レンジャー学の日常風景
バシィィッッ!!と地面を打つ鞭の音が響く、レンジャー学担当のブルース先生は、いつも手に鞭を持って、ひたすら何かを叩いていた。
「今日もよく来たなお前ら!!俺様の授業が受けられて嬉しいだろ!!」
「はい!!ブルース先生!!」
「よしっ!!ぐちゃぐちゃ言う前に走り込みだ!!ぐずぐずするな!!」
「はい!!ブルース先生!!」
もう一度鞭の音が響くと、俺たちは隊列を組んで走り始める。後ろからは追い立てるような鞭の音が更に響き、走る速度を上げ…。
「ちょっ!ちょっと待った!」
レイジに話を遮られて、俺は話すのを止めた。そして小首を傾げる。
「まだ全然最初の方だけど、ここまででいいってこと?」
「いやそういうわけじゃないけど…、その話現実?」
「嘘言ってどうすんのさ」
嘘にはつきどころというものがある、授業内容について語る時に嘘を言ったところで何の得にもならない、何故か引き気味の三人を後目に、俺は話の続きをした。
ブルース先生の授業は必ず鞭の音が響いてから始まる。
「いいかお前ら!!レンジャーのロールは手前の出来の良さがパーティーの生存率を大きく左右する!!要するにそのパーティーを生かすも殺すもお前たち次第ということだ!!お前ら仲間を殺したいか!?」
「いいえ!!ブルース先生!!」
「そうか!!しかしお前たちの知識不足、経験不足で仲間はあっさりと死ぬぞ!!そんな時にどう言い訳をする!?自分の力不足で仲間が死んだことを、遺族にどう言い訳をするんだ、ええ!?だからお前たちは徹底的に磨き上げねばならんのだ!!分かったか!?」
「はい!!ブルース先生!!」
もう一度ブルース先生の鞭が鳴る、俺たちの返事を聞くたびにビシビシと鞭が飛ぶのだ。
「レンジャーに求められる技能は多岐に渡る!!代表例は何だ!?言ってみろ!!」
「はい!!索敵です!!」
「そうだ!!いち早く敵の存在に気づき、パーティー内に共有せねばならん!!その敵と自分たちのパーティーが交戦可能な実力を有しているのか、それとも避けるべきなのかの判断を瞬時にしろ!!敵はお前たちを待ってはくれないぞ!!」
「はい!!ブルース先生!!」
「よろしい!!正しい答えを言ったお前らへの褒美だ!!腕立て伏せ100回始めぇっ!!」
その号令がかかると、俺たちはすぐさま腕立ての姿勢を取り、全員で数を数えながら腕立てを…。
「待った待った!!あれ?なんでご褒美に腕立て100回の話になってんの?そういう流れだった?」
またしてもレイジに話を遮られる、こう何度も止められては話にくいなと、俺は唇を尖らせた。
「だってやらないと先生授業進めてくれないんだよ、トレーニングにもなるし、いいんじゃない?」
「正気か?」
「とても授業風景とは思えないね…」
「リ、リベルは、だ、大丈夫なの?」
心配そうな顔で皆は俺のことを見る。大丈夫も何も、やらなきゃいけないんだからやるだけの話で、何故そんな心配そうな目をするのかよく分からなかった。
腕立て伏せを終えた俺たちは、肩で息をしながら整列する。ブルース先生は、それを見てから鞭を叩きつけた。
「いいぞ!!少しは根性がついてきたじゃないか!!ようしレンジャーに必要な技能はまだまだあるぞ!!さあ言え!!」
「はい!!罠の探知そして解除と無効化です!!」
「そうだ!!ダンジョンには無数の罠が張り巡らされている!!それらはお前たちの行く手を容赦なく阻む!!レンジャーはパーティーで一番注意深くならなければいかん!!罠を解除する方法を覚え、どうしても避けられない時には、発動させてから無害化する方法などもある、避けるというのも立派な対処法だ!!無暗に罠を弄って作動でもさせてみろ!!罠より先に俺様がお前たちを殺しにいくぞ!!」
「はい!!ブルース先生!!」
「よろしい!!またしても褒美を取らせる!!スクワット200回始めぇっ!!」
その号令がかかると、俺たちはすぐさまスクワットの姿勢を取り、全員で数を数えながらスクワットを…。
「はいストップ!!あれ?さっきこの流れやらなかった?」
またしてもレイジが話を遮ってきた。俺は丁寧にそれを否定する。
「違うよ、さっきは腕立て伏せだったけど、今度はスクワットだろ?」
