ先生が頷いて肯定する。すると教室のざわつきが更に大きなものとなった。モンスターという扱いであっても、人間であることは変わらない。相対すれば人間同士で殺し合う、この動揺は当たり前のものだった。


「アウトローは今も非合法ながら活動を続けている。大分数が減って弱体化しているって話だが、それでもまだ一定数いるってことだ。こいつらはグレゴリ卒の冒険者たちを目の敵にしている、必要に迫られれば問答無用で襲い掛かってくるぞ」

「どうしてですか?」

「取っ捕まらないようにするため、お前たちの死体から身ぐるみを剥いで売り払うため、理由はまあいくらでもある。ここまでのいきさつを聞けば、テメエらでも思い付くモンはあるだろ?それは恐らく全部正解だ」


 グレゴリとアウトローは不倶戴天の敵、つまりはそういうことだ。国やグレゴリはアウトローの存在を認めるわけにはいかないし、アウトローはずっと続けてきた飯のタネを奪われたくはないだろう。


「グレゴリとアウトローは対立している、埋まることのねえ深すぎる溝もある、そいつを覚えておいて、いざとなったらためらわない覚悟も冒険者には必要だ。この対立構造は覚えておけよ、いいな?」


 先生はその言葉を、俺たち一人一人の目を見て、言い聞かせるように言った。それを受けて俺たちも次々と頷き、アレギアの抱える問題の一端を意識するようになった。

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