「そういうことじゃないんだよなぁ…。おかしいぞ、いつもと違ってリベルと会話がかみ合わない気がする」
何を訳の分からないことをと、俺は唇を尖らせ、腕を組んだ。苦笑いを浮かべながら、ルシアスが口を開く。
「しかし索敵に罠の探知に解除か、レンジャーはダンジョンでパーティーを安全に移動させるための技能が必要なんだね」
「後は宝箱の解錠と、宝箱に仕掛けられた罠の解除もレンジャー向けの仕事かな。代替方法もあるから必須とも言い切れないけどね、ソーサラーかヒーラーに、レイビテイトやアンロックを唱えてもらってもいいからさ」
レビテイトは短時間パーティーメンバーを浮遊で移動させて、罠を踏まないようにできる魔法、そしてアンロックは宝箱の鍵を罠ごと外すことができる魔法だ。
それぞれ素質さえあれば、ファイターでさえ習得可能な簡単な魔法で、魔力の消費を抑える必要がなければ、レンジャーの仕事を待つ時間を短縮できる。
「でも消耗を抑えて、必要な時に備えることができるのは、レンジャーの強みかな。肝心な時に魔力切れなんてことになったら、目も当てられないしね」
「そうだね、それに魔法に頼り切りだと、ソーサラーやヒーラーへの負担も大きくなる。不満とかも貯まりそうだ」
「え、縁の下の力持ち、だ、だね」
「それはエドガーの言う通りなんだけど、筋トレばっかりの授業内容を聞いていると、どうも別の意味の力持ちに感じるんだよなあ」
レイジの言いたいことはよく分からないけど、俺は話を続けることにした。
合間に挟まるトレーニングをこなしている俺たちは、授業の後半では大半の生徒が息も絶え絶えだ。それでも整列と姿勢を崩すことなく、ブルース先生の前に並んだ。
「そろそろ授業も終わりだ!!ようやく解放されて嬉しいだろお前ら!!」
「いいえ!!ブルース先生!!」
「そうだ!!よく言ったその意気だ!!お前らレンジャーはダンジョン探索において多大な貢献度を誇るが、索敵活動を行うために身軽である必要があり、時には狭い通路を移動することもあって使える武器防具も限られる!!だがしかし!!お前たちは戦闘で役立たずの汚名に甘んじるのか!?」
「いいえ!!ブルース先生!!」
「当たり前だ!!レンジャーは戦闘でもプロフェッショナルでなければならない!!己の弱点を知り、受け入れ、克服しろ!!武器防具、道具を厳選し、自らに合ったスタイルを見つけるんだ!!よし!!最後は今日の授業で行ったトレーニングを全部100回ずつ行え!!始めぇっ!!」
その号令がかかると、俺たちは…。
「もういい!もういい!」
「あ、そう?結構うまく説明できてた?」
「ああ、十分伝わってきたよ。色んな意味でな」
伝わったならよしと、俺はようやく笑みを浮かべてレイジを見た。レイジの方はやつれ気味というか疲れ気味だけど、それだけ臨場感たっぷりに伝えらえたんだなと思う。
「ええと、実際レンジャーはどんな武器を使うことが多いの?」
「ルシアスみたいに剣と盾って場合もあるぞ、ただし一般的なものよりも短かったり小さいものを使うかな。一番人気なのは弓矢とかモンスターから距離を取って攻撃できるものかな、これなら近づかずにモンスターを釣ってくることもできるし、物陰から先制攻撃もできるから」
レンジャーのポジションは、基本的に中から遠距離を取ることが多い。索敵活動に影響が出るので、前衛が装備するような金属の鎧は、音が出てしまうので着れない、そのため強力な一撃を防いだりするには不向きで、距離を取る方が安全だ。
「や、やっぱり、やることが、た、沢山だね」
「そうだな。だけどさ、こう、パーティーの支配者って感じでカッコよくないか?」
「う、うんっ。な、何となく、リベルに向いてる気がする」
「だろ!?さっすがエドガー!分かってる!」
俺はエドガーの肩を叩いた。本当は肩を組んで喜び合いたいのだが、体が大きくて手が届かない。
「その癖の強い授業を耐えられるなら、確かにリベルはレンジャー向きだな」
「そうだね、僕は正直、ノリがきつくてついていけないかも」
「楽しいのにな、レンジャー学。皆もどう?」
三人は揃ってぶんぶんと頭を振った。俺はそれを見て、魅力が伝わらなかったかと、ぽりぽりと頭を掻いた。




